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話をしている内に千里の携帯が鳴る。Perfumeの『チョコレイト・ディスコ』のメロディーである。千里は携帯(二つ折り型)を取り出すと開き、表示されたメールを見る。そしてそのままオンフックキーを押してメールを閉じ、携帯自体も閉じた。
「千里、今のは恋人?」
と質問が出るが
「男の子の友だちだよ〜」
と千里は答える。
「なーんだ」
という声。
「『チョコレイト・ディスコ』なんて、てっきり彼女からのメールかと」
「彼女なんて居ないよ〜」
「恋人できたことないの? なんか女の子と話すのに慣れてる感じだし」
「ボク、女の子とは友だちになっちゃうんだよねー」
「それでは恋人にはならんか」
この時点では、このメンツは千里の恋愛対象が男の子であることに気付いていない。
「ボク、お母ちゃんからのメールは『桜の花びらたち』を設定してるよ」
「誰の曲だっけ?」
「AKB48」
「どんな曲?」
というので鳴らしてみるが、朱音だけが「あ、聞いたことある」と言い、他の4人は「知らん」と言った。
ファミレスでもかなり話題が盛り上がり、ピザを2回くらいお代わりし、フランクフルトソーセージのプレートに、鉄板餃子のプレートに、フライドチキンのプレートにと消化されていた頃、ファミレスの中にウェイトレスに案内されて入ってくる姿があった。
それを見て玲奈が
「桃香ちゃーん、こっちこっち!」
と呼ぶ。
桃香はびっくりしたようであったが、案内していたウェイトレスは
「ああ、お連れさんですか?」
と尋ねる。
すると桃香が答える前に玲奈が
「そうそう。お友だちでーす」
と言っちゃうので、「それではどうぞ、ごゆっくり」とウェイトレスは言って向こうに行ってしまう。
桃香は「え〜?」という顔をしていたが、仕方無いので、千里たちのテーブルに着席する。
「何食べる? ここのハンバーグ結構美味しかったよ」
と玲奈。
「スパゲティもゆで加減がちょうどいい。きれいにアルデンテになってた」
と真帆。
「ピザも美味しいね」
と朱音。
「あっと、それじゃミートグラタンにしようかな」
と桃香は言う。
すると玲奈が呼び出しベルを鳴らしてウェイトレスを呼び、桃香に代わって
「ミートグラタンとドリンクバー」
とオーダーしてしまう。
「飲み物何飲む?」
「うーん。凍頂烏龍茶かな」
などと難しいことを言うと
「あ、それあったよ。ボクが煎れてきてあげる」
と言って千里が席を立ち、凍頂烏龍茶の茶葉を入れ熱湯を注いだポットとティーカップを持って戻って来た。
「どうぞ」
「ありがとう」
「桃香ちゃん、どちらの出身?」
「あ、えっと高岡」
「どこだっけ?」
「九州?」
「いや北陸」
「富山県だよね」と玲奈が言う。
「うん」
と答える桃香は居心地が悪そうな顔をしている。
「そういや、みんなどこの出身だったっけ?」
「その話題は金曜日も出たが」
「酔っ払ってたんで忘れてしまった」
などと玲奈は言っている。
「ああ、かなり飲んでたね」
「私は群馬県の高崎」と美緒。
「私は長野県の安曇野」と朱音。
「私は静岡県の浜松」と友紀。
「私は茨城県の鹿嶋」と真帆。
「私は新潟県の長岡」と玲奈。
「ボクは北海道の留萌」と千里。
「結構みんな遠くから来てるよね」
「真帆がかろうじて地元っぽい」
「富山とか北海道とか、近くにも良い大学があるだろうに、なぜわざわざ千葉まで?」
「うーん。親元から離れたかったからかな」
と千里は言う。
「父親が漁師を継げとか言うんだけどさ、ボク絶対漁師なんて無理だから」
「ああ、確かに無理っぽい」
「なんか華奢な感じ」
「あれ? でもバスケットしてたとか言ってなかった?」
「うん。してたよ」
「スポーツ選手に見えん」
と多くの子が言うが、美緒だけが
「いや。千里の身体付きって余計な肉が無い。女子マラソン選手みたいに全身筋肉だと思う」
と言う。
「《女子》マラソン選手なのか」
「女子のスポーツ選手なら、こういう体形の子は居る」
「男子のスポーツ選手じゃないのね」
「うん。千里のお肉の付き方は男子スポーツ選手じゃない」
と美緒は断言する。
「あれ? そちら男子?」
と桃香が訊く。
「そーでーす」
と千里は答えるが
「女の子かと思った!」
と桃香は驚いている。
「ボクの声、男の声に聞こえないかなあ」
と千里が言うと
「確かに男の声と思えばそう思えるが」
「女でもたまにこのくらい低い声の子は居る」
「話し方も女の子っぽい」
「まあそれで女子に準じて扱っていいみたいだから」
「というか女子の中に自然に溶け込んでいるし」
「うん。だから名前で『千里』って呼んでもらっていいよ」
と千里は言う。
「ごめーん。みんなの名前覚えてない」
と桃香が言うので、あらためてみんな自己紹介する。ちょうど桃香が(?)頼んだミートグラタンも来たので、桃香はそれを食べながらである。
「私は美緒(みお)。中学では陸上部、高校ではコーラス部してた」
「私は朱音(あかね)。部活はしてないけどずっと図書委員してた」
「ああ、図書委員とか放送委員は部活に近い」
「あ、ボクも放送委員〜」と千里が言う。
「私は友紀(ゆき)。私は中学も高校もバレー部だった」
「私は真帆(まほ)。中学では美術部、高校ではアニメ部」
「私は玲奈(れいな)。中学では剣道部、高校では茶道部」
「すごーい。やまとなでしこだ」
「本人的には宇宙戦艦ヤマトに機動戦艦ナデシコ」
「ほほぉ」
「ボクは千里(ちさと)。中学も高校もバスケ」
「あ、えっと。私は桃香(ももか)。中学も高校も科学部」
そこまで行った所で桃香は千里が自分と同じミートグラタンを食べていたっぽいことに気付く。
「あれ?随分残してるね。あまり美味しくなかった?」
と千里に訊くが
「ううん。もうお腹いっぱいだから」
と千里。
「ああ、その前に何か食べた?」
「何も食べてないよ」
「桃香ちゃん、千里はマクドナルドも半分残すらしい」
「うっそー! マクドくらい2〜3個入るでしょ?」
と桃香が言うと
「そうそう。ダブルバーガーなら3個くらい行けるよね」
と美緒が言うが
「いや、さすがにダブルバーガーは1個半だ」
と桃香。
「女の子でもこんなに少食は珍しいよね」
「やはり男の子というのが信じられん気がしてきた」
「でもよくそんなに少食でスポーツしてたよね」
「バスケとか消耗激しそうなのに」
「あ、そうか。それで髪を短くしてたって言ってたっけ?」
と桃香は金曜日の教室でのやりとりを思い出す。
「うん。去年の秋頃から伸ばし始めた。うち3年生の夏で部活終了だから」
「ああ、だいたいそういう所が多いよね」
「進学校になると2年生で終了という所も多い」
「うちも2年で終わりだった」
とバレー部だったという友紀が言う。
「でも部活辞めたら突然体重が増えたんだよ」
と友紀が言う。
「それまで50kgだったのが一時期60kgまで行っちゃって。更に受験勉強で増えて」
「ああ。受験勉強は夜食とか食べるから体重増えるよね」
「春休みに減らしたけど、まだ58kgだよ」
と友紀は言うが、
「いや58もあるように見えない」
と多くの声。
「やはりスポーツやってた子は身体の均整が取れてるから太って見えないんだよ。バレーやってて50kgなんてむしろ軽い方では?」
「うん。バレーって背の高い子が多いから体重も60-70はザラだった」
「友紀、身長はいくら?」
「165cm、千里見た時、わぁい私より背の高い女子がいると思ったのに」
「うーん。その《背の高い女子》ということで千里は構わない気もする」
「千里は身長170くらいある?」
「ボクは168cmくらいかな」
「体重は?」
「バスケしてた頃は55-56kgあったんだけど、辞めたら体重落ちちゃって。現役時代は御飯を頑張って2杯食べてたのを1杯に戻したせいかも知れないけど」
「・・・・」
「受験勉強で更に落ちたから今は49kgくらい」
「・・・・・・」
「なぜ受験勉強で体重が落ちる?」
「えー?だって頭使うじゃん。脳みそってカロリーの消費が凄いんだよね」
「夜食とか食べない?」
「コーヒーとか飲んでたよ」
「コーヒーに砂糖は?」
「ボクいつもブラック〜」
「千里、168cmで49kgはどう考えても痩せすぎ」
「そうかなあ。でもバスケしてた頃より筋肉落ちてるから、体重があまりあると身体が重たいと思うんだよね」
「私も確かにバレー辞めた後は自分の体重を重く感じたけどね」
と友紀。
「千里の少食かげんはかなりのものだなあ」
「千里、ほんとちゃんと御飯食べないから、おっぱい小さいんだよ」
「うーん。男の子は別におっぱい小さくてもいいと思うけど」
「いや。その短い髪を見てなかったら、千里をどこかに拉致して解剖して本当に男かどうか確認したい気分だ」
などと玲奈が言う。
「まあ女子でこんなに短くする子はいないだろうね」
「Lucky Blossomの鮎川ゆま、とかなら」
「ああ、あの人短いね」
「私、Lucky Blossom 好き」
と桃香が言う。
「アユちゃんに激らぶだよー」
などと桃香が言うと
「もしかして桃香ちゃん、レズっ気とかある?」
という質問が出る。
「うん、私、レスビアンだよ」
と桃香は堂々と告白する。
「お、それもいいなあ」
という声が数人から出る。
「レスビアンも一回経験してみたいなあ」
などと美緒。
そんな話をしていた時、桃香の携帯が鳴る。ペールギュントの『オーゼの死』だ。不思議な曲を着メロにするもんだと千里は思った。
メール着信のようで桃香はバッグから取り出して中身を見ていたが、千里はぎょっとする。それは桃香の携帯ストラップに銀色のリングのついたものが付けてあったからである。
私と貴司が使ってるストラップに似てるなあと思って千里はそれを見詰めていた。
「誰からのメール?」
「あ、高校の時の友だち」
「友だちって男の子?女の子?」
「えっと・・・女の子」
「ね、ね、それって友だちというより恋人ってことは?」
というツッコミが入る。
「いや、そんなんじゃないって」
と桃香は言ったが、何だか焦っている様子。
残りの6人はお互いに顔を見合わせて、大きくうなずき合った。
おしゃべりは延々と続いていた。よく話のネタがあるものだという感じである。
「でも千里、ほんとに髪伸ばしなよ」
と玲奈が言う。
「うん。結構そのつもり」
「肩くらいの長さあってもいいと思うよ」
「実は胸くらいまで伸ばそうかなと思ってる」
「ああ、似合うよ、きっと」
「千里女装とかしないの?」
という大胆な質問が出る。
「しないよー」
「似合いそうだよね」
「うんうん」
「スカート一度穿かせてみたいな」
「勘弁してー」
桃香の方は自分がレスビアンだと告白してしまったこと。それにみんなの前で恋人?らしき女の子からの連絡を受けたりしたことで、隠すようなものが無くなり、この6人との垣根が取れてしまったかのようで、結構おしゃべりに参加するようになっていった。最初はみんな「桃香ちゃん」と呼んでいたものの本人がその内「呼び捨てでいいよ」と言うので「桃香」になってしまう。
7人のおしゃべりは適宜ピザやポテトにチキン、タコス、サンドイッチなどを追加オーダーしながら9時頃まで続いた。
「さすがにそろそろ帰ろうか」
「今日は楽しかったね」
「やはりアルコール入れない方が楽しい気がする」
「うん。金曜日はなんか混沌としてしまって記憶が飛んでいる」
「やはり禁酒するか」
などと言っているが全員未成年のはずである。
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女子大生たちの妊娠騒動(2)