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■夏の日の想い出・星の伝説(7)

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お昼はお弁当を持って来てくれた母と会い、少し言葉を交わしてから、若葉、美枝、貞子と一緒に4人でお弁当を食べた。
 
「冬、お母ちゃんと何か話した?」
「うん。3000mの3位を褒められた。それから午後は男子の組体操に出るの?と訊かれたから、正直に女子の方のダンスに出ると言った」
「何か言われた?」
「笑ってた」
 
「冬のお母さん、けっこう冬のことを理解している気がする」
「むしろ若干、煽っている気もする」
「息子を娘に改造する計画ね」
 
「ああ、それはお姉さんの方が熱心。明らかに弟を妹に改造しようとしている」
「おっぱい大きくするサプリ渡してるんでしょ?」
「いや、既に改造済みなのではないかという説もあるけど」
 
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「おっぱいも、これかなり成長してるよね〜」
などと言って美枝から触られる。
「私、冬におっぱいのサイズで負けてるかも知れん」
「それはさすがに無い」
 
「どれどれ」
などと言って貞子が私と美枝の胸に触る。
「うーん。いい勝負という気もするぞ。美枝頑張れ」
 

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昼休みが終わり、最初男子の組体操がある。私はそれを他の女子たちと一緒に本部前に整列して座って見ていた。他の女子達はふつうの体操服だが、中央で踊る私や協佳は結局チアの衣装でミニスカである! 私は今日は父が来てなくて良かったと思った。
 
「冬ちゃん、今更だけどミニスカに全く違和感が無い」
と隣に座っていたクラスメイトの杏奈から言われる。
 
「だいぶ抵抗したんだけどねー。押し切られた」
「多分、冬ちゃんミニスカでないと、本来の運動能力が出ない」
「冬ちゃん、午前中3000mで3位だったけど、もしスカート穿いて走ってたら、1位になってたよ」
と反対側の隣に居た良子。
 
「あはは。それ陸上部の人の前で言わないでね。絶対やらされる」
 
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男子の体操を見ていて、私が何気なく
「**君、格好いいねー」
と言ったら
 
「冬ちゃんも、**君好き? 彼人気あるよね」
と杏奈。
 
「いや、好きとかそういうのではないけど・・・」
などと私が顔を赤らめながら言うと
「別に恥ずかしがらなくてもいいのに」
と言われた。
 
「冬ちゃんってバイだっけ?」
と良子が訊く。
 
「そうかなぁ。自分ではストレートだと思ってるけど」
 
「ちょっと待ってね。冬ちゃんの言うストレートって、男の子が好きなんだっけ?女の子が好きなんだっけ?」
と良子が頭に指を当てながら訊く。
 
「え?ボクが好きなのは男の子だよ」
と私は答える。
 
「だよねー」と杏奈。
「うーん。。。」と良子が悩んでいる様子。
 
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「男の子と付き合ったことある?」
「付き合ったことはないけど、デートっぽいことしたことは何度かあるかな」
「それ、どこまで行ったの?」
「えっと・・・あはははは」
 
「ちょっと待て。誤魔化したくなるようなことまでしてるの?」
 
「一応、まだバージンは守ってるよ、多分」
 
「うーん・・・・・・・」
と言って、良子と杏奈は顔を見合わせた。
 

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男子の体操が終わり、入場ゲートに下がって、女子が校庭に走って広がる。最初はケツメイシの『君にBUMP』。チア部の3年生女子6人が先頭中央に出て、リードしながら踊る。肩に飛び乗り、そこから空中で前転して飛び降りるなど、男子もびっくりの技を繰り出す。それがちゃんと音楽に合っているので保護者席から思わず歓声が上がっていた。
 
次の曲は大塚愛の『サクランボ』。今度はチア部の1年生女子5人が先頭中央に出て、割と普通に踊る。アクロバティックなアクションは敢えて使わずに、可愛くまとめた感じであった。
 
最後、ドリームボーイズの『噂の目玉焼きガール』。とっても楽しい曲である。今回のコンセプトは、元気な曲は元気よく、可愛い曲は可愛く、そして楽しい曲は楽しくだ。チア部の2年生の番で、私は協佳などと一緒に先頭中央に出て踊る。2人ずつ組んで、前に1組、後ろに2組のフォーメーションである。私と協佳は普通に本来のドリームボーイズのダンスを踊っているのだが、後ろの2組はスタンツを組み、肩に乗ったまま踊ったり、3人で1人をトスして、トスされた人が空中でポーズを取るなどの大技を出していた。
 
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ドリームボーイズの本来のダンスの方にもクライマックスにブリッジで連続後転していく部分がある。実際のダンスではいつも葛西さんがしているのだが、「私が急に休んだ時のために覚えといてよ」と言われて練習させられていたので、このアクション(チア的にはタンブリング)を私がやってみせると、何だか凄い歓声をもらった。
 
でも後で男子たちは
「あれ短いスカート穿いて後転するから、スカートの中が見えるかと思ったけど、見えないもんだなあ」
 
などと言っていた。それを聞いた女子たちから
 
「あんたたち、どこ見てんのさ?」
と言われていた。
 

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体育祭の翌日月曜日は代休だったので、私も少し疲れたかなと思って、朝食の後自分の部屋に入って少し仮眠していた。
 
ところがそこに電話が掛かってくる。
 
「冬〜。蔵田さんって人から電話」
と母から呼ばれて出て行く。
 
「おはようございます」
「洋子、ちょっと一週間か十日ほど付き合って」
「何するんですか?」
 
「松原珠妃のアルバムを作ろうということになったんだよ。10曲か12曲くらいのものにしたいらしいんだが、これでまた観世専務と普正社長が揉めてさ」
「はあ」
 
「普正社長は、木ノ下先生や他の演歌系の作曲家にも数曲書いてもらってアルバムの半分を演歌系、半分をポップス系にしてファンの反応を見たいと言った。しかし観世専務はセールスを考えたら、全部ポップス系で埋めて、珠妃の方向性を明確にファンにアピールしたいと言った」
「なるほど」
 
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「それでさ、今回のアルバムは全曲を蔵田さんに依頼してセールス50万枚突破させます、と観世さんが啖呵を切ったんだな」
「あぁぁぁ」
 
「そういう訳で、50万枚売れるアルバムを作るぞ。だから10日ほどスタジオに缶詰になる」
「私は放課後だけでいいですか?」
「学校休んで付き合え」
「えーー!?」
「今回は大守も付き合わせる。あと試唱するのが洋子ひとりじゃ大変だから、珠妃の後輩の、谷崎潤子も付き合わせる」
「ああ、彼女は結構うまいです」
 
「ということですぐ出てきて。取り敢えず鶯谷駅前に9時までに来て」
 
「・・・あのぉ、スタジオじゃないんですか?」
「アーティストは夜更かしで朝寝の奴ばっかりだから、実働は午後から。午前中はふたりで構想を練るぞ」
 
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「今日はたまたま代休なので行きますが、明日からは学校が・・・」
「だから休んでくれ」
 
私は電話をいったん切って母に相談した。
 
母も少し考えていたが
「それって、静花ちゃんの今後を左右する大事なことだよね?」
と訊く。
「うん」
「だったら、行ってあげなさい。学校には私から説明する」
「ありがとう」
 

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そういうことで、蔵田さんに学校を休んで作曲作業に付き合うことを伝え、取り敢えず鶯谷の駅まで出て行った。ここも何だか近くにラブホテル群が!蔵田さんって、こういう場所ばかり指定するんだから。
 
そして例によって、近くのカフェに入り、何故か始まるベニー・グッドマン論!?
 
それを1時間ほどしゃべりまくってから蔵田さんは
「よし。行くぞ」
と言い、店を出た。
 
そして何故か駅には戻らず、ホテル群の方に向かう。ちょっと、ちょっと。と思った時、蔵田さんは突然後ろを振り向いた。
 
「おい、ジュリー、ばれてるぞ」
と蔵田さんは言った。
 
後ろから、野球帽をかぶった大学生くらいの男の子が何だか怖い顔をして近づいてきた。
 
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「どこに行くの?」
と彼(?)は言った。でも女の子の声!?
 
「青山のスタジオ」
「方角が違う気がするけど」
「お前があんまり距離取ってるから、近づいてくるようにこちらに向かって歩いてみた」
 
「この子とは何回やったの?」
「1度もやってない。これ本当。俺は男の子とは遊ぶけど、女の子とはお前だけだよ」
と蔵田さん。
 
その時やっと私はその人物のことが分かった。
 
「葛西さん!?」
 
彼女はふっと溜息を付くと、かぶっていた野球帽を取る。長い髪が飛び出してくる。
 
「じゃ、ホントにこの子とは何も無かったのね?」
「当然だろ? だって洋子は女の子だから」
 
「そこが微妙だからさあ。いつ僕に気付いた?」
「店を出る時。だってお前、ケーキを頼んで受け取ったばかりなのに、一口も付けずに席を立ったろ?怪しすぎる」
 
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「うーん。僕は興信所の調査員にはなれないな」と葛西さん。
葛西さんはなぜか「僕」という自称を使っている。
 
「だいたいお前はオーラが強すぎだから」と蔵田さん。
「洋子ちゃんもオーラ強いって言ってたね」と葛西さん。
 
「強い。無茶苦茶強い。多分俺より強い。でも、こいつそれを隠してる。その内、俺よりも大物になりそうだよ」
「へー」
 
「まあ、お前も来たんなら手伝え。スタジオに行くぞ」
「何するの?」
「作曲」
 

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そういう訳で、私と蔵田さんと葛西さんは3人で青山の★★スタジオに行った。鳳凰の間を10日間借りているらしいが、時刻がまだ早かったので、いったん3階の桂という小さなスタジオに入った。
 
ここで葛西さんは男装を解いてふつうの女の子の格好に戻った。
 
「じゃ、蔵田さんと葛西さんって付き合ってたんですか?」
「こいつが中学生の時からね」
 
「私、蔵田さんは男の子にしか興味無いのかと思った」
と私。
「基本的にはそう。だけど、こいつは特別なんだよ」
と蔵田さん。
 
「僕がFTMだからね」
と葛西さんは言った。
「えーー!?」
 
「中学生の時、僕が男装で外を歩いていたらコージにナンパされてさ。速攻でホテルに連れ込まれて、ちょっとちょっとと思ってる内に裸に剥かれて」
「きゃー」
「でも、こいつチンコ付いてないんだもん。ガッカリした」
 
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「あらら。でも恋人になっちゃったんですか?」
「まあ、こいつがその内、チンコ付けるというから」
 
「でも結局付けないことに決めた」
と葛西さん。
 
「へー」
「性転換手術しても、射精はできないし子供作れるようにはならないから。それで、コージの身体は自分の身体だと思って自由にしていいと言うからね。自由にさせてもらってるよ」
女の子の姿にはなったが、葛西さんは男口調だ。
 
「わあ、凄い」
 
「僕が女の身体のままでいれば、いづれコージと結婚できるし、そういう人生もいいかなと思ってね」
と葛西さん。
 
「ジュリーは基本的に男だから、バストが付いていてもお相撲さんにバストがあるのと似たようなものという感覚。チンコが付いてなくても、想像上付いていると思うことにする」
「へー」
 
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「ただしジュリーが中学生高校生の間は、最初会った時に勢いでホテルに連れ込んでしまった時以外はホテルには行ってない」
「僕が高校を卒業した日に初Hしたよ」
 
「へー! 蔵田さんって、そんなに自制的なんだ!」
「あのなぁ」
と蔵田さんは少し笑いながら言った。
 

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「でも、おふたり噂になったこと無いですよね?」
 
「いつも会う時、僕、女装してるから」
「俺が女の子と会っていても、誰も何とも思わない」
「なるほどー」
 
「でも、こないだの記者はちょっとうるさかったけどね」
「何とか諦めたかな」
「長時間見張ってても、ホテルに行ったりはしないから、ガセネタかと思ったんだろうね。僕も個人的に会うのを自粛してたからコージと関わっているダンスチームの女の子というのも洋子のことかと思ったようだね」
「あははは」
 
「で、ほんとの所、洋子とはホテルに行ってないよね?」
「行く訳ねーだろ」
 
ああ、怖い、怖い。1度でも行ったことがあるとバレたら、葛西さん、怖そう!
 

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「だけど、何の曲作るの?」
と葛西さんは、かなり軟化した雰囲気で訊いた。
 
「松原珠妃のアルバムの曲」
「2〜3曲提供するの?」
「10曲か12曲くらい欲しいという話」
「まさか、アルバムの曲を全曲提供?」
 
「今回はそういうことになってしまった。それも50万枚以上売ることが条件」
「えー!? それを何日で作るのさ?」
「10日間、スタジオに缶詰。ここで寝泊まりする。ジュリーも付き合え」
 
「僕、何するの?」
「ギター弾いてくれ」
「まあ、僕の方がコージよりはうまいしね」
「へー!」
 

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