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■女の子たちの塞翁が馬(3)

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シュートを放った次の瞬間試合終了のブザーが鳴る。
 
しかしボールはバックボートに当たった上で、きれいにネットに吸い込まれた。
 

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審判がゴールを認めるジェスチャーをする。
 
ボールの行方を追っていて鳥嶋さんが悔しそうな顔をする。千里は夏恋に駆け寄って抱き合った。
 

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整列する。
 
「88対87でN高校の勝ち」
「ありがとうございました」
 
試合終了後、千里は溝口さんと握手した上で抱き合う。その他、あちこちで握手したりハグする姿が見られた。
 

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ベンチに戻ると南野コーチが厳しい顔をしている。
 
「あんたたち無理したでしょう?」
「申し訳ありません」
とみんなで謝る。
 
「まあ勝ったんだから褒めるべきなんだろうけどね」
と宇田先生。
 
「すみません。ウィンターカップの地区予選で留実子が骨折した後負けて、道予選では暢子が盲腸で離脱した後負けてと、故障者が出ると負けるパターンが続いたので、ここはリリカが離脱しても絶対勝って、悪いパターンを払拭しておこうと考えました」
 
と千里は正直に南野コーチに思惑を告げ、謝った。
 
「済みません。それを提案したのは私です。視線でキャプテンに訴えました。申し訳ありません」
と夏恋も謝る。
 
「いや、それで同意した私の責任です」
と千里。
 
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「済みません。私も共犯者です。ふたりの視線交換に気づいて意図を理解して私もこれは絶対勝ってやろうと思いました」
と雪子。
 
「3人の動きで気づいたので私も張り切りました。済みません」
と揚羽。
 
「私、全然気づかなかった!でも御免なさい」
と寿絵。
 
「まあ常磐(リリカ)君の怪我も大したことは無さそうだし今回は不問ということで」
と宇田先生は笑顔で言った。
 

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千里たちが旭川で激戦を戦った翌日、12月10日の夜。東京。
 
綿貫小風は朝風美空の自宅を訪問していた。美空のお姉さんが近くのコンビニに行ってケーキを買ってきてくれたので、ふたりは美空の部屋で、一緒にこたつに入り、紅茶を飲みつつケーキを食べながら話していた。
 
「私、やはりラムとはうまくやっていけない。だから辞めることにするよ。これお父ちゃんに書いてもらった契約解除申し入れ書。明日朝一番にお父ちゃんと一緒に行って提出してくるつもり」
 
と言って小風は美空に書類を見せる。
 
「刺身の食べ方くらいで辞めることないじゃん」
と美空が言う。
 
「別に刺身にケチャップで辞める訳じゃないよ!」
と小風は怒って言う。
 
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KARIONは先月、和泉・美空・蘭子・小風の4人で音源製作をし、その4人でいくつかの小さなイベントに出演したりもした。ところがその後蘭子が性転換手術を受けたいと言って芸能活動を休止(美空的見解)してしまった。そこで畠山社長が蘭子が復帰するまでのピンチヒッターとしてハーフのラムという子を連れてきた(同じく美空的見解)。
 
彼女はハーフ(正確には日本人の血が4分の1入ったクォーター)とは言っても日本語はほとんどできない。社長や和泉とは英語で話しているが、小風・美空は会話できるほどの英語力が無いので、何を話しているのかチンプンカンプンであった。
 
それで先週の月曜から金曜まで掛けて、和泉・美空・ラム・小風という4人で音源製作をやり直し(楽器演奏部分はほぼそのままでボーカル部分のみ差替え)、その後、昨日・今日はラムを入れた4人でPVの撮影をしていたのである。それが片付いたので、今日は学校が終わった後、事務所に再度集まって少しおしゃべりした後、打ち上げで何か食べようというので、ラムがお寿司がいいと言ったので、へー、結構日本に慣れてきているのかなと思ったのだが・・・
 
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お寿司屋さんで
「ケチャップが無い」
とラムが言い出す。するとお寿司屋さんも、たまに外人さんの客からの要求があるのか、ケチャップを出してくれる。そしてラムはタイやマグロのにぎり寿司にケチャップを掛けて美味しそうに食べ始めたのである。
 
それを見た小風は「食欲無くなったから帰る」と言って、ひとり先に帰ってしまった。そして夜中、美空の家を訪ねてきて辞めると告げたのである。
 

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「私も小さい頃、御飯にジャム付けて食べてたらしいよ、自分では覚えてないけど」
と美空が言うと
「美空の味覚も難解かも」
などと言う。
 
「でもラムがきちんと響き合う音程を取ってくれない問題がいちばん大きい」
「その問題は、落ち着いた所で英語に堪能な先輩(鈴木聖子さん)と一緒にラムに音の調和の問題を説明して直してもらうと社長が言ってたじゃん」
 
「音だけじゃないんだ。あの子、拍を正確に歌わないから、他の子とずれちゃう。今回は和泉が私たちにラムの拍に合わせてくれと言うから妥協して合わせたけど、譜面の音符の長さと違う長さで歌うのは凄く気持ち悪い」
 
「不正確というよりは表現の問題だと思うけど。感情を込める所を長めに歌うのは普通に行われる歌い方だよ」
「いや、それが感情を込める所ではない所が長くなる」
「まあ歌詞の意味が分かってないから」
 
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「でも今小風が抜けちゃったら、また音源の作り直しだよ」
と美空は言う。
 
それは小風も気が咎めるようである。
 
「それは悪いと思うけど、このまま無理して続けて行くと、後になって辞める方がもっと迷惑を掛けると思うんだよね。蘭子(=唐本冬子)が抜けた後もラムを入れた音源を5日で作れたんだから、私を抜いた音源もまた5日で作れると思うし。プレスするのは私たちの契約が発効する17日と言ってたから明日辞めれば、来週一週間で作り直せるはず」
 
「あれ、5日で仕上げるのに蘭子含めた音響スタッフがかなり頑張ったみたいだよ」
「蘭子も音響で頑張るんなら、歌で頑張ってくれればいいのに」
「それは同感だなあ」
と美空も言う。
 
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KARIONの最初の音源(和泉・蘭子・小風・美空で歌ったもの)は7日間の録音作業の後、3日ほど掛けてミクシング・マスタリングを行って完成したと聞いていた(実際にはこの「完成した音源」は結局行方不明になり、ミクシング途中の音源から再調整を行ったものがプレスに回されることになる)。
 

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そういう深刻な話をしていた時、美空の携帯が鳴る。
 
「おはよう、陽子ちゃん」
と美空は電話を取って言った。
 
おはようって、陽子って、まさかメテオーナを辞めた桜川陽子か?と小風は美空の電話相手を推察した。
 
「あ、東京に戻ってきてるの? え?DVD作るの? まさか変なDVDじゃないよね。うん。だったらいいけど。やけになってAVの方に行っちゃったりしないよなと思って」
 
「うんうん。個人的にはやってみたい気もするよねー。セックスも一度やっちゃえば、後は平気な気もするし」
 
いったい何の話してるんだ?と小風はいぶかる。
 
「あ、だったらそれプレゼントじゃなくて、10枚買うから完成したらこちらに送ってくれない?送料と合わせてそちらに送金するよ。うんうん、よろしく」
 
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と言って美空は電話を切る。
 

「桜川陽子ちゃん?」
「うん。あ、ごめん。小風とも代われば良かったね」
「いや別にいいんだけど、陽子ちゃん、何かDVD作るの?」
「うん。最初にメテオーナ辞めた桜木八雲ちゃんと一緒に新しいユニット作ったらしい」
 
「へー、あのふたりで?」
「他に5人いて、7人のユニットらしいけど」
「大人数だね」
「陽子ちゃん・八雲ちゃんと同世代の女の子が2人、30代くらいの男性2人と女性1人」
 
(実際にはこの時点で紅ゆたか・紅さやか・桃川春美の3人は一応まだ全員20代)
 
「それはまた不思議な構成」
「女の子4人がボーカルで、30代の3人は楽器演奏」
「ああ、そういうことか」
「ピアノ、ギター、ヴィオラ」
「ちょっと待て。その構成はおかしい」
「あれ?違ったかな」
「まあいいけど。でもやはりボーカル4人なのか」
 
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「八雲ちゃんと陽子ちゃんも頑張ってるんなら、小風も私と一緒に頑張らない?」
「うーん・・・・」
「蘭子が性転換手術後の休養が終わって戻って来たら、また雰囲気変わるだろうし」
 
「蘭子、性転換手術するんだっけ?」
「今週手術を受けるようなこと言ってたよ」
「え!?そうなの?」
 
この週、蘭子はいったん完成した新音源のラムの声を電気的に音程調整して、ちゃんとメインボーカルの和泉の声に調和するピッチに変更する作業をすることになっていた。それを蘭子は「大手術しなきゃ」と言っていたのだが、それを小耳に挟んだ美空は、蘭子がいよいよ性転換手術をするものと思い込んでしまったのである。
 
「たぶん2〜3ヶ月したら復帰するんじゃないかなあ」
「それは知らなかった。でも蘭子、たぶん戻ってこないと思う」
「そうかなあ」
 
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「だいたい蘭子が離脱したからラムを入れたんだと思うし」
と小風。
「でも社長、ラムちゃんは遠くない内にソロデビューさせてKARIONから卒業させるって言ってたよ」
と美空。
 
その話は和泉が畠山社長に提案したものだが、これも美空はちらっと小耳にはさんで、社長がその方針でいると思い込んでいる。
 
「じゃ、その後また蘭子を復帰させるつもりなのかな」
「多分そうだよ。だから3ヶ月か半年か、小風も我慢しなよ」
 
「うーん・・・。ほんとに蘭子が戻ってくるなら私も考え直すけど」
 

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その時、小風はふとこたつの上に乗っているケーキの箱にもう1個しかケーキが残っていないことに気づいた。ケーキは普通のショートケーキのサイズである。最初箱には8個もケーキが入っていて、美空のお姉さんと妹さんの分までこっちに持って来てしまったのではなどと思っていた。
 
しかしよく見ると、美空の前にはケーキの包み紙がたくさん重ねられている。小風はケーキは1個しか食べていない。
 
「小風、ケーキ無くなっちゃうよ。最後の1個、小風にあげるから」
「ね、美空ケーキ何個食べた?」
「今食べてるのが6個目〜」
「よく入るね!」
「これショートケーキだから。ホールケーキなら2個しか食べきれないけど」
 
「ホールケーキ2個もまるごと食べちゃうの〜〜〜〜!?」
「え?そのくらい普通食べない?」
 
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「いや、その食欲はあり得ない。私はショートケーキ3個くらいが限度だよ。一度だけ4個食べたことあるけど」
「少食だね」
「美空の食欲が異常だと思う!!」
「そんなことないと思うなあ」
 
それでこの日、小風は美空の食べっぷりに毒気を抜かれてしまい、いったんKARIONを辞めるつもりになっていたのを、辞表提出を保留することにしたのである。
 

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弁護士は福岡C学園を訪れ、理事長に面会した。C学園は東京・兵庫にもあるが、この福岡が発祥の地で理事長もだいたい福岡に居ることが多い。
 
「そういう訳で、お電話でもお話ししましたように、取り敢えずの内金としてこれをお預かりいただければと思います」
 
弁護士が差し出した銀行振出小切手は3800万円の額面である。
 
理事長はその小切手の桁数を確認した上で少し考えて言う。
 
「当方が弁護士を通じましてそちらに提示している賠償してもらいたい額はご存じですよね?」
 
「はい。それは承知しておりますが、今回は取り敢えず5000万円弱の資金が調達できたので比例配分して、C学園様に3800万円、旭川市様に580万円、深川市様に230万円、北海道様に350万円、内金としてお渡しすることにして既に地元自治体3者は受け取ってくださいました」
 
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理事長はしばらくその小切手を見ていた。
 
「大変失礼ですが、この資金をどうやって調達したか教えて頂けませんでしょうか?」
 
「実は加害者に妹さんが2人いるのですが、その妹さんたちがこの資金を調達しました。残りの金額も時間は掛かるかも知れないがその2人で必ず支払うから、もし可能だったら姉の情状酌量の上申書に署名してもらえないかと言っているのですが」
 
「加害者の状況は聞いています。高校の担任がちょっと酷かったようですね」
「ええ。それで精神的に追い詰められたのが遠因なんです。ただ加害者本人はそれは関係ない。自分が悪いと言っています」
 
その問題は彼女の元同級生の証言から明らかになり、その教師は辞職している。
 
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「でも、このお金は、どうやって調達したんです? 妹さんは確か高校生でしたよね?」
「ふたりとも事情により高校を中退しています。プライバシー上できれば調達方法は非公開にさせて頂きたいのですが、違法なことは決してしておりません」
 
理事長はまたしばらく考えていた。
 
「旭川市さん、深川市さん、北海道さんへの残務1840万円をうちが建て替えます。ですから、残る債権者はうちC学園だけということにしてしまいませんか?その方が簡単でしょう?」
 
「C学園さんがそれでもよければ、こちらも助かります」
 

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