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■女子大生たちの妊娠騒動(3)

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「またこの7人で集まろうよ」
 
ということで、この後、このクラスの《女子7人》で集まっておやつやごはんなど食べながらおしゃべりするというスタイルが定着する。当時はまだそういう言葉は無かったものの女子会であった。
 
もっとも実際には7人の内、朱音・真帆・友紀の3人が中核メンバーという感じで、これに玲奈・美緒は彼氏とのデートとぶつからない時だけ出て来て、桃香は気分次第(正確には寝坊しなかった時)、そして千里は(2年生の頃までは)誰かに誘われたら参加する、という感じであった。
 
「みんなアパートは大学の近く?」
「私は**町」
「私は**町」
とだいたいキャンパスの近所の住所を言うが、千里が
「ボクは**町」
と言うと
「遠いね!」
とみんなびっくりしたように言う。
 
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「親戚の家か何か?」
「ううん。とにかく安い所を探したらそこになった」
「家賃幾ら?」
「共益費込みで11,000円」
「安っ!」
「良くそんな所見つけたね!」
という声が上がったが、桃香が
「勝った」
と言う。
 
「桃香は家賃幾ら?」
「共益費込みで6000円」
「うっそー!?」
「だって**町でしょ」
「そんな中心部で」
「1K?」
「2DKバストイレ付き」
「そんな馬鹿な!」
「その場所で2DKなんて6〜7万してもおかしくない」
 
すると友紀が少し考えるようにして言う。
「それ、まさか事故物件?」
「うん。住んでた人が3月に自殺した」
「えーーーー!?」
 
「怖くないの?」
「幽霊出ない?」
「幽霊とか妖怪なんてものはこの世に存在しないよ」
「いや、この世には存在しないけど、あの世にはあってもおかしくない」
「みんな理系なのに迷信深いなあ」
と桃香は言っているが、千里は、なるほどー、それで幽霊をぶらさげていたのかと納得した。
 
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「桃香、だったらこれあげるよ」
と千里は桃香に財布の中に入れていた金色の小さな蛙を渡す。
 
「何これ?」
「桃香が幽霊に取り憑かれないようにおまじない」
「おまじないとか信じないけど」
「うん。信じないなら持っていても問題無いよね」
「確かにそれはそうだ」
 
「お財布かバッグのポケットに入れておくといいよ。これ二見浦(ふたみがうら)の蛙だから、御守り効果も強烈。無くした物が帰る、去って行った友だちが帰る、無くしたお金も帰るというんだけど、幽霊もあの世に帰ってもらう」
「ほほぉ」
 
「ボクは良く人に『あるべきやうは』と言うんだよね。二見浦の蛙って、まさにその効果かなと思うんだけどね」
 
「あるべきようは?」
「明恵上人という鎌倉時代のお坊さんの言葉」
「へー」
 
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「物事はそうなるべきようにすべきということね。何か間違っていることに気付いたら、そこからどう辻褄を合わせるかと考えるより、本当はどうするべきだったか考えて原点に戻ってやり直した方がいい。明日試験なのに勉強してない!って時におかしな必勝法を考えるより、少しでもちゃんと勉強した方がマシ。道に迷った時も、変な抜け道を通ろうとするより間違った所まで戻って正しい道を行った方がいい」
 
「それは言えるなあ」
 
「何か迷うようなことがあったら、本来はこれはどうあるべきかというのを考えると道が見えてくるというの」
 
「なんか深い言葉だ」
「みょうえ?」
「明るい恵みと書いて明恵。河合隼雄さんの解説本が面白い」
「ふーん。図書館で探してみよう」
 
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「しかしお金が返ってくるなら、持っていてもいいかな」
と桃香が言うので
 
「ああ、そういう性格好き」
などと玲奈が言っていた。
 

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翌日の午後は講義が無かったので、千里は連絡を入れて千葉市内のL神社に、春休みに自動車学校で知り合った辛島さんを訪ねて行った。千里は学校にはなりゆきで男装・短髪で出たものの、神社は女装・ロングヘアで訪れた。
 
社務所に行き、名前を名乗って辛島さんに会いたいと言うと事務所に通される。
 
「こんにちは〜」
と挨拶すると、辛島さんは一瞬誰か分からなかったようだが
「あ、千里ちゃんか!」
と言って笑顔になる。
 
「でも長い髪!」
「あ、これウィッグなんですよ」
「へー。全然ウィッグっぽくない」
 
「私中学の時までは髪を長くしてたんですけど、高校ではそういう長い髪にできなかったんで切ったんですよね。その時、切った髪でこのウィッグ作ってもらったんです」
「なるほどー!」
 
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(このウィッグの代金は、実弥(留実子)の姉の敏美がなかなか受け取ってくれなかったものの、今回千葉に出てくる前に、何とか押しつけてきてようやく精算することができた)
 
それで自動車学校で話していた龍笛をお聞かせする。
 
周囲に居た人たちがみな振り返って千里を見た。
 
「こんな凄い龍笛の音は初めて聞いた」
と言われる。
 
神職の衣装を着けた初老の男性が近づいてくる。
「君、それいつ頃から吹いてるの?」
「中学1年の時からだから6年ですね」
「ね、うちの神社の巫女さんにならない?」
「えっと。私、理学部で忙しいから」
「だったら、土日だけでもいいよ」
「そうですね。だったら週に1回くらいなら」
 
ということで千里はL神社に原則として週一回奉仕することになったのであった。
 
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神社での奉仕は奉仕として、千里は何かアルバイトをしなければと思った。それで学生課に行って尋ねてみた。
 
「どんなバイトがしたい?」
「えっとどんなのがあるんでしょうか? 私よく分からなくて」
と正直に言うと
 
「女子はファミレスとか居酒屋の店員さんとか、ガソリンスタンドのスタッフとか、電話オペレーターとか、あとコンビニのレジ係とかもありますね」
 
《女子は》と言われたのは取り敢えず気にしないことにする。
 
「学校の時間にぶつからないもので、ある程度の日数できるものがいいんですが」
 
「そうだねえ。家庭教師とかしてみる?」
「ああ、それなら夕方以降ですよね」
「そうそう」
 
それで紹介してもらって家庭教師の派遣会社に登録して、まずは講習を受けたが、「C大学の学生さんなら、かなり需要がありますよ」と言われた。
 
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それで中学2年生の子の勉強を見てあげることになった。服装は、襟の無い服とかはダメと言われたので、初日、高校時代にブレザーの下に着ていたワイシャツにベージュのコットンパンツ、靴はスニーカーという感じで訪問したのだが
 
「あら、先生色気の無い格好ね」
と向こうのお母さんに言われた。
 
「うちの娘は、人が見てないと勉強しないので、そばに付いてて時々アドバイスとかしてもらうと助かるのですが」
という話であった。
 
あれ?娘? なんで女の子なのかな?と千里は思った。派遣会社の登録シートには(戸籍通りでないとまずいかなと考えて)性別男と記入したはずなのにと思う(実際には千里を見た担当者が性別は記入ミスだろうと考えて女に変更してしまったのである)。
 
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取り敢えずその日は2時間ほど勉強を見てあげたが、素直な子で、やればできる感じの子であった。ただ、このタイプは「勉強を始める」までが時間がかかったりするし、自主的な勉強をあまりしないので、学校の成績の割りに模試とかに弱かったりする。それで2時間の指導の後で、その点をお母さんに言うと
 
「そうなんです!うちの娘、模試に弱いんです」
と言われた。
 
「今のうちに何とか自分で勉強するというのを覚えさせていかないといけませんね。これが高校生くらいになってもこの癖が直らないと受験で失敗しやすいです。成績が良いと、学校の先生もレベルの高い大学を薦めてしまう。でも、実際の試験ではその実力を出せないんですよ。難しいとは思いますが、本人がやる気を出せる環境作りをしましょう。パソコンやゲーム機などは時間を決めるとか、おうちの人も協力してテレビを点ける時間も決めるとかしたいですね」
 
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「それ、以前担当していただいたベテランの家庭教師さんにも言われたことあります!」
 
なるほど、それでも進展が無い訳か。これは重症だと千里は思った。
 
帰り際お母さんは
「次からはもっとカジュアルな服装でもいいですよ。女性らしい服装の方があの子もリラックスできますし」
 
と言う。千里は戸籍上男だから、男として登録しないといけないかなと思っていたのだが、結局この家庭教師のバイトでは、その後ふつうにブラウスとスカートにパンプスなどといった格好でこの家を訪問することになった。また髪も次回からはショートヘアのウィッグをつけて行くようにした。
 

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千里は旭川から引っ越して来て、とりあえず住民票は動かしたのだが、他にもいろいろと移転の手続きを取らなければならないものがあった。その中のひとつが銀行の住所変更である。北海道の地元銀行の方は母に変更手続きの代行をお願いしたのだが、都銀の方は自分で行くことにする。
 
それで千里は神社に行った翌日、水曜日の午後に###銀行の千葉支店を訪れ、その手続きをした。番号札を取ってから住所変更の用紙をもらい記入しながら待つ。順番が来た所で呼ばれて窓口に行く。用紙と印鑑を出す。
 
「これ口座の支店は移動させなくてもいいですか?」
「ええ。札幌支店のままでいいです」
「こちらへは就職か何かで出て来られたんですか?」
「大学進学です」
「あ、ちょっとお待ち下さい」
 
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と言われて、窓口の女の子が奥の方に行き、少し偉そうな感じの男性と話している。何か端末を叩いて確認している。何だか驚くような顔をしている。その男性が窓口に出て来た。支店長代理の名刺を出される。
 
「村山様、今普通預金に****万円ほど残高がありますが、普通預金にこんなに置いておかれるより、定期か何かになさいませんか? あるいは投資信託などにするとか」
 
「投信はするつもりはないです。むしろ株にしておきたいんですよね。そちらは別途証券会社の口座を開設する準備をしていますので」
「了解です。今村山様はキャッシュカードは普通のキャッシュカードですか」
「そうです」
「クレジットカードはお作りになりませんか?」
 
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「あ、そういえば友人がETCカードを作っておいた方がいいと言ってましたね」
「村山様、お車を運転なさるんですね?」
「ええ。免許取り立てですけど」
「お車をお買いになる予定は?」
「あ、もう買いました」
「そうでしたか。ローンですか?」
「いえキャッシュです」
と言うと、支店長代理さんは何だか頷いている。これは数百万の新車をポンと現金で買ったかと思われたかも知れないという気がする。
 
「それではETCカードとクレジットカードを同時発行できるもので、学生さんにお勧めしている、デビューカードというのがあるのですが、いかがでしょう?」
 
「あ、じゃお願いしようかな。どっちみちどこかで作ろうと思っていたので」
 
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それであらためてそのカードの申込書に記入する。保護者などを記入する欄はあるものの「そこは名前だけ書いておけばいいですから」などと言う。どうも千里の口座の残高が大きいので、ほとんど無審査になっている雰囲気だ。
 
投信はしないと言っているのに、他にも国債はどうでしょうとか、積立口座とか、クレジットカードとは別にこういかカードもありますがとか色々勧められたが、丁寧にお断りしながら、支店長代理さんとのお話は1時間以上に及び最後は千里が
 
「済みません。次の時間の講義に出ないといけないので」
と言ったので、やっと解放してくれた。
 
クレカとETCカードはその場で渡してくれた。大サービスのようであった。クレカには MS. CHISATO MURAYAMA と刻印されていたが気にしないことにした。(申込書の性別は一応男に丸をした)
 
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カードを作ってもらった御礼になどと言って、何やらけっこう重量のある白い箱の入った袋をもらった(後で開けてみたら深川製磁のペアのティーカップであった)。他にもボールペンやメモ帳など銀行のアメニティグッズが幾つか入っていた。
 

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なお、この銀行の口座とは別に、C大学の授業料の引き落とし用の口座も必要なので、千里は翌日の昼休みに地場の地方銀行の大学そばの支店に行って開設してきた。本当は水曜日に両方回る予定だったのだが、###銀行で時間を取られてしまったので、翌日になってしまった。こちらは1000円だけ入れて開設したので、口座開設の御礼はポケットティッシュ1個であった。
 

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