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■男の娘と魔法のランプ(2)

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扉の向こうには確かに果樹園があります。まるで太陽が照っているように明るく屋外かと思いますが、遙か高い所に天井があるので、やはり洞窟の中のようです。
 
果樹園には色々な色のガラスの果実がなっていましたが、それには目もくれずに道を進んでいきます。階段を確かに30段上ると小さなおうちがありました。玄関の扉を再び、自分の名・父の名・母の名を唱えて開けます。すると玄関の間(ま)の天井に本当に古ぼけたランプがぶら下がっていました。
 
近くに台があったので、それに載って手を伸ばし、ランプを取ります。油が入っているのは捨てて、それを自分の服の中に入れました。
 
帰ります。
 
帰りは何でも取っていいと言ってたなと思い、アラディンは、果樹園になっている赤や青のガラスの果実を適当にもぎとり、服のポケットや袖に入れました。
 
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黄金の間を通って入口の階段まで来ます。そして階段を登っていったのですが、階段の最上段から出口まで物凄く高さがあり、アラディンは出口まで手が届きませんでした。(彼がここから出られなかった理由は後述)
 
「おじさーん。入口まで来たけど、階段から出口まで高いんだよ。手を貸して」
とアラディンは外に向かって叫びます。
 
アシムの顔がのぞきます。
 
「ランプは取ってきたか」
「うん。取ってきた。ここから出るのに手を貸して」
「取り敢えずランプをよこせ」
「先に手を貸してよ。外に出たら渡すから」
 

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ここでこの後、2人にとって不幸なことが起きてしまうのです。
 
アラディンは外に出たらランプを渡すつもりでいます。ところがアシムはアラディンがすぐにランプを渡さないのは、自分が独り占めするつもりではと疑ってしまったのです。
 
ふたりはしばらくやり取りしますが、埒があきません。
 
とうとうアシムは怒りだしました。
 
「お前がそのランプを渡さないつもりなら、こうしてくれる」
と言い、何か呪文を唱えます。
 
すると入口の扉が閉まるとともに、大きな揺れがあり、アラディンは階段の下まで落ちてしまいました。
 

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アラディンは落下のショックで気を失いましたが、少しすると回復します。それで再度階段を登るのですが、入口の扉はしまっています。手が届けば押せる気がするのですが、最上段からそこまでとても高いためどうしてもそこに手が届きません。
 
「参ったな」
と思います。
 
アラディンは、洞窟の中をあちこち歩き回り、他に出口が無いか調べたのですが、どこにも出口らしきものは見当たりません。
 
「ボクはこのままこの洞窟で朽ち果てるのだろうか」
と座り込んで溜息をつきます。
 
「お母ちゃんもボクが帰らないと困ってるだろうな」
などとも思います。これまでずっと親不幸ばかりしてきて、母親の心配などしたこともなかったのですが、この時初めてアラディンは母の心配をしました。
 
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アラディンは時々立ち上がっては再度洞窟からの脱出口がないか調べ、疲れたら座って休んでいました。その内、お腹も空いてきましたし、夜になったのか、あたりは暗くなり、少し冷えてきたようです。
 
「寒いな」
と思い、アラディンは両手をこすりあわせました。
 
すると突然、何かがムクムクっと出て来たのです。
 
「わっ」
と声を挙げて座り込みます。
 
唐突に出てきたものは、ジン(*8)のようでした。身長2mほどあります。
 
(*8)アラブ世界の精霊の類い。
 

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突然ジンが出現してアラディンは腰を抜かします。しかしジンは言いました。
 
「私は指輪の精でございます。ご主人様、何なりと命令をお申し付け下さい」
 
『御主人様って、ボクのこと?」
「指輪をお持ちの方が私の御主人様です。私は指輪をこすれば出現します」
 
「だったら、ボクをこの洞窟から出すとかできる?」
「入口の扉を開けますから、そこから脱出できますか?」
「それが最後の段から出入口まで高くて自力で昇れないんだよ」
「別の道をご案内することもできますが」
「他にも出入口があるんだ?」
 
「石の扉があるのは男だけが出られる出口でございます。もうひとつ女だけが出られる木の出口もあります。入る時はどちらからでも入れるのですが、出る時は男は石の出口から、女は木の出口からしか出られません。女であればそこから出られるのですが」
 
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「ボク自分では女の子のつもりなんだけどなあ。ねえ、女の服を調達できない?」
「たやすいことでございます」
 
ジンはランプの掲げられていた家の中に入っていくと、そこから可愛い女の服を持って来てくれました。
 
「ありがとう」
 
アラディンは着ていた男の服を脱ぎ、半年ぶりに襖裙を身につけました。
 
薄紅色の襖を着て、赤いスカートを穿くと、これが本来のボクの格好だよなあと思います。もう彼は青年アラディンではなく、少女アニトラです。付けひげも外します。
 
男物の服に入れていたガラスの果実は、袋を持って来てもらってそこに入れました。ランプだけは身につけていたほうがいい気がしたので、襖の内側に入れました。腰の所は裙を紐で結んでいますので、それで下には落ちません。
 
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「これで女の子ということで通れないかな?」
と指輪の精に訊きます。
 
「木の出口にご案内します。洞窟が御主人様を女性と認めれば扉は開きます」
「やってみよう」
 
それでジンに付いていきますと、林の奥に草むらがあり、その草を掻き分けると小さな木の扉がありました。これは教えられないと分かりません。扉に手を掛け「私はアニトラ、父の名はムスタファ、母の名はドウハ」と言うと、ちゃんと扉は開きました。
 
「女性と認められましたね」
「良かった」
 
「御主人様が石の出口を出られなかった理由が分かりました。御主人様は女だから、あの出口からは出られなかったのです」
 
「そうだったのか!やはりボク女の子なんだね」
 
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「その中の通路を通ると外に出ることができます」
「ありがとう!助かったよ」
「いつでも御用がありましたらお呼び下さい」
と言って、指輪の精は煙のようになり、指輪の中に戻って行きました。
 
それでアニトラは、小屋の中にある通路を通ります。ほんの1分ほど歩くと、アラディンは外に出ることができました。
 

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何とか洞窟から脱出できたアニトラは木の実を食べながら山を越え、都に戻りました。自分の呉服屋に戻ります。
 
「お母ちゃん、ただいま。留守にしてごめん」
「アラディン!?」
「ボクはアニトラだよ」
「また女の格好してる」
 
「アシムおじさんからは連絡あった?」
「何もない。あんたもアシムさんもいないからこの1ヶ月、私はどうしたらいいだろうと思ってたよ」
 
ふーん。アシムはどこかに行ったのか。アフリカに戻ったのかなとアニトラは思います。しかし洞窟の中では1日しか居なかったのに、こちらでは1ヶ月経っていたのか。洞窟の中は時間の進み方が違うのかとアニトラは思いました。
 
「でもさすがにお腹すいた。何か食べるものない?」
「それがあんたもアシムさんもいないから商売もできなくて、食べ物も食べ尽くしてお金も使い果たして」
「ありゃりゃ」
 
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「でもあんた、なんか荷物持ってるね」
「ああ、これガラス玉なんだよ。きれいだから持って来た」
と言って、袋の中の様々な色のガラス玉を母に見せてあげます。
 
「服の中にも何か入れてる」
「こちらはランプなんだけどね」
と言って、アニトラは洞窟の中から持って来たランプを見せます。
 
「何か古いランプだね。でもこれ少し拭いて磨いたら売れないかね?」
と言って母はランプをぼろ布で拭きました。
 
すると突然何かがムクムクと出て来ました。それは3mほどもある巨人でした。母は「きゃー」と悲鳴をあげて気を失いました。アニトラはランプに飛び付くようにして手に持ちました。これは指輪の精と同じタイプのジンだと瞬間的に判断したのです。
 
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巨人は言いました。
 
「私はランプの精でございます。ご主人様、何なりと命令をお申し付け下さい」
 
「お腹が空いててさ、ボクと母の分の御飯を持って来てくれない?」
「たやすいことでございます」
 
それでほんの30分ほどで、ランプの精は金色の器に盛った料理を2皿持ってきてくれました。
 
「ありがとう」
「いえ。御用の際はいつでもお申し付け下さい」
と言って、ランプの精は煙のようになってランプに戻っていきました。
 

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アニトラは母をゆすって起こします。
 
「お母ちゃん、お母ちゃん」
「今のは何だったの?」
「ランプからジンが出て来ただけだよ」
「恐ろしい!そんな気持ち悪いランプは捨てておしまい」
「とんでもない。これは素敵なランプだよ。とにかくジンが持って来てくれた御飯を食べようよ」
 
母はジンが持って来たと聞いて、不安そうでしたが、アニトラが平気な顔をして食べているので、やがておそるおそる食べ始めます。
 
「美味しいね」
「うん。凄く美味しい」
とアニトラもニコニコです。
 
「でもこれからどうしよう」
「また商売するよ。ボク結構やり方覚えたから」
「そう?でも元手は?ごめん。私、お金使い果たして」
「この料理が載ってる金色の皿、値打ちもののような気がする。これが売れないか町で聞いてみるよ」
 
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それで食事が終わった後、アニトラはその皿をきれいに洗い、まずは1枚だけ持ち、父の仲間だった仕立屋さん・カミルの所に行ってみます。
 
「アラディンがまた女の子になってる」
「えへへ。この方が楽でさ。ところで、カミルおじさん、この金色の皿、どれくらいの価値だと思う?」
 
「どれどれ」
と言って、受け取ってみて「わっ」と声を挙げます。
 
「これは金(きん)じゃないか」
「やはり?重いからそうかもと思った」
「もしかしてこれを売るの?」
「うん」
 
「じゃ買ってくれる所教えてあげるよ」
 
それでカミルはアニトラを西方人の両替商の所に連れて行きました。両替商はその皿の重さを計ったり、水に沈めてこぼれた水の量を計ったりしていましたが、やがて言いました。
 
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「10ディナールでいいか?」
 
カミルとアニトラは視線を交わし頷きます。
 
「それでいいよ」
 
それでアニトラはその金の皿を10ディナールで売りました。
 
「カミルおじさん、ありがとう。これ御礼」
と言って、アニトラは金貨を1枚、カミルに渡しました。
 
「俺は店を紹介しただけだけどな」
と言いながらもカミルは金貨を受け取ります。
 
「私みたいな小娘1人で売りに来たら、きっともっと安く買い叩かれてるよ」
「小娘ね〜。まあ頑張りな」
「うん。1ヶ月くらいお店休んじゃったけど、再開するからよろしく」
「OKOK」
 

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それでアニトラは
「病気のため休業しておりましたが、お店を再開します」
と仕立屋さん、同業者などに挨拶に回り、金の皿を売ったお金を運転資金にして商売を再開しました。
 
アシムがいないものの、半年ちょっとの間に商売の仕方はかなり覚えていました。こちらをアニトラと母の女2人だけと見て欺そうとする客や脅そうとする客に対しては、アニトラが女番長時代の気合で対峙するので向こうも「すまん、すまん」と言って、ちゃんと正しい取引をしてくれました。
 
それでお店はすぐに順調になり、アシムがいた時同様に繁盛しました。
 
「あんた、お店を始めた人の妹さん?よく似てるね」
「そうですね。兄は主として仕入れで飛び回っているので、お店は私が主として切り盛りしてるんですよ」
などとアニトラが答えると、たまたま納品に来ていたカミルが吹き出していました。
 
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ある日、母はアニトラに言いました。
 
「あんたさ、14歳でしょ?そろそろ冠礼(男子の成人式)する?」
 
当時は男子の成人式はだいたい12-22歳くらいの範囲の年齢で行われていました。
 
「ボクが冠礼とかする訳無い。ボクはいづれ笄礼(女子の成人式)するよ」
 
「笄礼(けいれい)〜〜?だって、笄礼するということは、お嫁さんに行けるという意味だよ。あんたまさかお嫁さんに行く気?」
 
女子の成人式も12-20歳くらいで行われることが多かったですが、女子の場合は基本的に結婚が決まってから、成人式を行い、その数ヶ月後に婚礼をするというパターンが多く、結婚しない人は20歳くらいになってから笄礼していました。
 
ですから一般に髪をそのまま垂らしているのが娘の印で、頭頂に笄(かんざし)を差しているのが成人の女≒既婚者の印でした。
 
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「そうだなあ。誰かボクをお嫁さんにもらってくれないかなあ」
「夜のお務めはどうするのさ?」
「何とかなるんじゃない?」
と言う。
 
母は困ったような顔をしてアニトラを見ていました。
 

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