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■代親の死神(10)

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「実は男性器を除去して女性器を作って欲しいのです」
「ちょっと待って下さい。あなたは女性ではないのですか?」
 
「女として生きていますが、実は男性器が付いているのです。私が生まれた時、私の生母の父は謀反の疑いを掛けられて処刑された所で、母の男の兄弟も全員殺されました。母が産んだのが男の子ならその子も殺されるはずでした。でも産婆さんが膠(にかわ)でお股を接着して男性器を隠し『女の子ですよ。ほら、ちんちん付いてない』と言って確認役の人に見せたので、私は殺されずに済みました。それでずっと私は女の子として育てられました。それでもずっと幽閉されていましたが、10歳の時に祖父は無実であったことが証明され、行動の自由が与えられるとともに私は公女および女城爵(Burggräfin) の地位を与えられました」
 
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それで姫が許すので、グレンツェは姫の服をめくって股間を拝見しました。上手に隠してありましたが、確かに男性の形をしていました。
 
「ドクトリンはアラビア渡来の、男を女に変える手術ができるという噂を聞いたことがあったので」
 
そんな噂、どこから漏れたのだろうと思います。その手術は過去に3人しかしてないのに。
 
「でもそういう手術をしても、普通の女のように子供を産めるようにはなりませんよ」
「構いません。私の侍女で実は大公の庶子でもあるマリアを連れていきます。そして私の代わりにマリアに子供を産んでもらい、それを私が産んだ子供ということにします。ただ、王侯貴族の結婚は“確かに成立した”ことを多数の人に観察され確認されます。だから私は公子様と性交ができないとまずいのです」
 
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「一週間待って下さい。その手術は大手術です。今の殿下の体力では耐えられません。もう少し回復してから手術しましょう」
 
「お願いします!」
 

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グレンツェは、姫様はどこか静かな所に移して静養させた方がいいと言いました。それで市郊外に適度な広さの家が用意され、おとなしい馬をつけた馬車でそこに移動しました。グレンツェは手術に必要な道具を用意し、その家に運び込みました。
 
“レーベンデル”を処方したら、姫君は1週間で充分手術に耐えられる程度の体力を回復しました。グレンツェはロベルトとイルマ、ロベルトの妻ユリア(彼女も現役看護婦)の3人を助手にして手術を行いました。
 
代母が例の薬をくれたので、それを姫に飲ませて意識の無い状態にしてから手術を始めます。
 
ロベルトたちは姫の股間にとんでもないものが付いているのを見て仰天しましたが、むろん彼らは秘密をちゃんと守ってくれる筈です。ロベルトを同席させたのは、この手術の技術を彼に伝授するためです。
 
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ブランデーできれいに消毒してから身体にメスを入れます。
 
3時間ほどの手術で男性の股間がきれいに女性の股間に改造されたので、これを初めて見た、ロベルトとユリアは「凄い」と感激していました。
 

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姫は結局2ヶ月ほど静養してから帰国しました。そして帰国して間もなく、姫とコサラゴ公国の公子との結婚が発表されました。グレンツェはこの結婚がうまく行くことを祈りました。
 
「ぼくの蝋燭がまた長くなってる」
「バシルサ大公の公女とコサラゴ公国の公子の結婚は、カトリックとプロテスタントの融和を進める」
「そうだろうね」
 
「それで戦争は10年は短くなった」
「それはよいことだ」
「死ぬ人の数が100万人は減った」
「なんか数が大きすぎてよく分からないよ」
「だからあんたの蝋燭は伸びたのよ」
「戦争なんて、すぐ終わらせられないもの?」
「全員死なせたらすぐ終わるけど」
「それはやめよう」
 

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グレンツェが姫君を助けたことで、市からも大公からも、高額の謝礼の申し出がありましたが、グレンツェは全て辞退し、ここ15年ほどの戦争で亡くなった人たちの遺族の生活支援に回して欲しいと言いました。
 
でも大公がくれるという記念のメダルだけは頂いておきました。(例の手術代は手術をした時点でちゃんと姫様本人から受け取っている)
 
しかしグレンツェは当面の診察休止を宣言しました。
 
病院の診療はロベルトとミハエルに任せることにし、更に若い医師をもう1人雇いました。グレンツェはイルマとヤスミンを連れ、シュトゥットガルト郊外に確保した別荘で疲労困憊した自分の心を休ませることにしました。そして自分の持つ知識を本にまとめようと思いました。
 
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あの日以来、女の身体になってしまったので、その身体でグレンツェは生活していたものの・・・別に女になったからって何か変わる訳でもないなあ、とグレンツェは思いました。
 
立っておしっこできなくなっただけだし!
 
ちなみに男物の服はごく一部の外出着を除いて全部イルマが捨ててしまいました。
 
しかし夜の生活は物凄く気持ちよくて、男性時代より大きな快楽をむさぼっていました。でも、イルマってなんでこんなに“巧い”の!?
 

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「イルマひとつ聞いてもいい?」
とグレンツェは言いました。
 
「なあに?」
「君って、恋人が死んだから修道院に入ったと言ってたよね。その恋人って、男?女?」
 
「あの子、お産で死んじゃったのよ」
「なるほどね〜」
 

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シュトゥットガルトで執筆を中心に余生を送るつもりだったグレンツェですが、そう簡単には休ませてもらえまぜんでした。
 
シュトゥットガルトに来て半年ほど経った時、グレンツェがそこに滞在しているのに気付いた元同級生が
 
「大学で教えないか?」
 
と誘ったのです。それで結局“彼女”はテュービンゲン大学の教授になり、若い医学生を指導することになりました。そして自分の知識と技術を、惜しげも無く彼らに伝授しました。
 
でも“あそこの大学には男装の女博士がいる”という噂が立っていました!
 
そして3年後、姪のエリカが男装で入学してきてグレンツェはギョッとします。
 

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ヤスミンはシュトゥットガルトで、健やかに成長していきました。
 
たくさん勉強したいようでしたが、一人娘を修道院とかに入れて勉強させるのは寂しいので、家庭教師を雇い、ギムナジウム並みの高等教育を施しました。従姉(従兄?)のエリカにも数学や天文学を指導させましたが、意気投合してるようなので、ヤスミンまで男装して大学に行きたいと言い出さないか心配になりましたが!
 
ヤスミンは18歳で自身が家庭教師になり、22歳でロベルトの息子グスタフ(24)と結婚しました。この時グスタフは大学生だったのですが、やがて医師免許を取り、グレンツェの病院に入りました。またヤスミンは結婚した後も、夫が理解してくれたので(出産前後を除いて)家庭教師の仕事を続けました。
 
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ヤスミンが結婚したタイミングで、グレンツは病院のシュトゥットガルト分院を作りました。これはヤスミンとグスタフの夫婦を手元に置いておきたい!という気持ちがあったからです(子離れしない親)。
 
しかしその頃からローテンブルクは人口流出が続き、寂れていくので、結果的にはシュトゥットガルト分院の方が、まるで本院のような感じになっていきます。
 

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グレンツェは69歳で亡くなりました。グレンツェが残した医学全書30巻はその後、近代医学の基礎になったとも言われています。
 
69歳というのは、物凄い長寿ですが、既に兄姉たちは全員亡くなっており、兄弟の中でグレンツェが最後にこの世を去りました。ヤスミンの産んだ孫たちの顔まで見ることができたので、グレンツェとしては充分満足な人生でした。最後の数年間はグレンツェもイルマも孫たちと遊ぶ日々でした。
 
イルマ(65)はグレンツェが亡くなった翌日に亡くなり、ヤスミン(29)は涙を流しながらグスタフ(31), グスタフの母ユリア(53) と一緒に両親のお葬式をしました。
 

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「やっと私の手元に来たね、私の可愛い娘ちゃん」
と代母は言いました。(*23)
 
うーん。。。ぼくって娘なのか?確かに24年前から女の身体で生きて来てたけど。
 
あれって自分の本来の命が燃え尽きてしまったから、お裾分けしてもらった女の人生を生きることになったんだろうなあとグレンツェは考えました。あの時、イルマは、ぼくの呼吸も脈も止まっていたと言っていた。きっとぼくはいったん死亡した後“お裾分け”のお陰で蘇生したのだろう。
 
「あんたには死神の仕事を継いでもらいたい」
「医者から死神への転身というのもシュールだね」
「医者も死神も似たようなものよ」
と代母は言いました。
 
「境界(die Grenze)のこちらに居るか向こうに居るかの違いだけだからね」
 
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代母のダジャレ?に苦笑していたら、そばでトントンとする者があります。
 
「私もお手伝いするね」
と言っているのはイルマです!
 
どうも一緒にお葬式をされたので、一緒にこちらの世界に来たようです。
 
「夫婦で死神というのもいいんじゃない?」
とイルマは言っています。
 
「いいコンビね。普通の夫婦は“死が二人を分かつまで”一緒に暮らすけど、あんたたちは死んでも夫婦であり続けるのね」
と代母は笑顔で言っています。
 
「お義母様、質問があります」
とイルマが言います。
「なんだね。私の可愛い義娘ちゃん」
 
「死んでいてもセックスはできるのでしょうか?」
「何か問題ある?」
と代母は答えました。
 
「じゃ毎晩しようね」
と言ってイルマは代母の前なのにグレンツェにキスしました。
 
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あはは、早死にしそう。
 
あれ?もう死んでるんだっけ???
 

(*23) この物語のラストは、各版では次のようになっている。
 
グリム2版以降:蝋燭を継げば生き延びられると聞き、それを死神に依頼するが、死神は怒っているので、わざと失敗し、医師は即死する。
 
グリム初版:蝋燭の洞窟に案内され「あんたの蝋燭はこんなに短くなってしまった。だから気をつけなさい(hüt dich!)」と言われた所で終了。尻切れトンボで、その後どうなるのかよく分からない終わり方である。
 
グリム第2版(以降)は初版の結末の後に、実はフリードリッヒ・グスタフ・シリング (Friedrich Gustav Schilling 1766-1839) の『neuen Abendgenossen』という作品のモチーフをつないだものらしい。Abendは“Guten Abend”(こんばんは)の abend で夕方という意味。genossen は仲間とか党といった意味で、直訳すると『新・夕方の仲間』という感じか?この作品は現在でも本になっているようだが、この執筆時点では Amazon では品切れ状態である。
 
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1980年制作の映画では市長の娘を助けた代償に自分の息子が死んでいたという悲劇になっていた。主人公はショックを受けてどこかに走り去ってしまう。
 
落語「死神」では、多くが主人公は死んで終了する。ただ、多数の話者が様々なバリエーションを考えている。
 
・火接ぎに成功するが、その蝋燭を持っていたら「昼間から蝋燭つけてるなんて、もったいない」と奧さんが言って、吹き消しちゃう!
・誕生日のケーキだと言って吹き消しちゃう。
・成功するが、くしゃみ/溜息で消してしまう。
・死んだ後、自分が死神になる(話は最初に戻る:回り落ちという)
 
夢落ちにした例もあるらしいが、つまらないと思う。
 
お正月に演じられた時に成功させて「おめでとうございます」で終わった例があるらしいが、例外的なものである。死んで終わる場合、演者は倒れてそのまま幕が下りる。こういうのを仕草落ちと言う。
 
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今回の翻案ではグリム初版をベースにして、その後の別展開を作ってみた。
 
なお、書くタイミングが無かったので述べていなかったのだが、この物語には医者になったのは、子供ではなく父親の方であるというバリエーションがある。
 
 
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代親の死神(10)

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