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■女子大生たちの縁結び(4)

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千里がかなり感じているふうなので彼はおそるおそる手を下の方に手を伸ばしてきた。何かを探している感じ。
 
「・・・千里ちゃん、おちんちんどこ?」
「え?無いけど」
「えーー? なんで?」
「なんでと言われても・・・」
「性転換手術しちゃったの?」
「うん」
「うっそー!? そこまでしてる人がなぜ大学に男の格好で出てくる?」
「うーん。なりゆきというか」
「ふだん、女の子の格好で出歩いているんでしょ?」
「うん」
「だったら、大学にもそういう格好で出てくればいいのに」
「だよねー」
 
「でもごめん、僕、おちんちんのない子には性欲が湧かない」
「えーーー!?」
 

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結局、ベッドから出て服を着てお茶を飲む。紙屋君は千里の裸体を見て
 
「すごくきれい。僕がふつうの男の子なら、その場でやっちゃいたくなっていたと思う」
と言ってくれた。
 
「ごめんねー。私が女の子の身体だって言ってなくて」
「ううん。でも千里ちゃん、ふつうに女の子の格好で大学に来てれば、きっとデートに誘う男の子がいると思うよ」
 
「そうだなあ。それもちょっと面倒くさいけど」
「・・・もしかして、好きな男の子いるの?」
「好きなのかなあ。自分でも分からなくなることある。とりあえずこないだ、私振られたんだよ。恋人できたと言われて」
 
「でもまだ諦めてないんでしょ?」
「かも知れない」
「だったら頑張ればいい。彼が結婚しちゃうまでは挽回のチャンスはあるよ」
「そうだよねー」
 
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「でもこうしていると、千里ちゃんって元男の子だったというのが信じられないくらいに可愛い」
 
「ありがとう。清紀君って、私みたいな子で、まだおちんちんが付いてる子がいいんだ?」
「うん。最悪タマは取っていてもいいけど、おちんちんは無いと萎えちゃう」
「でもそういう子はわりと居ると思うよ。性転換手術ってハードル高いもん。去勢までしてその先に行けずにいる子多いから、また探すといいよ」
 
「そうだね。ねえ、僕、千里ちゃんと恋人にはなれないけど、お友だちということでいい?」
「うん。いいよ」
 
それで彼とはまた握手した。
 
そしてその時、結局紙屋君とはキスもしなかったなというのを千里は認識した。
 

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6月26日・金曜日・友引。千里の従姉、吉子が大阪の茨木市内のホテルで結婚式を挙げた。千里はこの結婚式に、両親の代理込みで出席するのに大学の講義は欠席して、前日の夜から自分の車で大阪に移動した。途中のSA/PAで時間調整し朝の通勤ラッシュが終わったあたりで下道に降り、《前回》来た時も駐めた駐車場に駐め電車で茨木に移動する。
 
会場になっているホテルに入って行くと、まだ普段着状態の愛子が居た。手を振って近づいて行く。
 
「おはよう!」
「おはよう!」
と声を交わす。
 
「今日は長い髪で来たんだ?」
「うん。まだ自毛は充分伸びてないんだよ。だから普段でもショートヘアのウィッグ使ってる」
「なるほど」
「服によって髪のセットが必要なら、どこか近くの美容室に行ってくるけど」
「いや、その髪はそのままで大丈夫だと思う。でもこのウィッグ良くメンテされてるみたい。枝毛とかが無いよね」
と言って愛子は千里の髪に触る。
 
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「うん。そのあたりはちゃんとやってる」
 
「でもこの服、可愛いね」
「2次会はこの服で出るよ」
 
千里はバラの模様のオレンジ系のワンピースを着てここに来ていた。結構お気に入りの品である。朝、桂川PAで着替えてきた。
 
「ちゃんと女の子してきたから安心した。ちょっとゴシックっぽいかな」
「そそ。これヴィクトリアン・メイデン」
「へー」
「高校時代に東京に出て来た時に人に乗せられて買っちゃったんだけど、あまり着ていく機会が無くってさ」
「確かに高校生には少しおしゃれすぎるかもね」
 
「あ。これ御祝儀ね」
と言って、千里は母と父の連名の祝儀袋と自分の名前の祝儀袋の2つを渡す。
 
「なんか重たいんですけど」
「バイトの給料が入ったばかりで懐が温かいんだよ」
「もしかして御両親の分も千里ちゃんが出したの?」
「まあね。うちお金無いから」
「でも大丈夫?」
「平気平気。今回ちょうど色付けてもらったからたくさんあったんだよ」
「じゃ遠慮無くもらっておくね。あとで交通費渡すね」
「さんきゅ。何か手伝えることあったら手伝うけど」
「それはいくつか頼みたいことがある。千里ちゃんは遠慮無く使えるから」
「うん。遠慮無くこき使って」
 
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「千里ちゃん運転免許持ってたっけ?」
「春に取ったよ。まだ若葉だけどね。今練習で週に4日くらい乗ってるよ」
「それだけ練習してたら凄い。車買ったの?」
「うん。中古で安いやつだけどね」
「どこか遠出とかした?」
「直江津と会津若松まで往復やったのと、大阪往復も今日が5回目」
 
「もしかして車で来たの?」
「うん」
「すごーい! だったらかなり距離数乗ってるでしょ?」
「4月からの3ヶ月間で8000kmくらい」
「そのくらい運転してるなら、車も頼めるな」
「車は豊中市に置いてきちゃったけど、必要なら取ってくるけど」
「あ、大丈夫。車は姉貴のヴィッツを使ってもらえばいいんだけど、ドライバーが居ると助かるのよ」
 
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「さすがに花嫁さんには運転させられないよね」
「うん。ヴィッツをこちらに持ってくるのも、お父ちゃんが運転してきたんだ。姉貴は街乗り専門だったみたいだから」
「ああ、しばしば自分の町から出たことないドライバーとかいるし」
「そうそう。姉貴はまさにそれだったみたい」
 

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千里はそれで細々とした荷物を運んだり、駅から会場まで何人か人を運んだりした他、受付に立ったりもした。
 
「千里って美人だし、人あたりが軟らかいから受付にはピッタリ」
などと愛子から言われた。
 
「でも受付に居たら愛子ちゃんと随分間違われた」
「それも便利だな」
「取り敢えず男の子と思った人は居ないみたい」
「それは有り得ない」
 
少し遅めのお昼を愛子と一緒にホテルのレストランで取った後、レンタルしてもらっていたイブニングドレスに着替える。昼の間はこれにショールを掛けておく。
 
そのくらいの時間になってやっと吉子本人と母の優芽子に会う。式当日の花嫁さんは無茶苦茶忙しいのである。
 
「吉子さん、きれーい」
と言って写真も撮らせてもらう。本人1人だけの所、母と並んだ所、愛子と並んだ所と持参のコンデジで撮影する。愛子・千里と並んでいる所も優芽子が撮ってくれた。
 
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「でもこの衣装なかなか大変。妊娠中だから、緩めにはしてもらっているけど」
と吉子。
 
「まだ妊娠してるってのは分からないですね」
「今4ヶ月だから、ぎりぎりかな。この後は急速に大きくなってくるはず」
「なるほどー」
 
「結婚式を挙げるタイミングとしてもぎりぎりだよね」
と愛子も言う。
 
「でも千里ちゃん、美人になってる〜」
と優芽子は嬉しそうに言う。愛子とはよく会っていたし、吉子とも高校時代何度か会ったものの、優芽子と会うのは5年ぶりであろうか。
 
「ご無沙汰しておりまして」
「ますます女らしくなってきている感じ。でも愛子と千里が並んでると双子みたい」
などと優芽子は言っていた。
「顔の作りがほんとに似てるよね」
と吉子。
 
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「鬼も十八・番茶も出端です」と千里。
「あら、鬼ってこと無いわよ」と優芽子。
「それか、おにいさんだったりして」と千里。
「千里は間違いなく、おねえさん」と愛子。
「えへへ。玲羅は私が高1の頃以来、お姉ちゃんって呼んでくれてる」
「うんうん。それでいいはず」
 
そんな会話をかなりしてから花嫁の父(優芽子の夫)政人が
「あれ?もしかして千里ちゃんなの?」
などと言う。
 
「はい、そうです」
「全然気付かなかった! 全然女装してる男の子には見えない」
 
「千里は男の子の服を着せても、男装している女の子にしか見えない。一度男子制服を着た千里を見たことあるけど、お兄さんの服でも借りて着たの?って感じだったよ」
と吉子。
 
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「万一男装でここに来ていたら、取り押さえて無理矢理脱がして女の子の服を着せようと思ってたけど、自主的に女の子の服で来たから手間が省けたね」
と愛子。
 

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15時前に美輪子(新婦の叔母)、それに清彦・滝子(新婦の伯父夫妻)が到着する。
 
「おお、千里はやはりこちらの衣装だな」
と美輪子から言われる。
 
「おばちゃん、ご無沙汰ー」
と言って千里は美輪子とハグする。
 
滝子も
「すっかり美人さんになって」
と言うが、清彦は
「え?千里ちゃんなの? どうしちゃったの?」
などと言っている。
 
「千里は前からこんなものだよ、兄ちゃん」
と美輪子は笑顔で言う。
 
「千里は小学生の頃に性転換したんだよ」
などと愛子が言うと
 
「えー?そうだったんだ!?」
と本気で信じているっぽい。
 
後で母が聞いたらショック受けないだろうかと千里は少し心配した。
 

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18時からホテル内の神殿で神式の結婚式が行われた。こちらの親族は優芽子・政人・愛子、清彦・滝子、千里、美輪子と7人、それに優芽子の親友の女性2人、優芽子が勤めていた会社の上司の部長さん。向こうは新郎の御両親、妹さん、伯父夫婦、父方の祖母・母方の祖父母と8人に、新郎の上司2人であった。
 
なお、優芽子の両親(千里の祖父母)・政人の両親は4人とも健在ではあるが高齢で長旅は辛いだろうということで今回の結婚式には出席していない。新婚旅行が終わった後で、夫婦で札幌に行って挨拶してくる予定である。
 
結婚式は巫女としてなら中学高校時代に何度も出ているが、出席者として出るのは初めてだ。
 
新郎と媒酌人に親族、新婦と媒酌令夫人に親族が各々巫女に先導されて入場する。新郎新婦が祭壇の前に座り、その後ろに媒酌人夫妻が座り、親族も各々の席に着席する。ホテル内の神殿なので結構狭い。
 
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斎主が入場するのを待っていた時、後ろで《きーちゃん》が言う。
『千里、銚子(ちょうし)と提子(ひさげ)の蝶が違う』
『ああ。逆に付けられてるね』
 
本物の神社では絶対に有り得ない間違いだが、ホテルとか結婚式場の神殿では時々うっかり逆に取り付けられていることがあるというのは聞いたことがあったが、まさか従姉の結婚式で間違いがあるとは。しかしどうやって注意する?
 
千里は突然うずくまる。
 
「千里、どうしたの?」
と隣にいる美輪子が声を掛けたが、新婦側担当の巫女さんも寄って来た。
 
「お具合が悪いですか?」
そう尋ねた巫女さんの耳元近くで千里は
「銚子と提子の雄蝶・雌蝶の飾りが逆です」
と小さな声でささやいた。
「え?」
と驚いたように巫女さんも小さな声で言う。
 
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千里は何事も無かったかのように、すっくと立ち直った。巫女さんは祭壇前に戻るが新郎側担当の巫女さんに小声で話している。三三九度用の銚子と提子を見ているが、どうもそちらの巫女さんも不確かなようだ。
 
やがて60歳くらいの斎主さんが入場してくるが、巫女さんが小声でささやく。すると斎主さんは顔色ひとつ変えずに、それがまるで式次の一部でもあるかのように、銚子に付けられていた雄蝶の飾りと提子に取り付けられていた雌蝶の飾りを外し、交換して正しく取り付けた。
 
そして式が始まった。
 

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斎主さんが新郎新婦に祓串を振ってお祓いし、それから祝詞が読み上げらる。三三九度が行われるが、新婦は妊娠中なので飲む振りだけをする。しかし何といってもこれが結婚式のいちばんの見せ場である。
 
ふたりの巫女が銚子と提子を持ち、斎主が大中小の杯を重ねたものを持って、新郎新婦の前に出る。提子を持つ巫女がもうひとりの巫女が持つ銚子にお酒を注ぐ。神職が小の杯を新郎に渡す。銚子を持つ巫女がそこに三度に分けて酒を注ぐ。新郎が3度に分けて飲み干す。杯をいったん神職に返し、神職はその杯を新婦に渡す。銚子を持つ巫女が三度に分けてお酒を注ぐ。新婦が飲む振りだけする。いったん杯を神職に返すがお酒は入ったままである。ここに銚子を持つ巫女が更に3度に分けて酒を注ぐ。これを新郎は3度に分けて飲み干す。
 
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中の杯は新婦→新郎→新婦となるので最後に新婦に渡す時は注ぐ振りだけして実際には注がない。最後に大の杯で新郎→新婦→新郎とリレーされる。結局、新婦が飲まないので、新郎は実質ひとりで2人分飲むことになる。
 
三三九度の後は、新郎新婦が一緒に誓いの言葉を読み上げ、玉串の奉納をした上で指輪の交換をする。指輪を付けたところで清彦・愛子・千里に、向こうの妹さんと伯父さんも写真撮影をした。
 
その後、巫女さんによる神楽舞が奉納される。この付近の玉串奉納・指輪交換・神楽舞の順序はけっこう神社によって異なるようだ。留萌と旭川のQ神社は指輪交換の後で玉串奉納だったが千葉のL神社は今回と同様、玉串奉納の後で指輪交換になっている。
 
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その後親族の固めの杯である。千里は美輪子から未成年なんだから飲む振りだけにしておけと言われたので、口だけ付けて飲まなかった。
 
最後に斎主からお祝いの言葉があり、それで退場となった。
 
 
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