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■アレナクサン物語(2)

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サルマナスが屋敷に帰り、関所があり、女しか通れないということだったが、自分たちは男だということが、声でパレてしまったと報告しますと
 
「確かに声で男女は分かってしまうだろうな。ご苦労であった。侍女を出す件は諦めることにするよ」
と父も言いました。
 
ところがそれを聞いていた13歳の次男カムソンが言いました。
 
「兄上ができなかったら、代わりを務めるのが次男たる僕の役目です。僕が女の格好をして、皇子様にお仕えしましょう」
「お前、本当にできるのか?」
と父は息子の言葉に疑問を持ちます。
 
「僕は声変わりがまだただから、声で男とバレたりはしませんよ。付き添いも本物の女を連れて行きますよ」
「ああ、それがいいだろうな。本物の女がいれば何かと助かるだろう」
 
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それでカムソンは自分の乳母に領主の娘にふさわしいような女の服を用意させてそれを着ました。生えかけの髭も剃り落として、お化粧までして、かなり乗り気です。その格好で父の前に出ると
 
「おお、ちゃんと女に見えるではないか」
と驚かれました。
 
「では行って来ます」
 
と言って、カムソンは女名前・カマサンを名乗り、お付きの侍女2人と(男の騎士では関所を通れないので)護衛に、武術のできる女戦士を連れて4人で馬2頭に乗り、意気揚々と領主屋敷を出ました。
 
(カマサンと侍女、女戦士と侍女が相乗りする。侍女2人は自分では馬に乗れない)
 

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カマサンも侍女2人も立派なドレスを着ています。それで途中で強盗団に襲われましたが、女戦士が物凄く強かったので、盗賊たちは
 
「女と思って油断した。こいつは女に化けた男だ」
と言って逃げて行きました。
 
「女に化けた男って、カマサン様のこと?」
「いや、ぼくのことだろ」
と女戦士が言うと、他の3人は納得しました。カマサンも剣を出したものの、ほとんど戦闘には役に立っていません。
 
「でもあなたがいて良かった」
「ぼくに勝てる男はそうそういないよ」
「女には負けることもあるの?」
「女湯に入ろうとして、痴漢と間違われて張り倒されたことある」
「ああ。大変ネ」
 

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少し行った所にサルマナスから聞いた関所があります。
 
「今、怪しい盗賊団が出没しているので、男は通せないことになってる。女だけなら通れるぞ」
と関所の役人が言いました。
 
「私たちみんな女だから通りまーす」
と言って一行は関所の中に入ります。
 
「お前たち本当に女か?」
「女でーす」
 
侍女たち2人は良かったのですが、女戦士は筋骨隆々なので、あまり女に見えません。
「お前、男だよな?」
「女ですよ。おっぱい触っていいですよ」
というので役人が胸を触ると、確かに女のようなおっぱいがあります。
「確かに女のようだ。お前も怪しい。胸を触らせろ」
と言って、役人がカマサンの胸を触ると何にもありません。男のように平らな胸です。
 
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「胸が無いではないか。さてはお前は男だな?」
と言われましたが、女戦士が
「この子はまだ初潮前だから胸が無いんですよ」
と言うと、納得してくれました。
 

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「各々自分の名前を名乗るように」
 
それで侍女たちも自分の名前を名乗りますし、女戦士も名乗りました。最後にカムソンではなくカマサンが名乗りますが、声変わり前なので、ちゃんと女の声に聞こえます。
 
しかし関所の役人は言いました。
 
「声だけでは本当に女なのかは分からん。昨日も女に化けた男が30人もここを通ろうとした」
 
ああ、兄貴もその1人だなとカマサンは思います。
 
「女ならば料理くらいできるだろう。お前たち、何でもいいから自分の得意な料理を作ってみよ。材料は何でも揃っているぞ」
 
それで侍女の1人はビョレクをつくりました。1人はケシケキを作ります。しかし女戦士は、生まれてこの方、運動して身体を鍛えることばかりしていて、料理や裁縫という女のたしなみがありません。ダメ元でスープ作りに挑戦しますが、およそ人間の食べ物とは思えないものになり
 
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「お前はやはり男だな?だいたいこんな逞しい女がいる訳無い。帰れ」
と言って、追い出されてしまいました。
 
そしてカマサンなのですが、侍女のひとりがこっそり教えてあげて、ケバブを作ります。ところが自分で作ったことがないので、最後に塩と砂糖を入れ間違ってしまい、
「なんじゃ、こりゃあ」
と係官が叫ぶようなケバブになってしまいました。
 
「さてはお前も男だな。帰れ。だいたいお前、胸が無さ過ぎる。女を主張するなら酵母でも入れてから出直してこい」
と言って、カマサンは追い返されてしまいました。
 
カマサンが追い返されてしまったので、侍女ふたりもそれに付き従います。
 

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それで一行は屋敷に戻ることにします。
 
「確かにカムソン様はお料理とかしたことないですもんね」
と侍女が同情するように言います。
 
「ぼくも料理したことない!」
と女戦士がいうと
 
「あなたお嫁に行きたいなら、料理くらい覚えた方がいいよ」
と侍女。
 
「それ無理だから、ぼくがお嫁さん欲しい」
「ああ、あなたはそれがいいかもね」
「あなたほどの人なら、お嫁さんにしてと言う女の子もいるかも」
 
「でも『酵母でも入れてから出直してこい』ってどういう意味だろう?」
とカムソンは意味の分からなかった言葉を口にします。
 
「おっぱいを膨らまして来いということでは?」
「酵母というのは、パン作りの時に生地を膨らませるのに使うんですよ」
「へー。そんなの使うんだ?」
 
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「カムソン様、酵母ではないですが、インド伝来の、おっぱいを大きくする秘薬、手に入れられますが、ご入り用ですか?」
と女戦士が訊く。
 
「あなたもそれでおっぱい大きくしたの?」
「いや。このおっぱいは自前。この薬ちょっと高いんだよ。貧乏なぼくにはとても買えない」
 
「おっぱいかぁ・・・」
とカムソンは考えたものの
 
「それ邪魔になりそうだからいいや」
と答えました。
 
「うん。確かに弓を引く時におっぱいは邪魔なのだよ」
と女戦士。
 
「まあ男の人におっぱいがあっても仕方ないですね」
と侍女も言います。
 
「やはり僕には女の振りするなんて無理だったなあ」
とカムソンは言いました。
 

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カムソンが屋敷に帰り、関所で声では女でないとバレなかったものの、胸が無いので怪しまれ、女だという証拠に料理を作ってみろと言われ、それに失敗して追い返された報告しますと
 
「確かに男は女と違って、料理人にでもならない限り、料理など勉強してないからなあ。胸も無いし。ご苦労であった。侍女を出す件はやはり諦めることにするよ」
と父も言いました。
 
ところがそれを聞いていた11歳の三男アレグが言いました。
 
「お兄さんたちは、そもそもこの家を継いで、もり立てていかなければならない人たちです。代わりにボクが女の格好をして皇子様に仕えますよ」
 
「兄たちにもできなかったんだぞ。お前にできる訳がない」
と父はこの少しできの悪い息子に言いました。
 
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「ボクは声変わりがまだだから、声で男とバレたりはしないし、実は少し料理も作れるんだよ」
「へー。そういえば時々侍女たちと厨房にいるな」
「侍女たちを叱らないでね。ボクが教えてと言って習ってたんだから」
 
それでアレグは自分の乳母(カリナの母)に領主の娘にふさわしいような女の服を用意してもらい、それを着ました。この時、カムソンが胸を触られたと聞いたので胸の所に女がするよう乳当てを付け、その中に柔らかい毛糸の玉を入れました。これで結構本物の胸に触ったのに近い感触になります。
 
彼はまだ髭は生えてないので、髭を剃る必要はありませんでした。彼はお化粧もしなくていいと言いました。旅をする時にきれいに装う必要はないと考えたのです。それで彼は女の服を着ただけで父の前に出ました。
 
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「お前、本当にアレグだっけ?」
「そうですけど」
「女にしか見えん。お前ならいけるかもな」
と父は言いました。
 
それに父は、いつも控えめで目立たないアレグが自分で行くと言い出したことで、この子にやらせてみようと思ったのでした。
 
「では行って来ます」
 
と言って、アレグは女名前・アレナクサンを名乗り、仲の良いカリナとザベル(2人とも自分から付いていくと名乗り出た)だけを連れて、静かに徒歩で領主屋敷を出ました。3人とも宮廷で着るための立派な服は鞄に入れて、カリナが調達してきたツギハギだらけの服を着ての旅です。立派な身なりをしてたら、強盗に襲ってくれというようなものと彼は言いました。また護衛も要らないとアレナクサンは言いました。男の騎士は関所を通れないし、武術にすぐれた女兵士で、女の教養もちゃんとある人が見当たらなかったのです。
 
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「強盗とかに襲われたら逃げればいいよ」
とアレナクサンは言いました。
 

アレナクサンが言った通り、3人は庶民に身をやつしていたおかげで、強盗などにも襲われずにすみました。いかにも金が無さそうな歩き旅の貧乏人女を襲ってもしかたないと盗賊たちも思ったようでした。
 
少し行った所にサルマナスやカムソンから聞いた関所があります。
 
「今、怪しい盗賊団が出没しているので、男は通せないことになってる。女だけなら通れるぞ」
と関所の役人が言いました。
 
「私たちみんな女ですが」
と言って一行は関所の中に入ります。
 
関所の役人は3人を見て
「ああ、確かにお前たちは女だな」
 
と言います。結局胸も触られませんでした。実際、服の上から胸かあるようなシルエットになっているので、それで3人ともバストがあると思われたのです。
 
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更に全員名前を名乗らされましたが、侍女2人はもちろん女の声ですし、アレナクサンも声変わり前で女のような声なので怪しまれませんでした。
 
「声だけでは本当に女なのかは分からん。昨日も女に化けた男が50人もここを通ろうとした」
 
ああ、兄さんたちだなとアレナクサンは思いました。
 
「女ならば料理くらいできるだろう。お前たち、何でもいいから自分の得意な料理を作ってみよ。材料は何でも揃っているぞ」
 
それで料理の得意なザベルはパエリアを作りました。必ずしも料理はうまくないカリナもケバブを作りました。そしてアレナクサンはラガナス(現代のバクラヴァの源流となるパン)を焼きました。
 
「美味しい美味しい。お前たちは確かに女のようだ。通ってよいぞ」
 
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それで3人は関所を通過して旅を続けました。
 

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