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それで俺はずっと考えていたことを言った。
「私は自分の良心に従って兵役に就くことを拒否します。自分が人を殺すということを私は許せません」
中尉さんの顔が曇る。
「きさま、気でも狂ったか?」
「私は正常です。私には戦闘し、人を殺す行為はできません」
中尉さんはかなり怒っているようだったが、テーブルの上のお茶を飲むと自分を落ち着かせるようにしてからこう訊いた。
「どうしても戦闘しないのか?君が敵兵に襲われたらどうする?」
「襲われても戦いません」
「君が街を歩いていたら敵機が襲来した。君のすぐそばに高射砲の発射台があったけど誰も居ない。今街を救えるのは君だけだ。君はどうする?」
「街のみんなに『早く逃げて』と呼びかけます。足の不自由な人とかを見たら避難の手伝いをします」
「君のそはに高射砲があるんだぞ。君が撃てば敵機を撃墜できるぞ。特に君の身体能力なら確実に撃墜できるはずだ」
「その敵機のパイロットだって、国に帰れば彼の帰りを待っている奥さんや子供がいるんです。どうしてそういう人を殺せるでしょうか」
「だったらこういうのはどうだ?敵兵が攻めてきて、君の恋人を連れ去ろうとした。連れ去られたら彼女はレイプされるだろう。君はどうする?」
「その兵士を説得します。戦場で現地の女性を襲うのはよくないことだ。やめなさいと説得します」
俺は中尉さんと1時間くらいにわたって激論した(結果的に俺の次の順番のルキアは1時間待たされた)。しかし俺はどんな状況でも決して戦わないという態度を貫いた。
1時間後、中尉さんは頭を抱えていた。
「やむを得ない。君のような優秀な人は特種にしたかったし、俺の部下に欲しいくらいだが、君は兵役拒否者として登録する。兵役の代わりに4年間の“奉仕”活動が必要である」
「はい、それでいいです」
と言いながらも、ちょっと抵抗感はある。介護とかの奉仕ならいいんだどね。でも仕方ない。
「君が恐いから徴兵を逃れたい意気地無しとは違うことだけは理解した。君は勇気ある男だ」
とベニカワ中尉は言う。
「ありがとうございます」
と俺は答える。
「徴兵検査自体は丙種になるが良いか?」
「はい。丙種でいいです」
「だったら特別に俺がこの場で見届けてやる」
「ありがとうございます」
中尉は助手の看護婦を呼んだ。看護婦はユリコという名札を付けている。
「この男にこの場で丙種を執行する」
「分かりました」
と看護婦は言う。
「あなたは丙種になりましたので、男性としての全ての権利を失います。よろしいですか?」
とユリコという名の看護婦は俺に言った。
「はい、いいです」
「男性ではなくなったので、ズボン及びトランクスを穿く権利も無くなりました。この場で脱いでください」
「はい」
それで俺はズボンとトランクスを脱いだ。
「あなたは男性ではなくなったので、ガクラン・ワイシャツ・男物シャツを着る権利も無くなりました。脱いでください」
「はい」
(我が国では男物の服は男の市民登録証、女物の服は女の市民登録証が無ければ買うことが出来ない。もっとも商店ではいちいち市民登録証の確認までしないので、異性の性別で“パス”している人は普通にその性別の服を買うことができる。実は俺は小さい頃は女の子みたいな雰囲気だったので、母は俺の服に男物を買うことができず苦労したと言っていた。だから俺の小さい頃の写真にはスカートを穿いた写真がたくさんある)
俺はガクラン・ワイシャツ・そしてその下に来ていたアンダーシャツも脱いだ。結果的に丸裸になる。
「中尉殿、お願いがあります」
「何だ?」
「俺が脱いだ服を部屋の外で待っているヒロタ・ルキアに渡してあげてくれませんか?彼は服がなくて裸なので」
「なぜ服が無い?」
「オカマを装って徴兵逃れしようとしたのがバレて女の服を脱がされてしまったので」
「そういう馬鹿もいるのか。分かった。君が脱いだ服は彼に渡そう」
「ありがとうございます」
ともかくも俺が着ていた服は全部ルキアに渡されることになった。これで彼は服を着て帰宅することができる。
ユリコという名の看護婦は言った。
「あなたは男性ではなくなったので、男性器を所有する権利を失いました。よって没収します」
「はい、お願いします」
この時、ベニカワ中尉が言った。
「君はほんとに見上げた男だな。特別に俺が執行してやる」
「はい。ありがたいことです」
俺は椅子に座り足を広げるように言われた。足下に金属製の膿盆(のうぼん)が置かれる。
それで中尉殿は軍刀を抜くと、俺のペニスの根元に軍刀を当てた。
「後悔しないか?今ならまだ全部無かったことにしてやれるぞ」
「後悔しません」
「君は本当に素晴らしい男だ。尊敬する」
と言うと、ベニカワ中尉は俺の全ての男性器を切り落とした。
切り落とされたものが下に置かれた膿盆に落ちる。
凄まじい血が出る。
猛烈に痛い!
「ではこの後の治療は私が」
「頼む」
「歩けますか」
「平気です」
それで俺はユリコ看護婦に股間に脱脂綿を当ててもらい、彼女に連れられて奥の部屋に移動した。
ベッドに寝せられる。
「尿道が塞がらないように針を挿した上で3日くらい待つと傷は塞がりますが麻酔を打って痛みを和らげることもできます。ただし料金が10デナリー(多分1万円程度)かかりますが、麻酔を打ちますか?」
「払いますので麻酔を打ってください」
と言って、俺はカバンの中から10デナリー銀貨(*1)を出して看護婦に渡した。
(*1)この時代には世界共通貨幣として古代の通貨の名前から採ったデナリー(denary)と補助通貨としてパラ(para)が採用されている。重さ50gの500デナリー金貨(大金貨)は、例えば金1グラムが7000円なら35万円に相当する。この時代には本金貨および補助貨幣として世界銀行発行の下記のものが流通している。添付した価格はAD2021年現在の金そのものの価格である。
大金貨(500d) 直径32mm 重さ50g 35万円
小金貨(100d) 直径19mm 重さ10g 7万円
大銀貨(50d) 直径27mm 重さ15g
小銀貨(10d) 直径22mm 重さ 8g
穴銀貨(5d) 直径22mm 重さ 5g
穴なし白銅貨(1d=1000p) 直径24mm
穴あり白銅貨(500p) 直径24mm
穴なし青銅貨(100p) 直径22mm
穴あり青銅貨(50p) 直径22mm
穴なし黄銅貨(10p) 直径20mm
穴あり黄銅貨(5p) 直径20mm
穴無しアルミ貨(1p) 直径18mm
同じ素材で出来た硬貨は、一般に穴あきのものがワンランク下である。これは穴を開けることで重量が小さくなるのが主たる理由だが、男尊女卑の強いわが国では“穴が空いてるのは女だから穴の無い男よりランクが下”などとも言われる。
「分かりました。では麻酔を打ちますね」
と言って、看護婦が麻酔を打ってくれたので、俺はようやく激しい痛みから解放された。
しかし・・・股間に何も無いというのは、何か寂しいものだ。
ああ、俺男辞めちゃったんだなあと思うと、軽い後悔の念もあるが決めていたことである。
看護婦は言った。
「あなたの市民登録簿から、今、男性という属性が消去されました。現在あなたは無性です。この後、料金を払えば女性または男性の性器を形成することができます。女性器の形成は料金1000ディナール(きっと100万円くらい)、男性器の形成は2000ディナール(きっと200万円くらい)かかります」
「男の性器を形成したら徴兵検査に逆戻りですよね」
「はい。あらためて徴兵検査を受けて頂くことになります」
「だったら女性の形にしてください」
「その場合、あなたは女性に課せられた義務を負うことになりますがよろしいですか?」
「はい、構いません。ただ、私はIPS細胞から育てた自分の女性器があるので女性器の形成や人工女性器の埋め込みではなく、それを移植して頂けますか?」
(女性器を形成する場合は切除した男性器を材料に擬似的な女性器を形成する。たとえぱペニスの皮を裏返してヴァギナにし、陰嚢の皮膚を利用して大陰唇を形成、亀頭の一部を陰核に転用、残りをポルチオ(子宮口)に転用する。またペニスの海綿体を利用して小陰唇を形成する。もう数百年前からある技法である。人工女性器は合成樹脂製で、女として性行為をする場合(男性側は)最も気持ち良いらしい。男性用自慰器具をこちらの体内に埋め込むようなものである。しかし、妊娠能力はないし耐久性が無いので最長でも10年おきに交換手術が必要である。IPS細胞から育てた人工培養女性器だけが、妊娠能力を得られるがこれを育てるには最低3年必要である、つまり俺は3年前からこれを準備していた)
「あなた、そのつもりで準備してたのね」
「はい、そうです」
と言って、俺は自分の女性器のストックコードを携帯に表示させて提示した。看護婦はそれをスキャンする。
「在庫を確認しました。料金払えますか?」
「はい」
と言って、俺は500ディナール金貨を2枚、カバンの中から出して看護婦に渡した。
「用意がいいわね。出庫指示を出します」
それで到着には1時間ほど掛かるということだった。
「女性器を移植すればあなたは機能的には女性になり、市民登録簿にも女性の属性が付与されます。しかしあなたは男性的な逞しい体格をしています。もし希望なさる場合、体格を女性化させるミニマイザーを投与することもできますが、希望しますか?料金は500ディナールで、1時間ほどで体格が女性化します。ただしこの薬は約10%の確率で死亡します」
10%の死亡率って高すぎるよなと思う。
「はい。覚悟してきました。注射してください」
と言って、俺は500ディナール金貨をまたカバンから出して看護婦に渡した。
「では打ちますが、この注射を打った後は1時間ほど激しい苦しみを体験することになります。死ぬ方の多くはその苦しみに耐えられずに死んでしまうようです。本当に打っていいですか」
「いいです。打ってください」
それで看護婦は俺にミニマイザーの注射をした。
これは・・・
マジできつい!
チンコを切られるのは覚悟していたし、その痛みも我慢したが、このミニマイザーの辛さは・・・・本当に死んだ方がマシと思うくらい辛い。チンコ切られたのは後悔しなかったけど、ミニマイザーの注射は・・・・マジ後悔した!
全身にわたって激しい苦しみが続く。
そろそろ1時間かなと思って看護婦に尋ねるとまだ20分しか経ってなかった。ひぇー。
そして精魂尽き果てるくらい苦しんで、ようやく1時間が経過したようで、俺は苦しみから解放された。
「立てますか」
「何とか」
と答えた時、あれ?と思う。
「声が高くなってる」
「身体が縮んで声帯も短くなったので」
「なるほどー」
俺はバリトンボイスだったのだが、これはソプラノだ。
身長・体重を計られたが、身長は157cmになっている。
ミニマイザーはだいたい身体を10%縮めるので185cmなら166cmになりそうだが、かなり効き過ぎているようだ。15%くらい縮んでいる。
「あ、済みません。薬の投与量が多かったみたいです。計り間違いました」
とユリコ看護婦。
おいおい。
「普通はこの量を打つと致死量を超えているのですが、あなたよく生きてますね」
「ははは、丈夫なもので」
しかしわざと“間違えた”んじゃないのか?兵役拒否者は昔はその場で銃殺されていた時代もあった。今でも兵役拒否した後“事故死”したという話はわりとよくある。
体重は80kgだったのが、49kgまで半分近く減っている。身長が15%減れば体積は1-0.85
3 = 38%減る計算だ。よくこれだけ減って死ななかったものだ。あ、だから致死量を超えていたのか。あはは。