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ティップオフは誠美が取り、浩子がドリブルで攻め上がる。気合いを入れて攻めて行く。左手奥に誠美、手前が千里、右手奥に麻依子、手前に来夢という配置になる。
しかし相手は関女の1部チームである。ただ本来のフルメンバーではないように思われた。だいたい試合の最初から川南が出ている!
川南は元チームメイトなら癖が分かるだろうしということで千里のマーカーを命じられたようであった。
でも私が川南に負ける訳ないじゃん!
それで浩子からパスが来ると、川南を全く問題にせず、抜きもせずそのままシュートする。3点こちらが先取してゲームは始まった。
向こうもポイントガードの木下さんがボールを運んで来て、シューティングガードの中西さんがボールを持って中に飛び込んで行き、こちらのディフェンスの注意を引きつけた所で三橋さんがローポストに侵入。パスを受けてシュート。入って2点。
こちらの攻撃。
見るからに、誠美と来夢が凄そうなオーラを持っているので、その2人には強そうな人が付いている。誠美に向こうのセンターの吉富さん、来夢に三橋さんが付き、千里には川南が付いている。麻依子に付いているのは雰囲気的にまだあまり経験がない感じの人。
それで浩子が麻依子にパスしてみる。マーカーを一瞬で振り切って中に進入し撃つ。吉富さんが来てブロックするが、リバウンドを誠美が確保してトス。相手がブロックする間もなく再度シュートして2点。
お互いに点を取り合う形でゲームは進行するが、シュートを外した時、リバウンドはこちらが高確率で確保できた。麻依子も176cmの身長がありジャンプ力もあるので手強いが、184cmの誠美は圧倒的な存在である。向こうのセンター吉富さんは170cm前後で千里より少し背が高いくらいである。身長差が13-14cmもあると勝負にならない。
そもそも普通の女子バスケットチームなら千里の身長でもセンターやってと言われる所なのだが、千里は中学高校ではチームメイトに留実子が居たし、ローキューツでも麻依子が居るので、千里はセンターというポジションを経験したことがない。
そういう訳で、序盤は点の取り合いにはなったものの、こちらはほとんど確実に入れるのに対して、向こうは必ずしも入らない。ということで点差がじわじわと開いていく。たまらず第1ピリオドの途中でタイムを取って選手交代。麻依子に付いていた人と川南が下がり、もう少し経験のありそうな人が出てくる。
しかし、千里も麻依子もそもそもマッチングに強いタイプである。ふたりともマッチングにほぼ全勝で、こちらの攻撃は全く停められず、相手の攻撃はほとんど停められる、ということで第1ピリオドの終わり頃になって、相手チームはローキューツで実は最も警戒しなければならないのは、千里と麻依子であることにやっと気付いた。
それで第2ピリオドは、どうもそれまで温存していた風の、福原さんという8番の背番号を付けている人が出てくる。この人が千里に付き、12番を付けた山口さんという人が麻依子に付いた。
しかし状況はそれほど変わらなかった。要するに簡単に抜くことができていたのが、少し手間を掛けて抜かなければならなくなった程度である。麻依子の方はそれでも山口さんに4割程度停められていたが、千里は7−8割勝利する。
結果的には第2ピリオドになっても、こちらが優勢な状態は変わらない。点差は更に開いていく。
第3ピリオド、マッチングの分が悪いのを見て、向こうはゾーンディフェンスに切り替えた。但し千里のスリーを警戒して、福原さんが千里に付き、残り4人でゾーンを敷く。
それでも浩子・麻依子・千里のコンビネーション・プレイに相手は結構翻弄される。それでマークが曖昧になったり、ゾーンにほころびができた所で着実に点をゲットしていく。この第3ピリオドの後半では、ずっと出ていて少し疲れて来たふうの来夢を休ませて夏美を入れたものの、夏美は短時間に集中して頑張り、マッチングではかなり負けるものの、負けても根性で相手を追いかけまた貼り付くということをして、何とかほころびにならずに持ちこたえてくれた。
結果的には第3ピリオドもこちらがわずかに優勢なまま推移する。
第4ピリオドは来夢が復帰するが、浩子の消耗が激しいので休ませて夢香を入れる。この場合、ポイントガードは千里が代行する。ゲームメイクに徹するので、必ずしもスリーを撃たなくなるが、それでも麻依子・来夢がしっかり得点してくれて、誠美は充分なスタミナでリバウンドをとりまくり、第4ピリオドもこちらがリードした状態で終えることができた。
結果的には92対74と大差を付けて勝利したものの、激戦感があった。一瞬たりとも気が抜けない相手だという感じだった。
整列して挨拶した後、千里は向こうの福原さんと握手した後、川南とも握手して「また、やろうね〜」と言っておいた。
そのK大学のメンバーが控室に引き上げた所で、三橋さんが川南に訊く。
「なんか無茶苦茶強いチームだったね」
「そうですね。千里はインターハイでスリーポイント女王取ったから」
「・・・・・」
「そんな話、聞いたっけ?」
「あれ? 私、言いませんでした?」
「ね。あの超背の高い子のことは何か知らない?」
「あの人は確かインターハイでリバウンド女王になった人ですよ」
「なに〜〜!?」
「もしかしてインターハイのベスト5だったりして」
と福原さんが苦笑しながら言う。
「でも溝口さんはインターハイには行ってないです。あそこ旭川ではトップチームで、そこの部長さんだったんですけど、うちがずっとインターハイに行ってたから、あの人が居た間はあそこのチーム、インターハイに行けなかったんですよ」
「インターハイに行けるか行けないかくらいのチームの部長か!」
「いや、マッチングではあの人がいちばん手強かった」
「ええ、あの人には千里も随分苦戦していたから」
「インターハイのベスト5になる子が苦戦する相手か!」
「くっそー。こんな相手に当たると知ってたら木鳥ちゃんや横道ちゃんたちにも来てもらわないといけなかったな」
と三橋さんは嘆くように言った。
一方のローキューツの控室。
「ごめん。寝る」
と言って麻依子は控室で下着の交換だけして寝てしまう。すぐ熟睡したので、茜が毛布を掛けてあげる。千里もスポーツドリンクを2L一気飲みした後、着替えて自分で毛布をかぶって寝た。
浩子・誠美も眠ってしまったらしく、途中で事務連絡があったりしたのは、夏美・夢香と西原監督が話し合って処理してくれたようである。来夢も軽食を取ってから一時間くらい寝たようである。
女子の準決勝2試合は隣り合うコートで9:00から10:10くらいまでの時間帯で行われた。その後、男子の準決勝が10:30-12:00に行われ、その後更に3時間の休憩を経て女子の決勝は15:00からであった。
浩子は途中で起きたようだが、千里・麻依子・誠美の3人はその直前まで、約4時間ひたすら寝ていた。
「あんたたちお昼はどうする?」
と夢香が訊くが
「要らない」
「さすがに今食べたら試合中に腹痛を起こす」
決勝戦の相手は初日に千里と麻依子が「格が違う」と言った教員チーム千女会である。準決勝でサザン・ウェイブスを100対18のクィンタプル・スコアで破って決勝に上がってきている。
こちらの試合と並行して見ていたという茜によれば準決勝では強そうな人がベンチに居たままだったらしいので、主力を温存しての勝利であろう。
「初日に逃げ出さなくて良かったね」
「でもかなり手強そう」
「こちらは午前中の試合の疲れがまだ取れてないからなあ」
などと言いながらも整列して挨拶する。
ティップオフはさすがに誠美が勝って、浩子がボールを確保して攻めて行くのだが、向こうは最初からプレス気味のマークをしている。油断すると即パスをカットされそうな雰囲気だ。
麻依子と千里が同時にマーカーの前からダッシュして一瞬フリーになる。麻依子に付いているマーカーの方が、くみしやすそうと見た浩子はそちらにパス。麻依子はパスを受けるとすぐにジャンプシュート。外れるものの、そこに誠美が飛び込んでリバウンドを取り、そのまま空中で高い所からゴールに叩き込む。
取り敢えずこちらが先制してゲームは始まった。
午前中に対戦したK大学も無茶苦茶強かったが、千女会のチームは強さの質が違うと千里は思った。
やはりスピードと瞬発力が物凄い。相手チームはほとんど体育の先生ではと思われたが、身体付きがいいし、身体能力自体が物凄く高い感じだ。
大学生チームの場合、正直、インターハイの上位のチームとそんなに差は感じなかったのだが、この決勝戦の相手は、まるで男子とやっているかのような手強さを感じた。体格の良い誠美が相手ディフェンスに吹き飛ばされる場面が最初の方は結構あった。すぐに誠美が戦闘モードになって気合いが入りまくり、簡単には吹き飛ばされなくなったものの、向こうは身長で負けても体力で対抗する感じでリバウンドはフィフティー・フィフティーになっていた。
相手のガードもブロックも強烈(巧いのではなく強い)で、千里も簡単にはスリーを撃てないし、撃ってもブロックされる。どうやら、準決勝の試合を試合に出ていないメンバーに撮影させて研究していた感じもあった。
ただ、向こうには卓越した選手は居ない雰囲気である。誰かを特に警戒しなければならないということはないのだが、ひとりひとりが強いので、言わば全員を警戒する必要がある。
それで第1ピリオドは、最初はこちらが先制したもののすぐ逆転されて22対16で終えた。
「強ぇ〜〜〜!」
と来夢がインターバルに言う。
「でもWリーグはもっと強いのでは?」
「いや、Wリーグの感覚を呼び起こされた」
「私もWリーグの試合に出ている気がした」
と誠美も言う。
「だけど今日は杉本さんが来てないよね?」
と夏美が言う。
「誰それ?」
「凄い体格のフォワードの人」
「柔道やってますと言っても信じられる。でもその体格なのに凄いスピードなんだよね」
「ほほぉ」
「ベストメンバーじゃないのかな?」
「あまり研究はしてないから分からないけど」
「学校の先生って、土日も休めないことあるから、出て来られなかったのかも」
「部活の顧問とかしてると、土日こそ試合があるもんね」
「いや、この人たちはみんな何かの部の顧問してると思う」
「まあベストでなければ、急造チームのうちでも何とかなるかもね」
「スピードとパワーが凄いから、男子チームとやってるつもりになった方がいいかも。このメンツはみんな男子チームとの練習試合なんて過去にたくさんやってるでしょ?」
メインの5人だけではなく、夏美・夢香も頷く。
「よし、男とやってるつもりでやろう」
「うん。そのくらいの気持ちでやらないと、この相手には勝てないよ」
それで気合いを入れ直して、第2ピリオド出て行く。
向こうもこちらをかなりの強豪とみて、選手のラインナップから少し調整してきたようだし、気合いが入りまくっていたが、こちらも気合いを入れていく。すると第1ピリオドほど相手の好きなようにはさせなくなる。
リバウンドも、誠美も麻依子も積極的に取りに行き、両者のコンビネーションでボールを確保したりする。千里もスリーにはこだわらずに相手の影響をできるだけ排除できた位置からシュートを撃ち込む。
それでこのピリオドは24対24の同点となった。前半合計で46対40である。
「でもさすがにみんな消耗してるね。大丈夫?」
と夢香がハーフタイムに訊く。
「私と千里はスタミナあるから平気。誠美ちゃんは?」
と麻依子。
「僕も大丈夫」
と誠美。
「あれ?誠美ちゃんってボク少女?」
「さっきまでは少し遠慮してたけど、ふだんのペースで行くことにする」
「誠美ちゃんの体格でボク少女は似合いすぎるけど」
「性別を疑われるから、あまり地は出したくなかったんだけどね」
「大丈夫だよ。私なんかも中学の頃、男子の同級生から、お前ちんちん付いてるだろ?と言われてたから」
と浩子。
「女子中に男が居ると言われてたよ」
と麻依子。
「私なんかほんとにちんちん付いてたから」
と千里。
「何か安心した。もう僕少女で行こう」
と誠美。
「よし、第3ピリオドは玉緒出て」
と浩子が言うと
「えーー!?」
と本人は驚いていた。