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■夏の日の想い出・勧誘の日々(7)
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そういう訳で、私は奈緒・有咲・若葉、風帆伯母、三千花・小都花・七美花と一緒にF温泉まで行くことになったのであった。
ここはほんの数年前に開発された新しい温泉でテニスコートや体育館なども付属している。若葉が「あ、ここテニスの大会で来たことある」などと言っていた。ただ若葉が来た時はまだこの温泉の方は無かったらしい。
到着したのが16時すぎで、まだ夕食には早いので、まずはお風呂に行くことにする。
「ガソリン代がわりに入浴料を私が出しますね」
と言って、私が大人5人・子供2人分の料金を払った(幼稚園の七美花は無料)。
受付の女の人が「全員女性ですか?」と訊いたので、私は一瞬躊躇ったが、そばから有咲が「そうでーす」と言ったので、赤いベルトのロッカーキーを7つもらった。それでぞろぞろと脱衣場の方へ行く。
「私が横から口を出さなかったら、冬、男1人女6人と言いかねなかった」
と有咲。
「悪い子だ」
と奈緒。
風帆伯母が笑っている。
脱衣場で自分たちの番号のロッカーの所に行く。三千花も小都花も興味津々という感じでこちらを見ている。やれやれ。奈緒・有咲・若葉はそれぞれ何度も一緒に女湯に入っているので、時々こちらに視線を投げるだけである。
取り敢えず体操服の上下を脱ぐ。
「あ、冬彦おじちゃん、女の子下着つけてるんだ?」
と小都花。
「女の子だからね」
と奈緒。
「冬彦おじちゃん、可愛いブラしてる!」
と小都花。
「この子、こういうのが似合うのよ」
と奈緒。
「ね。小都花ちゃん、『冬彦おじちゃん』は勘弁してくれない」
とさすがに私は言った。
「あっと、おじちゃんじゃなくて、お兄ちゃんだっけ?」
と小都花は大きな声で言う。
すると、その会話を耳にしたのか、スタッフらしき女性がこちらに近づいてくる。そして小都花は
「冬彦お兄ちゃん、キティちゃんのパンティ穿いてる!」
などと大きな声で言う。うむむ。
そして近づいて来た女性が
「あの、すみません」
とこちらに声を掛けてきた。やっばー。
と思った時だった。
「ちょっと、あんた男じゃないの?」
という声。
ん? という感じの奈緒たちの視線・風帆伯母や三千花などの視線がこちらに来るのを感じたが、
「きゃー!」
という声が近い所でする。
ガタガタっという音がして、何だか異様な風体の人物がこちらに走ってきて、向こうから「そいつ捕まえて!」という女性の声。
反射的に私と有咲がその人物の両腕を掴んで確保した。若葉がその男の右手を掴んだ。男はブラジャーを握りしめている。(奈緒はこの手の反射神経を持ち合わせていないのでただ眺めているだけ)
うーむ。と私はうなった。こりゃちょっと酷い女装だ。ハーフウィッグを付けているが、地の髪の色と違いすぎる。口紅を塗っているがあちこちはみ出しているし、口の端の方には塗られていない。アイシャドウは、化粧下手のおばちゃんでもここまで下手には塗れないだろうというひどさ。だいたい、眉も太いままだし、ヒゲ剃り跡をファンデで隠そうとしたような雰囲気はあるものの、隠せていなくて、けっこう目立つ。それに何だ?このワゴンセールでも売れ残りそうなひどいデザインのスカート。
「そのブラは?」
とちょうど私たちの近くに来ていたスタッフさんが訊くと
「それ私のです!」
と向こうの方にいる女性。
単に女装して脱衣場に居たというだけなら、性同一性障害のケースも考えられなくもないが、下着を漁っていたというのは痴漢で確定だ。
「ちょっと、あんた事務所まで来て」
とスタッフの女性が言う。それで騒ぎを聞きつけて駆け寄ってきた他の女性スタッフ数人に私たちはその男を引き渡した。男が連行されていく。
「ところで、今あなた、その女の子からおじさんとかお兄さんとか呼ばれてませんでした?」
とスタッフの女性。騒動にも関わらずこちらのことは忘れていないようだ。やれやれ。
「えっと、私、男に見えます?」
と私は笑顔でその女性に尋ねた。私はショーツ一枚でバストも露出している。
「あ、いや失礼しました」
と言って、彼女も痴漢を連行していくスタッフに付いていった。
「凄い。開き直ってる」
と有咲が感心したように言う。
「まあ、確かに女にしか見えないけどねぇ」
と風帆伯母も少し呆れている感じ。
「さあ、入りましょう、入りましょう」
と私は言って全員浴室に移動する。
「小都花、冬彦おじさんのことはこれからは冬子おばさんと言おうね」
と三千花が言う。
「はーい」
おお、なんて物分かりの良い三千花ちゃん!
「冬、ビキニの水着の跡がくっきり」
と奈緒から指摘される。
「うん。先週ビデオ撮影で伊豆の白浜に行ってきたから」
と私は答える。
「冬、そちらが陸上部の合宿の後で良かったね。そちら先に行ってたら、ビキニの跡を貞子たちに厳しく追及されてたね」
と若葉。
「あはは」
「あんた、モデルか何かしてるの?」
と風帆伯母に訊かれる。
「えっと。ドリームボーイズというバンドのバックダンサーしてるので」
「ドリ?」
「ドリームボーイズです」
「へー。名前知らないや」と風帆。
「ああ。あの人たち私たちくらいの年齢層に特に受けてるよね」
と有咲。
「うん。ファン層がせいぜい20代までって感じ」
と私も言う。
「松原珠妃の『鯛焼きガール』とか『硝子の迷宮』とかを書いたヨーコージというのが、そのバンドのリーダーなんですよ。本当は蔵田孝治というんですが作曲の時はヨーコージの名前で」
と有咲が説明する。
「ああ、それなら聞いたことある。というか、松原珠妃は冬ちゃんのお友だちだよね?」
と風帆。
「ええ。私にポップスの歌い方とかを教えてくれた人です。初見で歌うのとかも彼女にたくさん鍛えられたんですよ」
と私は言った。
「へー」
「実はドリームボーイズのバックダンサーしてるのも、その縁なんですけどね」
「あ、そうだったんだ!」
と奈緒。
この件は有咲や若葉は知っているのだが、奈緒はこの時まで知らなかったようである。
「でも冬子さん、しっかりおっぱいある」
と三千花が言う。
「そうだね。発達は遅いけどね」
「女性ホルモン飲んでるんですか?」と三千花。
「そのあたりは秘密ということで」と私。
「いや、本人は否定しているけど、ホルモン飲んでいる以外に考えられないよね、この胸は」と奈緒。
「あはは、そのあたりは曖昧に」と私。
「本当にホルモン飲んでないのなら、それで女湯に入ってたら痴漢だと思う。私は多分冬は小学4年生くらいの頃に密かに性転換手術して、その後ずっと女性ホルモン飲んでるんだろうと思うんだけどね」
と若葉が言う。
「やはりアレ・・・付いてないですよね?」
と三千花が私の身体をのぞき込むようにして言う。
「本人が付いてると主張するからお風呂に連れてきてみたんだけどね。こうして見る限りはやはり付いてないとしか思えないね」
と奈緒。
「それも、ほんとに付いてるならここに居るのは痴漢だよね。でも見た感じやはり付いてないみたい」
と言って有咲は触っちゃう!
「ちょっと。さすがに触るのは勘弁して!」
「やはり何も無いよ」
と有咲。
「半月ほど前に私も触ったけど、何も付いてなかった。でもヴァギナも無い感じ」
と若葉。
「あ、そうかも」
と有咲。
「ふーん。男の器官は取ったけど、まだ女の器官は作ってないの?」
と風帆。
「大人になるまでに作ればいいのかも」
と有咲。
「ごめんなさい。その付近は曖昧にさせといて」
と私。
「若い内に男性器官を除去する場合はその方がいいと聞いたことあります。おちんちんは除去してそのまま冷凍しておいて、ヴァギナが必要になる年齢になってから解凍して、それを材料にヴァギナを作るんだって。そうしないと使ってないヴァギナは萎縮しちゃうからって」
と若葉。
「ああ、なるほどー」
「勝手に納得しないように」
「もしまだ付いてるのに女湯に居るのなら重罪人だよね。でももう男ではないみたいだし。やはりさっきの診断書も捏造で確定だな」
と奈緒。
「なあに、診断書って?」
と風帆。
「冬子がおちんちんもタマタマも付いてると主張してそのサイズを測った診断書見せてくれたんですけどね」
「ふーん。本当に付いてるというのなら、取り敢えず警察に通報してみる?」
「ああ。そういう手もありますね」
「勘弁して〜」
三千花たち3人がジャングル風呂の方に行った。その様子を目の端で見守りながら、話が核心?に入る。
「でも性同一性障害の人で女子トイレとか女湯とか使う人いますよね。そういう人と、痴漢とを判別する基準って何なんでしょうね?」
と奈緒は自問するかのように言った。
「後戻りできない身体になっているかだと思う」
と風帆は言った。
「ああ」
「ウィッグ使ったり、お化粧しなきゃ女に見えないレベルでは、女として受け入れられないけど、女性ホルモン飲んだり、おっぱい大きくしたり、去勢したりしている人は、警察も女性として認めてくれるでしょうね。要するにもう覚悟してるのかどうかだよ」
「冬は覚悟が微妙だな。改造はしてるっぽいけど」
と有咲が言った。
鋭い指摘だな、と私は思った。
「冬の場合、愛知から転校してきた時からずっと女の子みたいな髪型だったし、今はおっぱいAカップあるし、おちんちんは正直どうか分からないけど、多分タマタマは無い気がするし。警察に捕まっても釈放されるかな」
と奈緒。
「でも女子トイレまではいいけど、女湯に入るのは、おちんちんが無いことが条件だと思う」
と風帆。
「その点が私も分からないんだよねー」
と若葉。
「冬、どうなのさ?」
と奈緒。
「えっと、私もよく分からない」
「本人に訊くとだいたい分からないという答えが返ってくるんだよね」
と有咲。
「こないだ里美とも冬ちゃんのおちんちんのこと話したんだけどね」
と風帆。
「そんなの話すんですか〜?」
「里美は、もしかして冬ちゃん病気か何かで小さい頃、おちんちん取っちゃったんじゃないかと」
「ほほぉ」
「それでこないだ春絵に直接訊いてみたらさ」
「冬のお母さんに?」
「春絵は小学1年くらいの時に冬ちゃんのおちんちんを見たというんだよね」
「へー」
「でもそれ以降、見てないと言うんだな。正直今は付いてるかどうか分からんと」
「お母さんにも分からないんですか?」
「きっとその頃、取っちゃったんですよ」
「ひょっとしたら、凄く退化してクリちゃんサイズにまで縮んじゃったのかも」
「それだと本人にも、もうそれおちんちんなのかクリちゃんなのか分からなくなってたりして」
「あ。それなら冬が『おちんちんあるの?』という質問に『分からない』と答えるのが説明できますね!」
「私、以前お医者さんから聞いたんですけど、おちんちんって子供の内に去勢した上で女性ホルモン投与してると2年くらいで、小指の先程度のサイズまで萎縮しちゃうらしいですよ」
「おぉ!」
何それ?何かの妄想小説じゃないの〜!? 私は下手なことをしゃべると藪蛇になりそうなので、曖昧に笑っておいた。
「そのくらい縮んじゃうと、もう皮膚の中に埋もれて、一見付いてないように見えるんだって」
「凄っ!」
「それ、まさに冬の今の状態かも!」
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