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■平和を我らに(4)

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この後、IPS細胞から育てていた俺の女性器が到着したので、その移植手術を受けることになった。コスモスという名札を付けた医者が来て、俺に全身麻酔を打った。完全に意識を失ったので、何がどうなったか分からないものの、目が覚めた時、俺は病院のヘッドに寝ていた。
 
「目が覚めたらナースコールしてください」
という紙が貼ってあったのでナースコールする。
 
昨日も見たコスモスという名札を付けた医師が来て病院着の裙をめくり、股間に巻かれた包帯を外した。
 
そこにはきれいな女の股間があった。
 
俺は一瞬「きれーい」と思った。これもいいかもね。ハヅキのお股と同じ形だ。彼女と別れなければならないのは正直辛いけど仕方ない。心がキュンと痛む。
 
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そして俺はこのお股に誰か男性が自分のペニスをインサートする状況を想像してドキドキした。俺、その時、ちゃんと女として反応できるかなあ。
 
医者は俺の“割れ目”を指で開き、内側のあちこちを触る。更には“穴”の中に金属製の器具を入れて観察していた。何か変な気分だった。
 
「もう血も止まったようですね。痛いですか?」
「特に痛くはないです」
「ではもう退院していいですよ」
「あ、いいんですか」
 
「あなたの市民登録簿は性別女性に書き換わっています。あなたは三男だったのですが、長女に変更になりました。名前も変えることができますが、変えます?」
「いえ、そのままでいいです」
 
「性転換証明書をお渡ししますね」
と言って、コスモス医者が書類をくれた。
 
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《ナガノ・アクアは、全ての男性器を除去され、完全な女性器を移植された。ナガノ・アクアはもはや男性ではなく女性である。彼は今後は彼女と呼ばれる。彼女は男性としての全ての権利を喪失し、女性としてのあらゆる義務を課されることになった」
 
と書かれていた。まあこの国は特に男尊女卑社会だからなあ、だから男は権利で女は義務なんだ、と俺は思った・・・いやもう女になったから、自分のことは“私”と言うことにしよう。そう私は思った。
 

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「新しい市民登録証は一週間程度で自宅に郵送されますが、それまでのつなぎに仮の市民登録証をお渡しします。これを持っていれば女子トイレや温泉・プールの女子更衣室に入ってもとがめられませんし、女の服を買うこともできます」
 
「分かりました」
と言って、私は“ナガノ・アクア 性別:女”と書かれた仮の市民登録証を受け取った。
 
「男性の市民登録証は返却してください」
「はい」
 
それで私はこれまで携帯していた“ナカノ・アクア 性別:男”という市民登録証をコスモス医師に渡した。
 
「服を買いに行くまでのつなぎで、女物の下着とスカート・ブラウスをお渡しします。これは返却不要です」
 
「ありがとうございます」
 
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私は、渡されたパンティを穿き、キャミソールを着て、ブラウスを着、スカートを穿いた。
 
「あなた、全然問題無くブラウスのボタンを留められたわね」
とエーヨという名札を付けた看護婦が言った。
 
「難しいものなんですか?」
「いやいいけど。実は私も元は男の子だったんですけど、徴兵検査で丙種になって、女にされちゃったから、看護婦になったんですよ。女になってすぐはブラウスのボタンが留められなかったもん」
 
この国では看護婦になれるのは女だけである。外国では男性看護婦もいるらしいけど(男でも“婦”でいいんだっけ?)、我が国には存在しない。
 
「へー。ボタン留めるのがそんなに難しいのかなあ。だけどあなたは女の子になってよかったと思いますよ。可愛いもん」
 
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「ありがとう。私も女に変えられてすぐの頃はちんちん無くなってショックだったけど、その内女の子もいいなと思うようになった」
 
「むしろあなたのような人が男だなんてもったいないと思う」
 
「そう?友だちからも割とそれ言われた」
 
それで私は歩いて病室を出る。
 
「あなたよくスカートでちゃんと歩けるわね」
「え?何か難しいものなんですか?」
 
なぜ元男性だという看護婦さんがそんなことを言ったのかは分からなかったが、私はスカート姿で退院した。
 

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そしてまずは洋服屋さんに行った!
 
女になったので、マジで女の服が必要だ。
 
かなり身体が縮んだから多分パンティーはMでいいだろうと思ったが、ブラのサイズが分からない。素直に店員さんに訊く。
 
「すみません。私ペチャパイなんでブラジャー着けてなかったんですが、あんたも高校生ならブラくらい着けなさいと言われて。でもサイズが分からないので見てもらえますか」
 
「はいはい」
 
それでアヤカという名札を付けた店員さんはメジャーで私の胸を測ってくれた。
 
「あなたホントに絶望的に胸が無いわね」
「すみませーん」
 
性転換手術では通常、豊胸手術などはしない。性転換後に、移植された卵巣から出る女性ホルモンの作用で(卵巣の移植をしなかった場合は人工的な女性ホルモンの摂取で)、胸は数年以内に発達するので、自然な発達に任せる。
 
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結局、B65にして、足りない分はパッドを入れるといいと言われたので、そのサイズのブラを5枚買い、ウレタン製のパッドも買った。
 
その後、普段着用スカートを取り敢えず3着、カットソーを5着買う(我が国では女は特に理由がない限りズボンを穿くことは禁止されている。必ずスカートを穿かなければならない)。荷物がだいぶ重たくなってきたが、自分に腕力が無いのを感じる。身体が縮んだから筋力も極端に落ちたようだ。
 
その後、私は学校の制服を取り扱っている店に行った。
 
「すみませーん。転校してきたので、**高校の制服を作りたいのですが」
「はいはい」
 
それでヒロエという名札を付けた店員のお姉さんがサイズを計ってくれたが、このサイズなら出来合であるということだったので、それを購入した。そしてフィッティングルームを借りてその制服に着替えた。
 
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鏡の中を見るとちょっと可愛い女子校生がある。
 
あはは、朝家を出た時はがっちりした男子高校生だったのに。
 
でもこういう可愛いのもいいな。
 
そう思うと楽しい気分になって自宅に戻った。
 

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「ただいまあ」
と行って、家の中に入っていくと、父は軍事雑誌を見ていた。母が料理の手を休めてこちらを見る。
 
「あのぉ、どちら様でしょう?」
 
「私、アクアだよ。徴兵検査で丙種になったから、男は辞めさせられて、女の子になっちゃった」
 
「え〜〜〜〜!?」
と母が驚き
「何だとぉ!」
と父が激怒した顔で叫んだ。
 

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私は本来は特種合格のはずだったが、良心にもとづき兵役を拒否したことを説明した。それで扱いは丙種ということになり、男性という性別を剥奪されたので、無性になったところで、女性器の移植をしてもらい、女性になったと言った。
 
父は驚きを通り越して、気分が悪くなったようで、奥の部屋に行って寝てしまった。母もかなりショックを受けていたようだったが、ちゃんと私の話を聞いてくれた。
 
「だったら、あんたこれからどうするの?」
「7月の卒業式までこのまま女子高生として通学するよ。その後、大学進学を目指す」
 
丁種であれば男性という性別は維持できるが、大学進学の道は閉ざされる、就職しても給料は女並みである。しかし丙種の場合は、試験に合格すれば大学に進学できるけど、男性ではなくなる(就職した後の給料は普通に女なので、やはり男の半分しかもらえない)。
 
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不合格になった子は男を捨てるか進学を諦めるか厳しい2択を迫られる。
 
まあ、普通は男までやめたくないから、進学を諦めて丁種になるけどね。
 
但し兵役拒否者の場合は丁種の選択は無い。必ず丙種である。
 

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「まああんたがそれでいいなら、私はそれでもいいけど」
「理解してくれてありがとう。お母さんの娘になったから、頑張って親孝行するよ。男だと戦争に行って死んじゃうけどさ」
 
「それは確かに1人くらい女の子が欲しかったなあとは思ってたのよね」
と母は複雑な表情の中で言った。
 
父は私がスカートなんか穿いてたら射殺するなどと言っていたことも忘れて一週間くらい寝込んだ末に、私の存在を無視するポリシーに転じたようであった。私を見ても何も言葉を交わさないし、私が「おはよう」とか言っても一切返事をしない。
 
アリサ兄、ヒロカ兄は私の選択に呆れていたが
 
「何か困ったことあれば言えよ」
と言ってくれた。
 

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連休が終わる。今年は12/29(金)に徴兵検査が行われ、30日(土), 31日(日), 1/01(祝)と休みが続いて1月2日から学校がある。
 
むろん私は女子制服を着て学校に出て行った。
 
「おはよう」
と私が教室で声を掛けると
 
「あんた誰だっけ?」
「転校生?」
などと言われる。
 
「私ナガノだよ。女の子になっちゃった」
と私が言うと
 
「え〜〜〜〜〜!??」
とみんな一斉に驚いたような声を出した。
 
ルキアが来た。
「俺にお前の服を渡してくれるように言われたと言ってたから何があったのかと思ったら、女になってしまったのか」
 
「うん。だから男の服が要らなくなったからルキアにあげた」
 
「ナガノ君も女の子になっちゃったの?」
と女子制服姿のミサキが来る。
 
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「ミサキちゃん、女子制服似合ってるよ」
と言うと彼女は
「恥ずかしぃ」
などと言っている。
 
「いや、ミサキは女の子になって良かったよ、とみんな言ってた所」
「うん、私もミサキは女の子になる素質があると思ってた」
 
「そう?ボクまだスカートでちゃんと歩けなくて、学校まで来る間に3回も転んじゃった」
とミサキ。
 
「ミサキちゃん、女の子になったんだから“わたし”と言おうよ」
「それも恥ずかしぃ」
 
「アクアは普通に女の話し方になってる気がする」
「そう?特に私何も意識してないけど」
 
「スカートで歩ける?」
「普通に歩いてるけど」
と言って、私は少し歩いてみせた。
 
「お前、女として順応しすぎている」
と私はみんなから言われた。
 
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「そうだ、アケミは?」
 
「あの子、男を辞めさせられて女になったのがショックで今日は学校休んでる」
「まあショックかもね」
 
「ボクもショックだったけど、だいぶ両親やお姉さんたちに慰められた」
とミサキはまだ“ボク”という自称で言っている。
 
彼、いや彼女は女の子3人産まれた後にやっとできた男の子だった。それが女の子になっちゃったのは、親もがっかりしているかも知れない。彼女の場合、長男ではあったが、第1子ではないので“第1子徴兵免除”規定が使えなかった。
 
「アクアは平気なの?」
「兵役拒否すること決めて覚悟してたし」
「勇気あるなぁ」
「ちんちん切られる時、痛かったでしょ?」
「それも覚悟してたし」
 
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通常丙種は全身麻酔を掛けた上で、男性器の切断と女性器の形成(または移植)が“無料で”行われる。しかし兵役拒否者の場合は麻酔無しで男性器を切断されるし、その後女性器の形成(または移植)する場合は有料である!。(お金が無くて無性のままになってしまう人もある:私の場合は大会でもらった賞金の類をこのためにずっと積み立てておいた)
 
「だけど兵役拒否した人は“あれ”を4年間しないといけないんでしょ?」
「我慢する」
「それも偉いなあ」
 
「あ、リズムは?」
「彼は特種合格して即海兵隊に入隊したから、もう学校には出て来ない」
「まああいつなら特種だろうな」
 
「あれ、ハヅキは?」
 
ハヅキは確かに教室に居たはずだが、その辺りに見ない。
 
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「帰っちゃったよ」
「え?」
「アクアが女の子になったの見て顔が青ざめてた」
「好きだったんでしょ?もう結婚してあげられないだろうけど、後でお家に寄ってあげなよ」
とクラスメイトたちが言ったが、私は即言った。
 
「今すぐ彼女の所に行く。先生には私、今日欠席すると言っといて」
「うん。それがいいかも」
「これ、お母ちゃんに書いてもらった、性別変更届け。先生に渡しといてくれない?」
と私は届けの紙をルキアに託した。
 
「分かった。渡しておく」
とルキアはしっかり届けを預かってくれた。
 

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私は真新しい赤い学生鞄も教室に置いたまま、通学用のローヒールを履いて(母から「よくヒールのある靴で歩けるね」と感心?されたけど、何か難しいんだっけ?)学校を飛び出した。
 
多分ハヅキは自宅に帰ったのではないと思った。私は急いで走った。彼女がいる方角が分かるような気がして、私は勘で走った。そしてイーハトーブ地区のケンジュウ公園に行った。そこの噴水の所にハヅキは居た。
 
「ハヅキ!」
と声を掛けると、放心状態のハヅキがこちらを振り向いた。
 
「ハヅキ」
と言って駆け寄り、私は彼女を強く抱きしめた。
 
彼女が求めて来るのでキスする。
 
舌を入れ合って激しく吸う。
 
ああ、特高(特別高等警察)に見つかったら罰金モノだなと思いながらも、私は彼女と長時間のキスを続けた。人の視線を感じるけど、構うものか。
 
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たぶん20分近くキスしていたと思う。
 
でもそれでやっとハヅキは落ち着いたようだった。
 
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平和を我らに(4)

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