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■代親の死神(6)

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ずっと独身を続けているグレンツに関して、近隣の住人や患者さんたち、また病院のスタッフ!の間には2種類の見解がありました。
 
(1) グレンツ医師には実は内縁の妻がおり、子供もいるが、ハイデルベルクで暮らしている(どこからハイデルベルクなんて地名が?)
 
(2)グレンツ医師は女医さんだが、男の振りをして医師免許を取ったので建前上男性と結婚ができず、独身を保っている。
 
実は女装のグレンツが時々目撃されているので、それを“グレンツの妻”と考えた人と“グレンツは本当は女”と考えた人があったのです。
 
グレンツが女の格好をしていると、とても自然で、男の女装には見えないので、誰も“グレンツは男だが女装する”とは思いも寄りませんでした!知っているのは婦長のイルマくらいです。彼女はこの病院を開業した時以来の看護婦で、もう6年近い付き合いになります。
 
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イルマは28歳まで修道院に入っていて、修道院では病人の看護などもしていたため、どうかした若い医者より医学的な知識があったりします。彼女は結婚はしないつもりで修道院に入っていたので(好きだった人が亡くなったらしい)、現在35歳で未婚でした。彼女はどうも“女装するグレンツ”に興味があるようで、ドレスを縫ってグレンツにプレゼントしてくれたりもします。
 
「でもグレンツェも裁縫は得意だよね」
「小さい頃から教えられていたから。でも裁縫ができるおかげで怪我した患者の傷口を縫うこともできる」
「傷口を縫うと速くよくなるみたいね。ロベルト先生もあれはできないから、縫合するのは、いつもグレンツェがしてるし」
 
彼女はロベルトやミハエルには敬語を使うのに、グレンツには“ため口”です。
 
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「布を縫い合わせることのできる人でないと皮膚は縫い合わせられないかもね」
 
「お医者さんは裁縫の練習をすべきかもね」
「いいことだと思うよ」
 
「あぁあ、でも私もグレンツェもずっと独身のままかなあ」
などと言っています。
 
彼女は人前ではグレンツのことを“ドクトル・シュミット”とか“ドクトル・グレンツ”と言いますが、プライベートでは“グレンツェ”になっています。
 
「イルマ、結婚してもいいよ。君にやめられると結構大変だけど何とかするから」
 
そんなことを言ったら、彼女はグレンツの“膝に腰掛けて”(女同士の親愛表現?)こんなことを言いました。
 
「ねぇグレンツェ。もし私に子種をくれたらあんたの子供(dein Kind)(*13)を産んであげるよ」
「えっと・・・」
 
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(*13) ドイツ語もフランス語などと同様に、家族や恋人に使う二人称と、遠慮のある人に使う二人称が異なる。遠慮のある人には Sie, 家族などには du を使う。Sie の所有冠詞は Ihr, du の所有冠詞は dein である。つまり Ihr Kind ではなく dein Kind と言っているのは、イルマがグレンツェに事実上恋人に近い感情を持っていることを示している。
 

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「グレンツェってヒゲが無いけど、睾丸取っちゃったんだっけ?」
「・・・付いてるけど」
 
ヒゲが生えないのは代母が「女医さんにはヒゲがあってはいけない」と言ってヒゲも足の毛も生えなくしてくれたのです。でもヒゲ剃りをしなくて済んで助かっています。代母はついでにグレンツの喉仏まで無くしてしまったので、グレンツは喉の形が女のようになっています。心持ち声も高くなった気もしています。それで髪は長くしているので、本当に女に見えるのです。
 
「だったら子種くれない?」
 
「36歳で子供を産んで大丈夫?」
「“グレンツェ女先生”(Ärztin Grenze) がちゃんとお世話して下さるだろうし」
「そうだなあ」
 
「私はグレンツェの奥さんになっても、グレンツェが女の格好するのは許してあげるよ。本当はむしろ女になりたいんでしょ?」
 
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「あはは」
 

それで結局、グレンツは彼女と結婚しました。
 
イルマは結婚前に言っていたように、グレンツの女装を許してくれましたし、むしろ煽りました。お化粧なども教えてくれましたが、これはとても楽しい気分にさせてくれました。疲れてる時にお化粧すると、疲れが取れていく感じもしました。
 
そして1年後には娘のヤスミンが生まれました。40歳で出来た子供は可愛くて可愛くて、目の中に入れても痛くない気分でした。
 
「嬉しーい。私、お母さんになれた」
とイルマも言っていました。
 
「頑張ったね」
とグレンツは出産直後の妻にねぎらいの言葉を掛けました。
 

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ちなみに、グレンツとイルマの結婚に関しては、こんな噂が、患者さんやスタッフの間には流れていました。
 
ドクトリン・グレンツェは、男のふりをして医師免許を取ったので、男という建前にしているから女性と結婚できる。ふたりは実際には仲の良いお友だちのような夫婦(婦婦?)である。娘のヤスミンちゃんは、実はイルマの妹の子供を養子にもらったもの。
 
結局誰にも、グレンツが男だという発想は存在しないようです。
 

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グレンツは代母と話し合いました。
 
「ねえ、ぼくの睾丸取ってくれない?」
「へー!」
 
「だって、ぼくに睾丸があると、またイルマを妊娠させてしまうかも知れない。でもこれ以上高齢での妊娠は危険だもん。睾丸を取ってしまえば、妻を妊娠ざせることはない」
 
「いいけど自分で手術できるでしょ?」
「お母さんに頼んだら、痛み無しで取ってくれそうな気がするから」
 
「まあ、あんたのお父さんのハンスも、あんたができた後、睾丸を取ってあげた。あれ以上子供が増えたらもうどうにもならなくなってたからね。フリーダはギムナジウム時代に睾丸を取ってあげた。あまり男っぽくならないようにしてほしいと言ったから。まあフリーダはあれで長生きになったと思うよ」
 
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「そうなの?」
「どうしても女の方が長生きだからね」
「一般にそうだよね〜。お年寄りは明らかにお爺さんよりお婆さんが多い」
「睾丸があるとどうしても寿命が短くなるのよ。だからあんたも睾丸取ると、きっと寿命が延びるわよ」
 
「そういうものかな」
 
「ただ、睾丸取ると、ちんちんは立ちにくくなるから」
「頑張る」
「まあ立つ立たないは気持ちの問題が大きいから、お嫁さんを満足させてあげるように頑張りなさい」
「うん」
 
「それか、いっそちんちんも取っちゃう?フリーダみたいに完全な女の形にしてあげてもいいよ」
 
「・・・・・」
 
「あ、少し悩んでる」
「睾丸だけでお願いします」
「了解了解」
 
でもフリーダ姉さん、完全な女になっちゃったの!??
 
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それでナハトはグレンツの睾丸を除去してくれました。痛みは全く無かったので、お母さんに頼んで正解だった!と思いました。感覚の発達している部分だけに、手術するとかなりの激痛に耐えないといけないだろうなと思っていました。
 
睾丸を取った後は、確かにちんちんは立ちにくくなりましたが、ナハトの助言に従って、毎日立てる“練習”をしていたら、何とか立つ能力は維持することができました。なお女の服を着ている方が立ちやすい感じだったので、グレンツはドレスを着て女の下着までつけて、イルマとは夜の時間を過ごしました。ドレスを着た同士で抱き合うとお互いに物凄く興奮しました。イルマって元々女の子が好きなのかも、とチラッと思いました。
 
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「自宅の中ではいつも女の服を着てればいいのに」
とイルマは言います。
「それをやると、女の服が当たり前になって、女の服を着てもちんちん立たなくなってしまう気がする」
「いっそ、女の子になっちゃう?睾丸は取っちゃったけど、更に手術して、陰茎と陰嚢も除去したら、かなり女に近くなるよ」
 
「・・・・・」
「あ、悩んでる」
 
「陰茎・陰嚢を除去した上で、陰唇・膣を形成する手術法がある。そうすればほぼ女にしか見えなくなる」
とグレンツは言います。
 
「そんな方法があるんだ!」
とイルマは驚いていました。
 
「アラビア語の医学文献で見たことはあるけど、大手術だよ」
「へー!」
 
実は代母が、フリーダを完全な女の形に変えてあげたと聞いたので、文献を調べていたら、アラビア語の文献で、男を女に変える手術、というものが存在することに数日前に気付いたのです。
 
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女になりたい男がいたら一度手術してみたい気はしました。でもそういう男は・・・わりと居そうな気もします!
 

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“手術の練習”をする機会を代母が提供してくれました。
 
代母は夜遅く、グレンツを1軒の豪邸に案内しました。
「ここは***さんのお屋敷じゃん」
「奧さんの***が亡くなったんだよ」
「それは知らなかった。明日にでもお花を贈っておこう」
「それがいいね」
と言って、代母はグレンツを夫人の遺体そばに導きます。
 
死に装束で美しく飾られ、手が組まれています。
「亡くなったのは3日前なんだけど、息子や娘たちが遠くから駆け付けてくるのを待ってたから明日葬式なんだよ」
「今の時期なら3日待っても大丈夫だろうね」
「3日経ってるから死後硬直はほぼ解けてるよ」
「何させるつもり?」
 
代母は死者の下半身の衣服をめくり、下着を外しました。
「嘘!?」
「奧さんは男だったのよ」
「でも子供がいたよね?」
「みんな、めかけさんが産んだ子。育てたのはこの人だけとね」
「・・・」
「この人は5歳の頃から、ずっと女として生きて来た。天に帰る前に本当の女にしてあげたいとは思わない?」
「・・・・・」
「手術中は誰もここに近寄らないようにしてあげるよ」
 
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それでグレンツは手術道具を取り出しました。
 
陰嚢を中央で縦に切開します。睾丸が無かったので多分子供の内に去勢手術を受けたんだろうなと思いました。だから女らしさを保っていたのでしょう。陰茎も子供サイズしかありませんが、それを恥骨結合の所まで露出させ根元から切断します。女性の膣があるべき場所に指を突っ込んで穴を開けます。そして切断した陰茎の皮膚を剥がし、皮膚表面を内側にして、その穴に挿入。膣の“内張り”とします。あとは切開して左右に分かれている陰嚢の皮膚を各々うまく折りたたんで陰裂状に変えました。
 
「おお、ちゃんと女の形になったじゃん」
と、ナハトはグレンツの手術を褒めてくれました。
 
「陰茎が小さかったから浅い膣にしかならなかった。それに陰嚢も萎縮してたから大陰唇を作るのが精一杯で、小陰唇が作れなかった」
「でもやり方は分かったでしょ?」
「うん」
 
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衣服を元に戻して家を出ます。グレンツはナハトと少し話し合いました。
 
「アラビア語の文献にそってやってみたけど、確かに女みたいな形になっちゃうから凄いね」
 
「まあ何度か練習したらもっとうまくなるよ」
「そんなに何度もは練習できない気がする」
「墓に埋葬された遺体で練習すればいいのよ」
 
「それはまずくない?」
「葬式が終わった後の遺体はただの“抜け殻”にすぎない。どうせ墓の中では腐っていくんだから、その前にその身体で練習させてもらうのは悪くない。本人も痛くないし」
 
「これ生きてる人間でやったら凄まじく痛いよね?」
「麻酔を掛けない限りは、その痛みで死ぬかもしれないくらい痛いだろうね」
「ますい?」
「眠らせて手術されている間、痛みを一切感じなくなる薬があるんだよ」
「アヘンのようなもの?」
「そうそう。それの毒性の低いものがある」
「ふーん」
「もしあんたが男を女に変える手術を生きた人間でやる時は、必要な量をあげるよ」
「分かった。そんな機会があったらお願い」
 
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女になりたい男の患者というのにはすぐは遭遇しなかったものの、タマタマを取って欲しいという患者はたまにありました(ダジャレではない)。
 
グレンツが生きた時代は、イタリアでカストラート(変声期前に睾丸除去した男性歌手)が“生産”され始めた時期でした。
 
カストラートの大半はイタリアで“作られた”のですが、その波は周辺地域にも及び、ドイツ地方では、宮廷にカストラートで構成した合唱隊ができたりしていました。グレンツの病院にも息子をカストラートにしたいので、手術してくれと依頼する人が時々来ました。
 
グレンツは手術を希望している“子供のみ”と対話することを要求し、本人が本当は嫌がっている場合は手術を拒否しました(他の病院に行ったかも知れないが)。また、手術代をわざと高額にして、貧乏な親が息子を去勢して売り飛ばす、みたいなケースを排除しました。
 
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そういう訳で、グレンツが手術をしたのは年間7-8人程度に留まりました。しかしひとりも死亡させることがなく(*14)「値段が高いだけのことはある」と言われました。
 
なお去勢手術は違法ギリギリなので、外科手術の得意なロベルトが当局から責任を追及されたりすることのないよう、全部グレンツ自身が行っていました(但し技術継承のため彼にも見学させました)。
 

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(*14) 当時の去勢手術は極めて死亡率が高かった。恐らく3割程度は死亡した。ただ医者による差が激しく、ほとんど死亡させない医者もいる一方で、生存率1割という酷い医者もいたらしい(魔夜峰央が言う所の“紐医者”)。こんな医者の手術を受けろと言われるのは「死ね」と言われているのに等しい。
 
ただイタリアの場合は、子供を口減らしのために去勢する親も多く、去勢してカストラートの道を目指すのでなければ、間引きされかねない状況だった場合もあった。要するに親に間引きされるか、生存率1割の手術を受けるかという究極の選択だったのである。また孤児院が子供たちをどんどん去勢していた所もあったという。
 
もっとも去勢しても歌の才能があり、10年ほども続くカストラートの訓練を全うできればいいが、大半は挫折して男娼になったとも言われる。(筋力が無いから肉体労働を伴う男の仕事ができない)
 
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カストラートの“手術”では睾丸を外科的に除去するより、潰す!方が主流だったようだが(壊死させる方法もあった)、子供の頃に父が牛や馬の去勢をするのをたくさん見ているグレンツは、単純に切除した方が身体への負担は小さいし回復も早いと考えていた。
 
それでグレンツは睾丸は潰さずに陰嚢を切開して摘出していた。そして切断する前に精索を結索して余分な出血が無いようにしていた。多分この結索で回復が早くなっていた。むろん術後に切開箇所はきれいに縫合する。そもそも手術器具は煮沸消毒している。昔は不衛生な器具による手術で感染症を起こして死亡する者も多かった。
 
患部はブランデーで消毒し、更にこれがグレンツのオリジナルなのだが、患部に柳の皮を煮詰めて作った鎮痛剤にアラブから輸入した薬草を混ぜたものを湿潤させてから手術を始めていた。
 
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柳の皮には、サリチル酸が多く含まれており、これはヒポクラテスの時代から鎮痛剤として使用されていた(サロンパスの主成分!)。爪楊枝が柳を素材とするのも、サリチル酸があるからである。これにアラビア渡来の薬草(商人の話では東洋のジパング産の薬草らしい)を混ぜると強い鎮痛作用があった。ただこの薬草は毒性も強いので、混ぜるのは微量に留める必要があった。
 
当時多くの医師は頸動脈を圧迫して気絶させたり、あるいはアヘンを与えてから手術していたが、どちらも極めて危険で、それが死亡率を引き上げていた。しかしグレンツはどちらの方法も使用せず、患者を熱い風呂に入れてやや意識を遠くした上で鎮痛剤のみで手術したのである。要するに全身麻酔が危険なので、部分麻酔で手術していた。これが死亡率ゼロにつながっている。
 
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手術は睾丸のみを除去するものであり、陰茎はそのままだが(陰茎が無いと女とみなされカストラートになれない)、グレンツは男を女に変える手術をだいぶ練習したおかげで、睾丸を取った後、そのまま陰茎も切断したい気分になり、自分を抑えるのに苦労した!
 

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代親の死神(6)

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