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■シンデレラは男の娘(2)

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ロジェがシンデレラという名前で過ごすようになって2年が経ちました。一家はとても貧乏でしたが、畑を耕したり、18歳になったクロレンダが家庭教師の仕事を得て、ガバン公というお屋敷に行ってそこの三男のジルベール、四男のフェリックスに読み書きと音楽を教え、また女物の洋服の仕立ての仕事をトルカンナが取ってきて、みんなで協力して縫っていました。
 
「シンデレラ、縫うのが凄く速い」
「それに曲線の縫い方が凄く上手い」
「あんた、お針子になれるね」
「えへへ。そうかな」
「まあお針子って普通女の子だけどね」
「いっそ女の子でもいいよ〜」
「あんたのワードローブにスカートやドレスが何枚か入っているね」
「見たの〜?」
「やはりスカート穿くんだ?」
「子供の頃のことを思い出して懐かしさにひたるだけだよ」
 
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「スカートといえば、私が読み書きを教えているガバン公の末の息子のフェリックス君がやはりスカートが似合うのよ」
とクロレンダが言います。
 
「何歳?」
「今11歳。シンデレラより1つ下。だから本当はもうとっくにブリーチングしてズボンを穿くべきなんだけど、スカート姿があまりに可愛いからそのままスカート穿かせているのよね。本人もそういう格好が好きみたいだし」
 
「まあ好きならそれでもいいんじゃないの?」
「いっそお嫁さんになっちゃったりして」
「ブロー公の三男のジョルジュ君と仲良くて、ふたり並んでいるとそのまま結婚させたくなっちゃうのよね〜」
「ほんとに結婚したりして」
 

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その頃、国では国王アンリの唯一人の王子であるエステル(Estelle)様のお嫁さん探しが話題になっていました。もうすぐ18歳になるというのに、結婚相手が定まらないのです。隣の国の姫だとか、大臣の親戚の娘とか、色々候補があがるものの、エステル様ご自身が消極的で、なかなかお相手が決まりません。
 
周囲がやきもきする中、王様は
「まあ、その内良い人も見つかるだろう」
 
とのんびりと構えているようでした。しかしこのままでは世継に困ると考えた大臣は王様と王子様に言いました。
 
「国中の娘を招待してパーティーを開きましょう。国中の娘が集まればさすがにその中には好みの娘もいるでしょう」
 
それで本人はその気が全く無い中、パーティーが告知され、8歳以上の未婚の娘なら誰でも来て良いということが発表されますと、国中で大騒ぎになります。玉の輿を目指して娘たちは美しいドレスを仕立てたり、少しでも可愛くなろうと、美容に励んだり、ダイエットしたりするものも多くありました。中にはダイエットのしすぎで貧血で倒れたりする者まであったといいます。
 
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「娘たち喜べ。パーティータイムだぞ」
と言って、トルカンナが大きな箱を抱えて帰って来ます。
 
「私たちもパーティーに行けるの?」
とクロレンダ。
「着ていけるようなお洋服無いと思ってた」
とティカベ。
 
「着ていけるようなお洋服を作るのさ」
とトルカンナ。
 
「すごーい。作ってそれを着ていくのね?」
「まさか。これは仕立てを頼まれて来たんだよ」
「私たちが着るんじゃないの〜?」
「貧乏なんだから無理。これお仕立賃けっこう高いんだよ。凄く儲かるよ。4人全員で掛かるよ」
 
「4人って?」
「私にクロレンダにティカベにシンデレラさ」
 
「僕も縫うの?」
「どっちみちあんたはドレス着てパーティーに行く訳にはいかないし、縫うの専門で頑張ってよね」
 
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「はいはい」
「だってあんたがいちばんうまいんだから。肩や胸の所とか、ウェストからヒップに掛けてのラインとかは、あんた頼りだから」
 
「お母さん、その服のサイズは?」
「この巻き尺で測って記録してきているから」
「じゃその巻き尺で布を裁断すればいいね」
 
昔は巻き尺・物差しの目盛りには色々なものがあり不統一でした。測ったのと違う物差しで洋服を作ると大変なことになってしまいます。長さの単位を統一したのは1790年代のフランス革命政府です。
 

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そういう訳で、パーティーに着て行くお洋服を作りたい娘さんたちのために一家は頑張ってドレスのお仕立をしたのです。トルカンナにも言われた通り、シンデレラは縫うのが速くしかも上手いので、大忙しでした。
 
「シンデレラほんとにうまーい」
「ね、ね、ここのカーブが私うまく縫えない。やって」
「OK。どんどん縫っちゃうよ」
 
それで4人は3ヶ月ほどひたすらドレスを縫い続けました。おかげでかなりの縫い賃をもらうことができ、これまで3年ほど本当に苦しい生活をしていたのが、少しだけ蓄えを作ることができました。
 
「お母さん、結構お金貯まったでしょ?私たちのドレスをそれで買えない?」
とクロレンダは言いました。
 
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「そうだなあ。できるだけ蓄えはとっておきたいんだけど、お城のパーティーなんて2度とあることじゃないしね。じゃ余った端切れをつなぎ合わせてドレスにしよう」
とトルカンナは言います。
 
「端切れなの〜?」
「シンデレラなら、うまく仕立てられるよね?」
 
シンデレラは苦笑して答えます。
 
「たぶんお姉ちゃんたち2人の分はきれいに作れると思う」
「さすが!頼む」
 
それでシンデレラは頼まれたドレスを仕立てる時に微妙に余った端切れをうまく利用して、とてもつぎはぎとは思えないような可愛いドレスを仕立てあげました。
 
「私、これにお父ちゃんの形見のティアラを付けていこう」
「私もこれにお父ちゃんの形見のネックレスを付けていこう」
 
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とふたりは喜んでいました。
 
「あと1着くらい作れると思うけど、お母ちゃんのドレスも縫おうか?」
とシンデレラが言うと
 
「私は、唯一残ったよそ行きの服を着てこの子たちをエスコートして行くよ。私はパーティー自体に出る訳じゃないから、その程度の服でいいし。でもありがとうね、ロジェ」
 
とトルカンナは久しぶりにシンデレラの本名を呼びました。その名前は13歳の誕生日になったらまた使うことにしています。あとしばらくはシンデレラです。シンデレラはその自分の誕生日が、お城のパーティーの最終日だなあ、などと考えました。
 

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シンデレラは念のため、残っている端切れを縫い合わせて、あと1枚、可愛いドレスを仕上げました。
 
「お母ちゃんが着ないなら、僕が着てみようかな」
などと独り言を言って、身につけてみます。鏡に映してみると、結構可愛い感じです。
 
「パーティーって楽しそうだなあ。でも招待されているのは、国中の娘だけだし、男の子の僕が行くわけにはいかないよね」
などと呟きました。
 
それでドレスは自分のワードローブの奥に入れておきました。
 

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やがて3月3日、パーティの初日となります。パーティーは3日間開かれます。この夕方、シンデレラは姉たち2人の髪をきれいにセットしてあげました。
 
「あんた、こういうのもうまいね」
とクロレンダ。
 
「私が仕込んだからね。でも私よりうまくなった」
とトルカンナ。
 
「ついでにいうとこの子はお化粧もうまい」
とトルカンナは言います。
 
「ほんと?してして」
と姉2人がいうので、シンデレラは2人の姉のお化粧もしてあげました。
 
「すごーい!なんか美人になっちゃった」
と2人は感激します。
 
「もし王子様に見初められたら、みんなにももっといい暮らしさせてあげるからね」
などと2人は言いました。
 
「でも王子様のパーティーだったら、美味しいごちそうもあるよね」
とティカベ。
 
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「美味しいごちそうはあるかも知れないけど、私はコルセットをぎりぎりまで締め上げているから食べるの無理」
とクロレンダ。
 
「お姉ちゃんそれ締め上げすぎ。途中で倒れても知らないよ」
とティカベ。
 
「あんたは細いからなあ」
 
「美味しいごちそうかぁ。僕もパーティーに行きたい気分だなあ」
とシンデレラ。
 
「まああんたは男の子だから無理だね」
「鶏の足1本くらいなら、くすねてこれるかも」
「それ見つかったら、みっともないからやめなよ」
とシンデレラは言いました。
 
それで2人はトルカンナにコーディネートされてパーティーに出かけていきました。
 

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ひとり残ったシンデレラはベッドに横になると
 
「パーティーって、どんな所か見たい気もするけど、男の子が近寄ったら衛兵に追い払われるだろうしなあ」
などと独り言を言いました。
 
それで部屋の掃除でもしてよう、と思い寝室に入って棚の掃除をしていたら、トルカンナのベッドの上の棚から箱を落としてしまいました。
 
「ごめーん」
などと言いながら拾い上げようとしたらふたが開きます。
 
シンデレラはハッとしました。その中に入っているものに見覚えがあったからです。
 
中に入っていた服を取り出してみます。
 
わぁ。。。この服、取ってあったんだと思い、シンデレラはそれを思わず抱きしめてしまいました。
 
この服は、亡き母アンジェリーナが一番お気に入りだったドレスだったのです。何でも若い頃よく着ていた服だと言っていました。
 
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母のドレス類は、父の船の事故の後、荷主さんや亡くなった船員さんたちへの補償のため、全部売却してしまったのですが、この服だけはきっとトルカンナが取っておいてくれたのでしょう。箱には母のお気に入りだった銀色の靴、そして花の形をしたブローチも入っていました。
 

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シンデレラはふと、その服を着てみたくなりました。
 
服を汚さないようにシュミーズ(*5)を着け、その上に母の形見のドレスを身につけます。鏡に映してみます。
 
あ、なんか可愛い。
 
と思ってしまいました。そしてその時、僕もこんな服を着てたら、女の子と思われてパーティー会場に入れないかなと考えたのです。
 
でもパーティー行くならお化粧した方がいいよね?
 
と思い、シンデレラはトルカンナのお化粧品を借りて、きれいに自分の顔をメイクしました。一緒に入っていた銀色の靴を履き、胸には花の形のブローチを付けました。
 
たぶんこれなら・・・女の子に見えるよね?
 
それでシンデレラはその格好でお城に出かけたのです。
 
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こんな格好しているのトルカンナに見られたら叱られそうだし、パーティーは夜12時までだから、その前に帰って来ようとシンデレラは思いました。
 

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それでシンデレラはお城まで歩いていくと、少しドキドキしながらお城の門をくぐり、庭の通路を歩き、階段を登って宮殿の中に入りました。たくさんの若い女性が歩いています。こちらに戻ってくる人たちはもう帰るのでしょうか。多くは歩いていますが、時折2頭立てや4頭立ての馬車に乗って到着する女性もいます。きっと高貴な家の姫様かお金持ちのお嬢様なのでしょう。シンデレラは、男の子だというのがバレてとがめられないかな?と不安でしたが、門の所にいた衛兵も通路に立っている衛兵も、そして宮殿の階段やその先の通路に立っている衛兵も、何も言わずにシンデレラをそのまま通してくれました。
 
パーティー会場はとても広い広間でした。こんな大きな広間をシンデレラは見たこともありませんでした。
 
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すごーい。これがお城のパーティーかぁとシンデレラは感動して見ていました。楽団が何か素敵な音楽を演奏していて、踊っている男女もいます。あれ?男の人もいるんだ?とシンデレラはしばしその様子に見とれていました。
 
その時、
 
「すみません」
と男性の声がします。
 
きゃっ。女ではないってバレた?
 
と思って焦って振り向くと、立派な身なりの若い男性です。
 
「お嬢さん、踊っていただけませんか?」
「あ、はい」
 
それでシンデレラはその男性に手を取られ、一緒に踊り始めました。幸いにも踊りは5歳の頃からトルカンナに教えられているので、普通のワルツやガヴォットなどは踊ることができます。しかもトルカンナには
 
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「あなたには男の踊り方も女の踊り方も教えた方がいいみたい」
などと言われて、両方を習っているので、女の側の踊り方もちゃんとできます。それで相手が男性なので、シンデレラは自然に女性のステップで踊っていました。
 
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