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(C) Eriko Kawaguchi 2021-05-02
「私、私、アクアはきっと特種合格だろうから、そのまま海兵隊とかに入隊して、3年間会えないって、覚悟してたのに。それでも待とうと思ってたのに」
とハヅキは泣きながら訴えた。
「ごめんね。私には人殺しはできない。だから兵役を拒否した」
「確かに、アクア、人を殺したくないって言ってたね」
とハヅキは何とか私のことを理解してあげようとするかのように言った。
「でも私はどうなるの?」
「ごめん。私はハヅキの夫になってあげることができない」
「じゃ、お別れなの?」
「ごめん。本当にごめん」
私は心底から彼女に謝った。
「私のこと嫌いになった?」
「ハヅキのことは今でも好きだよ。私、女になってしまったけど、ずっとハヅキのこと好きなままでいると思う」
するとハヅキは思わぬことを言った。
「だったら結婚してよ」
「無理だよ。女同士になっちゃったから」
「私、男だけど」
「は?」
「言ってなかったっけ?私男だって」
「待て、私はちゃんとハヅキの女の身体を抱いたよ」
「私、中学に入る前に性転換したから」
「何〜〜〜〜!?」
「でも20歳になるまで、市民登録証の性別は変更できないのよね」
「待て。でも妊娠するかもとか言ってなかった?」
「IPS細胞で作った子宮と卵巣があるから、妊娠は可能だよ。ちゃんと毎月生理来てるし」
と言ってからハヅキは悪戯っぽい微笑みとともに
「次の生理は来ないかも知れないけど」
と言った。
でも・・・ハヅキ、性別のことは私にバッくれておくつもりだったろ?まあどうせ私も性転換しちゃったから、ハヅキの性別のことは言えないけどさ。
「でもでも、ハヅキが男なら、徴兵検査は?」
「私は第1子だから免除」
「うっそー!?」
「アクアは市民登録も女になったの?」
「なった。これまだ仮の登録証だけど」
と言って、私はコスモス医師から渡された“性別女”と書かれた仮登録証を見せた。
「私の登録証はこれ」
と言って、ハヅキは
《イマイ・ハヅキ 性別:男》
と書かれた市民登録証を見せてくれた。
「私、アクアが兵役に就いている間に20歳すぎるから、そしたらすぐ登録証の性別を書き換えるつもりだった。でもアクアが女の子になっちゃって、それで私のこと、今でも好きというなら、私たちこのまま結婚しない?」
私は一瞬考えた。
「それいいかも」
「だったら善は急げよ。今日結婚しちゃおう」
「今日!?」
「嫌?」
「えっと・・・」
「だって、兵役拒否したから、性奉仕を4年間しなきゃいけないんでしょ?」
「うん」
「でも結婚した場合は、結婚した時点で残っている奉仕必要年数の1.5倍普通の奉仕活動をすればいい」
「確かに」
「高校を卒業したら、奉仕活動に入らないといけないなら、卒業前に結婚してしまえばいいのよ」
丙種・丁種になった人の奉仕活動は、普通の丙種丁種の人は、老人や傷痍軍人(しょういぐんじん:戦争の怪我で身体に障碍が残った人)のお世話や買物代行・犬の散歩等、災害とかの復旧工事、病院の入院患者の看護とか、街の清掃とか、書籍の点字翻訳とかの作業である。しかし、兵役拒否した人の場合は、男性軍人への性奉仕と決められている。
しかし結婚している女性に性奉仕をさせる訳にはいかない(戒律違反になる)ので、免除され、残期間の1.5倍の普通の奉仕活動に代えてもらえる。4年間まるごと振り替えられると6年間の奉仕活動をすることになる。それは性奉仕をするよりはずっとマシだと私は思った。
それで私たちはこの計画を双方の両親に話した。ハヅキの両親も、私の母も賛成してくれた。私の父は
「アクア?それ誰?」
などと言っていたが。
しかし、それで私とハヅキは翌週、結婚式をあげ、婚姻届も提出したのである。我が国では、男は17歳以上、女は13歳以上で結婚できる。私もハヅキも17歳なので結婚できた。
結婚式では、市民登録上男性であるハヅキがタキシードを着て、私がウェディングドレスを着た。そういう結婚式をあげないと、婚姻届が認められないからである。でも後で、衣装を交換して、私がタキシードでハヅキがウェディングドレスという記念写真も撮った。元々私とハヅキは大きな身長差があったのだが、私が縮んでしまったので、ほとんど同じ背丈になり、衣装が交換可能になっていた。
結婚式には、むろんハヅキの妹たち、私の兄たちも出席した。私の父は出てくれなかったが、時間を掛けて理解してもらおうと思う。
しかしこれで私は高校卒業後、性奉仕は免れて、老人や傷痍軍人の介護・病院での介護や清掃活動・災害復旧作業などの社会奉仕活動を6年間することになった。
そして・・・ハヅキは妊娠した!
あの晩のセックスが“当たって”しまったようである。
(多くの女子から人気であった私を確実に自分のものにするためにわざと排卵期に私を誘ったんじゃないかという気もする。あの晩ハヅキがかなり“淫乱”だったのも排卵期だったせいだ)
「市民登録が男なのに出産できるんだっけ?」
「男が子供を産んではいけないという法律は無いよ。ほら、ちゃんと“母子手帳”ももらってきた」
とハヅキは嬉しそうに母子手帳を見せた。
つまりハヅキは“男だけど母親”になることになる。そして私は“女だけど父親”になる。何か変な気分だ。
予定日は9月らしい。高校の卒業式は7月で、この頃は9ヶ月目だが、まだ臨月ではないので(臨月は8月上旬から)、普通に卒業式に出るよと言っていた。ただ、体育の授業やお祭りの集団行動は見学にさせてもらう。
その後、私は卒業式のある7月まで半年ほどの女子高生生活を送ったのだが、最初は女子トイレや女子更衣室で悲鳴をあげられるわ、身体検査では会場から追い出されるわ(結局個別検査してもらった)、なかなか大変だった。
でも少しずつ女子のクラスメイトたちも私が女生徒になっことを認めてくれるようになった。
女子トイレは
「私ちんちん無くなったから男子トイレ使えないんだよぉ」
と訴えると、
「それは仕方ないね」
と言って、使用を容認してもらった。
更衣室については、女子たちに念入りに“審査”された(だいぶ触られた)上で、
「じゃ女子更衣室を使ってもいいけど、目を瞑って使って」
と言われて、本当に目を瞑って着替えていた。目を瞑っていると自分の着替えを見つけきれないこともあるが、ポルカちゃんたちが代わりに手に取ってくれた。
身体測定は最後まで別途測定だった!
同様に強制性転換されたミサキとアケミだが、ミサキは最初から
「ミサキちゃん、一緒にトイレ行こうね」
とか
「恥ずかしがらないで、一緒に着替えに行こうよ」
とか言われて完全に女子の仲間として扱われていた。
ミサキは身体測定も恥ずかしがりながらも女子と一緒に受けていた。
アケミは女になってしまい、女子制服を着ているのに男子トイレを使おうとして
「お前は女になったんだから女便所使え」
と言われて追い出されていた。結局ミサキに連れられて女子トイレを渋々使っていた。
更衣室に関しては、先生に頼み込み、個室で着替えさせてもらうことにした。アケミの場合は、女になってしまったので男子と一緒には着替えられないが、女子と一緒に着替えるには、女子の下着姿を見て心が平穏に保てないと訴えたのである。アケミは完全に心が男である。
アケミも身体測定は私同様個別測定になった。
私はクラスメイトの女子たちから
「アクアちゃん、女の子になったんなら、お料理覚えなよ」
「アクアちゃん、女の子になったんなら、お裁縫覚えなよ」
とか言われて、女子の基礎的な教養を身につけることになった。
礼儀作法とかも、躾のよくできているカペラちゃんが指導してくれた。スカート穿いてる時に足を広げてはいけないとか、床に落ちたものを拾う時には腰を曲げるのではなく膝を落とすようにとかは、言われないと全く気付かなかった。
お裁縫についても、ポルカちゃんやカペラちゃんが熱心に教えてくれて、高校卒業までには、自分のスカートとかパンティくらいは縫えるようになった。
「アクアちゃんお裁縫の才能あるよ」
「そうかなあ」
「手先が器用だもんね」
「私、ビアノ弾くからかも」
「ああ、ピアノとかヴァイオリンする人は指の力が強い」
ブラウスとかドレスとかはまだまだ練習が必要と言われた(高校卒業して2年くらいでやっとまともに縫えるようになった)。
「でもお料理はダメね」
「私才能無いみたーい」
「お料理のできる男の子と結婚するといいかもね」
などと言われたけど、既に結婚してる!(みんなには秘密だけど:結婚したことを明らかにするとハヅキの性別までバレてしまう)
ハヅキは苦笑していた。ハヅキは料理がとっても上手い。
私は、ハヅキとの子供を育てるため、大学には進学せずに、仕事に就くことにした。
それで仕事を探そうとしていたら、思わぬ話が持ち込まれた。
性別が変えられてしまったので、男子選手としては自動的に引退になってしまうが、実は女子のジュニアチーム(U18)のコーチをしてもらえないかという話が飛び込んで来て、私はそれに応じることにした。
「アクアちゃん、スリーがうまいでしょ?特に女子の試合ではスリーが試合の行方を決めることもあるからさ。有望な中高生シューター数人を指導して欲しいのよ」
とチーム代表のムラヤマ・チサトさんに言われたのである。彼女は過去にオリンピックとワールドカップで合計10回もスリーポイント女王を取った、もはや伝説的な選手である。40歳すぎまでナショナルチームで現役を続けたが、さすがに数年前に引退した(でも国内プロリーグではまだ現役選手!)。
それで高校生中心(一部中学生)の女子チームを指導したのだが・・・
「アクアさん、なんでそんなに100発100中なんです?」
「女子の現役で行けるのでは?」
などと若い選手たちから言われる。
「いや、性別変更したら2年間は大会に出られないし」
(女子から男子への変更はこの2年間の待機期間が不要である)
「じゃ2年後には女子のナショナルチームに入ってくださいよ」
「2年後には、いくらなんでも君たちが私を追い越してるでしょ?」
この年は(ワールドカップ予選になる)アルカカップの年だったが、私は男子ではないから男子チームには入れないし、女子になってから2年経過してないから女子チームにも入れないので、どちらにも参加しなかった。リズムは大会の間だけ部隊から離れて参加し、彼の活躍もあって、わが国の男子代表は優勝でワールドカップに駒を進めた。女子代表は残念ながら4位でワールドカップ進出を逃した。
チサトさんが
「私の後継シューターがなかなか出て来ないなあ」
と嘆いていた。私が指導している中高生たちの中には、有望な子もいるものの、まだフル代表で活躍するにはレベル不足である。
ハヅキは予定通り9月に赤ちゃんを出産した。
女の子で私たちはマネという名前を付けて育て始めた。父は相変わらず私には何も言葉を発しないものの、マネのことは凄い可愛がりようであった。
テカトラとの戦争は一進一退の状況がずっと続いていた。しかしXX26年夏、ダイカルの潜水艦が誤ってスメリシの民間客船を撃沈してしまい2000人もの死者が出たのをきっかけに、スメリシがテカトラ側で参戦してきた。
この事件では海軍司令官が陳謝し、遺族に賠償金を払うと表明したものの、スメリシの国民が納得しなかった。
さすがに大国スメリシが参戦すると、こちらの旗色は急速に悪くなった。大きな決戦で我が国ダイカルは連敗し、大量の兵器、そして人員を失った。特に先頭で戦っていた海兵隊に大きな損害が出て、海兵隊の戦力が大きく低下。結果的にますますこちらが押される状況になった。
サッカー、バスケット、バレー、のプロスポーツリーグが全て休止になり、中高生のスポーツチームの活動も当面休止とされた。各スポーツのナショナルチームだけは活動を続けたが、いつ休止になってもおかしくない状態だった。
バスケットのワールドカップも、スメリシの圧力で、我が国は世界バスケット連盟から出場を拒否され、出場資格を得ていた男子チームの派遣ができなかった。