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■アレナクサン物語(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2020-07-18

 
『アレナクサン−女になる息子』based on『アレグナサン−男になった娘』
 
昔、アール(Agri *)山の山麓に、アルマンという領主が住んでいました。奥さんは早くに亡くなってしまったのですが、3人の息子を遺してくれていました。
 
名前は長男がサルマナス、次男がカムソン、三男はアレグといいました。長男は武術に優れ、次男は学問にすぐれ、領主は将来を楽しみにしていました。三男のアレグは、少しひ弱で武術も学問もそれほどではないので少し心配していましたが、上の2人がしっかりしていれば大丈夫だろうと思っていました。アレグは優しい性格で、いつもお花畑を散歩したり、森で小鳥たちの声を聴いたり、またウード(琵琶に似た楽器 *)やネイ(笛の一種 *)を吹いて、侍女たちと遊んだりしていました。音楽が好きなようなので、父は都から教師を呼び、彼にハープシコード(*)も習わせていました。
 
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またアレグは、侍女たちに教えられて(「女みたいなことするな」と叱られそうなので父には内緒ですが)実は料理や裁縫なども覚えていました。
 
(*)トルコ東端、現在はアルメニアとの国境付近にある山。標高5137m. アールはトルコ語で、クルド語ではアララト。ノアの方舟はこの山に流れ着いたという伝説がある(Google Mapには「ノアの方舟」という表示がある!)。
 
(*)ウード(Ud/oud)はヨーロッパのリュート(ギターの源流)や東洋の琵琶の原型になった楽器で中東地域で広く使用されていた。プレクトラム(ギターのピックに似た道具)で演奏する。6コース11本の弦を張る。
 
(*)ネイ(ney)は主として葦などを利用して作られた縦笛(現代ではブラスチック製のものも多数作られているしプロ用の金属製ネイもある)で、表に5個、裏に1個の指穴がある。5000年ほど前から演奏されていたといわれ、世界最古の現役楽器ではという説もある。なお名前が似ているがルーマニアのナイ(nai)は、いわゆるパンフルート。
 
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(**)ウード、ネイにもうひとつカーヌーンという楽器が伝統的中東音楽の基本楽器とされる。
 
(*)ハープシコードはピアノの源流となる鍵盤楽器だが、14世紀末にHermann Pollという人物(詳細不明)により発明された。ちなみに鍵盤楽器としてはオルガンの方がもっと古い。打弦楽器としては中世に“弦タンバリン”(ttun ttun)という楽器があった。笛と弦を張ったタンバリンがセットになった楽器で、ひとりで同時に両方を演奏する。↓に演奏例の動画がある。
https://youtu.be/WmTcE0G1JT8
 
この楽器の手で弦を打っている所をオルガンと同様の鍵盤式に改造したのがハープシコードの原型ではという説もあるらしい。
 
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アレグに笛を教えてくれたのは、カリナという侍女で、実はアレグの乳姉です。アレグは小さい頃からよく彼女と遊んでいました、彼女はアレグにとって、ほとんど実の姉に近い感覚で、カリナもまるで自分の実の弟であるかのようにアレグを可愛がってくれました。
 
アレグがもうひとりよく遊んでいたのはザベルという侍女で、彼女からは料理や裁縫を教えてもらいました。カリナはこのザベルとも仲がよく、しばしば3人でお散歩などもしていました。
 
カリナにはミナスという兄がいて、車大工(*)をしていたのですが、手先が器用で、笛作りも得意でした。お祭りで使う笛などもたくさん作っており、実はアレグが小さい頃から笛を吹いていたのも、このミナスから笛(ネイ)をもらい、(カリナに)吹き方を習っていたからでした。
 
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(*)荷車などの車輪を作る職人を車大工(wheelwright)という。荷車自体を作る職人は荷車大工 cartwrightである。wrightというのは製造者を意味し、船大工はshipwrightである。作曲家ハイドンの父はwheelwrightで、竪琴奏者だった。仕事の合間に吟遊詩人(現代なら流しの歌手!)的なことをしていたらしい。
 

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「ちょっと新しい笛を作ったんだけど試してみない?」
とある日、ミナスは言いました。
 
「あれ?これどこから息を吹き込むの?」
 
昔は笛といえぱ縦笛なので、通常管の端に唄口があるのですが、この笛は端が閉じています。
 
「この笛はここで鳴らすんだよ」
と言って、ミナスは管体の横についている、やや大きな穴を指さしました。
 
「ちょっとやってみるよ」
と言ってミナスはもう1本同形の笛を取ると、そこに唇を当てて音を出してみせました。
 
「笛を横に持つんだ!」
「アルムスタレドといってバグダッドの方では流行っているらしいんだけど、まあ翻訳すれば、ライナキ(横笛*)って感じかな」
 
「へー、ライナキ・・・」
と言って、アレグも吹こうとしてみるのですが、音が出ません。スースーと息の通る音がするだけです。
 
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「唇の当て方が難しいんだよね」
と言って、ミナスはアレグが持っている笛に触りながら教えてくれました。それでアレグも10分くらいで音が出るようになりますが、ミナスほどきれいには音が出ません。音より息の方が大きい感じです。
 
「まあ後は練習次第だな」
 
それで以降、アレグはこの“ライナキ”をたくさん練習して、まともな音が出るようになりました。そして、縦笛(ネイ)と並ぶ、アレグのお気に入りになったのです。
 
(*)横笛(transverse flute)は11世紀頃に東ローマ帝国から西ヨーロッパにも伝わったとされる。つまりその頃までには東ローマ帝国の地域(この物語の舞台!)では作られていたことになる。ただし普及した形跡は無い。ヨーロッパでは、最初ドイツでやや広まったのでドイツ式フルートとも呼ばれた。しかし17世紀頃にイタリアでフラウト・トラベルソ(現代のフルートの原型となる楽器)が生まれるまで、横笛は極めてレアな存在だった。中世は縦笛の時代であり、フルートといえば通常は縦笛(リコーダー系)を意味していた。
 
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ある時、コンスタンティノープル(*)の皇帝から、帝国全土の領主に御触れがあります。皇子ファルマーが成人なさるので、年頃の娘がいる場合は、ぜひ侍女として仕えさせるようにというのです。
 
(*)物凄く大雑把なことをいえば現在のイスタンブール(平安京と現在の京都市程度の差)。
 
ファルマー皇子はまだ独身です。侍女として仕えていれば、目に留められて妃(きさき)にと所望される可能性もあるでしょう。そこで多くの領主が年頃の自分の娘・孫娘を都に送り込んだのです。中には親戚の娘をいったん自分の養女にしてから送り込んだ領主もいました。
 
アルマン侯は悩みました。
「私に年頃の娘がいたら、別に妃にまでならなくても、ぜひ皇子様にさしあげたい所だが、うちは男ばかりだからなあ。まさか女の格好をさせて送り込むわけにもいかないし」
 
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娘を仕えさせろというのは、人質が欲しいという意味もあるのでしょう。ですから、年頃の娘がいないからといって誰も差し出さないと、帝国に反抗する気があるのではと勘ぐられる危険があります。ですから多少年齢が高いか幼すぎても娘がいたら出した方がいいのですが、子供が全員男子ではどうにもなりません。生憎、妹のところも息子ばかりです。
 

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するとそれを聞いた15歳の長男サルマナスが言いました。
 
「親父の悩みは俺の悩みでもある。俺が女の格好をして皇子様にお仕えしよう」
「お前、本当にできるのか?」
と父は息子の言葉に耳を疑います。
 
しかしサルマナスは自分の乳母に領主の娘にふさわしいような女の服を用意させてそれを着ました。立派な髭も剃り落として、お化粧までして、かなり乗り気です。その格好で父の前に出ると
 
「おお、一応女に見えるではないか」
と驚かれました。
 
「では行って来ます」
 
と言って、サルマナスは女名前・サルマナサンを名乗り、部下2人にも女装させて!、護衛の騎士も連れ4人で馬(4頭)に乗り、意気揚々と領主屋敷を出ました。
 
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サルマナサンも部下2人も立派なドレスを着て馬に乗っています。それで途中で強盗団に襲われましたが、騎士とサルマナスや部下も剣を持って戦い、盗賊たちを撃退しました。
 
「騎士殿がいて良かった」
「いやいや、サルマナス様がいちばん凄かった」
 
ところが少し行った所に関所が出来ています。
 
「今、怪しい盗賊団が出没しているので、男は通せないことになってる。女だけなら通れるぞ」
と関所の役人が言いました。
 
「これは困りましたな」
と護衛の騎士が言いますが、女装している部下の2人が
 
「何かあった時は私たちが命に代えても若様、じゃなかった姫様をお守りします」
というので、女装のサルマナスと部下2人だけ通過することにしました。
 
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それで3人が関所を通るのですが
「待て」
と言われます。
 
そして役人は
「お前たち本当に女か?」
と訊かれます。。
 
「我らが女に見えぬか?}
「取り敢えず女だけど」
「俺も間違い無く女だぞ」
 
役人は
「ふざけるな。お前たち、身体付きもいかめしいし、声も男だし、言葉遣いも男ではないか。服だけ女の服を着てもバレバレじゃい。女を主張したいなら、クランプであそこを潰してから出直してこい」
 
部下の2人は立派な成人男性ですし、サルマナスも15歳なので、声変わりが来ており、男の声でした。それで3人は、追い返されてしまいました。
 

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様子を伺っていた騎士も一緒に屋敷に帰ることにしました。
 
「確かにサルマナス様はもう男の声になっていますからね。いくら姿形が女であっても、声は誤魔化しようがありませんな」
と騎士も言った。
 
「我らも声はごまかせん」
と部下も言います。
「そもそも身体付きが立派な男だし」
と騎士は指摘します。
 
「でも役人が言ってた『クランプで潰してから出直せ』ってどういう意味だろう?」
とサルマナスは疑問を口に出します。
 
「それはやはり・・・」
「あれを潰せということでは?」
と部下たち。
 
「あれって?」
とまだ分かっていないサルマナスが訊くと、騎士が
「キンタマですな」
と言いました。
 
「え〜〜?なんでそんなの潰すの?」
「男の身体を作るのは、キンタマが分泌している“男の精”ですから。それを取るか潰すかすると、随分女らしくなるようですよ」
 
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「そういうもんなの?」
「むかしバグダッドで玉を取った男を見たことがありますが、本当に女のような雰囲気でした」
「へー!取る人もいるんだ!?」
「まあちょっと需要がありましてな」
と騎士は言ったが、詳しい話まではしない。
 
「牛なども気性の荒い牛は、玉を切り落とします。するとおとなしくなりますし、お肉にした時も、メス牛のお肉のように柔らかくおいしいお肉になるのですよ」
 
「牛ってメスの方が美味しいんだっけ?」
「オス牛のお肉は硬くてまずいですね」
「あ、硬そうというのは分かる」
 
「人間も玉を取ったり潰すと、女のように柔らかい身体になりますよ。サルマナス様、キンタマ取っちゃいます?」
 
彼は少し考えたものの
「いいや。やはり俺には女に化けるのは無理だったかも」
と言いました。
 
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