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■女の子たちの火の用心(7)

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こないだから薫がひょっとして放火魔なのではという不安が心の中にあったのがきれいに解消されたので、ホッとしたら頭の中に突然強いメロディーが流れてきた。
 
千里はそれをすぐに五線紙に書き留める。そして放火事件を受けて1時間目が緊急職員会議で自習になったのを利用して、美しい曲にまとめあげた。サビの所には名古屋で、ひつまぶしを食べながら書いたメロディー、Bメロには浜名湖で書いたメロディーを使用する。この2つは書いた時もセットのような気がしたが、こうやって曲として組み立ててみるとほんとに親和性が良い。まるで続けて発想したかのようなメロディーだ。
 
最初は重苦しい感じのサウンドで始まるが、その混沌とした空気が、鐘の音が鳴り響くとともにきれいに晴れていき、最後はとても気持ちのよいハーモニーで終わる。最初の付近の複雑な和音と最後の方の純粋和音の対比が強烈である。
 
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曲の構成上、ふつうの1番・2番がある有節歌曲形式ではなく、同じメロディーの繰り返しが無い、通作歌曲形式を使用する。
 
千里はこれに自分で歌詞を付け『カタルシス』というタイトルをつけた。一応歌詞を蓮菜に見てもらったのだが、蓮菜は「この歌詞は直せない」と言った。
 
「出来が悪すぎる?」
「違う。これはこれでまとまってしまっていて、表現の不足している場所もあるけど、それを修正すると全体のバランスが崩れてしまうんだよ。変更するなら歌詞を全く新たに書き下ろすしかないと思う。だからこれはこのまま出しなよ」
 
「そうする。時間も無いし!」
 
この曲は大西典香のアルバムに収録された後、ゆきみすずさんが新たな歌詞を書いて『丘の向こう』というタイトルでKARIONが歌うことになる。
 
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千里は結局2時間目も自習になったのを利用して、蓮菜に更に別の歌詞を書いてもらい、それにここ1週間ほど考えていたモチーフを貼り合わせるようにして更にもう1曲まとめた。『海を泳ぐ魚のように』という歌謡曲っぽい歌で、聴いてくれた京子や鮎奈も「こういう曲は大西典香には似合うよ」と言っていた。
 
千里はこの2曲を新島さん宛て送信して、宿題となっていた曲の作成を完了した。
 

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その日の午前中は、拘束されたのがN高の生徒ではないかの確認のため、その日休んでいる生徒の家に直接担任が行って所在を確認するということまでしていたらしい。休学中の生徒(忍を含む)、今年になって退学した生徒までその生徒と話がしやすい先生が行って所在確認したらしい。
 
結局N高校の生徒は関わっていないようだという結論に達したのはもうお昼近くだったそうである。
 
ネット経由でいろいろな裏情報サイトにつながっている子たちからの情報、また学校の職員室に入ってくる情報などから、その日の夕方近くになって、拘束されて警察で取り調べを受けているのは、一見女子高生に見えたものの、実際には22歳の女であるらしいということ、どうも北大医学部を受験して4年連続で落ちていた子であるという情報まで流れて来ていた。
 
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拘束された現場を見ていた人の幾人かがその子の写真を撮っていて、ネットにアップしたため、その写真から人物が特定されてしまったようであった。また着ていたセーラー服は実際にはアマゾンで売っているコスプレ用のセーラー服であることも判明した。後に報道で分かったのでは、他にも数着のコスプレ用女子高生制服を持っていたようであった。
 

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「損害賠償請求がされるだろうけど、賠償しきれないよね?」
「C学園の分だけでも10億円以上だろうし、他のも入れたら多分20-30億円レベル」
「刑事罰はどうなるの?」
 
「放火されているのが全部人が居ない建物ばかりなんだよね。だから普通の放火罪で2年以上の有期懲役だと思う。実際にはこれだけたくさん放火していれば、懲役7-8年、ひょっとしたら10年くらうかも」
 
「結果的には、それで受験の重圧からは逃れられる」
「それが目的だったりして」
 
「ネットの噂だと、その子高校の時もトップの成績で予備校で受ける模試もいつも良いんだって。でもセンター試験が毎年悲惨らしい」
「うーん。。。そういう本番に極端に弱い人って居るんだよ」
「1浪までなら、どこか中堅医学部のAO入試で入れたろうけどなあ」
 
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「損害賠償はどうなるの?」
「その本人に請求されることになるね」
「破産するしかない?」
「いや、破産しても放火による損害賠償責務は免責されない」
「一生掛けて払っていくしかないわけか」
「まあ一生掛けても払いきれないけどね」
「払いきれなかったら、子・孫まで?」
「いや、それは相続拒否すれば大丈夫」
「あくまで本人だけの責務だよ」
 
翌日になって新たな情報が入ってくる。
 
「犯人のお父さんは中学の教頭先生だったらしい」
「わあ・・・」
「即辞表を出したって」
「ネットで娘の実名が出ているの見てびっくりしたんだって。普段から数日家に帰らないことはよくあったから、あまり心配していなかったらしい」
「それは仰天したろうな」
 
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「私が聞いたのでは、首つり自殺しようとしたのを警察がちょうど来て助けたらしい。首つってすぐだったんで、まだ息があったんだって」
 
「責任感じるだろうけど、死んじゃだめだよ」
 
「でもよく助けたね」
「ほんとにすぐだったんだろうね。あれ数分で絶命するはず」
「警官がその場で人工呼吸して蘇生させて、パトカーでサイレン鳴らしてすぐ病院に運んだらしい。幸いにも障碍とかも残らないだろうって」
「ホントによかったね!」
 

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この事件の経過は、福岡C学園の橋田さんから千里の所に情報が入ってきた。
 
「結局、旭川C学園の来春開校は中止になったよ」
「あらら。やはり建築が間に合わない?」
「それが大変だったみたいで」
 
橋田さんの説明によるとこういうことであった。建築中の建物が放火により全焼した場合、通常は工事をしている工務店が保険に入っているので損害はその保険から補償される(保険会社が犯人に損害賠償請求する)。ところがここで第1の問題があり、工事費用は60億円掛かるのに工務店は実は半額の30億円しか保険に入っていなかった。
 
「60億円の工事の保険料って1000万円以上するんだって。それをケチってたみたいなのよね」
「でもそれじゃ万一の時にやばいじゃん。万一の時のための保険なのに」
「だよね〜。そもそもその工務店、経営が苦しかったらしいよ」
 
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そして本来、学校の校舎は9月末に完成して引き渡し、それで学園側は10月以降新校舎に中学生を招いて新しい建物をアピールしたり、予備校の集中講座などを開いて親しんでもらおうと考えていた。ところが様々な事情で完成は遅れ、放火が発生した当時、11月上旬引き渡しの線で作業は進行していた。ところが工務店は、この工事の遅れに伴う建築工事保険の期間延長手続きをとっていなかった。正確には書類は出していたものの、追加の保険料をまだ払い込んでいなかった。
 
「多分その追加の保険料を払うお金が無かったんじゃないのかなあ」
「でもそれだと、つまり無保険だったってこと?」
 
「結局そうなるみたい。払い込みはまだでも書類を出していたから今からその分の保険料を払うので、どうにかならないかと言ったらしいけど、保険会社側はそういう例外は認められないし、警報装置も付けていなければ夜間に警備員も置いていなかったことを重視して、万一保険が有効であったとしても、これでは保険金はどっちみち払えないと言ったらしい」
 
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「要するに工務店側に重大な過失があったということか」
「放火でなくてもヒーターの過熱とか漏電による失火でも全焼してたろうね」
 
結果的に、この工務店は倒産してしまったのである。下請けの連鎖倒産を防ぐため旭川市が特例で緊急融資をする騒ぎにまでなった。
 
そして現場には燃えて廃墟になった校舎が取り残されてしまった。
 
「学校側は放置していたら危険だからということで、取り敢えず別の業者を入れて解体撤去工事だけ行った。その費用だけでも3000万円だって」
「ひゃー」
 
「でもそれで工賃がもらえなくて途方に暮れていた下請け工務店さんが随分助かったという声もあったみたい」
「それは良かった」
 
「それで再度、新たな業者に依頼して校舎を建築すること考えたけど、今から建てるのではまともに冬に突入するから、3月末には間に合わないと言われたらしい」
 
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「だよね〜。北海道で冬場の建築って困難というか無理に近い」
「なんか気温が低いからコンクリートの温度管理が難しくてきちんと固まらないとか」
「そうそう。無理に作れば暖かくなってから簡単にひびが入ると思う。排水工事とか塗装工事とかもできないよ」
 
「廃校になった学校の校舎とかを借りて仮設教室で授業やることとかも考えたらしいけど、イメージ悪いし、それに看板にしようとしていたスポーツ関係の部活の活動場所が確保できない」
 
「だろうね」
「それで結局来春の募集は中止になったみたい」
「ああ」
 
「開校をキャンセルするための費用がまた数千万円かかるみたいだよ。でもそれを請求できる相手がない。工務店は倒産しちゃったし、犯人には全然弁済能力は無いし」
 
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「とんだ災難だね」
 
「場合によっては旭川に開校する計画自体が中止になるかも知れないという話。この話を強引に進めていた理事さんが学園に多大な負担を掛けた責任を取って辞表出しちゃったし」
「ほんとに大変だね」
 
「あ、それで旭川C学園が勧誘していて入学が事実上内定していた中3のバスケ選手が10人くらい居るからさ、その子たちを道内の有力校に引き受けてもらえないかというので、たぶんそちらにも話が行くと思う」
 
「それはとっても歓迎!」
 

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橋田さんは「10人くらい」と言っていたのだが、実際にはC学園が勧誘していた女子バスケット選手は20人近くいたようで、旭川周辺の上川地区にその内の7人が居て、C学園側は各選手の希望を聞いた結果、千里たちのN高校に2人、L女子高に2人、R高校に1人と、札幌P高校に1人が進学を希望し、もうひとりは地元の公立高校で考えるということになったらしい。
 
「例の横取りされたって子ですか?」
と千里たちが宇田先生に尋ねると
 
「そうそう。ひとりはそれ。C学園の事務長さんと本人の親御さんが一緒にこちらを訪問してみっともない話だけど、やはりこちらにお願いできないだろうかということで」
と先生は言っていた。
 
「実力のある子なら歓迎ですね」
「うん。こちらも快諾した。そしてもうひとりは全然ノーマークの子。プレイを見せてもらったけど、磨けば光るタイプ。特待生枠では取れないけど奨学金出すから、それまで身体を鍛えておいてといって練習メニューを見せた」
 
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「でもそしたら今回の騒動って道内の埋もれていた選手を結構発掘したかも」
 
「その話、札幌P高校の十勝さんともしたんだよ。C学園が勧誘していた選手のリストはだいたいの行き先が決まった所で、某筋から入手したんだけど、半分が全くノーチェックだった子なんだよね。男の娘まで居た」
 
「その子、女子部に入れるんですか?」
「中学に女子として通っているから、女子部でよいらしい」
「でも女子バスケ部に入れないのでは?」
「女子バスケ部に入れるけど、公式戦には出さない。中学時代の村山君と同じだよ」
「結構男の娘バスケ選手っているのかなあ」
 
「でも、やはり道大会まで出て来てない学校の選手はチェック漏れになりやすいんだね。村山君や湧見君もそうだけど」
 
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ここでいう湧見君というのは、昭ちゃんの従妹の湧見絵津子で、来春特待生でN高校が取ることが内々定している。
 
「じゃ来年の1年生ってかなりレベルが高くなるのでは?」
「そうなると思う。その子たちが実力を付けてくる、再来年あたりが物凄いことになりそうだ」
 
「その年はもう私たちは卒業してるね」
 

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