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■アレナクサン物語(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2020-07-19
 
ファルマー皇子が、アルマン候の娘を選んだと聞き、グルセは危機感を持ちました。それで皇帝の前に出て言いました。
 
「昨夜、大天使セブラール(*)が私の枕元に立って言いました。皇后様のご病気を治すには、キリマ・ンジャロの山頂の神殿前の泉に湧いている“命の水”(マジ・ヤ・ウジマ)が有効であると。そしてそれを取ってこられるのは、キリマ・ンジャロと同様の神聖な山アール山の麓で生まれた高貴な娘だけであると」
 
(*)西欧ではガブリエル(Gabriel)と呼ばれる。トルコ語ではセブラール(Cebrail). 聖母マリアに受胎告知した天使。アブラハムの宗教に共通の大天使の1人。現代の解釈では男性とみなされるが、一部のオカルティストの間では女性的と考えられており、男性的なミカエル(Michael トルコ語ではMikail)とよく対比される。
 
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「それはアレナクサン・アルマンのことか?」
「確かに彼女はその条件を満たしております」
 
「分かった。取りに行かせよう。半年ほどかかるだろうが、護衛の兵士を10人も付けて速い馬を交換しながら行けば何とかなるだろう」
 
(コンスタンティノープルからキリマ・ンジャロまでは直線距離でも往復8000kmあり、1日に50km進んだとしても160日掛かる計算になる)
 
「いえ。これはひとりで取ってこなければ効果が無いのです」
「しかし、か弱い娘をひとりだけで、遙か遠いキリマ・ンジャロまでもやれんぞ」
 
「神のご加護があれば大丈夫です。それに彼女は自分の領地から都まで片道7500スタディオンの距離を歩いてきています。馬も使えるらしいので、きっと大丈夫でしょう」
と言いながらグルセはまさか成功しないよね?などと一抹の不安を感じます。
 
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「そして彼女が戻って来たらすぐ盛大な結婚式を催しましょう」
と言いながら、本当に生きて帰ってきたらどうしよう?と不安が増大します。
 
ここでグルセは、もしアレナクサンがこのミッションに失敗し、自分の娘フルバが代わってお后候補になった場合、同等の試練を課されることになるということには全く考えが及んでいません。この時は、ただ何とかしてあの娘を排除しなければということだけ考えていました。
 

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皇帝は少し悩んだのですが、アレナクサンを呼んでこのことを伝えました。
 
「皇后陛下のご病気に効くのでしたら、ただちに行って参ります」
とアレナクサンは答えます。
 
アレナクサンとしては、このまま皇子と結婚ということになり、女でないことがバレると、自分が死刑にされるくらいはいいとして、父アルマン侯にも処分が及びかねない。だから、そんな危険な旅をして、もし事故死でもすれば、それでもいいと思ったのです。自分が事故死したら、きっと皇帝はアルマン侯に謝り、補償などもしてくれるだろう。それで自分は父に貢献できると考えました。
 
護衛の兵士などは連れていけないと言われたものの、侍女くらいはよいだろうと言ってもらえたので、ザベルには父との連絡役を兼ねて留守番を命じ、カリナひとりを連れて、アレナクサンは遙か南方のキリマ・ンジャロ目指して皇帝から拝領した、1日に500スタディオン(100km)走れる馬2頭に乗って皇宮を出たのです。(カリナは自分で馬に乗れる。ザベルは乗れないのもあり、彼女には留守番を命じた)
 
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キリマ・ンジャロまでは20000スタディオン(4000km)くらいと聞いたので、順調にいけば、40日ほどでこのアフリカの霊峰に到達できるはずです。
 
(*)中国の古典でいう「千里を駆ける馬」。この“里”は現代のように4kmではなく0.1kmくらいだったと言われている。つまり1日に100km走れる馬のことだった。馬は短距離走タイプが多いが、たまにこういう長距離走が得意な馬も存在する。むろん物凄い高額で取引されていたと思われる。
 
中国『戦国策』にある「隗(かい)より始めよ」では、千里の馬がなかなか得られなかったので、千里の馬の骨を高額で買ってみせたら、骨でも高額で買うのかといって、千里の馬を売る者が多数来たという話が述べられている。つまり金さえ出せば、そういう馬は割と存在したのだろう。
 
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(それで隗は「自分みたいな駄臣に高額の給料を払ってみてください。そしたらあんな馬鹿にも高給を払うのかと言って、もっと優秀な人材が集まってきますから」と言って、隗は厚遇してもらう。すると本当に昭王の元には多数の人材が集まったという。現代では「隗より始めよ」は「言い出しっぺが頑張れ」のような原典とは違った意味で使われることが多い。多分誤用の定着)
 

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アレナクサンとカリナは馬をひたすら走らせ、地中海を船で渡って、わずか10日ほどでエジプトのカイロに到達します。エジプトはコンスタンティノープル帝国の友好国なので、ここで皇帝からの手紙を見せて、アレナクサンたちはかなり疲労が目立ってきていた馬を交換してもらいました。
 
ここで受け取った馬はアフリカの荒れた大地に慣れた馬だったので、2人の行程はますますスピードアップしました。そして、コンスタンティノープルを出てから25日ほど経った7月中旬、ふたりは巨大な湖の畔に到達しました。ナイル(白ナイル)の水源にもなっているニアンザ湖(英名ヴィクトリア湖)です。目的のキリマ・ンジャロまではここから500km, 5日ほどです。
 
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「湖だと教えられていなかったら、海かと思っちゃう」
「物凄く広い湖ですね」
 
ニアンザ湖の水域は68,800km2 で、瀬戸内海(23,200km2)の約3倍である!
 
「黒海より広いかな」
「エジプト王の話では黒海の6分の1くらいということでした」
「ああ。黒海よりは狭いのか」
 
(黒海は436,400 km2 だが現代の定義では黒海は湖ではなく“海”に分類されている:但し湖だと主張している国もある。一応隣のカスピ海374,000km2が世界最大の湖とされる。ニアンザ湖(ヴィクトリア瑚)は世界第3位の湖。第2位はスペリオル湖)
 

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湖にカモメのような鳥(*)が12羽飛んできました。そして見ていると、そのカモメが、湖のほとりに降り立つと、全員美女に変身したのです。彼女たちは、アレナクサンたちには気づかないようです。
 
「不思議なこともあるもんだね」
とアレナクサンたちは小さな声で言い合います。
 
よく見ると、湖畔の木の枝に白い衣が掛かっています。
 
「あの衣を着るとカモメに変身するのかも」
「ああ、その手の伝説は聞いたことある。だったらあれは天女の類いかな」
「みんな美人ですものね」
「確かに美しいよね」
「アレナクサン様、女性の裸を見て変な気持ちになりません?」
「変な気持ちって?」
 
とアレナクサンが不思議そうに訊くので、カリナは、この子ってやはり女性に興味が無いのかな。私にも手を出さないしと思いました。カリナは小さい頃から、もしアレグ様に求められたら、快く応じるように言われていました。自分がこの子の筆下ろし役も務めるのかなとも思っていたのですが、どうもアレグは自分のみならず、そもそも女性に興味が無いのかもという気もしていたのです。
 
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天女たちは水浴びをしていたのですが(*)、やがて水から上がってきます。
 
そして羽衣を掛けた木の傍に歩み寄ったのですが、その時、強い風が吹いてきて、羽衣が飛んでしまいました。
 
「あ!」
と天女たちが声をあげます。
 
アレナクサンたちは、彼女たちからは死角になる。岩の陰にいたのですが、飛び出して、飛んできた衣をキャッチします。ふたりで手分けして拾います。羽衣を追いかけて来た天女たちも何枚かつかまえました。
 
「ありがとうございました!」
と天女たちが感謝します。
 
「これで全部かな」
と言って数えてみると、11着しかありません。
 
「私の羽衣が無い」
とひとり若い天女が泣きそうな顔で言いました。
 
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「たぶんどこかそのあたりに・・・・」
と言って、探していた時、カリナが
「あそこにある!」
と言って指さしました。高い木の先端にひっかかっているのです。
 
2人の天女が羽衣を付けてカモメに変身し、飛んで行って、2人(2羽?)で協力して羽衣を取ってきました。
 
「ありがとう」
と言って若い天女はその羽衣を受け取ったのですが、
 
「あ、破れている!」
とまた泣きそうな顔で言います。
 

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「見せて」
と言ってアレナクサンはその羽衣を手に取ってみました。羽衣は中央から大きく裂けています。
 
「カリナ、裁縫道具あったよね?」
「もちろん」
 
それでカリナが出してくれた裁縫道具から、アレナクサンは細い針と絹糸を取り、その裂けた羽衣をきれいに縫い合わせてあげました。(実はカリナは裁縫があまり得意ではない)
 
「これでどうかな」
 
それでその修復された羽衣を若い天女が身につけると、ちゃんとカモメに変身して空を飛ぶことができました。
 
「よかったよかった」
「ほんとにありがとうございました。どうなることかと思いました」
と若い天女。
 
リーダーっぽい年長の天女も
「助かりました。本当にありがとうございます。この御礼はまたあらためて必ず致しますので」
 
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「そんなの気にすることないよ。お互い様だよ」
と言って、2人は湖畔を離れました。
 

(*)ビクトリア湖周辺には、カモメの近縁種であるハサミアジサシ(鋏鰺刺)が生息している。
 
(*)少なくとも現代のヴィクトリア瑚には住血吸虫が生息しており、水浴び・水泳は危険である。アスワンハイダムの建設がナイル周辺の住血吸虫の蔓延をもたらしたとも言われる。
 

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アレナクサンとカリナはそのあと5日間馬を走らせ、やがてキリマ・ンジャロの麓に到達しました。コンスタンティノープルを出てから30日、7月下旬のことでした。物凄く速い行程です。
 
「これは・・・凄い山だね」
とアレナクサンは言いました。
 
カリナも山を見て感動して
「これこそ神の住む山です。アール山も凄い山でしたが」
と言います。
 
(キリマ・ンジャロは5895m, アール山は5137m。どちらも充分凄い山である。なお“キリマ・ンジャロ”:直訳すると白い山:はスワヒリ語だが、マサイ語ではンガイエ・ンガイ“神の家”という。まさに霊峰)
 

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2人は、キリマ・ンジャロの麓にある小王国で、コンスタンティノープルの皇帝、およびエジプト王からの手紙を見せて、馬を預かってもらうのとともに、登山のための装備を調えようと思いました
 
ところが、2人がその小王国の入口付近まで来た時、ひとりの尊い雰囲気を漂わせた女性が現れました。
 
「私は天女の管理者の女神です。ちょっと北極まで行っていたので御礼が遅れました。本当によく助けて頂いたようで感謝しています。もしそなたたちに何か望みごとがあれば、叶えてあげますよ」
と女性(女神様)は言いました。
 
「あのくらいはお互い様ですよ」
とアレナクサンは言ったのですが、カリナは思いついて言いました。
 
「女神様、このアレナクサンを女に変えることなどできますでしょうか?」
 
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「え?」
とアレナクサン本人は驚いたのですが
「だって、あんたが女になったら、もう皇子様を避ける必要ないじゃん」
とカリナは言います。
 

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「女に変えるって、元々女ではないかと思ったが、そなた実は男か。私も気づかなかった」
と女神様は言います。
 
「たまに男になりたいという娘はいるが、女になりたいという男は珍しい。そなた、本当に女になってもいいのか?」
と女神様は確認しますが、アレナクサンが返事をする前に、カリナが
「お願いします」
と言いました。
 
「そうか。それほど望むのなら女に変えよう」
と女神様は言いました。
 
アレナクサンは、嘘、まだボク女になってもいいなんて同意してないのに!?と思いましたが、身体が変化していくのを感じます。
 
おっぱいが膨らみ始め、急に胸が重くなったのを感じました。そして、お股は急速に軽くなっていきます。え〜〜!?と思っている内に、アレナクサンの身体はすっかり女になってしまいました。お股に触ってみて、男の印が消滅し、代わりに女の印ができていることが分かりました。
 
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「ちんちん無くなっちゃった」
「女にはちんちん無いから」
「そもそも、そなた女の格好をしているということは、女になりたかったのだろう?」
「もちろんなりたいと思っていました」
と答えるのはカリナです!アレナクサン自身はまだ女の身体になってしまった自分に戸惑っています。
 

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「1人ひとづずつ望みを聞くが、もうひとつは何にする?お金持ちにでもしてやろうか」
と女神様はアレナクサンに尋ねました。
 
しかしその時アレナクサンは特に何も思いつきませんでした。
 
「すぐには思いつかないか?では明日またここで会おう。その時、お前の望みを聞こう」
と女神様は言いました。
 
それでアレナクサンたちは女神様と別れました。
 

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