広告:ここはグリーン・ウッド (第6巻) (白泉社文庫)
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■男の娘と魔法のランプ(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2021-07-31
 
アニトラが目を覚ますと、母がそばに居て、心配そうな顔をしていました。
 
「目を覚ましたかい」
「ボク、どのくらい寝てた?」
「あんたが店の奥で倒れてたから、大騒動で。取り敢えず布団を敷いて寝せて。お医者さん呼んだけど身体に異常は無いと言って、恐らく疲れが溜まっていたのではと言ってた」
「今、何時くらい?」
「今は朝だけど」
「じゃ半日くらい寝てたのか」
「どこか痛かったり、辛かったりする所は無いかい?」
 
アニトラは自分の身体をあちこち触ってみました。胸に触った時、ドキッとしましたが、平静を装います。
 
「特にどこも痛くないよ。ほんとに疲れが溜まってたのかもね」
「あんた働き過ぎだもん。月に2〜3日は休んだほうがいいよ。お店のことはシュクリーあたりに任せてさ」
「そうだねー」
 
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母が退出してから、アニトラは服を脱いで、自分の身体を確かめてみました。
 
服の上から触った時も感じた通り、胸には豊かな乳房ができていました。
「乳当て、ちゃんと着けなきゃー」
と思います。
 
そして・・・お股の所には邪魔でしょうがなかった男の印が無くなり、代わりに美しい女の印ができていました。アニトラは信じられない思いで、自分のお股をたくさん触りました。
 

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そして半月もすると、月の使者がやってきました。アニトラはびっくりしましたが、これで本当に女になれたんだというのを実感しました。
 
ただ、月の使者が来ている間は仕事を休まなければならないので、面倒だなと思いました。でもこれまでひたすら休む暇も無く働いていたので、これはこれでいいのかも知れないと思いました。それでアニトラは母にも言われたように、毎月3〜4日仕事を休むことにしたのです。
 
月の者の期間中は、リームに自分の身の回りの世話をしてもらい、呉服屋の仕事は、シュクリーを番頭に任命して任せ、特に判断を迷うような場合のみ、お店の近くに建てた引き籠もりのための家まで聞きに来てもらいました。
 
この家はランプの精に頼んで一晩で建ててもらったものですが、簡単なものでいいからと言ったのに、どこの皇族方の別荘かという感じの立派なものになっていました(ランプの精は程度を知らない)。土地はアニトラの名前で勝手に買っちゃったようです。
 
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アニトラが本物の女になってから、2ヶ月ほどした頃、アニトラのお店の前に豪華な馬車が停まります。
 
何事かと思ってアニトラが出て行くと、皇帝陛下が馬車から降りてくるので、さすがのアニトラも仰天しました。
 
アニトラも従業員も、居合わせた客たちも地面にひれ伏して、かしこまります。
 
「アラディンは?」
と皇帝がアニトラに尋ねます。
 
「仕入れに出ておりますが」
「それなら良い。そなたがどうしてもうちの皇子と結婚しないと言うから」
「大変申し訳ありません。私はどんな男の方とも結婚しないつもりなので」
「だから代わりにそなたの兄に、うちの姫バドルルバドールを“やる”」
「は?」
 
「ほれ、バドルルバドール、恥ずかしがらずに降りてこい」
と皇帝が言うと赤い“花嫁衣装”を着た、バドルルバドール皇女が馬車から降りてきました。そして
 
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「ふつつかものですが、よろしくお願いします」
などと言っています。
 

「陛下、お待ち下さい。兄の意向も聞いてみないと」
とアニトラは焦って言います。
 
「気にすることはない。妻の1人としてもらってやってくれ。じゃな」
と言うと、皇帝は馬車に乗って帰ってしまったのです。
 

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アニトラは取り敢えず、姫を輿に乗せて自分が月の者の時に使っている別宅に案内しました。大臣ワラカに使いをやり、皇子の宮殿に仕えていた侍女と宦官を5人ずつこちらに回してもらい(そもそも彼女たちの雇い主はアニトラ)、その者たちに姫の世話をさせます。ランプの精に命じて姫の着替えや日常のお道具を用意させました。
 
「お兄様はいつ頃、お戻りになるんですか?」
などと姫は訊いています。
 
「兄は遠くまで仕入れに出てるので2〜3ヶ月戻らないかも知れません」
と取り敢えず言っておきます。
 
ずっとアニトラが付いている訳にもいかないので、母に応対をしてもらいました。
 

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母は言いました。
 
「くれるというのだからもらったら?」
「ボク女の子と結婚とかできないよぉ」
「あら、あんた男の人とは結婚できないかも知れないけど、女の人とならできるのでは?」
「ボクは心は女の子なんだから女の子と結婚なんて無理」
 
「あんたやっかいね。身体が男だから男とは結婚できないし」
 

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アニトラは、別宅用に料理係や警備係などとして大臣の口利きで信用できる者を雇い、3日ほどの内に、何とか姫が暮らせるだけの陣容を整えました。また、姫の元々の侍女の中で、姫がお気に入りの侍女を数人、皇宮から呼び寄せました。その侍女たちと、新宮殿から呼んだ侍女たちとの話し合いで、取り敢えずバドルルバドール姫が住む離宮?は回り始めました。実際ここは都の南側にあることから“ツーチェ離宮”と呼ばれるようになります。
 
「しかし、この後、どうしたものか」
とアニトラもマジで悩むのでした。
 

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実を言うと、皇帝としては、現在この国の体制が大臣ワラカとアラディンという2人によって支えられているので大臣の娘を皇子と結婚させるなら、皇女をアラディンと結婚させて、両者のパワーバランスを取りたいというのがあったのです。
 

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ところで、洞窟入口でのアラディンとのちょっとした行き違いでランプを入手できなかったためマグリブに戻っていたアシムですが、水晶玉で何気なく中国の様子を眺めていました。するとアラディンが大商人になり、皇帝のお気に入りとなって権勢をふるって?いるではありませんか。
 
「あの野郎、どうやってあの洞窟を抜け出したんだ?」
と訝りますが、こんな大商人になったのはランプの力を使ったからに違いないと思います。
 
そこでアシムはアラディンからランプを奪い取るため、再度、中国にやってきたのです。
 
(実際にはアニトラはランプの力も借りてはいますが、彼女の商売の成功や国民の人気はむしろ本人の努力によるものです。原作はアラディンが“どうしようもないバカ息子”から、少しずつ頭を働かせ、勇気と頭脳で国民の英雄へと精神的に成長して行く様を描いています。原作はアラディンの“成長物語”なのです)
 
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「あいつまた女の格好してやがる」
と様子を隠れ見てアシムは呟きます。
 
「しかしランプは持ち歩いていないようだな」
 
実際にはアニトラはランプの力に頼るのは、やむを得ない時だけなので、普段それを持ち歩く必要がないのです。
 
半月ほどに渡ってアラディン(アニトラ)の行動を見ていると、彼は仕事を終えると自宅に帰り、そこに皇帝の娘を住まわせているようです。
 
「あいつ、皇帝の娘までもらったのか。それにしても、昼間は女の振りして人を油断させといて、毎晩家に帰ると姫様といいことしてるんだな?許せん」
 
とアシムは憤りました。
 

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もっとも“アラディン”がバドルルバドール皇女と床を共にすることはありません。
 
皇女は“結婚生活”しなくていいのかなぁ?と疑問は持っていますが、親の監視から離れて好きなように暮らせるのでここの暮らしが気に入っています。お気に入りの侍女だけを呼んでいるので、昼まで寝てても叱られないし、頭が痛くなるようなお勉強もしなくていいし、アニトラさんが色々親切にしてくれるので、お気楽生活をむさぼっています。アラディン本人とは時々一緒に食事をしますが
 
「済まない。またすぐ出なければいけないから」
と言って、握手!しただけで、どこかに出かけてしまい、セックスどころか口づけもしていません。
 
でもその一緒に食事をしている時は、とても楽しいし、彼は
「君には決して不便をさせたりはしないから」
と言っているので、まあ愛してはくれてるみたいと思います。
 
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自分と寝ないということは、他に妻がいるのでは?とも思ったのですが、それとなくアニトラさんに尋ねてみると
「ここだけの話ですが、実は兄は女性が苦手なんですよ」
と言います。
 
「もしかして男の人が好きなんですか?」
「恋愛自体がダメみたいですね」
「へー」
 
「ですからアラディンの奥方は姫様ただ1人ですから、自信を持って下さい」
「分かった」
 
それで、女性が苦手というだけなら、自分は処女妻でもいいのだろうと考え、日々、侍女と囲碁や双六(バックギャモン)などしたり、琵琶など爪弾いたり、本を読んでもらったりしながら、のんびり暮らしています。
 

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アシムはずっとアラディン(アニトラ)を監視していて、彼が帰宅するのは夜だけであること、昼間、自宅には姫とその身の回りの世話をする者だけがいることを知ります。それでたぶんランプはこの自宅に置いているのではと想像しました。皇宮の隣にもっと大きな宮殿ができていて、明らかにランプの精に作らせたものと思われましたが、アラディンは出入りしてないようなので、そちらにはこれから移るのかなと思いました。
 
そこである日、変装して店の者のような振りをし、アラディンの自宅を訪れて姫の取次ぎの者に言ったのです。
 
「御主人様からお使いに参りました。御主人様の部屋に置かれています、古いランプを持って来てくれと言われたのですが」
 
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「姫様に確認します」
と取次ぎの者は言って下がりました。それで姫様に伝えると
 
「ああ、なんか古いランプがあったわね。ちょっと待って」
と言うと、アニトラの部屋に入り、そこの机の上に置かれている古いランプを取ります。
 
「これを渡してあげて」
と侍女に言いました。
 
それで取次ぎの者はそのランプをアシムに渡してしまったのです。
 

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アシムはランプを受け取ると、お店の方に行くような振りをしてそこを離れ、ある程度離れた所でランプを、こすりました。
 
3mほどの巨人が現れます。一瞬、ん?という顔をしたものの、決められたセリフを言います。
 
「私はランプの精でございます。ご主人様、何なりと命令をお申し付け下さい」
 
「よし。まずは皇宮の隣に建っている豪華な宮殿をマグリブの俺の家の所に移動しろ。それから姫をその宮殿に連れて来い。そして俺もそこに連れて行け」
 
「たやすいことでございます」
とランプの精は答えました。
 

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アシムが気がつくと、目の前に大きな宮殿が建っています。あたりの様子を伺うと、ここは間違いなくマグリブのようです。が、彼は呆然としました。
 
「なんで、俺の家が潰れてるんだ!」
 
ランプの精を呼び出して文句を言います。
 
「御主人様はご自分の家の所に宮殿を移動するようにおっしゃいました。私はそれに従っただけでございます」
 
そう言われると、確かに自分の言い方が悪かったかも知れない気がしました。それでランプの精を下げます。まあランプが手に入ったのだから、自分はもう世の中で最高の金持ちになったんだ。古い家のひとつやふたつどうでもいい、と思い直しました。
 
それで宮殿の中に入っていきます。長い廊下を歩いた先に大広間があり、そこに心細そうな顔をした美女が立っていました。
 
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「これはこれはお姫様。わが館へようこそ」
 
「そちは誰じゃ?」
と娘は厳しい顔でアシムを詰問します。
 
「私は世界一の権力者であるアシムです。そなたには私の妻になってもらいたい」
 
「ふざけるな、下郎。身分を知れ。妾(わらわ)に狼藉でもしようものなら、わが父に言って、そなたきつくお仕置きするから、覚悟せい」
 
「おお、これは威勢のよいお姫様だ。まあ時間はたっぷりある。ゆっくりと口説かせてもらうよ」
と笑って、アシムは取り敢えずその場から引き上げました。
 

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この宮殿に仕えていた侍女や宦官も宮殿ごとマグリブに飛ばされていました。空き家と思っていた宮殿に、そんなに使用人がいたのにアシムは驚いたのですが、ちょうどいいので、アシムは侍女たちに姫様のお世話をするよう命じました。また必要なものがあれば何でも言うように言いました。
 
侍女たちの中のひとり、ウマイマが厳しい表情でアシムに言いました。
 
「我らは元々姫様に仕えるように命じられているから、そなたに言われなくても、姫様のお世話は致す。しかし、そなたが、万が一にも姫様に乱暴なことをしようとしたら、我らは命に代えてもそれを阻止するから覚悟せい」
 
「うむ。あっぱれな覚悟である。私も強引に女を自分のものにしようとはしないぞ。ちゃんと言葉で口説き落とすから、案ずることはない」
とアシムも言いました。
 
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その後、アシムは毎日姫を口説こうとするのですが、姫は取り付く島もありません。しかしアシムは焦ることはないと思い、1年掛けても2年掛けても口説き落とそうと思っていました。何年掛けてでも皇帝の娘と結婚できれば、中国に戻れば自分は大権力者になれる、と考えたのです。
 
(誰も知らない男が唐突に皇帝の娘と結婚したと言っても国民が支持しないということを彼は理解していない)
 
アシムは姫と一緒に食事を取りたいと思っていたのですが、姫が拒否するのでそれも無理はせず、ランプの精に自分の分と客人の分と各々食事を用意させ、別々に食べていました。
 
しかし1週間ほど経ったとき、姫から使いの者が来て言ったのです。
 
「本日は姫様の御誕生日であるゆえ、特に夕食に同席することを許す」
「おお、それはお祝いをしなければ」
「ところで、姫様はここに来てから、ずっとアフリカのお酒ばかり口にしておられる。中国のお酒が用意できるか?」
 
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「ああ、それは用意させよう」
 
それでランプの精を呼び出して中国のお酒を持ってくるよう言いますと、ランプの精は宜賓元麹(*11)を持って来てくれました。
 
(*11)日本でもファンの多い五糧液の旧名。茅台酒と並ぶ代表的な白酒。中国では乾杯は白酒で行うのが基本。強烈な香りがあるので元々の味と香りを知らない人なら“何か”混ぜても気付きにくい。
 

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男の娘と魔法のランプ(5)

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