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■男の娘と魔法のランプ(3)

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しかしアニトラがお店の店頭で娘の髪型のまま、テキパキと商売をしているのを見て、同業者などから
 
「あんた、凄い商才がある。うちの息子の嫁になってくれないか」
 
などという話が度々持ち込まれてきて、アニトラ“の母”!が断るのに苦労するというのが数回ありました。
 
それでアニトラは言いました。
 
「お母ちゃん、もう縁談断るの面倒だから、笄礼しちゃおうよ」
「え〜〜〜!?」
 
「そしたら、既に結婚しているのだろう、あるいは婚約者がいるのだろうと思ってくれるから、縁談に悩まされなくて済むよ」
 
「そうだねぇ」
 
それでアニトラの母は、自分の姉に頼んで、アニトラの笄礼式をやってしまったのです。母の姉は「あれ?あんたの所、息子さんじゃなかったっけ?」と首をひねりながらも、(女の)礼服を着たアニトラに笄を着ける儀式を執り行ってくれました。
 
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それでこれ以降、アニトラは成人女性(≒既婚者)としてお店に出たので、縁談に悩まされなくて済むようになりました。
 

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その日カミルはアニトラのお店に来ると
「ずっと気になっていた」
と言って、店の応接室に入れてもらいます。
 
「アーちゃんさぁ、その金の皿に盛ってある石」
「ああ、このガラス玉?きれいだから盛ってみたんだけど」
「それガラス玉ではないと思う。宝石だと思う」
「うっそー!?」
「一度宝石商に鑑定させてみなよ。別に売らなくてもいいからさ」
「うん」
 
それでカミルが宝石商を呼んで見せてみますと、宝石商も驚いたような顔をします。
 
「こんな大粒のルビーやエメラルドは見たことない」
と宝石商。
 
そういう訳で、アニトラが所有していた“ガラス玉”と思っていたものは、赤い石はルビー、青い石はサファイア、緑の石はエメラルドや翡翠、水色の石はアクアマリン、紫の石はアメジストやラビスラズリ、黄色い石はトパーズ、白い石はオパール、透明な石はダイヤモンド、といった具合に全て宝石だったのです。しかもどれも大粒で、国宝級だと宝石商は言いました。
 
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「これ全部売るとたぶん10万ディナール(100億円)くらいになりますよ」
「うっそー!???」
 
「もっともこんな高価な宝石買えるのは皇帝陛下くらいかも知れませんけどね」
「あ、そうですよね。だったら持ってても宝の持ち腐れだ」
 
「だけどアーちゃん、こんなのが無造作に置いてあったら、これを狙う盗賊とか入って、アーちゃんもお母さんも盗賊に殺されるかも知れないよ」
 
「それは困るな。商売は順調だから、こんなお宝別に無くてもいいし」
 
「いっそ皇帝に献上しちゃう?」
「あ、それでもいいかな」
 

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それで、カミルの助言に従い、アニトラは久しぶりに男装し、アラディンの姿になり、金の皿に大粒の宝石を盛って(応接室用に大玉のルビーと翡翠だけ残した)、呉服商組合の組合長さんにも付き添ってもらい、皇帝陛下に謁見してこの宝石を献上したのです。
 
「おお、私もこんな美事な宝石は初めて見た。こんなものをもらってよいのか」
「はい。ある縁があって入手したものですが、こんな美事な宝石を民間人の許に置いておくのはよくないと思いまして」
 
「分かった。それでは宝物館に置いて、国民も見ることができるようにしよう」
と皇帝陛下はご機嫌の様子で語りました。
 
なお皇帝陛下は御礼にと言って金貨を1000枚(1億円)もくれました。
 
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アニトラはその資金を元に、隣のシーチンの町にも呉服屋の支店を出し、ここしばらく使用人の中で中核になってくれていた、サリーという男にそちらの支店を任せることにしました。それでアニトラの商売はますます発展していました。
 

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アニトラが15歳の時、北方でマルレア族が新しい国を建て、勢力を拡大しようと南進してきました。皇帝の守備軍はヒュー川北岸のハラセンで迎撃したのですが、武将同士の連携が悪く、敵の倍の勢力を持っていたのに、若く士気の高いマルレア軍に各個撃破されてしまいます。将軍以下、8人の有力武将まで戦死する大敗で総崩れになります。マルレア軍はヒュー川を越え、更に南下する勢いを見せていました。
 
アニトラの昔の“悪ガキ”仲間で、少尉になっていた貴族の息子シャーヒルがアニトラの店に来て言いました。
 
「今国軍は大混乱に陥ってる。将軍以下北方を守っていた有力武将が総討ち死にして「もうダメだぁ」と言って逃亡する兵士まで出ている。皇帝は南方守備軍をこちらに回すことを考えているけど、南方が手薄になったら、ダイベット(ベトナム)は必ず北進するし、南東部を頻繁に荒らし回っているリーペン(日本)だって、本気で本土に拠点を確保しようとする。だから南方の守備軍は動かしてはいけないと思うんだ」
 
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「ボク、そういう話分からなーい」
とアニトラは言います。
 
「アニトラ、北伐軍を率いてくれないか?」
「はぁ〜!?ボクはただの、か弱い女の子だよ」
「こちらの4倍の勢力だったヤンスー・ハウジェン・ピカレスの連合軍をアニトラの指揮で全部倒した時は俺ワクワクしたぜ」
「ガキの勢力争いと、国同士の戦いはまるで違うよ」
 
「そんなことない。全体の状況を俯瞰して把握し、その場その場で柔軟に最も効率のいい戦い方を仕掛ける力をアニトラちゃんは持ってる」
 
「買いかぶりすぎだと思うなあ」
 
「それにこのままマルレアが南進してくると、かなり領地を奪われるし、へたすると帝都でさえも無事では済まないかも知れない。アニトラちゃん、頼む。手を貸してほしい」
 
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帝都にまで北方民族が入ってこられては、たまりません。それでアニトラは立ち上がることにしました。
 
アニトラは普段の姿のまま北伐軍に参加するつもりだったのですが、
「女だと馬鹿にして従わない奴がいるだろうから」
と言われて、不本意ながら男装して付けひげもしてアラディンの姿になり、シャーヒルと一緒に皇帝の所に行きました。
 
「陛下、私に1000人の兵を預けて下さい。必ず敵をヒュー川まで追い返してみせます」
 
ランプの精も使って情勢分析すると、その程度までは押し返せそうな気がしたのです。
 
「そなた、宝石を献上してくれたアラディンか。分かった。3000人預ける」
 
それでアラディンはシャーヒルとともに皇帝から預けられた親衛隊中心の3000人の兵を率いて北方に向かいました。
 
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ここでアラディンにとって幸運だったのは、預けてもらった兵士の大半が親衛隊に所属していて、志気も高く団結力があったことでした。アラディンは親衛隊長のナセルと話し合い、自分がどういう作戦を考えているかを話しました。ナセルもアラディンと話してみて、彼がよく敵軍の配置状況を把握している上に、ひじょうにしっかりした戦術理論を持っていることを感じ、全面的な協力を約束してくれました。
 
「兵を3つに分ける。乙軍はシャーヒル、丙軍はダウワースが率いてくれ。ボクは甲軍を率いて、いったん敵軍に攻撃を仕掛ける。そして10分後に負けた振りをして逃げ出す」
 
「それで向こうが追いかけてきた所を両側から挟撃するんだな?」
「この場所は中央が低く、両側が小高い丘になっている。これをやるには絶好の場所なんだよ」
 
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「私は?」
とナセルが訊くので、
「ナセル殿は300人ほどで後方で控えていて、私の率いる軍の突撃・10分後に、太鼓を鳴らしてください。それを合図に私たちは偽装退却を始めます。そして敵軍が充分狭地に入り込んだ所で、今度はシャーヒル隊がラッパを鳴らします。そしたらナセル殿の隊も一緒に総攻撃です」
 
「分かった」
 
こういう“偽装退却”をおこなう場合、鍵となるのが中央で退却を装う囮部隊です。アラディンは、ナセルと話し合い、親衛隊の中でも精鋭300名を選抜しました。更にプラス300名はその後方に置いて、戦闘もせず!単に逃げるだけの役目を課します。こちらがある程度の人数いるように見せるための頭数です。親衛隊副隊長のファイサルにこの300名を任せます。
 
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シャーヒル隊・ダウワース隊が深夜静かに移動し、左右の丘の上に隠れます。みんな頭の上に草や枝などをかぶり、自然の風景に溶け込んでいます。
 
早朝、アラディン率いる精鋭部隊が敵に攻撃を仕掛けます。大量の矢を撃ち込んだ上でアラディン自ら先頭に立って騎馬兵が野営地に突入します。向こうは早朝の奇襲と思い慌てますが、何とか戦います。向こうがまだ混乱している時にナセルの命令で太鼓が叩かれ、アラディン隊は退却を始めます。ファイサル隊も戦わないまま退却です。
 
それでアラディンの部隊が退いていくと、向こうはこちらを潰すチャンスとばかり追撃します。敵の主力が谷間に入った所でシャーヒル隊のラッパが吹かれ、左右から別働隊の攻撃が始まります。最初に大砲をたくさん撃ち込み、更に大量の矢も丘の上から射込んでから、騎馬兵が一気に丘を駆け下りて速攻を掛けます。同時にアラディン隊・ファイサル隊も反転して、控えていたナセル隊と一緒に再度戦闘します。
 
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相手は同時に三方向から攻められて混乱の中、壊滅状態になりました。これで実は敵の大将も討ち死にしたのです。
 
向こうは退却し、いったんヒュー川の南1kmほどの所まで退きました。
 

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「このまましばらくにらみ合いになるかな」
とナセル親衛隊長は言ったのですが、
 
「退却のどさくさに紛れてマルレア語の分かる者数名に、倒れた敵兵の服を着せて敵陣に忍び込ませたのですが、彼らからの報告によると相手は王の弟が今朝の戦闘で亡くなったそうです。きっと、指揮系統が混乱しています。叩くチャンスです。このままヒュー川の向こうまで追い払いましょう」
 
「間者(かんじゃ)を入れるとか用意周到だね!何か作戦があるかな」
 
「向こうの指揮系統が建て直される前、今夜やります」
「うん」
 
アラディンは密かにランプの精を呼び出し、牛を400頭と灯りをつけられるトーチを5000個用意して欲しいと言いました。
 
「たやすいことでございます」
 
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アラディンは悪ガキ時代の仲間で、牛飼いの息子であるシラージュとナイルを呼びました。
 
「君たちに200頭ずつの牛を任せる。200人ずつの兵も任せる」
「牛で何をするんだい?」
 
「日が落ちたら、牛を連れて敵の左右両側に回り込んでくれ。今夜は真夜中に月が沈む。その月が沈んだのを合図に牛の両方の角(つの)につけたトーチに火を点ける。兵も1本ずつトーチを持つ。それ以外に樹木とかにもたくさんトーチを固定して、それにも火をつける」
 
「なんとなく分かった」
 
「本当は200人しかいなくても、トーチの灯りは1000個見える。その内の半分が動いていれば全部動いているように見える。1000の灯りは夜目には2000-3000に見える」
 
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「見える見える」
 
「相手はいつの間にか大勢力が動員されてきて夜襲を掛けられたと思うだろう。指揮系統がまだ回復していない。きっと大混乱に陥る」
 
「そこを本隊が叩く訳ですね」
とナセルは楽しそうに言いました。
 

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牛を連れる役割は、農作業や牛車係などで牛の扱いに慣れている者を中心に400名選抜しました。
 
本隊の兵たちには交替で仮眠しておくように命じておきます。
 
日没。シラージュとナイルが各々率いた200人の兵が200頭の牛を連れて、各々目立たないよう静かに敵の左右に回り込んでいきます。
 
空には下弦の月が輝いています。
 
それがそろそろ沈むという頃、本隊の兵士たちを起こして静かに戦闘準備をさせます。
 
やがて月が西の空に沈みます。
 
敵陣の左右ににわかに多数の灯りが出現します、
 
アラディンの予想通り、敵は大規模な夜襲と思って大混乱に陥りました。前面からも皇帝軍本隊の灯りが迫ります。敵は昨日三方から挟撃された記憶が蘇り、結局後方に逃走します。それはもう退却ではなくただの敗走でした。
 
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ヒュー川を渡りますが、夜中に川を渡るので流れに足を取られる者、深みにハマッてしまう者が相次ぎ、倒れるとその後から来た者が躓いて重なって倒れるという始末で、おびただしい死者が出ることになります。
 

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夜が明けると、ヒュー川のこちらにはほとんど敵兵は残っていませんでした。僅かに残っていた兵も捕えられます。
 
この“火牛戦”では結局皇帝軍の死者はゼロであったのに対して、マルレア軍は推定5000人もの戦死者(事故死者?)を出したのでした。
 
1ヶ月後、南方守備隊から約2割相当の1万人だけこちらに回されてやってきた新守備隊と交替して、アラディンたちの北伐隊は帝都に帰還しました。
 
3000人で行って戦死者は数十名に留まりました。
 

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この戦いでアラディンは英雄として、国民の人気が高まります。皇帝は感激して彼を将軍に任命すると言ったものの、
 
「私はただの呉服屋ですから」
 
と言って辞退し、元の呉服屋の主人に戻りました。
 
なおアラディンが戦いに行っている間、お店は母とサリーに、カミルもこちらに出て来て手伝ってくれていました。“アラディン”は出ていても“アニトラ”まで居ないのはおかしいので、従弟のアンタルに女装!してアニトラの振りをしていてもらいました。
 
「俺が女の服を着るの〜?」
などと言って、かなり嫌がっていましたが!
 
「足の毛とヒゲも剃ってね」
「そんな〜」
 
それで女の服を着、面白がった母親の手で化粧までされると
「何か変な気分になりそう」
と言っていました。
 
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国王はアラディンを呼んで相談しました。
 
「実はマルレアの再度の南進に備えて、ヒュー川南岸に土塁を作ってはどうかという意見があるのだよ」
 
「いいことだと思います。そういうものがあるだけでマルレアは簡単にはこちらを攻めることができなくなります」
 
「ただ、そういうものを作るには莫大な予算が必要で、どうしたものかと思って」
「どのくらい必要ですか」
「大臣の計算では40万ディナール(400億円 *9)くらい掛かるのではということなのだが」
 
「陛下、それに協力できないか、ちょっと持ち帰って検討します」
「すまん」
 
それでアラディンが帰ろうとしていた時、傍から大臣ワラカが言いました。
 
「もしその資金を用立てできるのであれば、その資金献上を40人の美女と40人の宦官の列で運べないか」
 
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「大変恐れいりますが、何のためでしょうか?」
とアラディンは尋ねます。
 
「この都にも必ずスパイは入り込んでいる。そいつらに我が国の国力を誇示するためだよ」
 
「なるほどですね。ご希望に添えないかも知れませんが、検討はします。もし私の力が及ばなかった場合は、大臣閣下にそのあたりはお願い出来ませんか?この国でいちばん力がおありの方ですから」
 
「そ、そうだな。君ができなかったらこちらで何とかする」
と大臣は焦ったように言いました。
 

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