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■夏の日の想い出・勧誘の日々(8)

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「冬ちゃん、去年の6月から名古屋に通ってきてお稽古する時はいつもセーラー服だよね」
と風帆。
 
「本来の自分の姿でお稽古受けたいから」
と私は正直な気持ちを言う。
 
「私もセーラー服の冬ばかり見てるからてっきりそれで学校にも行ってるのかと思ったら学生服で行ってるというから、なんで〜!?と思ってるんですけどね」
と奈緒。
 
「冬、やはり9月からはセーラー服で通学しようよ」
と若葉にまで言われる。
 
「えー、恥ずかしい」
「冬の恥ずかしさの基準が理解できん」
 
「だいたいビキニ姿を全国に公開していて今更だよね」
「あはは」
 
「やはりお母さんに知られるのが嫌なのかな?」
「冬ちゃんがそういう格好してるって春絵が気付かない訳ないでしょ?」
と風帆伯母は言った。
 
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私はドキッとした。
 
「でも自分の気持ちが少し整理ついたら、ちゃんとお母ちゃんには自分の性別のことを自分の言葉で話しなさい」
と風帆は言った。
 
「はい」
と私は素直に返事した。
 
実際に私がそういう話を母とするようになるのは、1年半後、高校に合格してからである。
 

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「でも冬ちゃん、そういうモデルのお仕事とか、他にも民謡の伴奏とかのお仕事随分してるよね。いただいたお金はちゃんと貯金してる?」
と風帆伯母から訊かれた。
 
「初期の頃、半分くらい母に渡そうとしたら、貯金してなさいと言われたので貯金しています。名古屋に毎月通う費用にしたり、ヴァイオリンの弦や三味線の糸を買ったり、CDや楽譜とかを買ったりした以外は半年単位で全部定期預金にして、自分でも簡単には使えないようにしています。実は私、人には名古屋大学志望とか言っているんですけど、本当は都内の私立大学に行きたい気持ちもあって、その学費に充てるのに積み立ててるんです」
 
「すごーい。えらーい」と奈緒。
「ああ、それは偉いね」と風帆。
 
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この時期、私が実は密かに狙っていたのは音楽系の学科が充実しておりアスカがその付属高校に行っている♪♪大学だったのだが(実は当時夢美も♪♪大学に行きたいと言っていた)、結果的には芸能活動との兼ね合いで断念することになる。
 
「だから普段の私のお小遣いは主として親からもらっているお金だけで運用してます。まあ予備費は裏会計から流用しているから今日の入浴料とかはそちらから払いましたけど」
 
「女の子の服も裏会計で買ってるよね?」
「あ、えーっと・・・」
 
「いや実はそれが目的なんじゃないかと私は推測している」
「うーん・・・」
 
「多分女性ホルモンを買うお金もそこから出てる」
「うっ・・・」
 
「性転換手術もそのお金で受けたんでしょ?」
「まだ受けてないよー。受けたいけど」
 
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「まあ、いいんじゃない?自分で稼いでいるんだし」
と風帆伯母も楽しそうに言った。
 

「ああ、そうそう」
と風帆伯母は言った。
 
「冬ちゃんにあげる予定の名前だけどね。4人で改めて話し合って。もし、冬ちゃんが民謡のプロになるなら『若山鶴冬』。民謡の道に進まないのであれば文字をひっくり返して『若山冬鶴』にしようと」
 
「ごめんなさい。多分私はそちらには進まないと思います」
 
「うん。だから『若山冬鶴』の名前をあげて、冬ちゃん自身がもし民謡の道に進みたいと思ったら、その時自分で名前をひっくり返して『若山鶴冬』を名乗ればいい、と。タイミングとしては20歳になってから、あるいは大学に行くなら大学を卒業したらあげよう、という線で話している」
 
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「うーん・・・」
「まあ、それまでは若山富雀娘(ふゆすずめ)で頑張ってもらおうかと」
「はい」
 
そういえば、私って民謡の道にもずっと誘われているんだったな、と私はあらためて自分の「スカウトされ具合」について考えたのであった。
 

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私が遊園地で「花の女王」に選ばれた翌29日は都内のスタジオで、30-31日の2日間、関東ドームで行われるドリームボーイズのライブの練習をしていた。
 
今回はダンスチームの常連組は私と葛西さん・松野さんの3人で4人が経験の少ない子であった。しかし練習は今日1日だけなので、その1日で20曲ほどのダンスを覚えてもらわなければならない(実際にはその内10曲程度は経験して覚えている子たちだが、どれを経験しているかは各々異なる)。
 
葛西さんがずっとひとりで指導するのは大変なので、私と交替で指導していたのだが、松野さんが
 
「何だか樹梨菜ちゃんが2人いるみたい」
などと言っていた。
 
「ん?」
「洋子ちゃんの指導の仕方が樹梨菜ちゃんの指導の仕方に似てるなと思って」
 
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「まぁ2人だけで、いっぱい練習したからね」
と葛西さん。
 
「たくさん色々教えてもらいました」
と私。
 
「洋子ちゃんと樹梨菜ちゃんって、そんなに仲良かったっけ?」
と松野さんが言うが
 
「仲いいですよー」
と言って、私と葛西さんは笑顔で肩を組んだ。
 
「最近ふつうの練習の後でもけっこう樹梨菜さんに車で送ってもらったりしてるんですよー」
 
「へー。まぁ、いいけどね」
と言って松野さんは笑っていた。
 

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15時にいったん休憩しておやつタイムにしたが、そこに大守さんが私と葛西さんを呼びに来た。別室で演出面などの打ち合わせを再度しておこうということだった。練習を松野さんに託してそちらに行く。
 
部屋に入ったのは、マネージャーの前橋さん、ドリームボーイズの蔵田さんと大守さん、それにダンスチームの葛西さんと私、という5人である。人形などを使いながら本番での進行、ダンスチームの出入りのタイミングなども確認する。
 
ここで初めて今回のゲストがワンティスのドラマー三宅行来さんであることが明かされ私はびっくりした。
 
「かつてのライバルがゲストで出てくるというのはビッグサプライズだから。実は、これ口外しないで欲しいんだけど、三宅さん、今年中に自分のバンドを立ち上げる予定なんだよ。それでその前宣伝ということで頼まれたんだ」
と前橋さん。
 
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「事務所とかはどうなるんですか?」
「新しい事務所を設立して、うちと委託契約にする。ワンティス自身の前の事務所との契約は今年の3月で切れたんだよ。あそこも今は****売ってるから過去のバンドにはこだわらないで解除に応じたようだね。それで各自勝手に活動を始めるということみたい」
 
「じゃ事実上の解散ですか?」
「解散宣言はたぶんしないんだろうけどね」
 
「三宅さん、ドラムスの演奏なんですか?」
「ギターの弾き語りで歌うということ。ワンティスは高岡・海原とギターが2人もいたから披露する機会が無かったけど、三宅さん、結構ギターも弾くらしい」
「へー」
 
「ギター弾けるけど、披露しないというと蔵田さんもですよね?6月の時は別として普段の作曲では結構ギター弾いておられますし」
と私は言った。
 
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「まあ俺はギターあまりうまくないし。それに弾き語りも苦手だから歌に集中したいというのでライブでは弾かないんだけどね」
と蔵田さん。
 
「弾き語りが苦手というと、ワンティスの上島も弾き語りが苦手だよな」
と大守さんが言う。
 
「ああ。ライブでキーボード弾く時はキーボードに集中して歌は高岡に任せて、歌う時はキーボードは下川に任せてたな、だいたい」
と蔵田さん。
 
「そうそう。これは別口で耳にはさんだんだけど、上島さんも既に音楽活動再開しているらしい」
と前橋さん。
 
「そちらも自分のバンド作るんですか?」
と葛西さんが訊く。
 
「いや、それが作曲家として復帰ということみたい」
「へー」
 
「何でもさ、コージが『鯛焼きガール』を書いて松原珠妃が歌って大ヒットしたろ? それに刺激されて松浦紗雪に曲を提供したらしい。で、その曲がまだ未公開だけど、かなり出来が良いという評判で、レコード会社の要請で、アイドル歌手の篠田その歌にも更に提供したらしいよ。松浦紗雪の曲は来月、篠田その歌の曲は10月くらいに発売されるらしい。これ某ミュージシャンからの伝え聞きなんで確かではないんだけどね」
と前橋さん。
 
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ああ。世間にはそう伝わっているのかと私は伝聞による情報の変化の面白さに顔が緩みそうになる所を我慢していた。
 
なお、当時松浦紗雪は22歳でアイドル歌手としてはピークを過ぎていたが、この後、上島先生の曲でポップス歌手として再生し、トップ・ディーヴァへの道を歩み始める。初期の上島ファミリーの中核になる人だ。
 
「あれ、篠田その歌なら、洋子ちゃんも関わっているのでは? どんな曲だった?」
と大守さん。
 
「ごめんなさい。守秘義務があるので、解禁日まではお答えできません」
「えらーい!」
 
「うん。洋子ちゃんって、そのあたり口が硬いから信頼できる」
と前橋さん。
 
「もう少し漏らしてくれてもいいじゃんと思う時もあるけどね」
「すみませーん」
 
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「でもひとつ。このくらいなら答えてもいいよね? 俺の曲に対抗できるような曲だった?」
と蔵田さんが訊く。
 
「いい勝負だと思いますよ」
と私は笑顔で答えた。
 
「よし。じゃ、こちらはそれより凄いの作ろう」
「誰かに渡すんですか?」
「芹菜リセ(保坂早穂の実妹)に曲を書いてくれないかと頼まれているんだよ」
「きゃー! それは気合い入りますね」
 
「9月2日の夕方、洋子、時間取れる?徹夜モード」
「取ります」
と私は手帳も見ずに言った。徹夜は・・・若葉の家にお泊まりすることにさせてもらおう。私が男の子の家に泊まると言ったら停められそうだが、女の子の家なら何も言われない。
 
「樹梨菜も付き合え」
「私には都合を訊かずに言うの〜?」
と葛西さん、不満そう!
 
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「まあいいじゃん。スタジオで3Pデートしようぜ」
「もう!」
と葛西さんが呆れたように言い、大守さんが笑っていたが私は「3P」の意味が分からなかったので質問してしまった。
 
「さんぴーって何ですか?」
「気にしない!」
と言われる。それでどうもエロ系の言葉なのかな?と想像した。
 
「洋子ちゃんにまた試唱させるの?」
と前橋さんが訊く。
 
「松原珠妃とか、芹菜リセみたいな声域の広い歌手に渡す歌は、洋子みたいな子に歌わせてみないと曲の出来が確認できないからな」
 
「そういえば洋子ちゃんって、声域広いなとは思った」
と前橋さん。
 
「この子、自分でも何オクターブ出るのか分からないと言ってる。こないだはC7が出てた」
「えー!?」
「あはは・・・あれはさすがにまぐれですー。偶然ハーモニクスで出ちゃっただけで普通はC6かせいぜいD6までです。高い音は声量も無いし」
 
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楽器でも歌声でも、音には必ず倍音が混じるが、その倍音のみを響かせるのをハーモニクス(フラジオレット)と言い、2倍音のみが出れば結果的に1オクターブ高い音が出るのである。原理的にはもっと高い倍音も出すことが可能であり、声域の広い歌手は結構これを使用している。ただどうしても弱い音になりやすい。
 
「D6出たら充分凄いよ。ね、ね、こないだからも何度か言ってたけど、洋子ちゃん、うちのプロダクションから歌手デビューする気無い? ○○プロからも多分誘われてるだろうけどさ、契約金色付けるよ」
 
「済みませーん。まだ修行中なもので」
 
「俺たちって契約金とかもらったっけ?」
と蔵田さん。
 
「登録料とか言われて最初俺たちが5万円払ったな」
と大守さん。
 
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「あはは、何度かボーナス払ったじゃん。それで勘弁してよー」
と前橋さんは焦ったように言った。
 
 
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