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■女子大生たちの秋祭典(8)

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ファミレスで結構御飯を食べた後解散するが、千里・麻依子・浩子に西原監督を入れた4人は東京に出て葛飾区にある大学病院を訪ねた。
 
「こんにちは〜、元気ですかぁ?」
などと麻依子が、病室で入院患者に尋ねるとは思えないセリフを言う。
 
しかし本人は
「元気ありあまってしょうがない。もうBOOK OFFの漫画まるごと読み尽くした感じだ」
などと言っている。
 
「でも入院期間、随分長くなりましたね」
「いや、車にはねられた時は『ああ、これで春の大会に出られない』と思ったんだけどね」
 
「春の大会だけじゃなくて、秋季選手権まで出られなかったね」
と浩子が言う。
 
「国香、まだ入院長引きそう?」
「うん。それが今月いっぱいで退院していいと許可が出た」
「良かったね!」
「リハビリに数ヶ月かかるだろうけどね」
「じゃ春くらいからは稼働できる?」
「うん。そのつもりで頑張る。でも仕事探さなきゃ」
 
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「今の会社は休職扱いじゃないの?」
「いや、健康保険の関係で籍を置いてもらっているだけだから、実質クビだと思っている。それに、私が配属されていた営業所、夏に閉鎖されちゃったし」
「あらぁ」
「だから書類の上ではあの営業所の職員、今は私ひとりなのよ」
「なんとまあ」
「所長さんだったりして」
「ペーパー所長かも」
 
「いっそ大学生になる?」
「今更受験勉強なんて無理」
「九九ができるなら合格する程度の大学はあるよ」
「ああ。私の知ってる子で、そういう大学受けて落とされた子がいる」
「まじ?」
「あの子、引き算の繰り下がりが分かってなかったから」
「よく高校に入れたね!」
「計算なんて電卓があるんだから出来なくてもいいとか豪語してたけどね」
「まあ特待生にはありがち」
 
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ん?と思って麻依子を見たら、麻依子もこちらを見た。
 
「それって、もしかして私や千里が知ってる人ですか?」
と麻依子が尋ねる。
 
「当時、私も含めて旭川の四大馬鹿女と言われたんだよ」
と言って国香は笑っている。
 
「あぁ」
「だいたい分かった」
と千里と麻依子は言った。
 
「うまい人?」
と浩子が訊く。
 
「まあバスケはうまいよね」
「あの人、どうしてるんでしたっけ?」
 
「こちらの大学に出てくるつもりでいたから。気持ちが押さえられなくなって結局東京に出て来たのよ」
「バスケしてないの?」
「なんかブラック企業っぽい所に入ってしまったらしくて、仕事が辛いと言ってる。とても練習までできないみたい」
「あらあら」
 
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「一度お茶にでも誘ってみようか」
「連絡先分かる?」
「ああ。連絡してみるよ」
 

「ふーん。作曲とか編曲について指導して欲しいという訳ね」
と雨宮先生は、秋月さん・大宅さん(紅ゆたか・紅さやか)の前で言った。
 
「はい、可能でしたらお願いできないかと」
「作品、何か見せてもらえる?」
 
それで大宅さんが譜面をひとつ差し出す。雨宮先生はしばらくスコアを見ていた。
 
「何でこれが売れないのさ?」
と雨宮先生。
 
「先生、チェリーツインを見たことあります?」
と千里が訊いたら
 
「知らん」
と言う。
 
それで大宅さんが、チェリーツインのライブ映像をパソコンで再生する。
 
「面白い」
とビデオを見て雨宮先生は言う。
 
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「後ろのふたりさ。こんなマスク付けて踊ってるんじゃなくて、もっと目立たなくすればいいのよ」
 
「えーーー!?」
 
「例えば電信柱にしちゃうとか、岩にしちゃうとか」
「あぁ・・・・」
 
「中途半端なんだよ。メインは前に立ってる2人だけと割り切る。あんたたちの演出って、ゴジラの中の人を映してるの。文楽なら人形遣いが堂々と裃着て立ってるけどさ。後ろの人は全部黒子(くろこ)の方がいいの」
 
「そうかも知れない」
 
「でもなんでこの2人、顔出してないの?」
「ちょっと身分が明かせない事情がありまして」
「だったら徹底的に隠したほうがいい」
 
「それ行ける気がしてきました」
 
「まあそれじゃ楽曲も修正しようか?」
 
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「あのお。もしよろしかったら、次のアルバムで出す曲を全部見て頂けたりしないでしょうか?」
 
「ああ。アルバムにするのね。タイトルは?」
「『秋祭典』で」
「もう秋も終わっちゃうじゃん」
「済みません。計画がずれこんでしまって」
 
「何曲のアルバム?」
「8曲のつもりなんですけど」
 
「少ない。10曲にしなさい」
「ではします」
 
「それ10曲まとめてプロデュース料込みで料金は8曲分の800万円でやってあげるからさ」
「はい」
「私の名前を出さないことが条件」
 
「それは構いませんが・・・・・」
 
「私の名前出したら、結局雨宮プロデュースということで売れるかも知れん。それより、あんたたち自身も売り込んだ方が、この後の戦略でいいからさ」
 
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「それは願ったりですが」
「じゃ来週までにその10曲の譜面、MIDI付きでちょうだい」
「はい。今すぐ用意している8曲はお渡しします。残り2曲は来週までに・・・」
「醍醐に送って」
「分かりました」
 
やれやれ。これは多分・・・・。
 

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「まあそういう訳でさ、千里」
と雨宮先生は秋月さんたちと別れてから近くのファミレスに入って千里に言った。
 
「これとこれとこれ。この3曲と、あの人たちが来週送ってくる2曲を、あんたの感覚で組み立て直して、私に送って。曲の構成自体を変えていい。場合によっては一部のモチーフを捨ててもいい」
 
「分かりました。それで先生の感覚で再度組み立てられるんですね?」
「この2人は、少々やっかいなセミプロなんだよ」
 
「私は素人ですけど」
「だからいいのさ」
と言って、雨宮先生は大きく両手を斜めに広げて伸びをした。
 
「素人は購買層と等身大で歌を見ることができる。プロはちゃんと購買層のことを考えて歌を作る」
 
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「セミプロは?」
「レコード会社とか、プロダクションしか見てないのさ」
と言って雨宮先生はコーヒーのお代わりをしに席を立った。
 

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千里はスコアを読んでみる。雨宮先生の言ったことを考えてみる。「どこを見て作っているのか」という話は千里には良く分からないが、そのスコアに千里は確かに違和感を感じた。何と言えばいいのか・・・ステーキと刺身を並べて盛ったようなというか!?
 
「先生、残りの5曲は誰か他の人に組み立て直させるんですか?」
「私の言う意味でのプロの子に見させる」
「へー」
 
「あんたより若い子だよ」
と雨宮先生が言うと、千里の顔が引き締まった。
 
「凄い子ですか?」
「うん。作曲家として5年くらいのキャリアを持っている」
「5年のキャリアがあるのに私より若いんですか!?」
「もっともプロ作曲家としてはまだ1年だな」
「それなら少しは納得できます」
 
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「4年間の下積みがあってプロとして開花したって感じだな」
「頑張っている子がいるんですね」
「千里も頑張れば一流のプロになれるよ」
 
千里は微笑んで答えた。
「私は永遠の素人ということで」
 
雨宮先生も微笑んで答える。
「あんたにはそれが似合ってるかも知れないね」
 

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「まあそういうわけでさ、ケイ」
と雨宮は冬子を居酒屋に呼び出して言った。雨宮先生は、まあビールでもと言ったが、拒否して冬子はコーラを飲んでいる。
 
「この5曲がなってないからさ、あんたの感覚でいったんモチーフにばらした上で、まともな楽曲として組み立て直してよ。あんた組み立てるのは得意でしょ?」
 
冬子はスコアを読みながら答える。
「これは、チェリーツインの曲ですか?」
 
「よく分かるね」
「伴奏の作り方が凄くそれっぽいです。彼女たちの曲でよく使用されているフレーズが・・・ここと、ここと、・・・・ここにあります」
 
「この曲をそのまま出したらどのくらい売れると思う?」
「そうですね・・・・3万枚かな」
 
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「あんた甘いよ」
「そうですか?」
「私は1万と見たね。実際、チェリーツインの曲はこれまで毎回その程度しか売れてない。福祉団体とかが買ってる分を除けばね」
 
「いつまでに作業すればいいですか?」
「来週の月曜まで」
「私、受験生なんですけど」
「どこ受けるんだっけ? 東大?」
「△△△ですが」
「医学部?」
「いえ。文学部です」
 
「なんでそんな所に行く」
「マリと同じ所に行きたいんです」
「マリちゃんの頭じゃ、それが限界か」
「まだB判定です」
 
「△△△なら、あんたの成績ならそもそも受験勉強の必要もないでしょ。来週までにやってよ」
 
「済みません。実は同じ事あちらからも言われて、来週の月曜までに5曲組み立てないといけなくて」
 
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「ああ、あの人か」
「すみません」
 
「じゃ来週の土曜日まででいいよ」
「うーん・・・・・」
 
「じゃよろしく」
「これ5曲のミニアルバムですか?」
「10曲のフルアルバム」
「残りの5曲は?」
「あんたと同い年の作曲家に頼んだ」
 
ケイの顔が引き締まった。
 
「どういう人ですか?」
「ふふ。嫉妬してる?」
「先生、その子にも私のことほのめかして、嫉妬心を煽ったでしょ?」
 
「なんで私の弟子はそういう方面に勘の良い子ばかりなのかねぇ」
「私、雨宮先生の弟子ではないですけど」
 
「向こうもあんたと同様に高校生の内に性転換手術受けたのよ」
「私、まだ性転換してないですけど」
「そういう嘘つくところもあの子と同じだなあ」
 
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「私、緋那さんとのことが決着つくまで、指輪は受け取れないと言ったつもりだけど」
と千里は貴司を前にして言った。
 
千里の前には青い指輪ケースが置かれている。
 
最近緋那は毎日朝御飯を作って朝6時頃、貴司のマンションのドアの所に掛けていくらしい(一応貴司は緋那を部屋には入れないようにしていると言っているが、マンションのドアの所まで来れるということはマンションのエントランスを通過できるということであり、貴司が合い鍵を渡しているということに他ならない。貴司は全く隠し事が下手である)。
 
「エンゲージリングは受け取れないと言うからさ。これはファッションリング」
と貴司は言う。
「ふーん」
 
「指のサイズは大丈夫だと思ったんだけど、念のため填めてみてくれない?」
 
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「まあ、ファッションリングなら」
と言って千里はケースを開ける。
 
美しいアクアマリンの石を載せた銀色のリングだ。千里はそのリングに触ってみる。
 
「これプラチナだ」
「うん」
「石も大きいし、高かったでしょ?」
「今月の給料飛んだかな」
 
「じゃ貴司が結婚するまで預かっておくよ」
と千里は言った。
 
「千里と結婚したい」
「私、男だから無理だよ」
「20歳になったらすぐ戸籍の性別は女に直すよね。直したらすぐ籍を入れない?千葉と大阪で遠距離夫婦でもいいじゃん」
 
「そうだね。それまで貴司が1度も浮気しなかったら考えてもいい」
と千里が言うと貴司の顔が緊張する。
 
その時、貴司の携帯が鳴ったが、貴司は何だか焦っている。
 
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着メロはAKB48の言い訳Maybeだ。
 
「取らなくていいの?」
「いや、その・・・・」
 
「**ちゃんとはどこまで行ったの? A?B?C?D?」
「セックスはしてないよ。って、何で名前知ってんの?」
「貴司、言い訳が下手すぎる。取り敢えず今の話はキャンセルになったみたいね」
 
その子の存在は千里が最初気付き、緋那が少し調べてくれた。共同で排除しようという協定が緋那と成立している。
 
「ごめーん。もう浮気しないから」
「全く信用できないな。でもこの指輪は預かるよ」
と言って、千里はその指輪を左手の薬指に填めた。
 
心が躍る気分だ。
 
「ね、明日の朝まで一緒に居られるよね?」
「いいよ。緋那さんの朝御飯、私が食べちゃおう。貴司にはホカ弁でも買ってこようかな」
「千里の朝御飯が食べたい」
「ふーん。たまには私の朝御飯も食べたい訳か」
 
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「そういじめないでよ。セックスもできるよね?」
「じゃ0.5回」
「0.5?」
「立たせる所まで手や口でしてあげるから、そのあとはセルフサービスで」
「それやだ。入れさせてよ」
「だって私、男の子なんだから、入れるような所無いし」
「またそういう嘘をつく!」
 
 
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女子大生たちの秋祭典(8)

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