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■夏の日の想い出・星の伝説(3)

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JRで新宿駅まで出てから、西武新宿駅まで歩いて行った。
 
しかし・・・西武新宿駅って歌舞伎町に近いよね。変な人がいなきゃいいけどなぁ・・・と思ったら、ほんとに変な人に声を掛けられた!
 
私が男の子の服で改札前で待っていたら、27-28歳くらいの男の人が
「ね、君」
と声を掛けてきた。
 
私は返事をせずに無視していたのだが、
「君、もしかして神待ち?」
などと言う。
 
この頃私は「神待ち」という単語は知らなかった。
 
その男の人は
「ね、御飯食べに行かない?」
とか
「お風呂には入ってる? お風呂入れる所に行こうか?」
などと私に声を掛ける。
 
その内、私の手を掴もうとしたので、私はとうとう逃げ出した。
 
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でも追ってくる!
 
えーん。怖いよー、と思いながら階段を駈け降りて、道路の所まで来たら、うまい具合に向こうから蔵田さんが来た!
 
私は
「孝治さーん!」
と中性ボイスで呼び掛け、駆け寄る。私が蔵田さんに駆け寄って、蔵田さんが私を保護してくれたのを見て、私を追いかけてきた男の人も、やっと諦めてくれたようだった。
 
でも、ちょっと怖かった!!
 

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結局近くのルノアールに入ってコーヒーを頼んだ。
 
「さっきはどうしたの?」
と蔵田さん。
 
「男の人に声を掛けられて、手を掴まれそうだったんで逃げ出しました」
「あはは、確かにこういう場所では可愛い男の子が居たら、声を掛けてくる奴がいるかもな」
 
可愛い女の子じゃないのか!?
 
「まだ五反田の方がいいです。ここはラブホテル群は無いかも知れないけど」
「あれ?知らなかった。この界隈にもラブホテルは多いよ」
「えーーー!?」
 
「まあ、多分ホテルに行く前にタイムアウトになりそうだけどね」
 

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「でもどうして今日は男の子の服指定なんですか?」
 
「あ、いや。俺が洋子と最近よく会っているようだというのが、一部の雑誌社に知られてしまったみたいで。もしかして俺ってバイなのでは? それでダンスチームの女の子に手を付けているのでは? と邪推してるみたいなんで、面倒だから、男装してきてもらった」
 
「あはは。怖いなあ。写真撮られちゃったりしたら、うちの父が仰天しそう」
 
その日はリリックスの話を始めたので、へー、蔵田さんでも女の子バンドに興味あるのかな?と思いながらその話を聞いていたら、唐突に
 
「そういえば、洋子、昨日はどこ行ってたの?」
と訊く。
 
「あ、友だちと一緒にディズニーランドに行ってました」
と答える。
 
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「それでか。昼間電話したけど、出かけてるということだったから」
「すみませーん」
 
「俺も最近、あそこ行ってないや。何か新しいアトラクションとか出来てた?」
 
「私、初めて行ったんで、何が新しいか分からないですけど、スペースマウンテンは楽しかったです」
 
「ああ。あれは俺が小学生の頃からあるな」
「へー」
 
「あと、ホーンテッドマンションも楽しかったです」
「それも同じくらい古い」
「へー!」
 
「あ、最後に行ったアリス・イン・ラビリンスも楽しかったです」
「それ知らない。最近出来たのかな」
 
「よく分かりませんけど。あ、これ記念写真です」
 
と言って、奈緒が昨日自分の携帯で撮影し、昨夜わざわざプリントを1枚持ってきてくれた写真を見せる。
 
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「へー。なんだか可愛いスカート穿いてるじゃん」
「偶然なんですけど、そのスカートもアリスの柄だったんですよ。それでアリスのスカートを穿いて、アリスのアトラクションに入るのは面白いとかいって、この写真撮られたんです」
 
「なるほどねー」
 
と言ってから、蔵田さんは、ふと思いついたように
「ラビリンスって、迷路か何かなの?」
「ええ」
 
と言って、私はそのアトラクションの趣旨を説明した。
 
すると蔵田さんはしばらく腕を組んで何か考えているようだった。
 
「洋子、スタジオに付き合って」
「はい」
 

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それで結局私はここのトイレで女の子の服に着替えてから、蔵田さんと一緒に青山の★★スタジオに行った。蔵田さんも、私が女の子の服を着ていないと、フルパワーが出ないことを知っている。
 
以前ここに来た時は玄武に入ったのだが、今日は7階・8階のスタジオが全部ふさがっているということで、6階の鳳凰という部屋に入った。
 
「可愛い!」
と私は思わず声をあげる。そのスタジオの壁に書かれた鳳凰の絵が物凄く可愛いのである。
 
「これ女の子に受けがいいみたいだね」
と蔵田さんは言っている。
 
「まあ、そういう訳で松原珠妃に渡す次の曲を作ろうという訳」
「わぁ!また書いてくださるんですか?」
 
「『鯛焼きガール』が凄く売れてるからね。既に50万枚を越えてるし。それで、また書いてくれないかという話が来たんだよ」
「わぁ!」
 
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「この件に関しては、洋子のせいで俺も関わることになってしまったから責任取ってもらうぞ」
「はい、頑張ります!」
 
とは言ったものの、この時期まだ私は「責任」の意味を理解していなかった。
 
スタジオの楽器でギター、ピアノ、ヴァイオリンを出してもらったが、この日は蔵田さんは実際にはギターをほとんど弾かなかった。私が蔵田さんの指示に従ってピアノを弾いたりヴァイオリンを弾いたりしながら、それで蔵田さんは五線紙に音符を書き綴っていった。私がギターも弾いたが
「洋子ってギターは下手だ」
と言われた。
「すみませーん」
 
昨日私がディズニーランドで入ったアトラクション、アリス・イン・ラビリンスというのが発想の元になっている。
 
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「これ物凄く変則的なコード進行ですね」
と私は言った。
 
「そそ。まるで迷ってしまったかのような音の流れになる。サビなんて最後が終わってない」
 
そこは私自身試唱して歌いにくかったのだが、サビがまるで尻切れトンボなのである。
 
「なるほど!」
 

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今回は蔵田さんが書いた歌詞に、私の思うままに添削しろと言われたので遠慮なく書き直して行ったら
 
「洋子、ほんとに遠慮が無いな」
と言われた。
 
「すみませーん」
「いや、だから俺は洋子と一緒にこの作業をしたいよ。他の奴なら、萎縮して俺が書いた流れを変えようとしないから」
 
それで私が書き直した歌詞に、更に蔵田さんが加筆修正をする。その後は2人で話し合って、言葉を洗練させて行った。
 
「洋子、凄く発想がいい」
「昔ある人から指導されたんです。歌詞は地面から積み上げるように言葉を選んではいけない。空中にヘリコプターで資材を運べって」
 
「なるほど、それは良い言葉だと思う」
と蔵田さんは頷くように言っていた。
 
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鳳凰の部屋で、お昼の休憩をはさんで、夕方近くまで作業して私たちは曲をまとめた。何か『鯛焼きガール』の時よりかなり熱が込もっている感じだった。
 
最終的にまとまったのは、珠妃の声域をめいっぱい駆使した難曲である。試唱していた私も完全には歌えなかった。歌うのは大変だが、とても耳に馴染む歌だ。不協和音も使用されているが、すぐに安定した和音に解決する。趣味に陥りすぎないバランスの取れた曲に仕上がった。
 
「タイトルは『うまい棒の迷宮』かな」
と蔵田さん。
 
「せめて『お菓子の迷宮』で」
と私は提案した。
 
でも後から静花本人から聞いたのでは、最初渡された譜面は『明太子の迷宮』
になっていたらしい! しかし結局観世専務の要望で『硝子の迷宮』になったということだった。
 
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「でも蔵田さん、こないだの曲とは全然傾向が違うんですね」
「そそ。ドリームボーイズの曲でもそうだけど、毎回必ず新しい発想で作る。売れなかった曲の次は売れるように路線を変えるし、売れた曲の後は絶対、路線を変える。2匹目のドジョウは居ないからね」
「ああ」
 
つまり『黒潮』が売れて次に似たようなストーリーの『哀しい峠』を作ったのは最悪のパターンだよな、と私は思った。
 
なお、『哀しい峠』の次の作品として木ノ下先生が用意してくださった曲は珠妃の先輩の歌手が歌ったのだが、この時点で5万枚売れていた。彼女はそれまで1万枚を越えるヒットが無かったので、物凄く喜んでいたらしい。
 
普通は5万枚でも充分ヒットだ。『哀しい峠』も一応3万枚売れている。普通の歌手なら評価される。しかし、それはクアドラプル・ミリオン歌手の松原珠妃には許されない数字なのである。『鯛焼きガール』はこの時点で既に50万枚売れてダブルプラチナを達成していた。
 
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ずっと後に蔵田さんと言ってたのでは、この時私たちが作った曲というのは松原珠妃のプロジェクトが蔵田さんを今後も使うのか、あるいはまた別の作曲家を模索するのかの試金石だったのではないかということだった。それで蔵田さんはこの曲に物凄くリキが入っていたのである。
 
木ノ下先生で『黒潮』は売れたが『哀しい峠』は売れなかった。蔵田さんの曲も『鯛焼きガール』は売れたが、次の曲は分からない。この世界は水物だから。
 

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中学1年の時は同じクラスには私の実態を良く知っている友人としては貴理子がいたのだが、2年では貴理子とも、また若葉や倫代、貞子や美枝たちとも別のクラスであったが、吹奏楽部の友人のヤヨイが同じクラスになった。
 
ヤヨイは貴理子より良く人の噂話をするタイプなので、彼女を通じて私の実態はクラス内に広まっていく。
 
「唐本君、というより冬ちゃんと呼んだ方が良さそう」
「ああ、ボクもそう呼ばれた方が気楽〜」
「冬子ちゃんでもいいけど」
「取り敢えず冬ちゃんあたりで」
 
「冬ちゃん、セーラー服あるんだって? 着てくればいいのに」
「いや、それやるとお父ちゃんに仰天されるから」
「カムアウトしちゃえばいいじゃん」
「いや、冬はセーラー服を今持ってるはず」
「あはは」
「持って来てるんなら着ればいいのに〜」
「あはは」
 
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でもしっかり、その日の放課後はセーラー服に着替えさせられた!
 
「おお、可愛い、可愛い」
「セーラー服似合ってる〜」
「この姿を1度見てしまうと、むしろ学生服姿に違和感がある」
「うん。だから冬はセーラー服で通学してくればいいんだよね〜」
 
その姿を男子生徒にもしっかり見られて「唐本、明日からそれで出てきたら」
などとも言われる。その中で1年の時も同級だった高橋君が何だか熱い視線で私の方を見ている気がした。
 

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さて、うちの中学の体操服は青いジャージの上下である。これは男女共通である。夏の間は下は長ズボンを脱いで、ショートパンツになるのだが、これが正確には男子は濃紺のハーフパンツ、女子は黒のショートパンツ(昔風のブルマよりは丈が長い)である。
 
この体操服のデザインは姉が通学していた時代と変わっていない。それで私はこの中学に入学する時、電話で問い合わせた。
 
「姉が3年前にこちらに通っていて、その時の体操服をまだ持っているのですがそれを使ってもよいでしょうか?」
「ああ、構いませんよ」
と電話に出てくれた教頭先生は答えた。
 
「ショートパンツもそのままでいいですか?」
「ええ。サイズが合うなら問題無いです」
 
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それで私は体育の時間、姉のお下がりの体操服を3年間着ていた。
 
1年生の6月に、夏服仕様になり半ズボンになった時、私が黒のショートパンツを穿いていたので、体育の先生が
 
「唐本、なんでお前、女子のショートパンツ穿いてるの?」
と訊いたが
「これ姉のお下がりなんです。入学前に学校に問い合わせたら教頭先生が姉のお下がりなら、そのままでいいと言われたのですが」
と私が答えると
「ああ。なるほど。まあ教頭がそう言ったんならそれでいいか」
 
ということで体育の先生は不問にしてくれた。でもクラスメイト(特に同じ小学校出身の子)たちは、むしろ私が女子仕様の半ズボンを穿いていることを自然なことと受け止めてくれていた感じもあった。
 
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もっとも・・・私は学校に問い合わせた時、女声で電話しているので、教頭先生は「姉妹」なら、そのままでいいと思ったのではないかという気もするが!
 

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2年生になっても私は体育の時間はやはり女子仕様のショートパンツで押し通した。1年生の時以上に私の実態はクラスメイトにバレているので、友人たちは何も言わないし、2年の時の体育の先生はサッカー部の顧問で、陸上部とは隣り合って練習していたこともあり、私の実態をかなり理解?している感じであった。
 
で、2年生の体育の時間、初日はいきなり持久走をやらされた。普通持久走って授業でやる時は1500m程度だと思うのだが(陸上選手にとっては事実上短距離)、この日は4000mなどという、とんでもない指示だった。
 
私も含めて運動部に所属している子はみんな快調に走って20分か25分くらいまでに走り終えて、後は休んでいたのだが、走り慣れてない子はもう歩くのより遅いペースになってる。
 
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「先生!棄権!」
などと言っていた子も
「歩いてもいいから」
などと言われて、続行させられていた。
 
男子の体育なんて、だいたいこんなものである。
 
体育の時間が残り5分になっても、まだ走り終えていない子が5人いた。走り終わって余裕の私たちは
「頑張れ、頑張れ」
と声を掛けていたのだが、その内、高橋君が座り込んでしまった。
 
「こら、高橋、しっかりしろ」と先生。
「もう駄目です。死にそう」と高橋君。
 
「あと少しで時間も終わるから。歩いてもいいから」
「もう立ち上がれません」
 
「男だろ? しっかりしろ」
と先生は言った。
 

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夏の日の想い出・星の伝説(3)

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