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■女の子たちの塞翁が馬(2)

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全道総合選手権の翌週、2007年12月7-9日の週末、新人戦の旭川地区予選が開かれた。
 
旭川地区には高校が20校あり、男子校であるT高校を除く19の高校に女子バスケ部があるが、人数不足(参加資格のある部員が5人未満)で参加できない所もある。
 
ウィンターカップの地区予選には12校、秋季大会には14校が参加していたが、今回は10校であった。ウィンターカップも秋季大会も3年生が参加できるが、新人戦は1−2年だけなので人数の少ない所には厳しい。逆にL女子高や千里たちのN高校のように部員が多い所では、新人戦はベンチ枠を争っている部員にとって出られる確率が高い大会であり、特に2年生のボーダー組にとっては、3年生が抜けて、新入生はまだ入って来ていない状態で、最も出られるチャンスのある大会でもある。
 
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宇田先生と南野コーチはこの大会のベンチメンバーを次のようにした。
 
PG.雪子(7) メグミ(12) SG.千里(4) 夏恋(9) 結理(15)
SF.寿絵(5) 敦子(13) 永子(18)
PF.睦子(6) 蘭(11) 来未(14) 川南(16) 葉月(17)
C.揚羽(8) リリカ(10)
 
暢子と留実子はまだ出られないが、それ以外の合宿メンバーの2年生は全員ベンチ入りしている。。メンバー的には先週の総合から3年生の2人が抜けた代わりに2年生の川南・葉月が入った形であるが背番号は激しく移動している。
 
この他にマネージャー登録で志緒、TOで葦帆・司紗・雅美・夜梨子を登録した。TOをさせることにした4人は「補欠5人組」の永子以外の4人である。残りの1年生、瞳美・聖夜・安奈の3人を「接待委員」に任命して他校の案内役をさせ、合宿に参加しなかった部員は連絡係や記録係に任命した。
 
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今回の地区予選はN高校を会場に使用して行われる。
 
まず7日金曜日の夕方から1回戦が行われた。女子が10校、男子が12校なので、1回戦は女子が2つと男子が4つある。これをN高校の東体育館(青龍)、南体育館(朱雀)、そして朱雀建て替え用の仮設体育館の3つの体育館に2つずつ取った合計6コートで一気に行った。
 
建て替え予定の朱雀が大会に使われるのはこれが最後である。また仮設体育館を公式戦の会場に使うのは多分これが最初で最後である。
 
むろんN高校自身は男女とも2回戦からなので金曜日は試合は無く、会場提供校として、様々な雑用をこなした。
 
8日土曜日は、午前中に2回戦、午後に準決勝が行われる。2回戦は東体育館と仮設体育館に設置した4コートを使い、9:00から女子、10:30から男子、準決勝は東体育館の2コートを使って15:00から女子、16:30から男子という日程になっていた。朱雀は練習用に開放した。
 
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N高校女子の2回戦の相手はE女子高である。旭川の私立高校の中では男子校のT高校と帝大合格者数をいつも競っている学校で頭の良い子ばかりの学校だが、部活は少ない。バスケット、バレー、卓球、剣道、吹奏楽、美術、くらいで、体育館は4つの運動部で共用しているので実際問題として練習ができるのは週に3回、しかも部活の時間は17時までと定められているので実質1時間くらいしかできないらしい。
 
だいたいいつも1回戦負けだが、今回はくじ運で1回戦不戦勝となったものの2回戦の相手がN高校と聞いて「わぁ」と思ったかも知れない。
 
ベンチ入りメンバーも今回新人戦に出て来ているのは恐らく全部員なのだろうが、10名しかいない。それでも楽しそうにプレイしているのが好感された。こういうチームと対戦する時に、全力で行くのが礼儀なのか、あまり叩きすぎないようにするのが強豪校のマナーなのかというのは永遠の議論だ。しかし暢子はふだん出場機会の少ない子にチャンスをあげたいと言い、主力は出ないことにして、永子/結理/葉月/蘭/川南というスターティング5で出た。川南にキャプテンマークを付けさせたが、一度これ付けてみたかった!と喜んでいた。
 
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それで川南たちも楽しそうにプレイしていたが、やはり実力差は歴然としていて、78対12というスコアで快勝した。おそらくこの相手には永子率いる(?)「補欠5人組」で出てもダブルスコアくらいで快勝できたのでは千里は思った。
 
それでも試合後相手チームの面々は笑顔だった。向こうはあるいはインターハイ上位まで行った学校から12点も取れたと喜んでいたのかも知れない。無論主力を出していれば相手は1点も取れなかったはずだ。
 

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準決勝の相手はR高校である。ということは当然、もうひとつの準決勝はM高校とL女子高になっている。
 
ウィンターカップの地区予選では準決勝はN高校−A商業/M高校−L女子高だった。秋季大会ではN高校−M高校/L女子高−R高校だった。この5校は実力から言えば、L女子高>N高校>M高校>A商業≒R高校という感じなのだが、組合せが結構成績に影響する。やはり準決勝でL女子高に当たってしまうとなかなか辛い。逆に言うと、A商業・R高校にとっては準決勝でN高校かM高校に当たると、L女子高に当たるのに比べると、もしかしたら勝てるかもという気持ちになれる。
 
そういう訳で準決勝のR高校は滅茶苦茶テンションが高かった。これに勝てば道大会に進出できるというので、最初から物凄い勢いであった。
 
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こちらは雪子/千里/寿絵/リリカ/揚羽、と最強の布陣で始める。相手の主力はフォワードの日枝さんと坂本さんである。夏までは近江さんという卓越したポイントガードが居て、変幻自在の攻撃を繰り出して手強かったのだが、3年生なのでもう出場していない。代わってポイントガードを務めるのは1年生の別所さんで、夏の終わりから秋の初めに掛けてやっていた5校リーグ戦で対戦しているが、未完の大器という感じだ。センスは良いが、まだ経験が足りないので今後の成長に期待というところである。
 
こちらに隙があったら、即そこから攻めて来るので気が抜けないのだが、そこはまだ実戦不足で、雪子が巧みに「攻めたくなるような場所」を作り出してはそこに誘導して潰すというので、相手の攻撃をかなり潰した。
 
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相手の守備はボックス1で、日枝さんが千里をマークして残り4人でゾーンを作って守っている。しかしゾーン自体の運用はまだまだのようで、こちらが複雑なポジションチェンジを繰り返すと、しばしばゾーンにほころびができて、そこからリリカや揚羽が素早く切り込んでいって得点するというパターンを使った。
 
一方千里と日枝さんの対決は、やはりたくさん練習試合をしているし、何度も深川の体育館でも会って個人的にマッチアップ練習をしているだけあって、最初の内は、かなり千里の動きを読んで止めていた。
 
しかし試合も後半になると、豊富な運動量の千里に足が付いてこなくなる。たまらず第3ピリオド後半はいったん下がって、別の人が千里のマークに付いた。その子は結構マークの上手い子だとは思った。しかし日枝さんほどは勘が働かないようで、だいたい8−9割は千里がきれいに突破してスリーを撃つ。
 
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第4ピリオドでは日枝さんが復帰したものの、スタミナ充分の千里に翻弄されて3割程度しか停めることはできず、勝負あった感であった。
 
最終的には82対56と結構な点差になったが、心理的にはかなりの接戦感覚があった。
 

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そして日曜日。最終日は男女の3位決定戦と決勝がN高校東体育館で1コートだけ取って行われる。最初に行われた女子の3位決定戦では橘花たちのM高校が、日枝さんたちのR高校を下した。(3位は賞状をもらえるだけで、道大会には行けない)
 
その後行われた男子の3位決定戦では鞠古君たちの旭川B高校がT高校を下して3位になった。
 
そして新人戦旭川地区大会の女子決勝は、旭川N高校vs旭川L女子高である。この大会は2位までが道大会に行けるので、既にどちらも道大会進出が決まっている。両者の対戦は、6月のインターハイ地区予選決勝、9月のウィンターカップ地区予選決勝、10月の秋季大会決勝に続き、4回連続の決勝での対決となった。
 
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1年前の新人戦の時はN高校がシード権を取れていなかったため両者は2回戦で激突してしまい、その時はN高校がL女子高を破っている。その後6月もN高校が勝ち、9月はL女子高が勝ったものの、10月は引き分けで両者優勝ということになった。
 

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L女子校は3年生の池谷さんや本間さんが抜け、溝口さんが4番の背番号を付ける。ウィンターカップ予選までは溝口さんはパワーフォワードで登録されていたが、今回はセンターで登録したようだ。182cmの池谷さんが抜けて今回のメンツでは最も背が高い。こちらで4番を付ける千里と握手して試合を始める。ティップオフは1年生の鳥嶋さんとこちらの揚羽で争い、鳥嶋さんが勝って、PGの藤崎さんがドリブルで攻め上がってきた。
 
溝口−千里、鳥嶋−揚羽、登山−リリカ、大波−寿絵、藤崎−雪子、というマッチアップになる。藤崎さんから登山さんにボールが行き、登山さんはリリカを振り切って中に侵入して撃つ。
 
入って2点。試合はL女子校の先制で始まった。
 
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日常的に練習試合をしている相手なので、お互いの手の内はだいたい知り尽くしている。無理な攻撃はせずに、慎重に攻め合う形になった。両者確実に点を取っていくので、第1ピリオドは26対25という競った点数になる。
 
第2ピリオド・第3ピリオドでは、メグミ・夏恋・敦子・睦子・結里・永子あたりを出してスターティングメンバーは代わる代わる休むようにする。向こうも適宜メンバーを入れ替えるが、どうしても向こうの方が層が厚い分だけリードを許すことになって、第3ピリオドまで終わって68対58とL女子校との点差が結構広がる。
 
「今負けてるけど、無理して挽回する必要も無いですよね?」
と寿絵が言う。
 
「うん。みんな怪我だけはしないようにね。道大会への進出は決まっているし、この試合勝つ必要は無いんだから、みんな絶対に無理しないで」
と南野コーチがインターバルに言う。
 
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「これ以上怪我人が出たら、正直どうしようもないよ」
とメグミも言う。
 
「その時は薫を性転換させてこちらに」
「それは怪我人が出なくてもやりたい」
 

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それで最後のピリオド、一応雪子/千里/寿絵/リリカ/揚羽とベストメンバーで出て行く。4分ほど過ぎた所で78対70になっていたが、ここでリバウンドを争った時、リリカが足をひねった感じであった。
 
リリカは何とかボールを確保してそのままプレイを続行しようとしたが、南野コーチが気づいてタイムを要求し交代させる。
 
「無理しないでと言ってるのに」
とリリカは叱られている。
 
とりあえず冷却スプレーを掛け湿布薬を貼ったようだ。夏恋が交代で入るが、コートインした時、夏恋は千里に思わせぶりな視線を送った。千里は一瞬考えたが、頷く。雪子に視線を送ると、どうも雪子も同じことを考えていたようで数回頷いていた。
 
寿絵がスローインして再開する。夏恋がボールを受け取り、更に雪子にパスして攻めていく。雪子がハイポストで後ろ向きになり、夏恋に再度パスし、夏恋がボールを持ったまま、かなり強引に制限エリアに突入する。登山さんが抜かれたので大波さんがフォローに来る。千里も左側(奥側)へ動いてフォローの体勢になるので千里をマークしている溝口さんもそちらに動く。
 
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夏恋が強引にジャンプシュートを放つ。
 
・・・ように見せて、空中で体勢を変えて千里の右側へボールを投げる。その少し前から千里は右側へ逆ダッシュしている。溝口さんが追いつく前に素早く受け取ってスリーを撃つ。入って78対73。
 

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向こうが攻めてくる。ここで雪子がPGの馬飼さんからボールをスティールに行く。雪子は気配もなく近づくので馬飼さんが危うく盗られそうになるが、溝口さんの「危ない」という声を聴いて、素早く反対側の手にドリブルを移す。
 
ところがそこに千里が居る。
 
一瞬でボールを奪い、走り出す。
 
元々遅く戻ることの多い雪子と千里の2人が同時に死角から忍び寄ったのである。溝口さんは千里の方を警戒して声を掛けたものの、逆効果になって、悔しそうな顔をしていた。
 
スリーポイントラインの手前でピタリと停止してスリーを撃つ。
 
78対76と、あっという間に2点差である。
 

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その後、お互いに点を取り合って残り1分の所で82対80になっている。
 
向こうが攻めてくる。いきなり登山さんがスリーを撃つ。入れて85対80。こちらが攻めていく。雪子がドリブルしながらみんなを見ている。揚羽が中に飛び込んでいく。雪子がそちらに向いて腕を振るがボールは夏恋の所に飛んでいく。揚羽に注意が行った分、登山さんのフォローが遅れる。彼女が戻ってくる前に夏恋はスリーを撃つ。
 
入れて85対83。残り42秒。
 
向こうの攻撃。この残り時間になると、自分たちの攻撃機会を点数に結びつけられないと苦しいので向こうは少し慎重になっている。やや時間を使って攻めた上で最後は溝口さんがゴール下からひょいと置いて来る形のシュートを撃つ。
 
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しかしこれを絶妙のタイミングでジャンプした揚羽がブロックする。
 
溝口さんが一瞬審判を見る。ゴールテンディングでは?と感じたのだろうが、審判は正常なブロックとみなしたようであった。実際今のはかなり微妙な感じもあった。残り20秒!
 
ルーズボールを夏恋が確保して千里にパスする。高速ドリブルで走るが、足の速い雪子が先行するのでそちらにパスする。向こうは馬飼さんと登山さんが必死に戻って、登山さんが千里をマーク、馬飼さんが雪子の行く手を阻む。すると雪子は斜め右後ろへ向けて、そちらを全く見ずにボールをバウンドさせる。そのボールを後ろから走り込んできた夏恋が確保し、そのままスリーポイントラインの手前で止まる。夏恋は全くフリーである。
 
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きれいにスリーを入れて85対86と、とうとう逆転する。
 
残り15秒。
 

L女子校は馬飼さんから登山さん、登山さんから溝口さんへと高速パスで繋ぐ。溝口さんが中に侵入して撃とうとするが寿絵が厳しいガードをしてゴールの近くまで寄れない。反対側に居る大波さんにバウンドパス。大波さんがうまく揚羽のブロックのタイミングを外してシュート。
 
入って87対86。
 
またL女子高のリード。
 
残り5秒。
 

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寿絵が速攻でコート真ん中付近に居る千里めがけてスローインする。
 
登山さんと激しいキャッチ争い。ボールがはじかれて床に転がる。そこに走り寄った雪子がボールを確保。馬飼さんが寄ってくる前に夏恋にパスする。速攻を警戒して必死で戻っていた鳥嶋さんが、夏恋がパスを受け取る間に彼女の向こう側に廻り込んでいる。
 
千里が一瞬時計を見ると、残り2秒だ。
 
夏恋が右に動きかける。それで鳥嶋さんがついそちらに釣られて動いた瞬間、夏恋は鳥嶋さんを左から抜いた。鳥嶋さんが根性で右手を伸ばして停めようとするが夏恋は左手1本でシュートを放った。
 
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