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■女子大生たちの妊娠騒動(4)

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千里は、なりゆきで男装して通学し始めてしまったので、大学構内でのトイレの使用については少し悩んだ上で、こんな感じで利用することにした。
 
基本的にはできるだけ理学部のトイレには行かない!
 
千里は自転車通学で、キャンパスより北側の地区から来るので北門から入り、そのまま理学部の駐輪場に駐めればよいのだが、朝はわざわざ南側の正門にまわり、工学部でトイレを借りてから理学部に移動する。
 
理学部も女子は少ないが工学部は更に少ないので、工学部の女子トイレはたいてい空いているのであまり人と顔を合わせずに用が達せる。
 
それでどうしても理学部に居る間にトイレに行く場合は、できるだけ多目的トイレに入るようにしていた。
 
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しかし多目的トイレというのはしばしば塞がっていたりする。そういう時は意を決して男子トイレの使用を敢行した。千里が男子トイレを使うのは中学の時以来、3年ぶりであった。
 
しかし千里が男子トイレを使うと、当然のようにトラブルも発生する。
 
千里がトイレに入って来たのを見て
「ちょっとちょっとこちら男子トイレ」
と言われたことも何度かあった(素直に出て行って他の階のトイレを探した)。
 
「わっ、びっくりした! なんだ村山君か」
と言われたこともあった。
 
たまたまそんな感じで一応受け入れられたものの、個室がふさがっていると、千里は立っておしっこすることができないので個室が空くまで待つしか無い。
 
「あれ?大?」
「うん」
と言って待っていたが、このケースは結構長時間待つことになる。待つのは女子トイレの行列でさんざん鍛えているから割と平気なのだが、その間、入って来た他の男子たちから「わっ、びっくりした」と毎回言われるハメになっていた。
 
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しかし千里が男子トイレに入っても、いつも個室を使っているということには男子のクラスメイトが次第に気付き出す。そしてその話は噂として広がり、女子のクラスメイトにも伝わってくる。
 
それである日の女子会で訊かれてしまう。(この日は桃香は来ていなかった)
 
「ね、ね、千里さ。男子から聞いたけど、千里が立っておしっこしているのを見たことが無いって」
「え?してることもあるけど、たまたま見られていないのでは?」
 
「いや、これは数人の男子から聞いた話だから、千里がホントに立っておしっこしているのなら、誰か見ているはず」
 
「そ、そうかな? あ、でもボク個室でする方が好きではあるけど。ちょっとボーっとしていられるから」
 
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「確かに小便器の前でぼーっとしていたら変だ」
 
そんなことを言っていたら美緒が
「ね、千里、実はおちんちんが無いから立ってできないとか」
「あるよ〜」
 
「いや、千里におちんちんが無いと言われても驚かない」
と玲奈が言う。
 
「というか千里は『ごめん。私本当は女なの』とか告白しても驚かないな」
と朱音。
 
「まさかぁ」
 
「千里、いっそ女子トイレに来ない?」
などと友紀が言い出す。
 
「ボクが女子トイレに侵入したら痴漢で捕まるよ」
「いや。そんなことはない」
「千里が女子トイレに居ても多分誰も不自然に感じない」
とみんなの意見。
 
「女子トイレなら個室いくつもあるから、のんびりできるよ」
「ってかのんびりしてる子多いよね」
「私も中でメールチェックしてたりするし」
「ついつい彼氏とチャットしちゃったりするし」
「こないだ私、トイレの中で朝御飯におにぎり食べた」
「おにぎり食べるのはトイレはやめといた方がいい」
 
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「じゃ何かの間違いで性転換でもしちゃったら女子トイレ使うよ」
と千里は言ったのだが、
 
「あぁ、やはり性転換したいんだ?」
などと言われる。
 
「別にしたくないよー」
 
「千里、性転換したら可愛い女の子になりそうだけどなあ」
「ってか既に可愛い女の子である気もする」
「もしかして既に性転換済みだったりして」
「うんうん。だから男子トイレで立ってはできないんだったりして」
 
と話はお約束な感じで暴走する。
 
「ちんちんは付いてるけどなあ」
「私たちには隠さなくてもいいからね」
「内緒にしといてあげるよ」
 
むろん女子の友人の前で「内緒に」と言ったことは、概ね高速に友人間で噂として伝わっていくことになる。
 
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「ほんとにどこかに拉致して裸にして調べたいなあ」
「あはは」
「でもどっちみち、近い内に裸になるよね?」
「ん?」
「来週は健康診断だよ」
「あぁ」
「でもちんちんまでは調べられないのでは?」
「いや千里が女の子なら上半身裸になっただけでもお医者さんには分かるはず」
「ふむふむ」
 
「でも昔の徴兵検査とか、ちんちんまで見せないといけなかったらしいね」
「そんなの見せてどうすんの?」
「確かに男だという確認?」
「むしろ性病とかに罹ってないかのチェックだと思う」
「なるほどー」
「ちんちんが無いのに徴兵検査受けに行く人は無かったんじゃないかなー」
「そういう人は女の格好してるから、だいたい入口で帰れと言われたらしい」
「千里も入口で帰れと言われるタイプだな」
「女装してなくても帰れと言われるよね、多分」
「ありそう、ありそう」
 
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金曜日のお昼頃、貴司から電話があったので取ると
「今日の午後、時間ある?」
と言われる。
 
「夕方からバイトなんだよね。でも午後の講義が休みになったから今自宅に戻っている最中。どこに居るの?」
「いや、会社の仕事で成田に来たんだよ。今その仕事が終わったんだけど、夕方までに大阪に戻ればいいから、1-2時間会えないかなと思って」
 
「じゃ、千葉市内のどこかで御飯でも食べる?」
「あ、いや。自宅に戻る最中なら、千里んちに行ってもいい?」
「いいよ」
 
貴司は実業団のバスケット選手であるが、実業団の選手というのは社員でもあるので昼間は普通のお仕事をしている。その関係で出張があったのだろう。
 
それで自宅で待っていると、1時頃、貴司はやってきた。
 
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「何時に帰るの?」
「19時からの練習に出ないといけないから羽田を17時の飛行機に乗りたいんだよね。だから16時くらいまでに羽田に行かないといけない。だから1時間くらいしか時間が取れないと思うんだけど」
 
「だったら私が羽田まで車で送って行くよ。15時に出れば間に合うはず」
「じゃ2時間取れるね!」
 

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まだお昼を食べていないということだったので、昨日の残りだけどと言ってシチューを温めると美味しい美味しいと言って食べてくれる。束の間の奥さん気分になれる時間だ。
 
食事が終わった後、何となく誘い合って、お布団の中で少し気持ちいいことをする。貴司は逝ったまま眠ってしまった。その寝顔に千里はそっとキスをした。
 
彼に恋人が居ない間はこんなことしてもいいかな、と千里は思う。ただ、そんな時間がそう長くはないだろうというのも千里は考えていた。このセックスがもしかしたら最後のセックスになる可能性もある。一期一会という言葉を千里は改めて噛み締めていた。
 
14時半近くになるので貴司を起こす。
 
「シャワーでも浴びてくるといいよ」
「うん。その前にトイレ行ってこよう」
と言って貴司はトイレに行く。
 
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そして出て来てから言う。
「今気付いたんだけど、千里、トイレに汚物入れがあるんだね」
「女の子が住んでいる家のトイレにはあって当然」
「ふと棚を見たらナプキンも置いてある」
「女の子が住んでいる家のトイレにはあって当然」
 
「千里、やっぱり生理あるんだっけ?」
「セックスする時はちゃんと避妊してよね」
「そりゃするけどさ!」
 

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貴司がシャワーを浴びている間にタンスに入っている貴司の下着とワイシャツを出しておく。貴司は「ありがとう」と言って、それに着替え、一緒に駐車場に行った。
 
「あれ?時間貸し駐車場?」
「うん。この車の本来の駐車場は都内にあるんだよね」
「なんで?」
「なんでだろうね。私もよく分からない。でも今日は必要になる気がしたから昨夜こちらに持って来てたんだよ」
「千里って、昔からそれがあったね。必要なものが前もって分かってるんだ」
 
それは《たいちゃん》が千里に教えてくれるからである。
 
インプレッサの運転席に千里、助手席に貴司が乗って車はスタートする。東関東自動車道から首都高湾岸線に進み、東京湾に沿って車は走る。初めてここを通った時は、宮野木JCTで行き先の表示を読み違ってうっかり京葉道路の入口に入ってしまい、料金所の職員さんにリカバーの仕方を尋ねたりしたものだが、一度失敗すれば、次からは大丈夫である。
 
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「千里だいぶ上手くなってる」
「ここの所毎晩夜中に走らせて練習してたから」
「えらーい。練習嫌いな千里にしては上出来」
「えへへ。褒めて褒めて」
「うん。この調子で頑張れ」
と言って貴司は千里の頭を《よしよし》してくれた。
 
首都高は渋滞が始まる前の時間帯だったので、無事16時前に羽田空港ターミナルビル前に到着した。
 
「ありがとう」
「じゃ、また」
 
と言いあって貴司は千里の唇にキスして車を降りていった。千里は次に彼とキスするのは何ヶ月後だろうなぁ、とふと思ってしまってから、何故今自分がそういうことを考えたのだろうと再度思って顔をしかめた。
 

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翌週の月曜日は健康診断であった。学生課の掲示板に「新入生健康診断」と書かれており、場所は医学部C館、時間は男子9:00-11:00, 女子11:00-12:00 となっていた。多分女子は人数が少ないから1時間で終わるということなのであろう。
 
千里は「うーん」と考える。自分は果たしてどちらの時間帯に行けば良いのだろうか? そこで千里は自宅に戻るとパソコンから大学の学生専用サイトにアクセスし、自分のスケジュールを確認してみた。
 
すると「健康診断 4.20 11:00-12:00」という表示がある。
 
やはり私って女子学生なのね〜。
 
お医者さんに診られるのはいいけど、クラスメイトに見られるのは面倒だなと思い、千里はどうしたものかと考えた。実は女だってもうカムアウトしちゃおうかな?
 
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そんなことを少しワクワクしながら考えながら、千里は取り敢えず問診票への記入をして送信しておいた。女子用の問診票なので「妊娠したことがありますか」「妊娠していますか」という項目があったが、どちらも「いいえ」を選択しておいた。
 

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それで千里は10:30に医学部C館に出て行った。そして受付を通らずに!診察が行われているエリアに行く。見知ったクラスメイトがいる。
 
「あれ?村山、もしかして今来たの?」
「うん。遅れちゃった」
などと言って、男子トイレの前に置いてある紙コップを持って中に入る。少し時間を見計らって、コップはゴミ箱に捨て、何もせずにトイレを出た。(本来は自分の学生番号のシールを貼って棚に置く)
 
その後、レントゲンの所に行くが、ここでも千里は受付はせずにただ待合の椅子に座っている。そこにまたクラスメイトの男子がレントゲン室から出てくる。千里が笑顔で会釈すると、彼は手を振って別のコーナーへ行った。
 
しばらくその付近に居た後、今度は心電図の所に行き、ここでも千里は何も受付はしないまま椅子に座っていて、数人の男子クラスメイトと顔を合わせた。やがて10:50になる。千里は内科検診の行われている所に行き、列に並んだ。
 
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もう男子の検診時間の終わり頃なので、できている列は少ないものの、ここでもまた数人の男子クラスメイトと顔を合わせる。その中のひとり宮原君と少し会話していたが、千里は突然思い出したように
「しまった。忘れ物してきた。ちょっと取りに行ってくる」
と言って列を離れ、1階に降りた。
 
するとそこに、真帆がこちらに来るのを見る。もう女子の検診が始まるのだろう。
 
「あれ?千里、今検診受けてたの?」
「そうそう。終わったから帰る所」
「ね、ね、検診終わった後、朱音たちと一緒に御飯食べようと言っているんだけど、もし良かったら待っててくれない?」
「いいよ。じゃ適当な所で時間潰しておくよ」
「じゃ12時に医学部正門で」
「了解〜」
 
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