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ロバの皮(5)

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(C) Eriki Kawaguchi 2019-11-02
 
ポリーヌは青の国を出て旅を続けました。女として生活するようになって既に1年半が経ち、胸も小さいながら女のように膨らんでいますし、スカートを穿いているのでポリーヌは女にしか見えません。しかしロバの皮をかぶり、旅の疲れで顔も汚れていくので、旅先ではどこでも変に思われ、石をぶつけられたりもしました。しかし持ち出した路銀のおかげで何とか食いつなぐことができ、やがてポリーヌは東方の赤の国までやってきました。
 

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ポリーヌが赤の国の田舎を歩いていたら、農家がありました。喉が渇いたので水を少しもらえないかと乞いますと、人の良さそうなおかみさんが、ポリーヌの変な格好は気にせず、水をコップに1杯恵んでくれました。
 
「あんたどこから来たの?」
「青の国から流れてきました」
「随分遠くから来たね!身寄りとかは?」
「どこにも頼る者がないのです」
 
「だったらさ、あんたうちの豚小屋の番とかしてくれないかね?残飯集めて餌をやったり掃除をしたりだけど。これまでやってくれてた下女がお嫁に行っちゃってさ、誰か雇いたかったんだよ」
 
「ぜひさせて下さい!」
 
それでポリーヌは赤の国の田舎の豚小屋の女番人つまりスチュワーデス(**)となったのです!
 
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(**)飛行機の客室乗務員(flight attendant)のことを昔は「スチュワーデス(stewardess)」と呼んでいた。この単語は steward の女性形だが、それは stig weard という古いことばの変化形である。weardはguardと同じで番人。stigはstyと同じで、家屋またはその一部を指すが、古くは家畜小屋を意味していた。つまり初期の頃は家畜小屋(豚小屋・牛小屋・羊小屋・山羊小屋)の番人を意味したものが、後に一般化して家庭の使用人全般を意味するようになり、後に船や列車の乗務員のことを steward (="boy")と呼ぶようになる。そして飛行機が発達すると一部の航空会社が船や列車の応用で飛行機の客室乗務員も steward と呼ぶようになる。そして後にこの役割として女性を積極的に起用したことで stewardess と呼ばれた。「スチュワーデスは元々は豚小屋の女番人の意味」という俗説は間違ってはいないが、あまり正確ではない。その話は、飛行機以前に列車や船の乗務員もそう呼んでいたことを無視している。
 
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ポリーヌが住み着いた村は、近くに角張った岩山があることから、岩山村(village des montagne rocheuse) と呼ばれていました。
 
ポリーヌがこの村に住み始めて3ヶ月が経ち秋にました。おかみさんは優しい人で、ロバの皮をかぶったポリーヌの格好には何も言わずに親切にしてくれたので、1年半にわたる父からの求愛に疲れていたポリーヌの心も少しずつ癒やされていきました。
 
そして思うのでした。
「私、おっぱいも大きくなっちゃったし、女になってしまうのは構わない気がするけど、やはり父親と結婚するなんて異常だよ」
 
そして、女になってしまうのなら、どこかに素敵な殿方がいたらいいな、などと思うようになりました。
 

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ある夜、ポリーヌが住んでいる豚の番人小屋の戸をトントンとノックする者がいます。おかみさんか、あるいはご主人かと思い
「はーい」
と言って、ドアを開けますと、思わぬ顔がありました。
 
「リリア!」
 
それはコレット付き侍女のリリアだったのです。
 
「入ってもいいですか?」
「もちろん。でもよくここが分かったわねぇ!」
「この指輪が導いてくれました」
「あっ」
 
それはポリーヌに色々教えてくれた仙女たちからもらった指輪でした。でもポリーヌはお城を出る時、うっかりこれを忘れてきていたのです。
 
「ポリーヌ様のものですよね?そしてこの衣装箱も持って来ました」
と言って大きな箱を見せます。それは台車を付けているとはいえ、女1人でこんな遠い所まで引いてくるのは大変だったでしょう。
 
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「よく盗賊とかに襲われなかったね!」
「昼間は休んでいて、夜の間にライオンの皮をかぶせて引いて来ましたから」
「ライオンには近寄りたくないだろうね」
 
箱を開けますと、王様から頂いた3つのドレスをはじめ多数の素敵なドレス、ティアラやネックレス、ピアスなどまで入っています。
 

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「でも私、今はここの豚小屋の番人なんだよ。とてもこういう服を身につける機会は無いよ」
 
「きっと、使う機会があると思うとコレット様はおっしゃっていました」
「そう?あの子がそう言うのなら、そうかもね。お城はどうなっている?」
 
「ポール王子はまた外国に留学に出たことになっています。ポリーヌ様はご病気ということになっていますが、王様は真面目にお仕事していますよ」
 
「それはよかった」
「ポール様の王子・王女が4人もできたので、それが張り合いになっているようです」
「そうか」
 
「一応最初の男の子を産んだコレット様がポール様の正妃ということになっていますが、コレット様は他の3人とも仲良くやっておられます」
 
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ポリーヌは考えました。
 
コレットが正妃となったということは、コレットが産んだソレイユが王位継承権を持つことになる。他の3人は公妾(maitresse royale **)の子供ということになり、エトワール王子には王位継承権がないが、あの子はたぶん大公家でも興すことになるだろう。シエラ王女とルナ王女は有力家臣か外国の王室に嫁ぐだろう。大臣も大公も自分の娘を正妃にしたかったろうけど、産まれた子供が女の子では仕方ない。将軍の娘を正妃にするよりはコレットの方が扱いやすいと考えたか。結果的に大臣も大公もコレットの後ろ盾になってくれるだろう。
 
(**)日本の側室制度と違い、ヨーロッパの公妾の場合、その女性が産んだ子供はよほどのことがない限り、王位継承権は与えられない(例外はある)。
 
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「だったらコレットも大変だね!」
「コレット様については、シャルル王が、実は先王(シャルルの父)の庶子の娘であったと発表なさいました。つまりポール様の従妹ということですね」
「そうだったの!?」
「でっちあげです」
「うーん・・・。まあいっか」
 
「コレット様は本当は両親を知らないのですよ。村の教会の前に捨てられていたらしいです」
「あの子も苦労したんだね!」
 
「でも西の仙女に育てられたという噂も元々あったらしいんですよ。占いがよく当たるし、薬草の知識も深くて侍医殿が習いに行っているくらいですし。コレット様は小さい頃のことは何もおっしゃいませんが」
 
「ミステリアスだね」
と言いながら、ポリーヌは自分に助言をしてくれた3人の仙女のことを思い起こしていました。ひょっとすると、あの3人が来てくれたのはコレットの縁なのかも?
 
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「コレット様自体に今、お付きの侍女が20人いますよ」
「その管理がまた大変だ!」
 
「アンナに管理させていますが大変そうです。私はコレット様直属アシスタントという名目でわりと自由に行動ができるのですよ。コレット様に何か伝言とかありましたら」
 
「分かった。手紙を書く」
と言ってアラビア紙を取り出してから、ポリーヌは少し不安な顔で言いました。
 
「この小屋、豚の臭いが凄いから、手紙も豚の臭いが染みついちゃう」
「コレット様はそんなこと全く気にしません」
とリリアは言いました。
 
それでコレットへの手紙を預かった後、リリアは言いました。
 
「そうだ。このお薬、毎日朝晩1錠ずつ飲んで下さいね」
 
それでリリアは薬の瓶を渡します。
 
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「まだ飲まないといけないの〜?」
とポリーヌは声をあげました。
 
この後、リリアは定期的にコレットとポリーヌの間を往復するようになりました。またポリーヌは、勤めている農家から少し離れた森の中に、リリアに頼んで小さな小屋を建てさせ、そこにドレスなどの類いは置くようにしました(それまでは倉庫の隅にボロ布を掛けて置いていた)。そして週に1度、お風呂を頂いた後は、その小屋に行って、様々なドレスを身に付けてみるようになりました。
 
「やっぱり女の子っていいなあ。こんなきれいなドレスが着られるんだもん」
などとポリーヌは独りごとを言っていました。
 

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ちなみにお風呂は、女ではないことがバレると面倒なので、みんなが入った後、お湯を流す前の最後に夜中1人で入っていました。むろん灯りなどは無く暗い中です。しかし最後はのんびり入れるのがいい所でした。豚小屋の番人でもあり、いつもロバの皮をかぶっている娘は“汚い”というイメージがあり、ポリーヌの入った後の湯には(おかみさん以外は)誰も入りたがらないので、その意味でも最後に入るのは気楽だったのです。
 
おかみさんはポリーヌが入っている所に「疲れた疲れた」などと言って入ってきて、一緒に入浴することもありました。男だということがバレないかポリーヌは冷や汗ものなのですが、夜中でもありますし、ポリーヌは胸もあるので、まさか男だと思われることもないようでした。
 
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「あんた、実は凄い美人じゃん。お嫁さんの口紹介しようか?あんたがきれいなドレスでも着たら、領主様だって目に留めてくれるかも知れないよ。なんでいつも変なロバの皮とかかぶっているのさ?」
 
と、満月の夜にポリーヌの素顔を見た、おかみさんから言われました。
 
「私、男嫌いなんです。だから言い寄られたりしないようにこういう格好しているんです」
とポリーヌは言い訳をしました。
 
「ああ、男嫌いか。だったら仕方ないね」
 
とおかみさんは言いましたが、もしその気になったら、誰かいい男の人紹介してあげるよ、と言ってくれました。
 

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ポリーヌが赤の国に来て半年ほど経った、冬のある日。
 
赤の国の王子ジル(**)が狩りをしていて、ポリーヌの住む村の近くを通りました。王子は獲物を追っていたのですが、このあたりで取り逃がしてしまったのです。
 
(**)フランス語のジル(Gilles)は男性名。英語のジル(Jill)は女性名である。Gilles Gambus は、ポール・モーリア・グランドオーケストラの男性ピアニスト兼編曲者。ついでに凄い美形! Jill Stuart は、アメリカの女性ファッションデザイナー。
 

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獲物を追っている内に家来とも離れてしまったのですが、
 
「大きな猪だったのに残念だ」
などとつぶやきながら、王子が月明かりを頼りに歩いていた時、小さな小屋があるのに気付きます。夜も遅いのに、その小屋には灯りがともっていました。
 
当時灯りといえばロウソクが一般的でしたが、多くは獣脂ロウソクで、結構臭いがします。ところがこの小屋からはその臭いがしません。どうも高級な蜜ロウソクを使用しているようです。ということは身分のある者が使っているということでしょう。それにこの小屋の灯りはとても明るいのです。小屋は小さいのにロウソクを何本も使っているのでしょう。
 
王子はドアをノックしようかと思ったのですが、少し気になり、ドアの鍵穴から中の様子を覗き見してしまいました。
 
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すると、何ということでしょう!
 
小屋の中には12-13歳くらいの美しい娘がいて、とても豪華な、見たこともない、まるで空をそのまま切り取ったような真っ青な美しいドレスを着て、姿見に自分の姿を映していたのでした。
 
王子は一目で娘のことが好きになってしまいました。ドアをノックして中に入り、名前を訊きたいと思ったのですが、なぜかできませんでした。小屋からはやがて美しいフルートの音色も聞こえてきました。王子はその調べに酔ってしまう気分でした。王子がずっと小屋から少し離れた木の陰(かげ)に隠れておりますと、その内灯りが落ちて、小屋の戸から、ロバの皮をまとった変な女が出てきます。
 
「何だあの化け物のような女は?」
と思わずつぶやいてしまいます。
 
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「しかし、さっきの姫君はまだ小屋の中にいるのだろうか?灯りも落としてしまったのに」
などと思い、小屋の中の様子を伺いますが、誰もいないようです。王子はまるで夢でも見たかのような思いで、腕を組んで、なぜ姫が消えたのか考えながらお城に帰還しました。
 

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翌月、王子は狩りに出かけると称して、またポリーヌの住む村にやってきました。護衛には村の中で待っているように言い、夕方くらいからじっと、あの姫君のいた小屋を見ています。するとかなり夜更けになってから、ロバの皮をかぶった変な女が小屋にやってきました。
 
そして小屋の灯りがともります。王子は少し経ってから、そっと小屋に近づき、鍵穴から中の様子を覗き見しました。
 
すると、何ということでしょう!
 
小屋の中には先月も見た12-13歳くらいの美しい娘がいて、すごく豪華な、見たこともない、まるで月が光っているような銀色の美しいドレスを着て、姿見に自分の姿を映していたのでした。ドレスにはたくさんの真珠も縫い付けられています。
 
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王子はあまりにも美しいその姿に見とれていました。ドアをノックして中に入り、名前を訊きたいと思ったのですが、なぜかできませんでした。小屋からはやがて美しいヴィオール(ヴァイオリンの元になった弦楽器)の音色も聞こえてきました。王子はその調べに酔ってしまう気分でした。王子がずっと小屋から少し離れた木の陰(かげ)に隠れておりますと、その内灯りが落ちて、小屋の戸から、ロバの皮をまとった変な女が出てきます。
 
王子はこの日は小屋の方は放置して、ロバの皮をかぶった女のほうを追いました。すると、女は近くの農家の豚の番人小屋の中に入ったのです。
 
王子は腕を組み、考え込んでしまいました。
 
それで歩いて村道を歩き、護衛と合流してからお城の方に帰ろうとしていた時、村人と出会います。
 
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「もし、ちょっと訊きたい」
「はい、なんでございましょうか?」
「あそこの豚小屋の近くで、ロバの皮をかぶった女を見掛けたのだが、何者だ?」
「貴族様、あんな変な女のことは構わないほうがよいです。この世で最も汚らしい女ですから」
 
「いつもあの皮をかぶっているのか?」
と王子は訊きます。
 
「そうです。だからみんなあの女のことを“ロバの皮”(peau d'Ane ポダン)と呼んでいるのでございます」
と農民は答えました。
 

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