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■夏の日の想い出・そして誰も居なくなった(7)

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それでお風呂から上がって温泉宿の食事を楽しんだ後で、奈緒が私のカローラ・フィールダーにヒロミだけを乗せて、伊香保温泉から離れた場所まで行った。奈緒は高崎に出るつもりだったのだが、道を間違って!? 反対方向の草津温泉まで行ってしまったらしい。
 
それで私が電話で草津温泉の旅館に予約を入れ、部屋をひとつ確保して、その旅館でチェックをすることにした。奈緒はヒロミに寝るように言ったが神経が高ぶって眠れないようだったので、温泉街を3kmほどジョギングしてきてもらい、更に温泉(もちろん女湯)に浸かって来させて、更に奈緒が軽い暗示を掛けてあげたので、やっと寝たということであった。
 
夜11時頃、奈緒から電話があったので、私・政子・青葉・千里の4人で聞いた。
 
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「結論、おちんちんは存在する」
と奈緒は言った。
 
「やはり、あるんだ?」
「本人が寝ている時はね」
「そういうことか!」
 
「眠った状態で見させてもらって、確かにタックされた状態であることを確認した。青葉ちゃんから渡された剥がし液を使って外してみたら、ペニスと陰嚢はあったけど、中に睾丸は無かった」
 
「じゃ、去勢だけした状態?」
「去勢されているかも知れないし、睾丸が体内に入ったままになっているのかも知れない。指で触ってみたんだけど確認できなかった。これはCTかMRIか取らないと無理」
 
「確かに」
「それで再度テープと接着剤を使ってきちんとタックした。これ久しぶりにやったけど、何とかなったよ」
 
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奈緒の言葉にヒヤリとする。今の言葉を政子に聞きとがめられるとやばい。奈緒が誰のタックをしたのかというのは追及されたくない。しかし政子はその問題には気付かなかったようだ。
 
「その上で本人を起こしたらさ」
「うん」
 
「ヒロミちゃんが覚醒するのと同時に、割れ目ちゃんの雰囲気が変わったんだよね。それでちょっと見せてと言って再確認すると、タックではなくて本物の割れ目ちゃんがあること、ヴァギナもあることを確認した。本当は医療行為になるからいけないんだけど、渡されたクスコ入れてみた。膣の内部はごく普通の感じだから、性転換手術されたものであればS字結腸法だと思う。膣の一番奥には向こうにつながる穴もあった」
 
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「本人は生理もあるみたいなのよね」
「うん。私も今本人から聞いた。生理があるということは、その向こう側に子宮や卵巣があってもおかしくない、というかあると考えた方が自然」
 
「だよねー」
「ということで、結論。ヒロミちゃんは寝ている間は男の子だけど、起きている間は女の子」
 
その声を聞いて青葉がばつの悪そうな顔をしている。私はこれって青葉が何か「おいた」をした結果だなと推測した。たぶん青葉にしては珍しく失敗をしたことで、こういう曖昧な状態になってしまったのだろう。
 
「それって結婚してお嫁さんになって初夜を迎えたら悲惨なことに」
「やはりちゃんと手術する必要があると思うよ」
「その状態でできるんだっけ?」
 
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「麻酔で眠っていたら、男の子になっているから、それを改造すればいい」
「だけど事前の診察とかは起きている状態でやることになるよ」
「診察の時は寝るしかないと思う」
 
「そんな面白い話、松井先生が聞いたら大喜びしそうだ」
「実際、こんな微妙な患者の手術をしてくれそうなのは松井先生くらいだろうね」
 
「ここでヒロミちゃんが、ひょっとして私妊娠できる?などと聞いてるけど、みんなはどう思う?」
 
「妊娠できるというのに1票」
「赤ちゃん産めるというのに1カペイカ」
「出産できるというのに1リラ」
「ヒロミちゃん、子供1人できるよ」
 
といった電話の向こう側の声を聞かせて奈緒はヒロミに向かって
 
「だってよ」
と言う。するとヒロミは恥ずかしそうにして頬を赤くした。
 
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KARIONのアルバム制作は、ローズ+リリーのアルバム制作との同時進行ながらも着実に進んでいった。
 
最初にリズミカルな曲を先行して制作した。
 
『ゆりばら日誌』(マリ&ケイ)はユリを表すフルートとバラを表すヴァイオリンとの掛け合いをフィーチャーしている。フルートは風花、ヴァイオリンは夢美が演奏する。歌ではユリを歌うのが和泉で、バラを歌うのは小風である。美空はユリとバラの掛け合いを傍観している太陽(楽器ではSHINのサックス)、私は悪戯をする蜂(楽器では美野里が弾くキーボード:リード系の音)。
 
これをGt:TAKAO B:HARU Dr:DAI Tp:MINO というトラベリング・ベルズの演奏と合わせて収録する。今回は特にリズミカルな曲ではできるだけ多重録音は行わずに臨場感を優先する録音を行っている。
 
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『アイドルはつらいよ』(ゆきみすず・すずくりこ)は80年代アイドル歌謡っぽい雰囲気にまとめてある。伴奏もGt/B/Drの3人を基本にして、SHINのサックスとMINOのトロンボーン、夢美と松村さんのヴァイオリン、それに味付け的に様々な楽器の音を夢見にキーボードで入れてもらった。
 
『嵐の山』(葵照子・醍醐春海)はGt/B/Drの音を大きくするミクシングをしている。特にドラムスとベースは嵐が吹き荒れている様を表現する。最初譜面を見た時「これほんとにベースパートなの?」とHARUが言ったほど、この曲ではベースに表情がある。SHINのサックスとMINOのトランペットは嵐の中で迷っている狼や猪などを表す。この曲では、敢えて4人の歌を多重録音して8人での重厚な合唱にしている。ライブの時はVoice of Heartに4人分歌ってもらうことを見越してのアレンジである。途中ツインギターになっている所は和泉、ツインサックスになっている所は私が弾いている。
 
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『フレッシュ・ダンス』(神崎美恩・浜名麻梨奈)は神崎・浜名の2人、更にパープルキャッツのメンバーにも参加してもらい、かなりXANFUSっぽい曲に仕上げた。私と和泉が音羽相当のパートを歌い、小風と美空が光帆相当のパートを歌っている。念のため★★レコードの法務部と相談したのだが「演奏のスタイル」に著作権等の知的所有権は無いので、問題無いという判断であった。
 

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10月8日。新生?XANFUSの新しいシングル『DANCE HEAVEN』が発売された。今回作曲が神崎・浜名ではないこと、伴奏が打ち込みであることは公開されていなかった。しかし発売の一週間ほど前からFMなどで事前に流されていた音源を聞いてXANFUSのファンは騒然としていた。音羽や光帆のツイッターのアカウント宛てに質問が入っていたものの、音羽も光帆も沈黙していた。そもそも発売前には「出すよ〜。よろしく〜」という感じの光帆のツイートがあるのが恒例なのに、今回はそれも無かったことがファンの不安感を煽った。
 
そして初動はわずか4200枚であった。
 
通常XANFUSのシングルはCD/ダウンロード含めて14-15万枚は売れる。しかも初動でその7−8割が売れる。XANFUSは固定ファンに支えられたアーティストだ。そしてXANFUSは2010年春から4年半の間に出した14枚のシングルが連続して10万枚/DL以上売れていたのだが、このままでは連続ゴールドディスク記録が途切れる可能性が出てきた。
 
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10月16-17日(木金)、私と政子、千里・七星さんの4人はローズ+リリーのアルバム収録曲『光る情熱』の和楽器部分の演奏収録のため、福岡に向かった。福岡に住む私の伯母・里美(若山鶴里)に協力してもらうことになっていた。ついでにふたりの娘(私の従姉たち)も付き合ってくれる。
 
「冬、お久〜」
などと言って特に仲の良い明奈とハグする。
 
「冬ちゃん、結婚はまだしないの?」
「今いちばんの稼ぎ時って気がするから、今結婚するなんて言ったらレコード会社から叱られる」
「大変だね〜」
「そちらはふたりとも結婚は?」
「まだまだ」
とふたりとも言っているが、里美伯母は
「そろそろ行って欲しいんだけどね」
と言っている。
 
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若山一族の私の世代では、
 
鶴音(乙女)の子供:友見が1994年、俊郎が2002年、聖見が2001年、
鶴風(風帆)の子供:恵麻が2000年、美耶が2004年、晃太が2008年、
鶴声(清香)の子供:鹿鳴が2006年、千鳥が2009年、歌衣が2012年、佳楽が2013年、
そして私の姉の萌依が2012年に結婚していて、
 
未婚なのは女の子では私とこの姉妹(1987,1989生)、男の子では清香伯母の息子の薙彦(1988生)が残っているだけである。
 
演奏は大型の和太鼓を里美伯母、小型の太鼓を純奈、三味線を明奈と私、そして横笛を千里が吹いて収録した。七星さんがサウンドの管理をしてくれる。政子はそもそも定員外だったのだが、付いてきて見学である。
 
(直前に言うので慌ててチケットを買って、千里が自分は寝ていたいからと言って政子と切符を交換した。確かに神社とファミレスのバイトを掛け持ちして、修士論文を書きながら就職活動もしている上に、作曲活動もしているのだから無茶苦茶忙しいはずである)
 
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「村山さんって言った? 笛が凄い。うちの一派に入らない?」
と里美伯母が言う。
 
「若山鶴声(清香)さんから《若山萌鴎》の名前を頂きました」
と千里。
 
「あ、お姉ちゃんが先にツバ付けたか」
と言ってから
「でも鴎か。鶴の名前をあげてもいいくらいだけど、うちの純奈を嫁にもらってくれない?親族なら鶴をあげられるのに」
 
「私、結婚するなら男の人としたいです」
と言って千里は笑っている。
 
「純奈、あんた性転換して男にならない?」
「誰かちんちん譲ってくれるなら」
「うちのお父ちゃんのちんちん取っちゃおうかしら」
「お父さんがちんちん無くしたら、お母さんが困るでしょ」
「じゃ半分こして」
「それ、縦に切るの?横に切るの?」
 
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千里は結局大阪の元彼と不倫しているようだし、基本はヘテロなのかな?と私は思った。桃香との関係についても桃香は千里のことを恋人だと言うのに、千里は桃香のことをあくまで友だちだと言う。恥ずかしがってそんなことを言っているのかともずっと思っていたが、実は本音で、千里は女性には実は恋愛感情を持てないのかも知れないというのも少し考えた。
 
もっとも桃香と千里はちゃんと夜は一緒に寝ているらしいけどね(桃香によると)。
 

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福岡で一泊して、翌日も夕方近くまでスタジオでの作業をしてから引き上げることにする。最終便の飛行機で東京に戻った。空港で七星さんと別れ、千里も羽田からバスで千葉に戻るという話だったので別れることにしたのだが、桃香に電話した様子の千里がこちらに小走りで来る。
 
「ごめーん。うちがふさがっているみたいだから、今夜そちらに泊めてくれない? ふたりの邪魔はしないから」
と千里が言う。
 
「ふさがってる?」
「桃香が彼女を今夜は連れ込んでいるみたいで」
 
「今日帰ると言ってなかったの?」
「それがやむを得ない事情で保護したと言っている」
「何かトラブルがあったのかな?」
「どうもそうみたい」
 
《保護した》というのは自殺未遂か何かだろうか。ともかくも今夜は千里は私のマンションに泊めることにした。
 
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翌朝、私が起きると千里が既に起きていて、朝ご飯を作ってくれていた。
 
「御飯を1升炊くというのは、よく分かってるね」
「まあ食べる人がいるからね」
「ハマチを丸焼きにしようというのは、ふつうの人は考えつかない」
「食べちゃう人がいるからね」
 
それでお味噌汁なども盛ってから政子を起こす。政子はなかなか起きないが、御飯だよというと、まあ10分か15分くらいで起きてくる。それで3人で一緒に朝ご飯を食べた。
 
食べながら政子が自分の携帯(政子はスマホが半年単位で壊れるのでとうとう京セラ製のフィーチャホンに戻してしまった)をいじっていたのだが
 
「うっそー!」
と叫び声をあげる。
 
「どうしたの?」
「今朝のニュース。これ見て」
 
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と言って私たちに携帯の画面を見せた。そこには
 
『XANFUSの音羽、卒業』
という文字が太字で表示されていた。
 

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夏の日の想い出・そして誰も居なくなった(7)

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