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(C)Eriko Kawaguchi 2014-08-04
学校はこの合宿の翌週7月21日(土)から夏休みに突入する。
その7月21日、春先に妊娠騒動を起こした3組の忍が結婚式を挙げた。
既に彼氏と籍は入れているが式は保留にしていた。しかも2人はまだ同棲もしていない!各々の実家に住んでいて、毎週週末に彼氏が忍の実家を訪問して「週末夫婦」をしているのである。しかも忍は妊娠中ということもありセックスもしていないらしい。
「2学期は休学するし、この後は同棲するんでしょ?」
「しないしない。彼はまだ大学生だし、私も勉強しっかりやるし。会うのは週末だけ」
「じゃなんのために結婚を」
「適法的に出産するためだよ」
「でも結構お腹大きくなって来たね」
「うん。そろそろ学校に通学するのも限界を感じ始めていた。ここの所急に大きくなってきたんだよね。実は今月に入ってからはお父さんに毎日送り迎えしてもらっていた」
「おぉ、自家用車通学か」
「うちはそれ禁止されてないもんね」
「そのあたりが、さすが私立だよね」
「あまりやる子はいないけど」
「札幌の某学校は毎朝ベンツとかロールスロイスが玄関前に大量に来るらしい」
「なんかクラウンとかで通うのが恥ずかしくなると聞いた」
「あ、うちのお父さんはフィット」
と忍。
「庶民的で良い」
「予定日はいつだっけ?」
「12月25日」
「おお、イエス様と同じ誕生日か」
「誕生日のケーキはクリスマスケーキと兼用で」
「誕生日を忘れられることは絶対無い」
「便利なんだか損なのか」
式自体には3組の学級委員・智恵美と、生徒会副会長をしている5組の司紗とが2年生女生徒を代表して参列したのだが、披露宴代わりのお祝いパーティーには2年生女子の(たぶん)半分くらいが出席した(会費は一般5000円にしたがN高の女生徒は1000円ということにしてもらった)。
「お、千里も来てるね」
と3組の学級委員・智恵美から声を掛けられた。
智恵美は1年の時は2組で放送委員だったので千里とも親しいし千里の実態をよく知っている。
「忍ちゃん、高校に入ってからは、やめちゃったけど、中学の時はバスケやってて、何度か対戦したことあったんだよ。それで袖振り合うも多生の縁ということで押しかけてきた。まあ何人かから『ちょっと顔出せ』と言われたのもあるんだけどね」
と千里。
「ふーん。あれ?忍は女子バスケ部だよね?それで対戦したの?」
「うん。私も中学の時は女子バスケ部だったから」
「あ、そうだったのか。今日も女子制服だし」
「うん。私、女子生徒だから。それに招待されてるのは一応うちの女子生徒全員ってことになってるし」
「まあ男子生徒は招待しにくいよね」
と言って智恵美は少し楽しそうであった。
新郎新婦の挨拶、ケーキカットの後、余興の時間となる。
「よし、千里、余興やるぞ」
と言って千里は暢子から引っ張って行かれた。
バスケットボールを各々持って、暢子・留実子・寿絵・川南・メグミ・睦子・夏恋・萌夏・敦子・葉月・千里と2年生の女子バスケ部の11人が並ぶ。そして各々ドリブルしながら、号令係の明菜の笛に合わせて、各自ボールをドリブルしたまま隣の子に移していくというのをやる。端に居る千里は敦子からのドリブルをもらったら、暢子にパスする。
実はこの配列は1人おきにドリブルのうまい子が入っているという絶妙な配列なのである。両端の暢子・千里と真ん中付近にいるメグミ・夏恋はどうにでもボールを操れるので、そこで結構ツジツマを合わせている。前日に30分ほど練習しただけなのだが何とかうまく行った。
千里とメグミが2人前に出て、向かい合い、両手を使って交互にボールを撞くなどというのをやると、また歓声があがっていた。
バスケ部のパフォーマンスが終わった後、飲み物など飲んでいたら今度は鮎奈から
「千里〜、余興やるよー」
と言ってまた引っ張って行かれる。
DRKのメンバー12人が集まっていて、バンド演奏である。ちゃんと12人集まったのはなんと昨年秋の音源制作の時以来だ!この日のパートはこうなっていた。
Gt1 梨乃 Gt2 鮎奈 B 鳴美 Pf 京子 Dr 留実子 Fl 恵香・千里 Vn 麻里愛・孝子 Leier 智代 Vo 蓮菜・花野子
「なんで私のフルートがここにあるの〜?」
と千里は訊いたが
「細かいこと気にしない」
と蓮菜から言われた。
この日演奏したのは津島瑤子の『See Again』、DRKオリジナルの『Delicious Horn』、そして木村カエラの『Butterfly』であった。
これで終わったかと思っていたら、レモンがやってきて
「花野子ちゃーん、千里ちゃーん、蓮菜ちゃーん、歌おう」
などと言われて、コーラス部のメンツに加わって一青窈『ハナミズキ』、篠田その歌『ポーラー』、モーニング娘。『ハッピーサマーウェディング』
と歌った。『ハッピーサマーウェディング』の歌詞はこういう若い結婚するカップルには危ないので「いいのか〜?こんなん歌って?」と思いながら千里は歌っていた。途中の「証券会社に勤めている杉本さん」というところは「大学生で証券会社志望の松川さん」と本物の新郎の名前に勝手に置換してレモンがしゃべっていた。
パーティーの最後には教頭先生がマイクの前に立ち
「若いから色々分からないこともあると思う。迷うこともあると思う。後悔することもあるかも知れないけど、無理せず、自然体に、そして前向き思考で一緒に歩んで行きなさい。何か困ったことがあったら、ふたりでよく話し合い、悩んだら各々の両親に相談し、親に相談しにくいことは、僕や山本先生・河内先生などにも遠慮なく相談して。休学中でも忍さんはN高校の生徒なんだから」
とはなむけのことばを述べた。
披露宴が終わった後はバスケ部のメンバーはそのまま送迎バスに乗り込み、近隣の宿泊施設付き総合運動施設に移動する。これから第二次合宿である。
1年生と3年生は朝から入っていて既に練習を開始している。2年生はこの披露宴に出席した後の参加ということになった。
第二次合宿は一緒にインターハイに出場する旭川M高校との合同合宿である。
2年生は施設に到着するとまずは準備運動の後、シュートやドリブルなどの基礎練習をした後、試合形式の対戦をする。
参加者はN高校36名・M高校28名と大人数だ。どちらの高校も試合に出られない選手を含めて全員を佐賀に連れて行くことにしている。今年は応援係あるいは偵察係であっても、レベルの高い試合を見ることが必ず翌年以降につながる。
N高校・M高校各々を4チームに分け、お互いのAチーム同士、Bチーム同士、Cチーム同士、Dチーム同士で試合する。コートが2面使えるので、Aチーム戦とCチーム戦、Bチーム戦とDチーム戦を10分交代で並行して行う。次の試合をやっている10分間が休憩時間になる。そして試合での内容によってメンバーを適宜昇格・降格させていく。
N高校のAチームは、久井奈・雪子・千里・留実子・麻樹・揚羽・穂礼・暢子の8人で始めた。南野コーチは最初透子を入れようかと思ったものの、千里が入っていると透子にプレイ機会を充分与えられないので、むしろBチームに入れてシュートをどんどん撃たせるという選択をした。千里に何か事故でもあった場合は透子だけが頼りになる。
M高校は葛美が181cm, 橘花が182cm, N高校も留実子が180cm, 暢子が177cm, 揚羽が174cm とどちらも長身の選手が入っており、これにいつも合同練習に協力してもらっているマリアナさんにも1試合交代で双方のチームに入ってもらったので、空中戦が物凄いことになっていた。
夕食は初日は焼肉であったが、その後、すきやき、ジンギスカン、豚しゃぶと目先を変えて最終日も焼肉になった。朝は石狩鍋・チゲ鍋・もつ鍋・おでんと鍋で攻めて、お昼はカレー・シチュー・ハンバーグに唐揚げ、最後はまたカレーであった。要するに4日単位でローテーションしているようである。全てお代り自由なので、みんなよく食べていた。
千里もほんとによく食べているので、最近の変化を知らなかったM高校の伶子などが「千里がこんなに食べているとは」と驚いていた。
部屋はN高校で6部屋、M高校で5部屋と先生やコーチたちの部屋(男女)という15部屋占有で、この宿泊施設の7割を占有していた。(他にテニスの合宿に来ている高校女子たちが残りの部屋を使っていた)
千里は暢子・留実子・雪子・寿絵・夏恋と同じ部屋である。
「そういえば今月初めに東京に行って来たのは、何の用事だったの?」
と暢子から訊かれた。
「バスケ協会から呼び出されたんだよ。私が道大会でスリーポイント女王になったから、本当に男じゃなくて女なのか再確認って言われて、徹底的に検査された」
「面倒くさいね。男子の方に参加してたら、女じゃないかと疑われて、女子の方に参加していたら、男じゃないよなと疑われるなんて」
と寿絵が言う。
「で、男だと確認された?」
と暢子。
「まさか。女だと確認されたよ」
と千里。
「やはり千里、本当に女になってたんだ?」
「もちろん」
「いや、正直私も半信半疑だった部分がある」
と暢子は言っている。
「ちんちん、本当に無いの?」と寿絵。
「付いてないよ。何なら見せてあげようか?」と千里。
「見てみたい気がする」と暢子。
「じゃ、後で。完全に疑惑は消えたみたいだから。女子オリンピック代表にしてもいいとか言われたし」
「おっすごい」
「インターハイで優勝したらね」
「それは条件が厳しい」
お風呂は天然温泉だが、観光施設ではなく、あくまでスポーツ施設の付属施設なので特に色気のような物は無く、銭湯のような感じの単純な作りであった。宿泊者がせいぜい90人程度なので特に時間帯分けはせずに自由に好きな時に入ってということだった。
「何時まで入れるんだろう?」
「夜1時までだって。但しインハイに出る気があるなら22時就寝と南野コーチが言ってた」
「ああ。じゃ9時頃行こうか」
「誰かゲーム機持って来てないの?」
「みどりさんが見つかって没収されてた」
「まあ見つかるかもね」
「だけどこの合宿、昭ちゃんも連れて来たかったね。けっこう良いシュート撃つようになってきてるもん」
「それマジで南野さんと宇田先生、悩んだらしいけど、やはり男の子が居るといろいろ問題があるから断念したみたい」
「合宿に参加させる前に、性転換手術を受けさせるという手もあったが」
「冗談で南野さんそれを訊いたら、本人ほんとに悩んでるみたいだったので、ごめんごめんジョークと言っておいたらしい」
「ほほぉ」
「やはりホントに女の子になりたいのか」
「インハイから戻って来たら、また可愛い服を着せてあげよう」
「本人、かなり喜んでいるよね、あれ」
結局9時頃まで、お互いに足などをマッサージしあいながら、ダラダラとおしゃべりしていて、それから部屋の6人で一緒にお風呂に行った。脱衣場で、バッタリと橘花・葛美・友子の3人に会う。
「お疲れ〜」
「お疲れ〜」
「そちらは何時就寝?」
「10時」
「じゃ同じ時刻か」
「10時すぎても騒いでるの見つかったらインハイのベンチから外すと言われてる」
「ああ、それも同じだ」
千里が服を脱いでいると、M高組の視線が鋭い。N高組は先週の第一次合宿でも一緒にお風呂に入ったので、今更である。
「千里、やはりほんとに女の子だよね、これ」
と橘花はいきなり千里のお股に触って言う。
「ちょっと!タッチは無しで」
と千里。
「5月に札幌で話してた時は実はまだ手術してないと言ってたけど、これは間違い無く手術済みという気がする」
と橘花。
「うん。実はあの後手術したんだよ」
「ほほぉ」
「手術してから既に11ヶ月経ってる」
「あれからまだ2ヶ月だけど」
「うん。その2ヶ月の間に実は私は11ヶ月経っちゃったんだよね」
「意味が分からん」
「あまり人に言うなと言われた。頭がおかしいと思われるからって」
「それがいいと思う」
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女の子たちの水面下工作(5)