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ロバの皮(7)

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ところが“国中の娘”を集めたはずのパーティーで、会場となったお城の大広間を見てまわったのですが、ロバの皮は来ていませんでした。がっかりした王子がどんな美しい娘にも無愛想にするので、王様は言います。
 
「美しい姫君が大勢おるぞ。誰かと少しお話ししてみないか?」
「父上。私はこの指輪が入る女性と結婚したいと思っています」
と言って、最初に焼いてもらったケーキの中から出てきた指輪を見せます。
 
「この指輪なら、誰か細い指の娘なら入りそうだ」
と王様が言っておりましたら、その話を聞いた、地方領主の娘が
 
「それ私が試してもいいですか?」
と訊きます。けっこう指の細い娘です。王子はあまり乗り気ではないのですが、王様が
「よいよい」
と言って、娘の指に王様自ら填めてあげようとしました。
 
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ところが、指輪は“逃げる”のです。
 
「あれ〜。どうして私の指に入ってくれないの?」
 
王妃様付きの祈祷師がそれを見て言いました。
 
「この指輪には強い魔法が掛かっている。これはたぶん西の大仙女が掛けた魔法だ。これはこの指輪が許した女しか、填めることができないようになっているのだよ」
 
「なるほど、そういう仕組みだったのか」
 
それでこの日は数人の娘が指輪を試してみたものの、指輪は全ての娘の指から逃げてしまい、填めることができませんでした。
 

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王子は王様に言いました。
 
「父上、国中の全ての娘といっても、昨日集まっていたのは、良家の娘ばかりでした。どうか召使いや下女などでも構わないから来るようにおっしゃっていただけませんか?」
 
「お前がそう言うのであればそうしよう」
 
それで王様はお触れを出して、ドレスなど持たないものには入口で渡すから、赤の国の国民で全ての13歳以上の未婚の女は身分に関わらず誰でもお城に来るように言い、翌月お城の中庭でパーティーを開くことにしたのです。
 

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ところが“国中の娘”を集めたはずのパーティーで、会場となったお城の中庭を見てまわったのですが、ロバの皮は来ていませんでした。がっかりした王子がどんな美しい娘にも無愛想にするので、王様は言います。
 
「美しい娘たちが大勢おるぞ。誰かと少しお話ししてみないか?」
「父上。きっとこの指輪がはまる娘はこの会場には居ないと思います」
「試してみなければ分からん」
 
それで大勢の娘がこの指輪を填められるか挑戦してみるのですが、指輪はどの娘の指からもスルリと逃げてしまい、誰もその指輪を填めることはできませんでした。
 

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ジル王子としては、結婚したいのは“ロバの皮”ひとりで、恐らくこの指輪はあの娘の指には、ちゃんと填まるだろうと思っていたのですが、やはり王子という立場上、田舎の豚小屋に住む娘と結婚したいとは言えません。パーティーの席で妃として選びたいので、彼女にパーティーに出てきて欲しいのです。
 
それで王子が母の王妃に相談し、王妃は腹心の侍女マルゲリートを岩山村のロバの皮の所に遣わしました。そして「どうしてパーティーに出て来なかったのか」と尋ねました。するとロバの皮は答えました。
 
「私は娘でもありませんし、この国の者でもありませんので、パーティーへの出席はご遠慮致しました」
 
“娘ではない”というのは、実はポリーヌ自身が男だからそう言っているのですが、マルゲリートは“未婚ではない”という意味に解釈しました(普通そうとしか取れない)。
 
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「もしかして、そなたには夫が居るのか?」
「夫はおりません。ただ、結婚の約束をした人はいます」
「もしかして、そなた、その男から逃げてこの国に来たとかは?」
「ご明察ですね。私は結婚の約束はしたものの、その方と結婚したくないのです」
 
「ちなみにそなた処女か?それともその男と既に寝たか?」
「私はまだどんな男の方とも交わっていませんよ」
 
女の子とはたくさん寝たけど、男の人とは寝たことないから、嘘じゃないよね?それでも処女といえるかどうかは微妙だけど。
 
「だったら、その人に手紙を書いてみてはどうか? 聞けばそなたがこの村に住み着いてから1年以上経っているという。相手は婚約の解消に同意してくれないだろうか?王妃様にも手紙を書いてもらってよいし、手切れ金が必要なら調達するぞ」
 
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「そうですね。お手紙を書いてみます。王妃様のお心遣いは感謝しますが、自分1人で何とかしてみます」
 
「分かった。王子様はそなたを妻としてみんなの前でお披露目できる日を待っているから」
とマルゲリートは言いました。
 

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またポリーヌは、マルゲリートの話から、行方不明になってどうしたものかと思っていた例の指輪をジル王子が持っていることを知りました。
 
自分自身、ジル王子のことが好きになってしまっている。だからきっと指輪は自分の指に填まるだろう。そしたらきっと自分は、あの仙女たちが言ったように、女の身体に変わるのではないか。
 
ポリーヌはそう思い、とっておきの上質紙に、愛用の万年筆で手紙を書き始めました。それを定期的に来てくれる侍女リリアに託しました。
 

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ポリーヌから自身への手紙を読んだ青の国の王シャルルは涙を流しました。そして自分の“娘”へのお返事を書いたのです。
 

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その週末、ポリーヌが仕事を終えて、深夜お風呂を頂き、週に1度の楽しみで森の中の小屋に行って、今日はどのドレスにしようかな?と悩んでいた時、ドアがトントンとノックされます。ここを知っているのはリリアとジルだけなので、きっとリリアかなと思い
「どうぞ」
と言って、ドアを開けるとそこには思わぬ顔がありました。
 
「コレット!」
「ご無沙汰しておりました。ポリーヌ様」
とコレットは笑顔です。
 
「お前ひとりで来たの?」
「リリアに代役をさせておいて私が来ました」
「よく来れたね!」
「私は道に迷ったことがありませんから。でも実はエマール中尉にこの近くまで警護してもらいました」
「だったら良かった」
 
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「シャルル様からのお手紙を預かってきています」
と言って、コレットは手紙を差し出します。
 
ポリーヌは黙ってその手紙を受け取ります。そして読みました。
 
ポリーヌは涙を流し、声をあげて泣きました。
 
コレットはそういうポリーヌをそっと抱きしめてくれました。ポリーヌもコレットを抱き返しました。
 
そして夜は更けていきました。
 

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赤の国の王様はお触れを出しました。
 
この国に“居る”全ての13歳以上の“者”で、王子の妃選びのパーティーに来てくれるものは全員お城の前の広場に来るように。ドレスを持たない者にはその場でドレスを渡す。
 
お触れを見て、ロバの皮を着たポリーヌは、おかみさんに言いました。
 
「1年以上にわたって、本当に親切にして頂き、ありがとうございました。とうとうお別れの時が来てしまったようです」
 
「ああ、あんたは多分どこぞの王女か何かなんでしょ?王子とか王女って、なかなか自分の思うとおりに暮らせないもんね。でも元の暮らしに戻る気持ちになれたのなら、良かった。幸せになってね」
 
「ありがとうございました。御礼はまたあらためて」
「うんうん。あんた豚の番人としても優秀だったよ」
「ありがとうございます。それがいちばんの褒め言葉です」
 
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ポリーヌは“ロバの皮”をかぶったままお城まで行きました。広場に入ろうとすると、警備の兵士が
 
「お前はなんと奇妙なものを着ているのだ?ドレスが無いなら渡すから、その変な皮を脱ぎなさい」
と言いました。
 
「兵士様、私はドレスは持っております」
とポリーヌは言い、その場でロバの皮を脱ぎ、更に粗末な麻のオーバードレスも脱ぎました。
 
その下にポリーヌは、美しい真っ青な“空のドレス”を着ていました。
 
裾は引きずらないようにロバの皮の中に畳んで収めていたのです。
 
そのドレスのあまりの美しさに兵士も近くに居た娘たちも息を呑みます。
 
「誰か裾を持て」
と兵士たちの中にいた少尉殿が言いますと、お妃付きの侍女が走ってきて、ポリーヌのドレスの裾を持ってあげました。
 
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そしてポリーヌは優雅な動作で、ゆっくりと広場の中を進みます。ポリーヌの美しいドレス、美しい金色の髪、そして美しい容貌に、みんなが息を呑み、道を開けます。人々が開けてくれた道をポリーヌは歩いて行きました。
 
やがていちばん奥、王宮の入口の階段の所にジル王子が立っていました。その後方には、赤の国の王様と王妃が並んで座っています。
 
ポリーヌがジル王子の前に立った時、昼の12時を告げる、王宮の鐘が鳴り響きました。
 

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一方この日、青の国では、王様が重大発表があると告げていました。
 
王様は、コレット様ほか、ポール王子の4人の妻および、彼女たちが産んだ4人の孫王子・孫王女を伴い大広間に姿をあらわすと、11時頃に居並ぶ大臣や領主・地方長官たちを前にそのことを告げたのです。
 
臣下の者たちは、ずっと姿を見せないポリーヌ様、あるいは外国に留学に行っているという話になっているポール王子のどちらかに何かあったのではないかと緊張していました。
 
しかし王様は笑顔です。
 
それで臣下の間にホッとした空気が漂います。
 
「まず第一点。私とポリーヌの婚約を解消する」
 
臣下の者たちが動揺しています。まさかそういう展開は考えてもみなかったのです。
 
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「解消の理由だが、実はポリーヌの身元が判明したからである」
と王様は言いました。
 
「ポリーヌの両親の行方が分からないので、できたら結婚式までに会いたいとずっと言っていたのだが、実はポリーヌの母君が名乗り出てきた。それが実はジャンヌの妹ジョエルであった」
 
「それで、ポリーヌ様はジャンヌ様によく似ておられたのですね!」
という声があります。
 
「でもジャンヌ様に妹君がおられたのですか?」
という質問があります。みんなジョエルなどという名前は初耳です。
 
「庶子だったのだよ。それで正式には妹を名乗っていなかった」
「そうだったのですか!」
 
「そしてポリーヌの父親なのだが」
と言った所で王様は少し恥ずかしげな顔をしました。臣下の者たちが何だろう?という顔をしています。
 
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「実は父親は私だった」
「え〜〜!?」
 
驚きの声があがりました。
 
「実は私はジョエルと若い頃、恋人だった時期がある。その時にできたのがポリーヌだったらしい。このことはポリーヌ自身も知らなかったし、私も聞いていなかった。ジョエルは自分は日陰の身だからと言って表に出てきていなかったのだが、私がポリーヌと結婚しようとしていることを知り、それはできないと言って名乗り出てきた。ジョエルに教えられなければ、私はあやうく自分の娘と結婚する所であった」
 
臣下の者たちがざわめいています。
 
「それでポリーヌとの婚約は解消し、ポリーヌは正式に私の娘ということにしたいと思う」
 
大勢の者たちから拍手が送られました。
 
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「それでポリーヌ王女様はどこに?」
「まだ報告を受けてないのだが、ポリーヌには、私以外の者との婚儀が決まりそうなのだよ。これについては明日また報告できると思う」
 
と王様が言うと、概ねそれを歓迎する雰囲気です。
 
ひとりの廷臣が質問しました。
 
「大変恐縮なのですが、ポール王子様はどちらにおられるのでしょうか?」
「ポールは外国に留学しているが、何か?」
と王様は平然とした表情で言いました。
 
これがこの日のお昼、11時から11時半頃に発表されていたのです。
 

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シャルル王からポリーヌへの手紙にはこのようなことが書かれていました。
 
黄金を生み出すロバが無くなり、お前もどこかに去ってしまって、最初私はショックだった。でもお前が遺してくれた4人の孫のために私は頑張ろうと思った。そして今にして思えば、自分の子供であるお前と結婚しようなどと考えたのは、ロバに、たぶらかされていたせいかも知れない。子供と結婚するなんて、恐ろしい考えだと思う。
 
だから、私とお前の婚約は取り消そう。
 
そしてポリーヌは私の娘ということにしないか?
 
だからお前が女として生きていくのなら、これからはシャルル王の娘・ポリーヌを名乗りなさい。
 

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