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■女の子たちの火の用心(2)

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「フィニッシングスクールとかに通うのはどうだろう?」
「そのあたりまとめて教えてくれるよね」
「ブライダルスクールでも良かったりして」
 
「私・・・お嫁さんになれるかしら?」
 
千里たちは一瞬返事に窮したが、竹宮さんが笑顔で答える。
 
「男の人にもいろんな趣味の人がいるし、有り得なくもないですよ」
 
フォローしてあげているのかしてないのか良く分からない返事だ。しかし彼女は良い方に取ったようである。
 
「そうかな。少し頑張ってみようかな」
 
「だけど実際問題として女子トイレで、こいつ男じゃねーのかよ?と思うおばちゃんって結構見ると思わない?」
と萩尾(月香)さん。
 
「ああ、いるよね。悲鳴あげる直前で思いとどまったことある」
と森下さん。
 
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「誠美は悲鳴を上げたら駆けつけて来た警備員に自分がつかまったりして」
「だから悲鳴あげられないんだよ」
 
女性警官が「うーん」という感じで悩んでいた。
 

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騒動が落ち着いた所で、千里は森下さんとも握手した。森下さんは先程の運玉対決のことを聞くと「すごーい。見たかったあ」と悔しそうに言っていた。
 
彼女たちとは「次は東京(ウィンターカップ)で」と言って別れた。結局森下さんに付き合って竹宮さんが一緒に再度拝殿まで往復してくるということであった。
 
千里は駐車場に戻り、車の中で曲を書き始めたが、先程の運玉投げや、今起きたトイレ騒動のことが頭にあると、何だか元気な曲が出来てくる。ああ、いい雰囲気、いい雰囲気と思いながらペンを走らせて行った。
 
だいたい書き上げた所で雨宮先生に連絡する。
 
「うん、優秀。優秀。じゃ東京に戻ってきて」
「えっと・・・先生、宮崎におられるんじゃなかったんですか?」
「私はずっと東京に居たけど」
「じゃ私だけ宮崎に来たんですか?」
「うん。新島は広島の、安芸(あき)の宮島に行った。そちらも今東京に戻ってきている最中」
 
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千里はため息を付いた。てっきり雨宮先生が宮崎に来ていて、そちらに呼ばれたものと思っていたのである。
 
「でも私、どうやって東京に行けば?」
「車は宮崎空港に駐めて。到着の少し前にレンタカー屋さんに電話すれば取りに来てくれるから。乗り捨てすることも連絡しているはず。それで宮崎空港から羽田まで飛んで。青山のスタジオで待ってるから」
 
結局ドライバーはずっと私なのか!?
 
「分かりました」
と千里はため息を付いて答えた。
 

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それで千里はカーナビに宮崎空港をセットして出発しようとしたのだが、ここで《きーちゃん》が『千里、助手席に乗って』と言う。それで千里は助手席に移る。《きーちゃん》は実体化して運転席に座って車を出した。
 
海岸沿いの道(来る時は寝ていたので気付かなかったが結構凄い道だ)を戻って鵜戸神宮入口の所から国道220号に戻り北上するが、少し行った所で検問をやっていた。
 
なるほどー。でも大丈夫かな?
 
警官が
「恐れ入りますが免許証を拝見します」
と言う。
 
《きーちゃん》は落ち着いてバッグから免許証を出すと警官に提示した。
 
「ありがとうございます」
と言われて通してもらう。
 
『きーちゃん、免許証があるんだ?』
『これを見せただけだよ』
と言って《きーちゃん》が見せてくれた免許証は、村山千里の運転免許証だ!
 
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『えーー!?』
『千里が1年半後に取得する免許証だね』
『うーん・・・』
『千里実際問題として、今女子大生だし』
『なんかもうそういうの気にするの面倒になってきた』
 
なお千里はウィンターカップ地区大会の終わった9月17日からまた女子大生の身体になっていた。
 

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レンタカー屋さんに到着予定時刻を連絡したら、店舗の方に乗り付けてもらったら、そこから空港までお送りしますということだったのでそうすることにした。
 
『田舎の空港とかフェリーターミナルだと無料駐車場があるからそこに乗り捨てておけば勝手に回収してくれる所もあるんだけどね』
などと《こうちゃん》が言う。
 
《きーちゃん》は千里にそのまま寝ておくといいと言い、千里が寝ている間に車を宮崎空港のレンタカー屋さんまで運転していってくれた。返却手続きもやってくれる。返却予定時刻より早かったので追加料金も不要だった。レンタカー屋さんに空港まで送ってもらった後で、千里の中に戻る。
 
千里はそのまま空港のカウンターに行き羽田までの切符を買って乗り込んだ。待合室と機内で今朝作った2曲をDAWでMIDIに打ち込んだ。
 
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羽田で降りてから京急・地下鉄などを乗り継いで青山のスタジオに到着したのはもう(10月13日)18時すぎであった。
 

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「お早うございます」
と言って中に入っていく。雨宮先生と新島さん、それに∞∞プロの鈴木一郎社長が居る。
 
「このメンツということは、もしかして大西典香ですか?」
「そうそう。大西典香の次のアルバムを作る」
 
「大西典香の次のアルバムどんな感じで作ろうか?と言った時に Blue Island というタイトルがいいですと本人が言ったのよね。それで Blue Island なら青島じゃん。それなら青島で曲を作ろうということで、行ってきてもらったのよ」
 
「私の方はAutumn Island というのもいいね、と言われて《あきのしま》なら安芸の宮島じゃんと言われて、行って来させられた」
と新島さんが言う。
 
秋で安芸って駄洒落か!?
 
「なるほど。鵜戸神宮は?」
「青島の話をしたら、★★レコードの加藤ちゃんが、青島なら鵜戸神宮とセットのはずですと言うから、一緒に行ってもらった」
 
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「ええ、確かにセットです。本当は霧島神宮までセットですが」
と千里も答える。
 
「あら。まだ他にもあった? じゃちょっと今から行ってきて」
と雨宮先生が言う。
 
「えーー!?」
と千里は半分驚き、半分抗議の声をあげたが、鈴木社長が
 
「まあ今回はいいでしょう」
と言ったので、千里は東京駅に行って新幹線に飛び乗るハメにはならずに済んだ。
 

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「じゃ曲を見せてよ」
というので千里はパソコンを開き、MIDIを鳴らして歌ってみる。
 
「これが青島で書いた曲です」
 
もう1曲の方も鳴らす。
 
「こちらが鵜戸神宮で書いた曲です」
 
2曲聴いた所で雨宮先生が鈴木社長と新島さんに訊く。
 
「どちらがいいと思う?」
 
「後のがいいです」
「後のだね」
 
「じゃそれを Blue Island というタイトルにしよう」
と雨宮先生。
 
「えーー!? でも鵜戸神宮で書いたのにいいんですか?」
と千里。
 
「そのふたつ親戚なんでしょ?」
「親子です。青島神社に祭られているのは彦火火出見命(ひこほほでみのみこと)、通称山幸彦(やまさちひこ)と奥様の豊玉姫。鵜戸神宮はその子供の鵜草葺不合命(うがやふきあえずのみこと)をお祭りしています」
 
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「親戚ならOK。霧島神宮は?」
「山幸彦のお父様の邇邇芸命(ににぎのみこと)です」
 
「なるほど。親子孫と3代なわけだ」
「ええ。でも霧島神宮は火山の噴火で度々移転している内に分裂してしまって、現在6つの神社になっているんです」
 
「じゃ後日その6ヶ所巡り」
「高校卒業した後にしてください」
「まあいいや」
 

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それで千里が鵜戸神宮で女子トイレ騒動のあとで書いた曲を『Blue Island』というタイトルにし、青島で日の出を見て書いた曲は『恋のモーニングコール』というタイトルにすることになった。歌詞は千里が仮の歌詞を付けていたのだが、蓮菜に電話して添削あるいは独自のものを付けてと言ったら、きれいに添削・修正してくれた。修正された歌詞を見た雨宮先生は「さすが葵ちゃんはセンスがいい」と本気で褒めていた。
 
「今回は何曲入りのアルバムにするんですか?」
「12曲。また例によって全部《鴨乃清見》の名前で出す。私が1曲、新島が2曲、新島の友人で松居って子が1曲、千里も会った高倉が1曲、大西典香自身に1曲、ただしこれは新島が少し補作・調整をした。それから鮎川が1曲、鮎川の知り合いで田船って子が1曲、そして醍醐が4曲」
 
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この田船さんというのは2009年にブレイクしたバインディング・スクリューの専属作曲家(リーダーの田船智史のお姉さんである田船美玲)であるが、この当時はバンドともども全く無名であった。田船さんはラッキー・ブロッサムにも「螺旋」のペンネームで幾つかの曲を提供している。
 
千里は荷物を手に持った。
 
「それでは私の用事は済んだようなので帰ります。失礼します」
「待て」
 
と言って雨宮先生が後ろから抱きとめる。ついでにおっぱいに触る!
 
「今の私の話聞かなかった?醍醐の担当は4曲なんだよ。あと2曲書いて」
 
「無理ですよ〜。今日2曲書いたばかりですよ。あと2ヶ月待ってください」
「金曜日まででいいから」
「だいたい何で私だけ4曲なんですか?」
「それは鴨乃清見の中核が醍醐だからだよ。他の人はヘルパー。千里、鴨乃清見の名刺も作っていいからさ」
 
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千里は再度ため息をついた。
 
「分かりました。では今月中にあと2曲書きます」
「それじゃ間に合わないよ」
 
「私学校がありますし。今度の週末は親善試合があるからバスケの練習もしないといけないし」
「じゃ最悪譲って来週の月曜日。22日」
「じゃ23日の朝」
「仕方無い。それでいいよ」
 

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ということで解放してもらえたので、雨宮先生の助手の橘さんにホテルを手配してもらった。また高倉さんから借りたインバーターも返送をお願いして渡しておいた。
 
「橘さん、こないだは気付かなかったけど、橘さんって、ロマンスガールズのエリカさんですよね?」
 
「覚えててくれてありがと。でも私の現役時代って、あなたがまだ小学生くらいの頃じゃないかしら」
「いえ。そのお声に記憶があったんです。こないだはどこかで聞いたことあると思っていたんですけど、さっき突然思い出しました。ユリカさんもお元気ですか」
 
「うん。元気元気。こないだ赤ちゃん産んだんだよ」
「わぁ、おめでとうございます。結婚なさっていたんですね」
「ううん。結婚はしてない」
「へー。まあ最近はそういうの多いし」
 
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この時生まれたのが橘美晴であったことに千里が思い至ったのは20年ほど後に橘美晴がデビューした時であった。
 
「出産費用とかは全部彼氏が出してくれたし、養育費も毎月50万送ってくれるらしい」
「50万ももらえるなら、私もその人の彼女になりたい」
「私も言った!」
 
「でも結婚しないんですか?」
「結婚するつもりだったみたいだったけど、ちょっと関係がこじれて別れたみたいだよ。そもそも彼氏は凄い浮気性でさ」
 
「へー。でも子供についてはちゃんと責任持つんですね。50万も払えるってお金持ちなんだろうし」
 
「毎月100万払うと言ったらしいけど、お金ありすぎると遊びそうだから50万でいいと言ったらしい」
「欲が無い」
「ね? その差額50万円、私にくれよと言った」
「あはは」
 
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「実際には20万で生活して30万は子供名義の口座にずっと積み立てていくと言ってた」
「堅実ですね」
 

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