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■夏の日の想い出・星の伝説(2)

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珠洲市での撮影が終わった後、来た時と同様に私たちは飯田まで戻り、その歌は車で能登空港に直行する予定だったのだが、のと鉄道の、蛸島−穴水間が今月いっぱい(つまり明日)で廃止されるという話を聞き「私も乗りたい!」
とその歌が言ったので、結局私とその歌、ついでに中山さんと神原さんの4人が蛸島(たこじま)駅の所で降ろしてもらい、それから穴水(あなみず)駅まで廃止寸前のローカル線の沿線風景を楽しんだ。廃線直前ということで「葬式鉄」
の人たちがたくさん居て、列車は満員に近かった。
 
その後、その歌は穴水駅で降りて能登空港に行き、私たちはそのまま和倉温泉まで乗ってJRに乗り継ぎ、《はくたか》と新幹線(越後湯沢乗り換え)で東京に帰還した。《はくたか》のSnow Rabbit Express の車体(今月初めに投入されたばかりだったらしい)が格好良いなと思い、私は『雪うさぎたち』という曲を車内で書いた。
 
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これは後にKARIONの和泉が新たな詩を書き、それに合わせて楽曲も再構成して、KARION初のミリオンヒットになった曲である。
 

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珠洲での撮影から戻って来たら、母が
「夢美ちゃんから電話があったよ」
と言った。
 
愛知に居た頃のエレクトーン教室の友人である。
 
「電話番号が変わったんだって」
と言って渡された番号は03で始まっている。東京に引っ越した?と思い、電話してみた。最初中年の女性が出て「はい」と言われたが、夢美のお母さんではない感じだったので、
 
「お世話になります。私、唐本冬子と申しますが、川原夢美さん、いらっしゃいますでしょうか?」
と言うと、
 
「あ、少しお待ちくださいね」
と上品な感じで向こうは答える。
 
すぐに夢美は出た。
「やっほー、久しぶり〜!」
「久しぶり〜、もしかして東京に引っ越してきたの?」
「そうそう。私、新学期から東京の中学に通うことにしたんだよ」
 
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「それって、まさか夢美だけ?」
「うん。東京の伯母ちゃんちに下宿」
「へー! もしかして音楽で?」
「うん。MM中学という所の音楽コースに通うことになった。そこの先生に見初められちゃって。ぜひうちに来ないかって誘われたんだ」
 
「すっごーい」
 
それで結局、その下宿しているという伯母さんちに私は行くことにした。
 

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翌日31日は谷崎潤子ちゃんの音源製作が入っていたので、朝から《Flora》のヴァイオリンを持って(セーラー服を着て)出かけ、スタジオで15時までその作業をやっていた。その後、連絡して夢美の伯母さんの家に行った。
 
「エレクトーンはこちらに転送したの?」
「愛知の方でもお姉ちゃんが弾くからというので、1台買っちゃった」
「わあ、凄い」
「愛知から東京まで運ぶと30万と言われたし。特に今引越シーズンだから」
「こういうのお金掛かるよね」
「海外にピアノとか運ぶと100万超えるみたいね」
「恐ろしい。それも向こうで買った方がいいって感じだね」
「そうそう」
 
エレクトーンを置いている部屋は夢美がこちらに来ることになってから防音工事をしてもらったらしい。エレクトーンを新たに1台買って、防音工事をしてという費用は夢美のお父さんが出したようだが、無茶苦茶お金が掛かってる!才能のある娘を持つと、お父さんも大変である。
 
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挨拶代わりにエレクトーンを弾く。
 
夢美は松居慶子の『Sail South』を弾いた。軽快なフュージョンナンバーだ。物凄く上手い夢美の演奏はこの曲をまるで4〜5人のバンドで演奏しているかのように聞こえる。私は全身で音を受け止めるように聴いた。
 
「凄い。物凄く上手くなってる。もう私の手の届かない所に行っちゃった」
と私は言った。
 
「まだまだだよ〜。超絶上手い人たちがたくさんいるから」
「夢ちゃん、世界を目指しなよ」
「うん、そのつもり」
「頑張ってね」
 
私は松原珠妃の『鯛焼きガール』を弾いた。夢美のあの演奏を聴かせられては私は技術では全く太刀打ちできない。だから、ポップスを弾く。自分の得意な分野でこちらの全力を見せる。
 
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「冬ちゃん、あまりSTAGEAの操作に慣れてない」
「まだこの機種、あまり触ってないんだよ」
 
STAGEAは昨年春に出たばかりの機種だ。夢美は愛知の自宅でもSTAGEAを弾いていたのだが、この東京の伯母の家にももう1台STAGEAを買ったのである。
 
「エレクトーン教室行ってないの?」
「うん。行ってない」
「でも、キーボードを弾く技術自体は凄く進歩してる」
「夢ちゃんの足の小指の爪の先にも到達できないけどね」
「ピアノ練習してる?」
「うん。ピアノは今週1回レッスン受けてる。でも家には楽器が無いから。お姉ちゃんのHS8を弾いてるだけだし」
「HS8をまだ使ってるんだ! 物持ちが良すぎる」
「あはは」
 
姉のHS8は姉のお友だちのお姉さんが1990年に買って弾いていたものである。姉が小2の年1994年に、お友だちの家で新型のEL-90に買い換えるというので古いHS8を安価に譲ってもらった。だから前の持ち主から通算で15年ほど使用していることになる。電子楽器をこれだけ長期間使えているというのも確かに凄いといえば凄い。
 
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「でも、凄く楽しい演奏だった。そういう楽しく演奏するという面では私は冬ちゃんにはかなわないよ」
「その前提の技術の面でまったく勝負にならないけどね」
 

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その後、1回交替で伴奏しながら最近のヒット曲などを一緒に歌った。教室での練習では、夢美はクラシックやフュージョンを主として弾いているらしいがポップスもしっかりフォローしていて、何でも弾いてしまう感じだ。
 
「冬ちゃん、時間ある? 時々うちに来てよ。冬ちゃんからポップスの弾き方を盗みたい」
「いいよ。私も夢ちゃんの演奏聴いてたら、ものすごく刺激になる」
 
私は夕食前に帰るつもりだったのだが、伯母さんに引き留められて結局夕食をごちそうになってしまった。
 
「東京の味付けはこの子の口に合わないんじゃないかと心配したんですけどね」
と伯母さんは言うが
 
「私、味に対する受容性が高いみたい。東京の味は東京の味で美味しく感じるよ。でも冬ちゃんは、愛知から東京に引っ越してきて、味に違和感無かった?」
 
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「ああ。うちのお母ちゃんの料理は、愛知に居ようと東京に居ようと高山流だから全然問題無い」
「なるほど!」
 
「冬ちゃんのおうちは、ネギは白ネギ?青ネギ?」
「うちは白ネギです。東京じゃ入手が容易だからいいですね。でも高山出身の友人の中には青ネギの人とか、青ネギと白ネギの中間のネギを使う人とかもいるんですよね。元々岐阜県って、東西の境界線で、両方の文化が混じってる感じですね」
 
「ああ、愛知もそうだけどね」
 
結局8時頃に夢美の家を出て帰宅したが、帰りの電車の中でふと私は、夢美には自分の性別をカムアウトしていない気がした。
 
小学5年生頃から高校2年のあの時まで、私の性別を知っていた人と知らない人がかなり入り乱れていて、自分でもこの人には話してたっけ?と考えても分からない人が結構居た。また、私が性別をカムアウトしていない人の中には、私を女の子と思い込んでいる人(夢美や前田係長など)と、私を男の子と思い込んでいる人(学校の担任や自分の父など)の両方が居たのである!
 
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翌日、4月1日は、小学校の時の友人グループ、奈緒・有咲・若葉と4人でディズニーランドに行った。若葉が「株主優待パスポートが6月で有効期限切れるから一緒に行かない?」と誘ったのである。
 
ちなみに若葉は
「冬は女の子の格好で来てよね。男の子が1人混じってると色々行動に不便なこと出てくるから」
 
と言ったので、私も一緒になるのが奈緒や有咲なら、遠慮しなくていいなと思い、ポロシャツにフレア付きショートパンツという姿で出て行った。
 
でも奈緒から
「なんでスカートじゃないの?」
と突っ込まれる。
 
「だって乗り物とか色々乗るのにスカートは不便かなと思って。というか、奈緒も有咲もショートパンツじゃん」
 
「私たちはいいけど、冬にはスカート穿いてもらいたいなあ」
「スカート、プレゼントしちゃう?」
「ちょっと、ちょっと」
 
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ということで、結局、不思議の国のアリスのスカートを園内のショップで買って穿くことになってしまった! お金は結局私と若葉が半分ずつ出した!?
 
「うん。冬はスカートの方が可愛い」
「というか、そのスカート可愛い」
「じゃ、園を出たら奈緒が持って帰ればいいよ」
と私は笑って言う。
 
「ああ、それでもいいんじゃない?」
などと若葉も言うので、結局、奈緒がお持ち帰りすることにした。
 

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株主優待パスポートは、入園制限が掛かっている時は入場できないこともありますと書かれていたものの、その日はスムーズに入ることができた。やはり最初はどうしても列が出来やすい、ジェットコースター系を攻める。
 
まずはビッグサンダーマウンテンのファストパスを取ってから、スペースマウンテンに行き、予約時刻にまだ時間があったので、スプラッシュマウンテンに並んで乗ってから、ビッグサンダーマウンテンに行った。
 
しかしジェットコースターで風を受けると、このスカートめくれそう!
 
ホーンテッドマンションのファストパスを取ってからシンデレラ城に並ぶ。ここで30分並んで中に入ったが、有咲が勇者に選ばれて、メダルをもらったので、私たちは大いに沸いた。
 
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そういう感じで、お昼すぎくらいまで、私たちは人気アトラクション優先で遊びまくった。アリス・イン・ラビリンスのファストパスを取ってから、お昼をだいぶ過ぎていたものの、ピザ屋さんに入って、少し遅めのお昼御飯を食べる。
 
「私、小学3年生くらいの時以来だよ」
「私は初めて来た」
「私も〜」
「若葉は?」
「うん。2年ぶりかな」
「おお」
 
「でもここ何度来ても楽しい気がする。前回来た時もスペースマウンテン3回乗ったけど、今日もまた楽しかったし」
 
「夕方くらいには空くだろうから、帰り際を再度狙おう」
 
「アリス・イン・ラビリンスのファストパスが17時になってるから、それを見てから行ってみて、あまり並ばなくて済みそうだったら乗って帰ろうか」
 
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昼食後は園内を適当に散歩しつつ、あちこちで座り込んでおしゃべりしつつ、たまたま並ばなくてもいいアトラクションがあったら入ってみる、という感じで楽しんだ。
 
カヌーにも乗ったが、私がパドルで水を漕いでいるのを見た奈緒から言われた。
 
「冬、腕力が結構ある」
「うん。少しは身体を鍛えたかな。ボクも男の子だし」
「それはダウトだな」
 
「冬は先月の駅伝で区間新記録出して5人抜きしたんだよ」
と若葉が言う。
 
「すっごーい。それ女子として出たの?」
「ううん。男子。女子として出なよと言ったんだけど、自分は男子だと本人が主張するから」
「嘘ついてはいけないなあ」
 
「女子が男子の方に出たら違反じゃないの?」
「それは大丈夫。人数の少ない学校が男女混成チームで参加できるように、男子のチームには女子が入ってもいいことになってる」
「ほほぉ」
 
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「でも走るのに腕の筋肉も関係あるんだっけ?」
「大いにあるよ。腕を振る勢いを足を運ぶ動力に変換するから」
「へー」
 
「腕を全く振らずに走ることはできないでしょ?」
「ああ、確かにそれは転びそうだ」
 

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17時少し前にアリス・イン・ラビリンスに行った。入場口の所でアリスのスカートを穿いてここに入るのを撮っちゃおうなどと言われて、写真を撮られた。ほんっとに私って、女の子の格好した写真ばかり友だちから撮られている気がする。
 
普通のアトラクションは、ライドに乗って進行していくか、ガイドさんに連れられて歩いて行くのだが、このアトラクションだけは自分たちで歩き回ることになっている。しかもその道が分からない! ということで迷うのがデフォルトである。一応入場してから15分以内に脱出できなかったら、ガイドさんが来て誘導してくれることになっているのだが、私たちも迷いまくって
 
「あれ〜、ここさっき来たよね」
「違う違う。さっきの所は壁の所にチェシャ猫がいたけど、ここはハンプティ・ダンプティだもん」
 
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などという会話をしながら歩き回っていた。実際場内にはわざと似た風景の場所がいくつか作られていて、勘違いしやすいようにできているようだ。時々白ウサギや帽子屋、トランプ達が素早く通り過ぎていく。
 
結局私たちは15分以内には脱出できず、三月うさぎさんに導かれて外に出た。
 
その後スペースマウンテンに行ったら列が短かったので、それに並び10分ほどの待ち合わせで乗ってから、ディズニーランドを後にした。
 

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翌4月2日土曜日は予定が入っていなかったので、津田先生の民謡教室に顔を出して少し三味線を弾いてこようかなと思っていたら、朝、ドリームボーイズの蔵田さんから電話が掛かってきた。
 
「洋子、ちょっと出てきて」
「はい。どちらに?」
「西武新宿駅。正面側の改札の前に10時で」
「分かりました」
「今日はさ、男の子っぽい服で出てきてよ。但し女物の服も持って」
「はい?」
 
その日は、普段は日曜だろうと連休だろうと仕事に出ている父が、珍しく家に居たので私も男の子の服で出かけるのは好都合だった。リュックに女の子の服を入れて出かけたが、母が
 
「そんな格好で出かけるの?」
などと訊く。
「何か変?」
と私は男声で答えたが
「うん、まあいいけどね」
と母は言った。
 
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夏の日の想い出・星の伝説(2)

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