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(C) Eriko Kawaguchi 2021-05-01
Dona nobis pacem. (平和を我らに Traditionall round)
Dona nobis pacem pacem, Dona nobis pacem.
Dona nobis pacem , Dona nobis pacem.
Dona nobis pacem , Dona nobis pacem.
"Dona nobis pacem"はとても古くからある三部輪唱曲(round)で、ラテン語で「私たちに平和を与えてください」という意味の "Dona nobis pacem"という歌詞を繰り返す曲。少なくとも300年以上前からある。モーツァルト作曲と書かれた文献もあるが、そういう証拠は無いし、多分それより古い。
本作品に登場する人物の名前は全て妄想であり、実在の人物とも他の作品の登場人物とも無関係です。登場人物の名前がどこかで聞いた気がするのはきっと気のせいです。
試合時間はもう終わり近かった。現在点数は82-80でこちらが2点負けている。キャプテンのアルトさんのシュートが外れてリバウンドをスメリシの最年少選手・ネオンが取った、速攻で来る。俺は必死に彼の後を追う。彼がシュートのために一瞬停止した瞬間、俺は彼の前まで走り込み、勘でシュートのタイミングを見計らってジャンプ。180度ねじった掌でボールを弾いた。
リバウンドをリズムが取ってくれた。ドリブルで走る。俺も走る。ベンチから「(あと)3秒!」という声がくる。まだハーフライン手前だ。
「リズム!寄こせ!」
と俺が叫ぶと、こちらにパスが来る。まだ10mくらいある。俺がボールをセットすると後からネオンが体当たりしてきた。しかし俺はそれをものともせずにシュートした。
直後、試合終了のブザーが鳴った。
会場の全員が俺が撃ったボールの行方を見ている。
ボールは大きな放物線を描き、
ダイレクトでネットに飛び込んだ!
審判がスリーポイント成功のジェスチャーをしている。
「スリーポイント・ゴール、ダイカル、ナガノ・アクア選手」
という場内アナウンスがあった。
点数は82-83に変わる。
そして試合終了である。但し、俺のシュートの時にスメリシのネオンがファウルしたので、俺はフリースローをもらっう。ネオンは一発退場をくらって、代わりの選手がコートに出て来た。俺はフリースローをきれいに決めて、最終的な得点は。82-84となった。
歓喜にあふれた観客がコートになだれ込んできたのを警備員が排除して、表彰式が始まった。
キャプテンのアルトがでっかい優勝カップを受け取った。副キャプテンのソナタが優勝盾を受けとった後、アキノリさんが賞状をもらう。副賞のバイクのカタログをタクロウさん、副賞のスポーツジャケットをリズムが掛けてもらう。ウィニングボールはいったんテッペイさんが受け取ったが、彼はそれを俺に渡してくれた。
全員金メダルを掛けてもらう。
これまでたくさん金メダルをもらったけど、オリンピックの金メダルは格別だ。俺は思わず金メダルを噛んでみた。
「美味しい?」
とリズムが訊く。彼は俺と同じ高校のチームメイトでもある。最後の舞台に彼と一緒にオンコートできたのは嬉しい。高校生でこの代表チームに参加したのも俺とリズムの2人だけだ。俺は補欠だったが、骨折した選手の代わりに直前にロースターに入ったんだけどね。だから背番号も最後の番号18だ。
「あまり美味しくない」
と俺は答える。
「だろうね」
と彼は笑っていた。
俺は、この他に、得点王・スリーポイント王・大会ベスト5とMVPまでもらって、たくさん賞状とか記念品ももらった。補欠からMVPへの大躍進だ。
なお、ラストで俺に激しいファウルをして一発退場になり、表彰式にも出られなかったスメリシのネオン(銀メダルはキャプテン経由で渡された)は、後でこちらの控室まで来て俺に直接謝った。
「試合の流れの中でのファウルだもん。気にすることないよ。2年後のワールドカップでまたやろう」
「うん。済まない。アクアに借りを作ったな」
「そんなの気にしないで」
「うん、じゃまた2年後の決勝戦で」
それで俺とネオンは硬い握手を交わした。
オリンピックのホスト国アンドから飛行機でダイカルに帰国。カレマン空港に到着すると報道陣があふれていた。インタビューを受けた後、ムリラ大統領にも謁見し、バスケット連盟やオリンピック委員会の幹部とも会った。行事があまりたくさんありすぎたし、嬉しくて何を話したかも覚えていない。
「ナガノさんはもうすぐ徴兵検査ですよね。ナガノさんならどこでも好きな部隊に入れると思いますが、陸軍・海軍・空軍・宇宙軍・海兵隊、どこに行かれます?やはり海兵隊ですか?」
我が国の海兵隊は世界で5本の指に入る強力部隊とも言われている。そこに入るのは名誉あることである。高校生の内にスポーツ界で活躍した選手は海兵隊に入る人が多い。
「行き先は決めてますが、この場で言うのは控えさせて頂きます」
とだけ、俺は答えた。
でも記者たちはやはり海兵隊志望なんだろうなと思ったようである。
地元フェーマに戻ってからも大変だった。キャスタル州知事、フェーマ市長にも挨拶し、学校に戻ってからも校長と話して学校の全体集会でも祝福してもらった。なんか名誉市民にすると言われたのを俺は断った。
そんなのもらったら剥奪された時に何と言われるか。
家でも親父は浮かれてるし。2人の兄貴も
「アクアよくやった」
と手荒に頭を叩いて祝福してくれた。
「全くお前は俺の自慢の息子だよ」
と嬉しそうに親父は言っていた。
「やはり子供は男の子がいい。嫁にやるしかない女はつまらん」
などと父が言うと母が不快そうである。
「何なら俺がスカート穿いて女の子になろうか」
と俺が言ってみると
「気持ち悪いこと言うな。スカートなんか穿いてたら俺が射殺してやる」
などと親父は言っていた。
更に親父は
「お前は特種合格だろうな。名誉なことだよ」
と前祝?のビールを飲みながら興奮して言った。
4つ上の兄貴・アリサは甲種合格して陸軍に入って3年半(XX21.01-XX23.08)の兵役を終え、上等兵まで出世して名誉除隊した。1つ上の兄貴・ヒロカはあまり体力が無く乙種合格だった。しかし志願して(父の命令で志願させられて)高校卒業後の今年XX24.09から兵役に就き、海軍の通信兵になって、駆逐艦に乗船している(現在はXX24年12月)。ちょうどこの時期は船が母港に帰港していたので、俺が戻って来るというので上陸許可をもらって帰宅していた。
徴兵検査では、即兵役に就けるような身体壮健の者は甲種合格で、それに満たない者は乙種合格である。甲種は高校を自動的に卒業扱いになり即入隊する。乙種は召集令状が来ない限りは兵役に就かないが、志願すれば(高校卒業後)従軍することができる。
なお身体に障碍があったり慢性病などで兵役に適さない者は丁種(不合格)となり、体力の許す範囲で4年間の社会福祉活動に従事することになる。丁種になると大学進学は欠格となり(病気治癒や人工四肢装着後などに再度徴兵検査を受ける道はある)、また会社に就職しても35歳までは給料は女と同額(普通の男の半額)しかもらえない。40歳までは会社の役職に就くこともできない。
甲種合格は徴兵検査を受ける高校3年男子の約1割と言われる。息子が甲種合格するとどこの家でも庭で仔牛の丸焼きをして(近所の人にもふるまう)、シャンパンを開けてお祝いする。これはとても名誉なこととされている。
特種合格というのは、とても稀なもので、だいたい1万人に1人と言われる。極めて壮健な身体と高い運動能力を持つ者だけに適用されるもので、普通の人なら入隊すると最初は二等兵だが、特種で合格するといきなり上等兵になり、1年後には伍長(海軍・海兵隊なら二曹)になる。多くが3年間の義務兵役の間に軍曹か曹長(海軍・海兵隊では上曹か一曹)まで出世し、除隊後は士官学校に推薦される場合もある。
なお、3年間の義務兵役を無事終えて普通除隊か名誉除隊すると国立大学に入学する権利が与えられる。アリサ兄は大学には行かずに戦車や戦闘機を作っている企業に就職し、技師として勤務しているが、また軍務に戻りたいと言って日々身体を鍛えている、3年間の義務兵役を終えた場合、最低4年の一般人としての社会生活を経てからしか志願兵にはなれない。“軍人馬鹿”を作らないための制度である。アリサ兄はXX23年8月に除隊したので、再入隊できるのはXX27年9月以降である。(現在はXX24.12)
普段の学生生活に戻ってからも2週間くらいはざわざわしていた。
やっと落ち着いてきたかなという頃、ハヅキが下校時に声を掛けてきた。
「今日は、うち親が留守なのよ。うちに来ない?」
「行く」
それで俺は彼女と一緒に彼女の自宅に行った。
家の中に入ると、ハヅキは俺に抱きついてキスした。
「優勝おめでとう。人が多くてなかなか言う機会が無くて」
「俺もなかなかハーちゃんとふたりになれなくて寂しかったよ」
「約束通り、優勝のお祝いに私をあげる」
「もらう」
それで俺たちは彼女の部屋に入る。
再度キスしてから彼女のセーラー服とスカートを脱がせ、ブラウスを脱がせる。彼女の魅力的な下着姿が露わになる。
「ほんとにしていい?もし妊娠したら」
「アっちゃんの赤ちゃんだもん。ちゃんと産むから心配しないで」
それで俺は彼女をベッドに押し倒すとブラジャーを外し、パンティを脱がせた。俺のほうはもう準備万端だが、彼女の身体を準備させる。彼女の身体の敏感な部分を刺激すると、声まで出して気持ち良さそうにしている。
「じゃ入れるよ」
「どうぞ、私の愛しい人」
それで俺は彼女を俺の物にさせてもらった。俺もこんなことするのは初めての経験だったけど、結構うまくいった気がする。男ってのもいいなあという気がして少しだけ今後のことで迷いが生まれる。
凄く気持ちが良かったから4回も5回もした。俺は自宅に電話して母に、今夜はハヅキの家に泊まると連絡した。母は俺とハヅキの仲を容認していたから、
「彼女を大事にしてやってね」
とだけ言った。
俺とハヅキは朝までお互いの愛をむさぼり合った。
「そうだ。これハーちゃんに渡そうと思ってた」
と言って、俺は青い宝石箱を出した。
「え?これは?」
「今回のオリンピックでスリーポイント王を取った記念品」
宝石箱を開けると大きなスターサファイアのペンダントが輝いている。
「サファイアはハーちゃんの誕生石だなあと思ったし」
「え?でもオリンピックの記念品なんて私がもらっていいの?」
「だってハーちゃんは俺の大事な人だし」
「嬉しい。ありがとう」
と彼女は言って俺に抱きついてきたので、俺はさすがに疲れていたけど、もう一回“する”ことになった。
この日は一緒に登校した。
俺たちが一緒に登校してきたことに気付いた奴はほとんどいなかったようだ。ただ、リズムだけが「ふーん」という感じで俺を見た。
教室では目前に迫る徴兵検査のことが話題になっていた。
男子の高校3年生は卒業を半年後に控えた12月に徴兵検査を受けなければならない。それで甲種合格すれば、高校生活は免除になって即入隊である(翌年の7月に在籍していた高校から実家に卒業証書が郵送される)。乙種合格なら7月の卒業式の後(志願した者は)入隊可能である。あるいは抽籤で招集令状が来て入隊しなければならない場合もある(徴兵検査直後の抽籤による招集は3月に通知が来る)。招集されなかったら、受験勉強して大学進学を目指す者もある。身体に障碍のある者や内臓疾患などの慢性病を持つ者は丁種となる。彼らは大学進学の道を断たれるので、多くが専門学校に進学して、各々の体力でも就業可能な仕事に就くことを目指す。