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■女子大生たちの路線変更(2)

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花火はかなり長時間続いていたので途中でトイレに行こうということになる。結構な人混みの中を何とか離れ離れにならないように気をつけて、何とか公園の公衆トイレの所まで来る。
 
それで朱音たちが女子トイレの方に行き、千里は男子トイレの方に行こうとしたのだが、友紀にキャッチされた。
 
「ちょっと待て」と友紀。
「なにか?」と千里。
「千里、どちらに入るつもりだ?」
「どっちって、男子トイレに」
「千里は女子トイレに入るべき」
「えー?なんで?」
 
「ふだんの男っぽい格好でもさ、千里男子トイレに入る度にトラブってるじゃん」
「うーん・・」
「今日みたいにユニセックスな服装だったら千里、男子トイレに行ったら『女は女トイレに行け』って向こうで言われちゃうよ」
と友紀。
「ああ、絶対言われるね。それか痴漢で捕まったりして」
と朱音。
 
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「千里、ふだんは女子トイレ使ってるでしょ?」と友紀。
「男子トイレ使ってるよー」と千里。
「それは絶対嘘だ」と友紀。
 
「香奈、千里がトイレの場所を訊いたら、香奈だったら、男子トイレの場所を教える?女子トイレの場所を教える?」
 
「迷うことなく女子トイレの場所を教えるね」
 
「じゃ千里は女子トイレで問題無し」と友紀。
「はい。千里一緒にトイレ行こうね」と朱音。
 
そういう訳で、千里は朱音たちに半ば拉致されるようにして女子トイレに入ったのであった。
 

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中の個室は8つもあるものの、花火開催中なので、トイレの中はかなりの列ができている。待つしかないので、おしゃべりしている。
 
「みんなバイトはどうしてる?」
「私はハンバーガー屋さんをやってたんだけど、お盆が終わった所で辞めた」
と朱音。
 
「なんで?」
「やっぱりけっこうきついんだよ。ずっと立ったままの仕事だし。店内狭いわりには結構歩くんだよね」
「ああ。全く休む時間無いよね」
「4時間のお仕事終えた時は丸1日働いたような気分。それにお仕事はどうしても昼間でしょ。私1学期はけっこう講義をさぼっちゃったけど、そんなんでは、まともに勉強できないと思うんだよね。だから当面奨学金だけで頑張ってみるよ」
と朱音は言う。
 
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「授業との競合はやばいよね」
 
「ボクも今月は塾の先生してたんだけど、夏休みだからできたけど2学期に入ったら無理だと思うんだよね。やはり昼間のバイトは辛い。といって夜間のバイトって、あまり無いしね。道路工事の作業みたいなのはボクには無理だし」
と千里は言う。
 
「ああ、千里ってスポーツマンのくせに腕力無い」
「いや土木作業とかに必要な筋肉と、スポーツで使う筋肉は全く別物だと思う」
 
「それに夜間フルに働いた後、昼間学校で講義をしっかり聴く自信無い」
「それは言えてるな」
「夜間フルに働いたら、昼間はフルに寝ている気がする」
 
「私も夜間のバイトしてたんだよ」
と香奈が言う。
 
「何してたの?」
「ファミレス」
「あぁ!」
 
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「24時間営業の店舗の夜間スタッフやってたんだよ。これって道路工事よりは楽だと思う。昼間より少ない人数でやるから、忙しい時間帯は息つく間もないくらいに忙しいけど、客の少ない時間帯はけっこう休めるんだよね。今のファミレスってだいたいボタン押してもらって鳴ったらお客様の所に行けばいいから、鳴るまでは休んでられるのよね。でもそれでも私にはきつかったから私もお盆までで辞めちゃったんだけどね」
と香奈。
 
「千里、夜のバイトするなら、道路工事よりファミレスの方がいいかも」
 
「ボクも思った!」
 

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そのあたりで個室が空いたので、話は中断し、各々中に入る。それで出てきてから手を洗い、外に出てまたおしゃべりは再開する。
 
「だけど千里は女子トイレで全然問題無いということが判明したな」
「えー?恥ずかしかったよぉ」
 
「・・・・」
「千里が女子トイレの中で恥ずかしがっているように見えた人?」
 
誰も手をあげない。
 
「千里はふつうに女子トイレの行列に慣れている感じがした」
「同感」
 
「そうだ。千里、夜のバイトといえばさ」と朱音が言う。
「夜のバイトといえば?」
「千里なら、オカマバーとかに勤めると凄い人気になるかも」
「いやだぁ!」
 
「いや、千里の場合はオカマバーに勤めるとさ」と友紀が言う。
「うん?」
「あんた女でしょ? と言われてオカマさんであることを信じてもらえない」
「ありそう!」
 
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「うむむむ」
 

 
9月5日(土)。バスケットの関東選抜大会が前橋市で開かれた。
 
出場チームは東京・神奈川・埼玉・千葉・茨城・栃木・群馬・山梨の8都県から2チームずつの16チームである。ただし多くの都県では冬の都県大会で3〜4位になったチームが出場している。千葉の場合は1〜2位のチームを除いたチームで予選をやって出場チームを決定している。1〜2位のチームが出場する「関東選手権」に対して、この大会はトップに準じるチームが出場するということで「裏関」とも呼ばれている。
 
大会は2日掛けて行われ、1回戦・2回戦が今日で、明日準決勝・決勝というスケジュールになっている。
 
「まあトップになれなかったチームが出てくる大会ではあるけどさ、うちみたいな伸び盛りのチームも出てくるから、あなどれないよ。1月に3位だったからと言って今も3位の実力とは限らない」
と麻依子は言う。
 
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「うん。気を引き締めて行こう」
と千里も言った。
 

1回戦の相手は山梨2位のチームであった。ローキューツは千葉選抜大会で1位になっているので、初戦は他県の2位のチームとの組合せである。
 
「裏関」とはいっても、やはりさすがは関東大会である。7月のクラブ大会、8月のオープン大会とはレベルの違いを感じる。そこそこ強いチームが集まっている感じであった。
 
しかし監督は1回戦では千里と麻依子は温存しようと言った。PG.浩子、SG.美佐恵 C.夢香 SF.夏美 PF.菜香子 というスターティングファイブで出る。大学1年生の菜香子以外は千葉選抜で優勝した時のメンツである(当時もう1人いた人は辞めたらしい)。
 
試合はシーソーゲームにはなったものの、ここ2ヶ月ほどで千里や麻依子に刺激されて力を付けてきた浩子が得点の半分を取る活躍で、最後は10点差で勝利した。
 
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2回戦は埼玉のチームであった。今度は千里と麻依子が先発する。どうも初戦を偵察していたようで、1回戦で30点取った浩子に、いちばん強そうな感じの人が付いたものの、こちらは千里と麻依子のラインでどんどん得点する。千里からのパスで麻依子が近くからシュートしたり、あるいは千里がスリーを放りこむ。慌ててマッチアップを変更してくるが、千里や麻依子に1on1で勝つのは難しい。どんどん点差が開いていき、30点以上の点差で勝利した。
 

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試合は2日目に入る。
 
準決勝の相手は先月のシェルカップでも対戦した東京の江戸娘である。前回対戦した時はこちらには玲央美もいたが、今日は彼女無しで戦う必要がある。麻依子は先月対戦した時に感じた相手メンバーの癖や役割分担などをみんなに説明し、マッチアップの担当を決めた。
 
このチームはキャプテンは浩子なのだが、やはり麻依子がみんなの精神的支柱になっている面が大きい。
 
実際試合が始まると、向こうも前回の試合の時の状況を元にマークする相手を決めてきた感じである。千里には向こうのセンターの人が付く。この人は恐らく全国大会で結構上まで行った人だと思った。先月の千里なら、かなり封じられていたかも知れない。
 
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しかしこの時期の千里は性転換手術後の療養期間が終わり、日々物凄いトレーニングをしていたので(肉体時間では高2のインターハイ予選に出る直前くらいの身体である)、7月のクラブ大会の千里と8月のシェルカップも全然違っていたが、8月と今の千里もまるで違っていた。
 
相手のマークをスピードと瞬発力で振り切ったり、あるいは相手の一瞬の意識の隙に目の前から姿を消してはパスを受け、どんどんスリーを放り込んだ。
 
途中まではけっこう競ったのだが、最終的には15点差で勝利した。
 
「そちら8月の時より強くなってる。今度は関東総合か関東選手権で会いましょう」
と向こうのキャプテンが言ってきた。
 
「ええ。私たちもそちらに行きたいです」
と浩子も笑顔で応じていた。
 
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関東総合に出るには県大会1位、関東選手権でも1−2位にならなければならない。
 

そして決勝戦に臨む。
 
相手は神奈川県のチームだが、実質実業団チームという感じであった。かなり強い。向こうはこちらの「穴」が夏美・夢香の所というのをすぐに見破ってしまう。千里・麻依子・浩子とは敢えて勝負しないで、弱い所から攻めて来る。それで第1ピリオドで24対12と大差を付けられる。
 
インターバルの間に話し合う。
 
「ゾーンで守ろうか」と千里は提案した。
「うん。私もそれ考えた。左側が千里、右側が私、トップが浩子。トライアングル2。夏美は向こうの4番、夢香は7番について。振り切られてもいいから付かれるだけでかなり動きは鈍くなるはず」
と麻依子が担当を決める。
 
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それでやると、今度は向こうはさすがになかなか中まで進入してこられなくなる。攻めあぐねてスリーを撃つものの、そう簡単には入らないので麻依子がリバウンドを取って、浩子と千里の2人でパスしながら相手コートに進む。そこで相手がまだ戻ってきていなければ千里がスリーを撃ち、戻って来ている場合は麻依子が追いついてくるのを待って、進入していくパターンを使う。
 
これであっという間に挽回し、第2ピリオドが終わった所で36対34と2点差に詰め寄る。
 
「君たち凄いね。ゾーンなんてたくさん練習してないとうまく行かないのに今担当を決めて今ちゃんと運用できた」
と監督は感心したように言った。
 
「まあ高校時代にはたくさんゾーン練習してるし」と千里。
「右に同じ」と麻依子。
「私、高校の時はゾーンしてないけど中学の時の監督がゾーンが好きでやってたんですよ」と浩子。
 
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後半は相手はやはり千里のスリーを警戒して、必ず1人は速く戻るように気をつけるようになった。第3ピリオドはシーソーゲームとなって50対52とこちらが2点リードした状態で終わる。
 
そして最後の第4ピリオドになるが、ここで明らかに相手側の動きが鈍くなってきた。おそらくずっと全力で戦っていて、疲れてきたのであろう。そうなると、千里・麻依子のようにスタミナのある選手のいるこちらが有利である。
 
相手のシュートの精度が落ちる中、千里も麻依子も正確にゴールを奪っていく。このピリオドではリバウンドは夢香に任せて麻依子は攻撃主体でプレイした。それで結局この最後のピリオドで相手を引き離し、最終的には62対76で勝利し、優勝を手にした。
 
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「まあ各都府県3〜4位の戦いではあるけど、優勝は嬉しいね」
「全国に行ける大会で優勝したい所だ」
 
「そういう訳で次は9月19日のクラブ選手権だから」
「これで1〜2位になったら関東クラブ選手権。それで6位以内に入れば全日本クラブ選手権。今回は福島」
「おっ、凄い」
「もうひとつ10月31日には秋季選手権大会というのがあるから」
「これで優勝すると11月の関東総合選手権に出られて、それで優勝すると、お正月の皇后杯(オールジャパン)に出られる」
「わっ、皇后杯って名前が凄い」
 
「クラブ選手権はクラブチームだけだけど、総合選手権・皇后杯は教員チームとか大学生チームも出てくる。まあどっちみちトップの方はハイレベル」
 
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「行けたらいいね」
「やはりトレーニングだね」
「でもあまり辛いのは楽しくない」
「そのあたりは微妙な線だね」
 

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