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■夏の日の想い出・デイジーチェーン(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-05-16
 
そのKARIONのツアーは2月7日の札幌を皮切りにスタートした。雪祭りの期間にぶつけたのが成功したか、6000人の札幌体育センターが満員であった。
 
その週は8日に仙台公演をした後、月曜から金曜まではKARION側はオフに近い状態になる。そこでその日程でローズ+リリーの新しいシングル『不等辺三角関係』の制作を行った。
 
例によって楽曲は5曲である。
 
まずはマリ&ケイ作の事実上の表題曲『恋愛不等辺三角関係』。「恋愛」という単語を入れた方がいいというのは氷川さんからの提案であった。しかしCD自体のタイトルとしては長くなりすぎるので、そのままの方が良いということになった。
 
三角関係に陥り、ライバルと激しく争っているものの、冷静に分析すると自分と彼との距離より、ライバルと彼との距離の方が短い。何かと軽んじられやすい。そういう悩みを歌ったバラード調の曲である。
 
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同じマリ&ケイで『デイジーチェーン』は恋とか愛とかいった単語は一切入っていない。あくまで花で作った輪のことを歌っているだけである。しかし花の茎を絡めて作った輪は、とてもはかない。簡単に外れてしまいそうだ。更に自分が絡んでいる花は一方で別の花とも絡まっている。自分とだけつながっていて欲しいのに。
 
似たような複雑な恋愛関係を歌っていても、こちらはリズミカルな曲に仕上げているし、不等辺三角関係がペシミスティックなのに対して、こちらはかなり冷めている感じで開き直りがある。
 

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2月14,15日のKARION千葉公演・名古屋公演という大会場をした後、次の週もローズ+リリーの制作は続く。
 
『ファイト!白雪姫』で味をしめた鮎川ゆまからは柳の下のドジョウを狙う曲『ガラスの靴』をもらった。
 
これもまた楽しい曲だが、魅力的なサックスデュオが入っている。アルトサックスは当然七星さんに吹いてもらうのだが、テナーサックスを誰に頼むか悩んだ。ゆまに「吹いてくれない?」と言ってみたものの「そちらでよろしく」などと言われる。向こうはやはり南藤由梨奈で忙しいようだ。私が自分でウィンドシンセで吹こうかとも思ったのだが、この曲には生のサックスが欲しいと思った。
 
それで結局、UTPのアーティストであるバレンシアのサックス奏者心亜(ここあ)に吹いてもらったが、七星さんから結構厳しいチェックが入る。
 
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「あんた、そんな淡々と吹くのならMIDIの方がマシ」
などと言われて、丸3日ほど、七星さんのサックス教室という感じになった。生徒は心亜と私の2人である!
 
かなり鍛えられて心亜は「勉強になります。でも頭が真っ白になります」などと言っていた。結局この曲の録音はこの週いっぱい掛けることになった。
 

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更にKARIONの21,22日神戸・愛媛公演を経て、ローズ+リリーの制作は続く。
 
4番目に収録したのはGolden Sixからもらった『Golden Arrow』である。私が彼女たちのデビューCDに『ロングシュート』をあげたので、その御礼にともらったものである。クレジットがGolden Sixになっているのは「ローズ+リリーに歌ってもらったらたくさん売れて印税が入りそうだからメンバーで山分けするため」などと千里は言っていたが、実際には、千里作詞・カノン作曲らしい。千里(醍醐春海)といつもペアで曲作りをしている蓮菜(葵照子)は2月上旬の医師国家試験に向けて必死で勉強していたので、とても創作活動をする余力が無かったという話であった。
 
この曲は、出雲神話の佐太大神の誕生神話を歌ったものである。母の蚶貝姫命(きさがいひめのみこと)が加賀という場所で大神を生んだが、この場所が暗かったので金の弓矢を射た所、明るく輝いたという。この神話は京都賀茂神社に残る、玉依姫が川を流れて来た矢を拾ったら妊娠したという話と類似性があり、実際に蚶貝姫も金の矢で妊娠したのではないかと考える人は多い。これはまたクリムトの名画「ダナエ」で、金の雨になってダナエを妊娠させるゼウスの構図にも似ている。
 
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「要するに金の矢って、金の玉のそばにくっついてる矢のことだよな?」
などと鷹野さんが言ったら、七星さんから壮絶な蹴りをくらって、数分間立てずにうめいていた。
 
が、まあ実際そういう話であろう。
 
「金の玉は消失していない?」
と酒向さんから尋ねられて
「消失してしまったら俺、女になるしかないかも」
などと鷹野さんがもだえながら答えたら、七星さんは
「じゃ女になれるよう確実に潰してあげようか?」
と言い
「助けて〜」
と鷹野さんはマジな顔で答えていた。
 
ところで、この神話の地である出雲の「加賀の潜戸」と呼ばれる海蝕洞は、見に行くのが困難な地として神話フリーク・神社フリークの間では知られている。何が難しいかというと、そこに行く観光船(夏季のみ)があるものの、その船の運行が全く不安定で実際現地に行ってみないと船が出るかどうかが不明だからである。
 
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その船着き場まで到達すること自体もけっこう大変な道のりな上に(だから客が少ないためだと思うが)船がそういう状況なので、見ることができた人はとても幸運である。しかし千里の友人の神社巡り愛好者さんが、この加賀の潜戸を撮影した貴重な動画を所持していたので、コピーさせてもらい、この曲のPVに使用させてもらった。
 
なお、この蚶貝姫というのは大国主命(おおくにぬしのみこと:だいこく様)が若い頃、兄たちに殺されてしまった時、姉妹の蛤貝姫(うむぎひめ)と一緒に大国主命を蘇生させた神様でもある。
 
姉妹で薬の神様と考えられている。昔は薬を貝殻に入れていたこととの連想であろうと言われる。
 

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最後に収録したのがマリ&ケイの『スタートライン』という曲である。ローズ+リリーも最初のデビューから6年半、2012年4月にライブ復帰してからでも3年が経過し、また新たな気持ちで、新しいローズ+リリーの歴史を作っていきたいというファンへのメッセージソングである。
 
この曲では原点に返ろうということで、アコスティック・バージョンのスターキッズで伴奏してもらった。ただいつもとは少し担当楽器が異なる。
 
近藤さん・鷹野さんがアコスティック・ギター、酒向さんがウッドベース、月丘さんがマリンバ、七星さんがフルート、私とマリがヴァイオリンの二重奏である。そしてこの曲にコーラスを入れてくれたのは、和泉・小風・美空・蘭子、音羽・光帆・mike・noir・ゆみ、という08年組の仲間たちであった。
 
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「ケイがボーカルで、蘭子はコーラスなのか」
と政子が音源を整理しているソフトの画面を見ながら面白そうに言う。
 
「それ別人だから」
「kijiさんとyukiさんは入ってないのね」
「そのふたりはあまり歌がうまくない、と本人たちの弁」
「ふむふむ」
「noirはXANFASが発足した時はボーカルだったんだけど、喉にポリーブができてしばらく歌えなくなってキーボードに回ったんだよ。mikeは元々Parking Serviceで歌っていた。だからこの2人は上手いんだ」
 
「あ、なんかそんな話を聞いたことがあるような気がしてきた。あれ?Parking Serviceに居た時もミケって名前だったっけ?」
「当時はミッキー」
「あ、そうか!ミッキーちゃんか」
 
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「XANFASに入る時にミケって名前に変えたら、ファンは同一人物であることにしばらく気が付かなくて、それでXANFUSの立ち上がりは悲惨だったんだよ」
「ほほぉ」
「レコード会社としてはParking Serviceのミッキーが入っているんだから、そこそこ売れるだろうと思っていたのに最初のCDなんて1万枚も売れなかったらしいから」
「全くの新人なら、そんなものだよね」
 
「でもmikeちゃん自身が言ってたんだけど、ミッキーの名前で出ていたら、自分とその他5人のバンドと思われてしまったかも知れないから、音羽・光帆の若い2人を中心にした体制と思ってもらえなかったかも知れないと」
「そのあたりは難しいよね」
 
「それにミッキーも別の事務所からバンドデビューする予定で『お疲れ様』とか『新天地で頑張ってね』などと言われて Parking Service 辞めたのに、大して時間おかない内に同じ事務所から再デビューなんて、ファンから非難囂々だった可能性があるから、結果的には良かったんじゃないかと」
 
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「ああ、辞める辞める詐欺っぽいアーティストはよく居るよね」
「うん。あれ何度もやると、狼少年とみなされて、ファンから嫌われるから」
 

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2月27日までにローズ+リリーの新譜のマスタリングが完了し、28日と3月1日はKARIONの福岡・沖縄公演であった。この旅程に政子が「博多と沖縄行くなら、博多ラーメンとゴーヤチャンプルー食べなきゃ」と言って(むろん自費で)くっついてきた。福岡行きの飛行機では、私は自分の席を政子に譲り、政子は美空とひたすら「博多ではどこに何を食べに行くか」「沖縄で押さえておくべきマスト・フードは」などと、議論していたらしい。
 
B767-300のプレミアムシートだったのだが、この機材のプレミアムシートは1列目と2列目で、左にAC、中央に独立してD、右にHKと並んでいる。美空と政子が1列目のHK、和泉と小風がその後ろのHKに座った。私はあとから取った政子の席なので反対側、1列目のCだった。そして乗っていたら隣のAの席に§§プロの紅川社長が来た。
 
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「おや、奇遇ですね」
などと挨拶したが、私たちの後ろの2列目ACが偶然にも空いていたことから私たちは結構内密の話を福岡までの行程ですることになった。
 
「社長、明日関東ドームで神田ひとみの引退ライブでしょ?いいんですか?」
「うん。明日朝1番の北九州空港から羽田への便(5:30→7:00)で帰る」
「お疲れ様です!」
 
「ケイちゃんだから言うけど、実は《明智ヒバリ》のことでね」
と紅川社長が言う。《》の部分は声に出さずに代わりに彼女の名刺をチラッと見せてくれた。
 
「そういえば彼女、病気か何かですか?」
と私は小声で訊く。
《どうも鬱病みたいでさ》
と社長は手に持つタブレット上に指で文字を書いて私に伝えた。
 
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「大変ですね」
「無理させて自殺でもされては困るからずっと実家で療養させている。様子を見に行くんだけど、このまま引退になるかも知れない」
 
「なんかここ数年のフレッシュガールが全滅してません?」
「そうなんだよ。2010年の《桜野みちる》がまともに活動してくれている最後。2011年の《海浜ひまわり》、2012年の《千葉りいな》が続けて2年で引退。それで2013年《神田ひとみ》も明日引退。2014年の《明智ヒバリ》は引退ライブもできないまま引退になるかも知れない」
 
と紅川社長は困ったように言う。名前の所は固有名詞を発音する代わりに名刺を見せてくれた。
 
「ロックギャル・オーディションとかなさったのは、やはり新路線を開拓するためでしょ?」
「そうそう。それでまさか男の子が合格するとは夢にも思わなかったけど」
 
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と紅川社長は笑いながら言う。
 
「あの子、本当に可愛いですからね」
 
と私も応じる。
 
「あの子、本人が望むなら性転換手術受けさせたい気分」
「唆すと、結構その気になるかも知れませんよ」
「やはり?」
「でも手術が終わった所でメソメソ泣くパターンですね。女の子になんかなりたくなかったのにと」
「うんうん」
 
と言って紅川さんは頷いている。
 
「僕はね」
と紅川社長は言った。
 
「自分のセンスが衰えているのではないかという気がする」
「まだお若いのに」
 
「いや、自分自身のセンスが落ちているから、必ずしもアイドルに適していない子を合格させてしまっているんじゃないかと思ってね」
 
「でもこの世界はそもそも水物ですよ」
「兼岩さん(ζζプロ会長)に言ったら、立川ピアノから桜野みちるまで11人連続で売れたこと自体が奇蹟だと言うんだよ」
 
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私は少し考えてから答えた。
 
「そうかも知れませんね」
「誰か適当な人を社長に据えて、僕は会長になろうかとも思ったんだけどね。兼岩さんなんて会長になってからの方が活躍している」
 
「そうですね・・・」
「ケイちゃん、うちの社長にならない?」
 
へ?
 
私は突然そんなことを言われて驚いたものの、その瞬間、あることを思いついた。
 
「社長さん、社長さん、いい子がいまっせ。へへへ」
「ほぅ」
「秋風コスモスなんてどうでっしゃろ?」
「ほほぉ!!」
 

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