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■女の子たちの塞翁が馬(4)

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12月15日土曜日。美空は姉の月夜、妹の紗織、それに母と4人で早朝から羽田空港まで出てきたが、第1ターミナルのレストラン前でばったりと小風と妹の羽波、及び両親と遭遇した。
 
「なんて奇遇な」
「まあ、この時間から開いてる店は少ないから」
 
双方は∴∴ミュージックでも今月初めに一度会っていたので、親同士も挨拶したりする。
 
「小風たち、どこ行くの?」
「うちのお祖父さんのお姉さんが亡くなったんで、葬式に行くんだよ」
「それは大変でしたね」
「美空は?」
「旭川のお父さんに会いに行く」
「ああ、その話は聞いてた。今日会いに行くんだ?」
「月曜日から契約発効でその後は忙しくなりそうだから」
 
それでお互いの飛行機の時刻を確認した上で目の前の和食レストランに入り、一緒に食事をした。朝早いこともあり、みんな軽いものを取っているが、美空は掻き揚げそばに天丼と元気である。
 
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「なんかメンバーめまぐるしく変わりましたけど、小風ちゃんとは最初から一緒ですよね?」
と美空の母が言う。
「最初は候補者が10人くらい居たみたい。結局歌唱力とタレント性を考慮して5人まで絞ったものの、そのあとポロポロポロと3人辞めちゃったから」
と小風。
「全員女の子だったんだっけ?」
などと小風の父が言うが
「男女mixのユニットは難しいよね」
「恋愛問題がどうしても発生しちゃうもん」
という話になる。
 
「戸籍上男の子でも実態が女の子であれば問題ないけどね」
と月夜が言う。
「ニューハーフとかミスターレディーとかいうやつですか?」
と小風のお父さん。
「この業界、結構多いみたいですよ」
と美空。
「すっごい美形の人もいるよね。三笠景織子とか」
「あの人は美人ですね!」
とお父さんも知っていたようである。
 
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「中*中とかも美人だし声も女にしか聞こえないし」
「え?中*中って男なんですか?」
「生まれた時は男だったみたいですけど」
「実態は女性ですよね」
「あの声を出せるようになるのに凄い苦労したみたい」
「一時は自分の声に絶望して歌手の道を諦めてピアニスト目指したんだよね」
「でも中*中さんのおかげで体が男でも女声が出せるってことが随分知られるようになったよね」
 
「ニューハーフとは全然違うけど『もののけ姫』の米*美一さんみたいな人もいたけどね」
「うん。米*美一さんの歌声は衝撃的だったけど、当時は女声の訓練法が世間には知られていなかったから」
 
「でもその方面の人によると1990年代の草の根ネットとかで、やり方は少しずつ広まっていってたらしいよ。女が男の声を出すのは難しいけど、男が女の声を出すのは実は原理的には難しくないんだって。ただその出し方を知らないだけで。だからいったん出し方に気づくと、あとはその声を安定して出せるように練習するだけでいいと」
 
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「あれ、訓練法も数種類あるみたいね。ゴールは結局同じみたいだけど」
 
小風の情報源は主として蘭子(唐本冬子)なのだが、美空の方は実は蘭子以外に村山千里から聞き出した情報も含まれている。発声法の問題でにわかに盛り上がって、バンドをしている月夜も、合唱団に入っている羽波も興味津々な感じであった。紗織はこの手の話題にはあまり興味がない感じだった。
 

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そろそろ手荷物検査通った方がいいかもということでレストランを出る。北海道に行く美空たちは北ウィング、九州に行く小風たちは南ウィングへと別れる。北ウィングは第2ターミナルが出来る前はANAが使用していたエリアである。
 
北海道に行くのは美空と月夜の2人だけなので、手荷物検査場で母と沙織と別れる。出発ゲート近くの売店で、美空はお茶とおやつを買って食べている。月夜はコーヒーを飲んでいる。
 
「今更だけどあんたよく入るね。さっきも結構食べてたのに」
と月夜が言う。
「お姉ちゃんも食べる?」
「いや。いい。食糧危機になったら美空生きていけないね」
「うん。きっと真っ先に死にそうだから、その時はお姉ちゃん、私を食べちゃってもいいよ」
「美空、よく食べるのに細いからなあ。食べる所があまり無さそうだよ」
「理科の先生が、私の食べる量とお肉の付き方の関係が説明できないって言ってた」
「ああ、科学上の難問かもしれない」
 
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そんな話もしていた時、美空はふと近くに座っている同世代くらいの感じの男の子に目が留まった。目が留まったものの、なぜその子に自分は注目してしまったのかと疑問を感じながら、姉とおしゃべりしている内に姉が
 
「どうしたの?」
と言って、姉もそちらを見る。
 
するとその男の子は、参ったという表情をして
 
「ごぶさた〜、美空ちゃん」
とソプラノボイスで言う。
 
「八雲ちゃん!?」
と美空は驚いたように声を挙げた。
 
それは喫煙で補導されたためメテオーナを事実上解雇された桜木八雲だった。
 
「えへへ」
「男の子に見える!」
「うん。わりと男装は好き。でも男の子みたいな声出せないから、声出すとバレちゃうんだよねー」
「八雲ちゃんって、男の子になりたい女の子か何か?」
「性転換までするつもりは無いけど、男の子だったらいいなと思ったことは結構ある。近所の年上の男の子のおちんちん見て、自分も大きくなったらおちんちん生えてくるのかなと思ってた記憶があるよ、小さい頃」
 
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「あ、たまにそういうこと言う子はいるよね」
「タバコもさ、実は同級生の男子が教室で堂々と吸ってるの見て、自分も男だったらタバコくらい吸ってもあまり責められないだろうにと思ってカフェで吸ってみたんだけど、目の前のテーブルに居た人が女性警官で、見とがめられちゃって。だから実は火をつけて口に1回当てただけだったのよ。まずーい!と思った次の瞬間『君、高校生だよね?』って」
 
「ああ、それは運が悪すぎる」
 

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ほどなく機内に案内されるが、八雲は美空の隣の席の人にチケットを交換してもらって美空の隣に座った。
 
「なんか運の悪いことが1年くらい前からやたらと多かったんだよねー。携帯を海の中に落下させてしまったり、電車で痴漢にあったり、自転車盗まれたり、あちこちのオーディションに出て感触は凄くよかったのに3回続けて「あなたは次点でした。またの健闘を期待します」というお手紙もらって、やっとメテオーナで行けるかと思ったら馬鹿なことして自滅しちゃうし」
 
「幸福は穴の空いた罠の如しだよ。次はきっとうまく行くって」
と美空は言ったが
「禍福は糾(あざな)える縄の如し」
と月夜が訂正する。
 
「でもね、なんか先月頃から急に運気が変わったみたいなのよね。友達が土星が獅子から抜けたからじゃないかとか言ってたけど。星占いって当たるのかなあ?何気に色々なものがうまく行くようになって、あ、陽子から聞いてる?」
 
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「うんうん。デビューすることになったんでしょ?」
「インディーズだけどね。頑張って美空ちゃんや小風ちゃんを追いかけるよ」
「うん、頑張ってね。こちらも失速しないように頑張る」
 
「取り敢えず契約金ももらっちゃったし。その分は稼がないと」
と八雲。
 
「わあ、いいなあ。私たちはそんなのもらってないよ」
と美空。
 
「事務所の規模の差かもね」
と月夜。
 
「でも私の分の契約金も陽子に預けたんだよ」
「なんで?」
「自分の契約金はお姉さんが起こした事件の賠償に使うというからさ、私の分も貸しておくから使いなよと言った。うちのお父ちゃんも賛成してくれたし」
 
「偉ーい。でも陽子ちゃんがお姉さんの賠償をする必要はないんでしょ?」
「もちろん。でもお姉さんが大勢の人に迷惑掛けたのを放置できないって」
「優しいなあ」
 
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旭川空港で美空と別れた八雲はいったん旭川駅まで出た後、美幌の牧場に戻るのに特急オホーツクは1時間後だなと思い、どこか本屋さんでも覗こうかなと思いつつ、駅の中に貼られたポスターを眺めていた。
 
その時のことである。
 
「ね、君」
という声が左側からする。何気なく顔をそちらに向けると、30歳くらいの少し小太りの男性(?)が居た。八雲がその人物の性別に確信が持てなかったのは身長が165cmくらいで、男性でも女性でもあり得る背丈だったこと、髪が長く、後ろから見たら女性と思ってしまうかも知れないこと、着ている服が中性的で服装だけではどちらとも取れること、そして何よりもその人物の雰囲気が少なくとも男性の雰囲気では無かったからである。
 
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「君さ、男の子?女の子?」
「答える必要無いと思うけど」
 
と八雲はできるだけ低い声で男言葉で答えた。
 
「やはり君、女の子だよね?」
「誰さあんた?」
「俺?俺はまあ作曲家かなあ」
「ふーん。僕は歌手だけど」
「へー、歌手なんだ? なんて名前? 俺、可愛い男の子や格好良い女の子の歌手はだいたい把握していたつもりだったんだけど。最近デビューした子?」
「人に名前訊く前にふつう自分が名乗らないか?」
 
「あ、すまん、すまん。俺ね、・・・」
と彼が言った次の瞬間、八雲は度肝を抜かれることになる。
 

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後ろから走って来た20歳くらいの男の子がいきなりライダーキック(?)を八雲と話していた男性の後頭部にかましたのである。「ぎゃっ」という声をあげて男性は倒れるが、こちらに倒れたので、あおりをくらって八雲も倒れてしまった。
 
「あ、そっちの彼、ごめんごめん」
などとその男の子は言っている。
 
「さあ、行くぞ、浮気者。全く油断も隙もない。あまりやってるとチンポ切り落とすからな」
と言って、倒れている男性を引っ張って行こうとするが・・・・
 
「ね、気を失ってるんじゃ?」
と八雲は言う。
 
「この程度で死ぬような奴じゃないけどなあ」
と男の子。
 
10秒くらいして、やっと男性は意識を回復する。
 
「ジュリー、馬鹿野郎。死にかけたぞ」
「コーが死んだら、日本中の美青年がコーの毒牙から救われるな」
「馬鹿。浮気じゃねーよ。仕事の話をしてたんだ」
「仕事? 男の子を口説く仕事か?」
 
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「だから、この女の子、歌手なんだよ。俺が曲を書いてやろうと言ってたんだよ」
と男性。
 
「女の子?」
と言って若い子は驚いたようにこちらを見る。それで八雲は
 
「すみません。戸籍上は女です」
と答える。
「へー。じゃ僕と同じか」
と彼氏。
「え?まさかあなた女ですか?」
「うん。取り敢えずチンコは付いてない。付けたいんだけどねー。こいつのをぶん盗って僕のお股に付けちゃおうかなあ。どうせおしっこする以外には使ってないんだし。無くなってもいいよね?」
と樹梨菜は言った。
「馬鹿、チンコ付いてるから、俺は性欲もあるし、それで仕事に対する意欲も湧くんだよ」
と男性は反論する。
「へー、コーはチンコで作曲してんのか?」
 
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「あのぉ、この人は?」
と八雲は樹梨菜に男性の素性を尋ねる。
 
「ああ、こいつは美少年の敵、蔵田孝治って奴」
と樹梨菜。
 
くらたこうじ?? で作曲家?まさかドリームボーイズの??ぎゃー、どうしよう。私、この人にかなり冷たい態度を取っちゃったよ!?
 
八雲は顔から血の気が引くのを感じた。どうしよう。こんな大物ににらまれたら私、またクビになっちゃう。芸能界永久追放だったりして!?? 私の不運はまだ続いていたのかな。。。。
 
「どうしたの?顔色悪いけど。こいつに何かされた?」
と樹梨菜は本当に心配そうに八雲に尋ねた。
 
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