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■女の子たちの秋期鍛錬(2)

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しかし肉マンをひとつ取って食べながら、母は千里を見てしかめ面をしている。
 
「どうかした?」
と千里は自分も肉マンを食べながら言う。美輪子がお茶を入れていた。
 
「あんた、女子制服着てるの?」
「中学の時も女子制服着て神社に行ってたじゃん」
「高校でもそうしてるんだ? だけど全然女装男子高校生には見えない」
と母は言うが
「千里は間違いなく女子高生だから」
と美輪子は言う。
 
「そもそも男子制服着て女子更衣室には入れないしね」
と千里。
 
「あんた女子更衣室を使うんだっけ?」
「私女の子だもん」
「いやあんたは女のつもりでも、他の人たちが戸惑わない?」
「別に。普通におしゃべりとかしながら着替えてるけど」
「だって女の子の下着姿をあんた見ることになるじゃん」
「私も下着姿曝してるけど」
 
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「うーん・・・」
と母は悩んでいる。
 

「あ、それよりちょっと相談事があって来たんだけど」
「玲羅のこと?」
「よく分かったね!」
 
「高校をどうするかでしょ?」
「実は学校の先生から公立は無理って言われた」
「まあ無理かもね。あの子、全然勉強しないもん」
 
「それで私立にやるお金は無いし、就職させて定時制にやろうかと思ってさ。本人に聞いたらそれでもいいというから」
「まあ玲羅としてはそれで親元から離れられるのがいいのかもね。旭川に出てくることになるし」
「だけど旭川のどこに住まわせようかと思って。さすがにここに2人も頼めないから、いっそアパート借りてあんたとふたりで暮らす?」
 
千里はその件についても少し考えていたので言う。
 
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「お母ちゃん、定時制でもいいだろうけど、やはり全日制高校に行かせてあげなよ。授業料は私が出してあげるからさ」
 
「あんたそんなにバイトで稼いでるんだっけ?」
「悪いとは思ってるけど、今食費は美輪子おばちゃんに出してもらってるし、特待生だから学費は掛かってないし。神社からは毎月6万くらい頂いているから、玲羅の授業料くらいは何とかなると思うよ」
 
実際にはバスケで忙しすぎて神社になかなか出られないので、そちらからもらっているお給料は3万程度である。更にバスケで毎月かなりの出費が発生しているし、また個人的に東京に行ったり出羽に行ったりで旅費も使っている。しかし作曲のお仕事をここの所相次いで頼まれて、それが結構な額になりつつあった。
 
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特に津島瑤子の『See Again』はこの時点で既に20万枚/DL売れていた(最初に出たミニアルバムとその後シングルカットされたものの合計)。その印税は報告をもらっているだけでも恐ろしい数字になっていた。ただしそれを蓮菜と山分けするし、入金され始めるのは10月末以降だし、所得税・住民税でおそらく2〜3割取られることも考えておかなければならない。
 
「ごめーん。私、美輪子に全然送金できなくて」
「お互い苦しい時は助け合えばいいんだよ。私も大学生時代に、津気子姉ちゃんから結構助けてもらったから、今はその恩返しだよ」
 

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翌日23日はバスケの練習をお休みにして、千里・暢子・寿絵・夏恋・雪子といったメンツで札幌まで留実子をお見舞いに行った。留実子が来るなら差し入れはカルシウムの多いものがいいなどというので、煮干し、アーモンドフィッシュ、骨せんべい、干しエビに、えび大丸などを買って持って行った。
 
病室に行くと、留実子はエキスパンダーで運動していた。
 
「身体動かしていいの?」
「骨折した右足は動かしてない。でも上半身だけでも鍛えないと復帰に時間が掛かる。あと左足の運動もしてる。このあたりは主治医と話し合ってすることを決めている」
 
「うん。先生と話してやっているのなら大丈夫」
「勝手なことして治癒が遅くなったらいけないから」
 
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「治療はどんなことしてるの? 電気?」
「そうそう。電気治療器やってるし、超音波治療器と併用してる」
「色々あるんだね」
「痛みはない?」
「痛い。無理に我慢しようとするなと言われた。神経の働きを押さえ込んじゃうから。だから痛いと言うことにした」
「ああ。実弥は無理に我慢しがち」
 
「そうだ。サーヤ。これ私が性転換手術受けた後、療養していた時の運動メニュー」
と言って千里は留実子にメモを渡す。
 
「ありがとう。参考にさせてもらう」
 
このメモは美鳳さんからもらったものだが、このメニューを自分が実際に手術を受けたあと実行しなかったらどうなるのだろう?と毎度千里はタイムパラドックス問題で悩んだ。
 
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暢子は宇田先生から聞いているだろうけどと断った上で、留実子の番号6番は空けておくから、頑張って治療に専念するように言った。
 
「今は留実子の仕事は身体を治すことだから」
「うん。頑張る。それと勉強も頑張るから」
 
千里は授業内容のノートを毎日コピーして留実子の叔母の家の郵便受けに放り込んでおり、留実子の叔母はそれを毎日見舞いに行く時に留実子の所に持って行っているので、留実子はそのノートと教科書を見比べながら1日遅れで授業内容をフォローしている。出席日数にはならないものの勉強でも遅れを取らないようにしようという意気込みである。
 
「サーヤ頑張って学年20位以内を目指しなよ」
 
「うん。実はそれ頑張ってみようかなと思っている」
と留実子は言う。
 
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「僕さ」
「うん」
 
「正直、バスケットって、千里に誘われて惰性でやってた面がある。バスケやってれば知佐と話も合うしなんて少し不純な動機もあった。だから言われたら練習するし試合にも出るけど半ば友だち付き合いの一部という気持ちが強かった」
 
千里たちは黙って聞いている。
 
「でも今度怪我したので僕は分かった。僕はバスケが好きだ」
と留実子は言った。
 
「私もバスケ好きだよ」
と千里。
「私はバスケを愛してる」
と暢子。
 
「だから、僕、今度のウィンターカップにも行きたいし、来年のインターハイにも行きたい」
 
「今までサーヤってあまり勉強せずに学年70-80位くらいに居たんだもん。だから真面目に勉強したら20位以内、行けるかもよ」
 
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「うん。だから治療もリハビリも勉強も頑張る」
「うん、頑張れ頑張れ」
 
「でも無理はするなよ。無理して治癒が遅れたらタダじゃおかないから」
「道大会までは私たちで何とかするから、ウィンターカップでJ学園やF女子高を圧倒しようよ」
 
「うん」
 
留実子は千里・暢子と堅い握手をした。
 

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「サーヤの握力で握られると、ちょっと痛い」
と暢子。
 
「骨折しないように気をつけよう」
と夏恋。
 
「暢子まで入院されたら、さすがに私も辛いよ」
と千里は笑って言った。
 

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L女子高の瑞穂監督・溝口さん・鳥嶋さんの3人が昨日お見舞いに来てくれたということだった。
 
「なんか凄い高そうなバウムクーヘン頂いちゃって。お返しに札幌のR堂のきんつばを今日姉貴が買って来てくれることになってるから、千里、悪いけどそれL女子高さんに持っていってくれない?」
 
「うん。OKOK」
「R堂のきんつばなら私も食べたいな」
「みんなの分もあるよ」
「よし」
 

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その留実子の姉(元兄)の敏美は11時頃やってきた。敏美は札幌市内の美容室に勤めているので、毎朝出勤前と、後は時間の取れた時に来てくれているらしい。旭川の叔母が夕方来てくれるので、ふたりのフォローで留実子は不自由のない入院生活を送っているようである。
 
「おっはー」
と言って敏美は明るい。そして部屋に入ってくるなり千里の首に手を回して抱きつくとおっぱいを触る。
 
「千里ちゃーん。このバストは本物?」
「上げ底無しの本物ですよ」
「ね、あんたもうおちんちん取っちゃったんでしょ?」
「さすがに付いてません」
「だよね〜。女子チームに入ってインターハイに行ったというからさ。当然、女の子の身体になってなきゃ行けないよね」
「さすがに男が女子選手としてインターハイに出たら不正行為です」
「ほんとにそんな奴がいたら、みんなの前でお股広げさせて、おちんちんを公開処刑だね」
「ああ、安い漫画にありそうです」
 
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「親には話してるの?」
「まさか。内緒ですよ」
「ふふふ。カムアウトすると大騒動だよ」
「気が重いです」
 
この日は遅番でお昼過ぎに出ればいいということだった。敏美も元男性で昨年性転換手術を受けて女性になったというと、みんな驚いていた。
 
「男の人だったようには見えない!」
「でも千里には負けるけどね」
「いつ手術を受けられたんですか?」
「11月」
「じゃ千里より後なのか」
「だよね?千里は11月に病院で検査を受けて女であると診断されてるんだから」
「かもね」
 
千里はこの件に関しては言葉を濁しておく。
 
「でも性転換手術って痛いんでしょ?」
「最初の1ヶ月はひたすら寝てた。それと普通に座れないのよね」
と敏美。
「ドーナツ座布団必須ですよね」
と千里。
 
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「お産した人と似たような感じか」
 

その日、夕方くらいに病院を出て帰ろうとしていたら千里の携帯に着信がある。見ると従姉の愛子である。会いたいということだったので暢子たちと別れて、愛子が指定するファミレスへ行った。
 
愛子は現在大学2年生で札幌市内の大学に通っている。千里とは年に1度はどこかで会っているし、電話でもよく話すので、お互い遠慮が無い。
 
「おっす」
「おっす」
などと挨拶を交わして千里は席に座った。
 
「こちらから会いに行こうと思ってさ。千里の携帯につながらないから美輪子さんとこに電話したら札幌に来ていると言うし」
 
「札幌の病院に入院している友だちの見舞いに来たんだよ。病院内では携帯の電源切ってた。しばらくは週に1回くらい来ると思う」
「おお、それは助かるかも」
 
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「でも愛子ちゃん、結構髪伸びたね」
「今ちょうど千里と同じくらいの長さかな」
「でもこれウィッグなんだよ」
 
今日はオフなのでバスケをする時に使っているショートヘアのウィッグではなく、肩までの長さのウィッグを着けてきている。
 
「へー。本当の長さはどのくらい?」
 
というので千里はウィッグを外してみせる。お腹の付近までの髪が露わになる。
 
「ウィッグより長いじゃん!」
「いや。この長さは校則違反になるから」
「それでセミロングヘアのウィッグの中に押し込んでいるのか」
「色々事情があって」
「まあいいや。取り敢えず私も胸くらいの長さまでは伸ばそう」
 

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