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(C)Eriko Kawaguchi 2014-10-11
そしてその週末、福岡C学園のバスケチームがやってきた。
一行は19日金曜日に福岡空港朝7:20の便で羽田経由で新千歳に入り、早めの昼食を取ってから、その日の午後、札幌P高校と親善試合をした。そして夕方から旭川に移動し、土曜日の午前中に旭川M高校と対戦した。この試合は、千里・暢子・雪子の3人で偵察してきたが、C学園の圧勝だった。M高校はやはりC学園と戦うのに1−2年生だけでは力不足すぎるというので3年生の友子・葛美も入っていたのだが、全く手に負えなかったようである。
昨日のP高校との試合は、偵察してきてもらった揚羽・リリカ・夏恋によると物凄い接戦で、どちらもかなり熱が入っていたということだったが、M高校相手には軽く流した感じもあった。
そしてお昼を食べた後、N高校にやってくる。こちらの試合はインハイで負けているだけに、恐らくマジ全開で来るだろう。正直、ここで薫が加わってくれるのは物凄く助かる。昭ちゃんもいると千里は全体の2〜3割は彼に任せて、束の間の休憩をすることができる。
この試合では、PGは雪子・メグミ・敦子、SGは千里・昭ちゃん・結里、SF寿絵・夏恋・明菜・来未、PF暢子・薫・蘭・萌夏、C揚羽・リリカ・睦子、というのを基本にして随時交替しながらプレイすることにしていた。但し昭ちゃんと薫は同時にはコートインしないようにコントロールする。
双方ベンチ枠は18人と話し合っていたので、秋季大会の15人から川南・葉月の2人を外して代わりに萌夏・来未を入れ、更に薫・昭ちゃん・明菜を追加している。今日のマネージャー役は永子である。背番号も4〜21になっている。但し6番の留実子は外しているので実際にベンチに入る選手は17人であった。
福岡C学園の選手が入ってくると、千里たちは寄って行って握手をした。特に千里と橋田さんはハグした。熊野さんが「昨日、花和さんのお見舞いに行って来ましたよ」と言ったので「ありがとうございます」と答える。
「ボクが行ったので実弥も早く回復しなきゃと気合い入ってたみたい」
「リハビリ頑張るだろうな」
「頑張りすぎて悪化しなきゃいいんだけど」
インターハイの時、福岡C学園は3年生10人と2年生2人(橋田さん・熊野さん)だったのたが。今回は3年生が6人に減り、2年生8人・1年生4人という陣容になっている。ここから少し絞ってウィンターカップの代表になるのだろう。
「ところでそちら男の子が2人入っていると聞いたけど、どの子だろ?」
とキャプテンの小橋さんが訊く。
「分かります?」
と暢子は向こうに投げ返す。
「うーん・・・」
とみんな考えていたが、熊野さんが
「もしかして19番の子?」
と昭ちゃんを見て言う。
「正解」
「ちょっと男の子かもという感じのオーラが出てた」
「お、凄い」
「もうひとりは?」
熊野さんもかなり悩んでいる。
「もしかして14番の子かな?」
と橋田さんがリリカを見て言う。
「不正解」
「はーい。私が男でーす」
と今日は16番の背番号を付けている薫が手を挙げて言う。
「うっそー!?」
「どっからどう見ても女の子にしか見えない」
「声も女の子ですね」
と向こうは本当に驚いていた。
「だけど旭川C学園の建設地、ここの近くなんですね」
「そうなんですよ。M高校・N高校・C学園と並ぶ感じになりますね」
「この地区はバスケットの聖地になるな」
「そうなるとL女子高さんが慌てる」
福岡C学園のメンバーは明日L女子高と対戦することになっている。
試合は最初から熱を帯びたものとなった。
向こうはリベンジに燃えているし、今度はこちらをかなり研究しているのが、よく分かった。
インハイの時はかなり成功した、雪子と千里のコンビネーション・プレイがなかなか通用しない。ちゃんと各々のプレイへの対応を検討したようで、うまく防がれてしまう。橋田さんはインハイの時より瞬発力もスピードもあって、そもそも千里をフリーにしてくれない。
最初の10分は千里は全くスリーを撃たせてもらえなかった。
しかしこちらも各々のプレイにフェイントや相手の反応により選択肢を変更するようなプレイを混ぜていくと、相手も迷いが出てくる。ここはフェイントなのか本当に来るのかというので一瞬考える場面が出る。するとそこから千里も暢子も切り込んでいくし、シュートを撃つ。
また途中で暢子に代えて出した薫は、向こうが未研究のプレイヤーなので、どう対処していいか、分からず特に最初のうちはかなりいいようにプレイされた。その間に薫はじゃんじゃん点数を奪っていった。さすがに5−6分やっていると、橋田さんや背番号10を付けた2年生の津山さんなどが、うまく対応し始め、薫を投入した直後ほど一方的にはならなくなったものの、それでも薫は強引に相手のディフェンスを突破して得点していた。ベンチに座ってプレイを見詰める暢子の目が熱いのを千里は感じた。
普通の男子が女子に混じって試合に出たら、相手との身体の接触を遠慮してプレイがハンパになりそうだが、薫は前の高校でも女子バスケ部の練習に随分参加させてもらっていたらしく、女子選手との接触を何とも思わない。向こうも強豪校なので、相手が男であろうと何も遠慮しない。後で聞いたら地元の男子高校生チームとの練習試合も日常的にやって鍛えているらしい。
それで薫が制限区域内の選手密度の高い所でプレイしていても、お互いに違和感はほとんど無かったようであった。
千里も途中で交代して、結理や昭ちゃんを出したが、さすがにこの相手には、ほとんどまともなプレイをさせてもらえない。それでも昭ちゃんは1本スリーを放り込み、物凄く嬉しがっていた。結理も制限区域の中であったが、揚羽がリバウンドを取ったののトスを受けてゴールを決めることができた。ふたりとも全国区の強豪相手にシュートを入れられたのは、物凄い自信になったはずである。
試合はどうしてもロースコアで進み、第3ピリオドまで終わって42対38と福岡C学園がリードしていたが、点差はわずか4点である。
「折角九州から北海道まで遠路はるばる来てくれたんだからさ」
と暢子がインターバルに言う。
「負けて帰っていただくぞ」
千里も
「向こうはリベンジに燃えているけど、ここは返り討ちで」
と言った。
それで第4ピリオドは、雪子・千里・薫・暢子・揚羽、という守備は犠牲にしても点を取るぞ、という態勢で出て行く。
第4ピリオドも前半が終わったところで50対50と同点に追いつく。そしてそこからは完璧なシーソーゲームとなった。点を取られたら取り返すというのの連続で、リードもめまぐるしく変わる。
そして残り1分の所でN高が得点して58対59とこちらが1点のリードである。2年生ポイントガードの片野さんが攻めあがって来る。橋田さんには千里、熊野さんには薫、小橋さんに暢子がマークに付いている。
複雑に動き回って揚羽のマークを一瞬外した津山さんにパス。中に飛び込んでくるので雪子がフォローに行く。しかし津山さんが172cmくらいあるのに雪子は158cmで身長がミスマッチである。高くジャンプしながら空中で撃つと雪子にはどうにもならない。
これが入って60対59。
N高の攻撃。ここで薫に代えて夏恋、揚羽に代えてリリカを投入する。慌てずゆっくり攻め上がる。千里が細かく左右に動き回って、一瞬橋田さんとの距離ができた所で雪子から素早いパスが来る。しかし橋田さんは根性の瞬発力で千里の前に立ちふさがり、簡単にはスリーを撃たせない。
そこに夏恋がフォローに走り込んで来て、橋田さんと千里の間に無理矢理割り込む。夏恋をスクリーンに使ったプレイと向こうは思う。
が、千里はその夏恋にパスした。
橋田さんは虚をつかれた感じであった。
夏恋は走り込んで来た勢いで向こうに駆け抜ける。夏恋を追ってきた熊野さんは、千里と橋田さんが居るので、動きが一瞬止まる。橋田さんも千里に付いているべきか、千里を熊野さんに任せて自分は夏恋に付くべきか一瞬迷った感じであった。
結果的に夏恋は完璧にフリーになった。いわゆるピック&ロールに近い攻撃パターンだが、こういうコンビネーションはここまで全く使っていなかった。C学園はこういう新手の作戦とかに弱い。
夏恋がシュートを撃つ。
スリーポイントラインの外側である。
きれいに決まって60対62。
なお、ここでスイッチされて橋田さんが夏恋に付いた場合はパス戻して千里が撃っていた所だった。
N高2点のリードとなる。残り時間は42秒。夏恋はインハイの後から自宅に設置したゴールを使ってひたすらシュート練習をしていた。その成果であった。また福岡C学園も暢子や千里に雪子などは研究していても、夏恋はあまり研究していないだろうという読みもあった。
福岡C学園の攻撃だが、N高は強烈なプレスに行く。
こちらは暢子・千里はスタミナが充分ある。リリカと夏恋はあまり消耗していないのでエネルギーが有り余っている。向こうはこの時点でこの試合にかなりの時間出ていたメンバーばかりになっていた。
さすがにボールを奪われたりはしないものの、ボールをフロントコートに運べない!
このままでは8秒ルール、という所で橋田さんが強引に突破して何とかセンターラインを越える。しかしセンターラインを越えて、一瞬ホッとした感じの所を死角から忍び寄った千里がまんまとスティールする。
「嘘!」
と橋田さんが一瞬声をあげるのを後ろに聞きながら、千里はボールを素早いドリブルで運ぶ。
むろん目の前にはC学園の選手が何人も居る。
しかし千里は、片野さん、小橋さんを連続で一瞬にして抜き去る。
そしてスリーポイントラインの手前でピタリと停まる。津山さんが必死にチェックに走り寄ってきたが、その前に千里はスリーを撃つ。
きれいに決まって60対65。残り時間25秒。
C学園の攻撃だが、再度強いプレスに行く。橋田さんが必死になって突破する。今度は一瞬たりとも気を抜かない。そのままゴール近くまで走り込んでシュートするが、リリカがフェイントに騙されずにきれいに飛んでブロックする。
こぼれ球を必死に後ろから走ってきた熊野さんが押さえ、自らシュート。
しかし暢子がブロックする。
リバウンドを今度はリリカが取る。残りは15秒。
橋田さんが一瞬天を仰いだ。
もう24秒以内なので、N高は時間稼ぎでも勝てる。但しボールをフロントコートまでは運んでおく必要がある。
当然福岡C学園は強烈なプレスに来る。向こうはもう疲れ切っているはずだが、ここでボールを奪えないと、どうにもならない。8秒間、ボールをこちらのコートに留めておくことさえできれば、直接奪わなくても自分たちのボールになる。
千里には橋田さん、暢子には小橋さん、雪子には片野さんがついて、この3人がまともにプレイできないようにしている。ボールを持ったリリカは熊野さんと対峙しているが、またまた夏恋がマーカーの津山さんを付けたままその2人と交錯するように走り込んで来る。
一瞬両者のマークが不完全になる。
その瞬間リリカはボールを誰もいないフロントコートに投げる。
そのプレイを予測して既に走り出していた千里が全力疾走して橋田さんを振り切りボールを確保する。橋田さんも負けずに走ってきて、千里の進行を阻む。千里はドリブルしながら突破を伺う。マネージャーとして座っている永子が「(残り)3秒!」と声を掛ける。
千里は右に行く姿勢を見せる。橋田さんは逆に来ると読んで千里の左側に重心を移動する。それとほぼ同時に千里はそのまま右側を抜く。
「あぅ・・・」
という橋田さんの声を背景に千里は数歩先まで行き、スリーポイントラインの内側まで入り込んで、シュートを撃つ。
きれいに入って60対67。残りは0.8秒。