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■夏の日の想い出・デイジーチェーン(8)

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1時間のステージを終えると、かなり疲れている。私は下着を交換していったんメイクを落とした上で仮眠室で休ませてもらった。16:30に窓香が起こしてくれたので、顔を洗いトイレに行ってからローズ+リリーの衣装を着てメイクをする。
 
KARIONではおそろいの衣装だったが、こちらはマリが白いユリのイメージの衣装、私が赤いバラのイメージの衣装である。このパターンも最近ライブでかなり使っている。宮里花奈さんのデザインの衣装なのだが、彼女もこのパターンで色々と試行錯誤するのが楽しいようで、「こんなのできたよー」と言って送って来てくれるのである。
 
この日のマリの服は基本はマーメイドスカートなのだが、鉄砲ユリのように一番下だけ横に広がるライン(ボーンを入れてその形を維持している)、私の服は90度くらいの幅の布をやはりボーンで膨らみを持たせて12枚も重ねてある。いわばフラグメント・ラップスカートという感じである。これが動き回るとけっこう素足が露出するので、マリがずいぶんこちらを見ているようであった。
 
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政子がおやつを食べ終わるのを待って5分前に下手でスタンバイする。やがてAYAが最後の曲を歌い終わり、歓声の中、スターキッズと一緒にステージに出て行く。
 

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「こんにちは!ローズ+リリーです」
とマリとふたりで一緒に挨拶する。
 
「今日は1日お疲れ様でした。そろそろ疲れて眠くなってきたかも知れませんけど、眠りながらでもいいから私たちの歌を聴いて下さい」
などと8万人の観客に呼びかける。
 
それで前半は眠りを誘うかのように?静かな曲を演奏する!
 
まずは『眠れる愛』から初めて『アコスティック・ワールド』『遙かな夢』、『時を戻せるなら』『神様お願い』『花模様』と続けていくと、実際客席ではけっこう寝ている感じがある。
 
ここでちょうど太陽が西の地平に沈む頃、『雪を割る鈴』を演奏するがダンサーとして出てきてくれたのが音羽と光帆である。それに気づいた前の方の観客が騒ぐ。
 
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最初はスローに演奏する。AメロBメロを2回繰り返した所で長さ2mほどもある巨大な剣を持ってAYAのゆみが登場する。そして和泉・美空・小風・蘭子が4人で運んできた大きな鈴めがけて、ゆみが剣を振り下ろす。
 
ここで蘭子に見えるのは実は私のフェイスマスクをかぶった夢美である。
 
ゆみが鈴を割った直後、音楽は一転して速いテンポのリズミカルな曲になる。これで結構目を覚ました客があったようである。
 
音羽・光帆・ゆみ、そして和泉・美空・小風・蘭子が踊る。その賑やかな踊りの中で曲は終了する。
 
そして8万人の大観衆がやっと目が覚めたようで大きな拍手と歓声がある。
 
残りの曲は「08年組」総出で演奏した。Travelling Bells, Purple Cats, Polar Star も入ってみんな適当に楽器を鳴らしている。音羽もギター、美空もベースを持っている。和泉はグロッケンを打つ。スコアなど書かずに「適当に演奏して」と言っておいたので、みんな本当に適当だ。
 
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この演奏で『Spell on You』『影たちの夜』『ファイト!白雪姫』と歌った後、AYAの復帰作『変奏曲』、XANFUSの復帰作『Beginning of the Eternal』、KARIONの新曲『アイドルはつらいよ』と演奏して行く。
 
これらの曲はあくまで私とマリが歌い、ゆみも音羽・光帆も、和泉・小風・美空もダンス&コーラスである。
 
最後にローズ+リリーの曲に戻って『神様ありがとう』を歌った後で、私は観客に向かって言う。
 
「それでは最後の曲です。もう太陽は沈んでしまいました。もうすぐ日暮れです。お空の都合でアンコールはできませんので、これが掛け値無し、このイベントの最後の曲です。そしてこの歌を歌わなきゃローズ+リリーのライブは終わらない、ということで『ピンザンティン』!」
 
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会場が沸く。比率的にそんなに多くないもののお玉を振ってくれる人たちも居る。ステージ上にいるメンバーは楽器を演奏するスターキッズ以外全員お玉を持ち、演奏を始める。
 
「サラダを〜作ろう、ピンザンティン、素敵なサラダを」
「サラダを〜食べよう、ピンザンティン、美味しいサラダを」
 
会場のみんなも大合唱をしてくれる。
 
私たちもマリもお腹の底から声を出して、この歌を歌った。
 
そうして興奮の中、今年の復興イベントは終わった。
 

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3月14日にKARIONの広島ライブを終えた後、私は山陽新幹線・サンダーバード、そして今日開業したばかりの北陸新幹線と乗り継いで富山駅に降り立った。千里が自分の車で迎えに来てくれているので乗せてもらい、市の南部にある富山空港に向かう。
 
「悪いね。足になってもらって」
「ううん。大阪に寄ったついでだから」
「ああ。不倫してきたんだ?」
と私が訊くと
 
「うん」
と千里もあっけらかんと答える。
 
「赤ちゃんは順調?」
「かなり安定している。実は青葉にかなり協力してもらっているんだけどね」
「へー!」
「青葉がいなかったら流産していたと思う」
「そのあたりが弱い人なんだ」
「そうみたい。来週には7ヶ月目に入る。予定日は7月」
 
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「ね、訊いていい?」
「うん?」
「奥さんが妊娠中にさ、千里と浮気してもその彼って罪悪感は無いのかね?」
と私は突っ込んでみる。
 
「まあ、そんな奴だから」
と千里は言う。
 
「奥さんは妊娠中だから当然セックスできない。私ともそんなにできる訳じゃない。それで更に恋人を作ろうとして、私に邪魔されているのがあいつの図」
 
「困った浮気症だね」
「今までにあいつの浮気を潰したのは50回以上になるから」
「いや、それはもう病気じゃないかと」
「でも私が悉く邪魔してるから、あいつが実際にセックスした女性は私と今の奥さんを含めて3人しか居ないはず」
「よく阻止してるね!」
 
「まあ私とあいつのゲームみたいなものだよ。あいつは私に見付からないように浮気しようとする。でも私は絶対見付けて潰す」
「楽しかったりして」
「まあ多少のカタルシスはあるよ」
「やはり」
 
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やがて富山空港に着く。駐車場に入れて少し待つ内に玄関の所に支香に付き添われた龍虎が出てきたのを見て、千里は駐車場を出て車を寄せる。ふたりが乗り込み高岡に向かう。
 
「青葉ちゃんの噂は上島からも聞いていたから、会えるの楽しみ」
などと支香は言っている。
 
「龍虎、自分がどうありたいかという話、支香さんに言えた?」
と私は龍虎に訊く。
 
「勇気出して言いました。支香おばさんは、自分がそうありたいと思う状態でいればいいと言ってくれました」
と龍虎。
 
支香は頷いている。
 
「田代のお父さん・お母さんにも言えた?」
「お母さんは私が密かに女性ホルモン飲んでいるんだろうと思っていたと言いました」
 
「まあ、ネットでもそう書いている人は多いみたいね」
「川南さんがたくさん女性ホルモン送りつけて来ているんで、困ってるんですけど」
などと龍虎は言っている。
 
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「飲んでみた?」
「飲みませんよ!」
 
「でもネットって怖いですね〜。こないだ私が頂いた大量のバレンタインのチョコの一部を学校で友だちに配ったら、それも翌日にはネットで拡散していたんですよ」
 
「まあ人気タレントってそうなるから」
 
確かにアクアの所に来たバレンタインのチョコの量は凄まじかったようだ。
 
プロダクションでは、手作りの類いを含めて、デパートあるいは有名菓子店などからの直送品以外は全て廃棄させてもらうことをうたっている。ファンもそのあたりは理解してくれていたようで、廃棄せざるを得なかったのは全体の1割程度だったと紅川社長は言っていた。
 
「でもバレンタインだけかと思ったらホワイトデーに合わせて今度は男の子のファンから大量にクッキーとかマシュマロとか届きつつあるんですよ、僕、男なのに」
と龍虎は言うが
 
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「それは女の子のアクアちゃんに夢見てる男の子たちだよ」
と千里が楽しそうに言った。
 

青葉は龍虎に横になって楽にするように言った。
 
「龍虎君の睾丸はちゃんと活動しているよ」
と青葉は言う。
 
「え〜?ほんとですか?」
と言う龍虎は嫌そうである。
 
「中学生の去勢、してくれる先生知ってるけど去勢してもらう?」
と青葉が訊くと
「嫌です!」
と本人は言う。
 
睾丸は取りたくないけど、活動されるのは嫌という微妙な心情のようだ。
 
「精子はありますか?」
と支香が尋ねる。
 
「精原細胞は活動していますよ。精子はあるはずです。濃度は低いと思うけど」
と青葉。
 
精原細胞は自分をコピーし、そのコピーが分裂してB型精原細胞となり、それが分裂して一次精母細胞、更に分裂して二次精母細胞、更に分裂して精子になる。
 
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「ああ、やはり低いんですね」
と言う龍虎は少し安心した様子。
 
「赤ちゃん作れます?」
と支香が尋ねる。
 
「自然な性交では厳しいかも。濃縮して人工授精すれば行けると思う」
「なるほど」
 

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青葉は龍虎の自分のあり方の希望を言うのを聞き、支香にそれで構わないかと確認する。支香は本人の希望に添わせたいと言うので、青葉はホルモンの流れを調整するセッションをする。
 
「男性ホルモンが影響する範囲を性器周辺だけに留めます。ですから睾丸は今まだ未発達ですけど、今後もう少し発達すると思いますし、陰茎も勃起しやすくなると思います。私のセッションを受けている限りは自慰してもいいですよ。それは身体の上半身と足には影響しないようにします。ですからのど仏は当面発達しないし、声変わりも来ません。肩も今のまま撫で肩のままだと思いますし、足にもすね毛は生えませんよ」
 
と言った上で
 
「おっぱい膨らませることもできますけど」
 
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と言う。
 
「え?ほんとですか?」
と龍虎は言ったものの
 
「いや、それはいいです」
と少し残念そうな顔で言う。
 
「いいよ、いいよ。乳首だけ大きくする?」
 
「え〜?」
と言ってアクアは少し考えていたものの
 
「いや、それもいいです」
と言った。
 
「了解了解。じゃ胸は発達しないように、そこもホルモンの利きからバイパスさせるね」
と青葉は言う。
 
「男性の体内ではテストステロン(男性ホルモン)が脂肪組織でエストラジオール(女性ホルモン)に転換される。その転換を促進して、通常の男性より女性ホルモンの濃度を高くして、ホルモン的に中性に近い状態をキープします。それで性器まわり以外では女性ホルモン優位にするので、脂肪が発達して丸みを帯びた身体になると思う。体つきとしては中性的だけどむしろ女性に近い感じにはなると思う。それがいいんでしょ?」
 
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と青葉が訊くと、龍虎は恥ずかしげに頷く。
 
「でも女性ホルモンが効き過ぎておっぱいが大きくならないようにそこは調整するね」
 
「よろしくお願いします」
 
「そういうルートの《気の巡り》を形成するけど、最低月に1度は電話でいいので私のセッションを1時間程度受けてください」
 
「半月に1度セッションを受けることにしていた方がいいと思う。そしたらタイミングが合わなくて1回飛んでも何とかなる」
と私が言うと
 
「それでお願いします」
と龍虎も言う。
 
「じゃ私も色々用事のある日もあるし、前もって予約入れてくれる?」
「はい。私もスケジュールが事前に決まっていくみたいだから、それを見てご連絡します」
 
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「うん。お願い。多分これ1年も続けたら気のルートが安定して、その後は2〜3ヶ月に1度でもよくなると思いますから」
 

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セッションが終わった後で、青葉の母と千里が協力して作ってくれていた晩御飯を頂いた。
 
「お魚美味しい!」
と龍虎が言う。
 
「シーズンとしてはもう終わりつつあるんですけどね。北陸は冬の間のブリが美味しいんですよ。寒ブリと言うんだけど」
と千里。
 
「まあいちばん美味しいのは12月から2月に掛けてだよね」
「うん。来年、そのくらいの時期にまた来るといいですよ」
 
「だけど、千里ちゃんが就職先決まったというので私は安心したわあ。やはりあの巫女さんにお願いしたのが利いたのかしらねえ」
とお母さんが言う。
 
「巫女さん?」
私はその話を知らなかったので尋ねたら青葉が説明してくれた。千里は苦笑いしている。
 
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「まあ青葉の周囲にはいろいろ不思議なことがあるからねえ」
と私は言う。
 
「不思議といえば、小さい頃の千里さんとの想い出も不思議なんですよね」
と龍虎が言うが
 
「それは龍虎の夢だと思うけど、それできっと龍虎は自分で命の水を汲みに行ったんだろうね」
と千里は言う。
 
「夢?」
と青葉が訊くので、龍虎は小学1年の時、大手術を受けた前夜、千里と龍に乗って、ウイタエという所に行き、水を飲んだという話をする。
 
「ウイタエの水だからアクア・ウィタエ。ちょうど《命の水》という符合になるんだよね。それで龍虎がその大手術に耐え抜いて、元気な姿を見せてくれた時にその話を聞いて私は例の『アクア・ウィタエ』を書いたんだよ」
と千里は言う。
 
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しかし青葉は龍虎が千里と一緒に《龍に乗って空を飛んだ》という話に
「やはりね〜」
 
などと言っていた。
 
「でも面白いわね。青葉が冬子さんとつながり、冬子さんが上島さんとつながり、上島さんと龍虎ちゃんがつながり、龍虎ちゃんとその佐々木さんという人がつながり、佐々木さんと千里ちゃんがつながり。人の関係って複雑なんだね」
 
とお母さん。
 
「でも私が積極的に龍虎に関わったんで、龍虎が女の子になりたいと思うようになったんじゃないかと私はちょっと心が咎めるんだけどね」
と千里が言うと
 
「僕、別に女の子になりたくないです!」
と龍虎は主張する。
 
私も支香も可笑しさをこらえきれない気分で可愛いスカート姿の龍虎を見ていた。
 
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