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■夏の日の想い出・小5編(8)

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3月上旬の週末。静花のレッスンがお休みということで、静花のお母さんは一度愛知に戻っておいでと言ったらしいのだが、静花は「レッスンで疲れ果ててるから、寝てる−」と言った。それで、それならというので、お母さんが静花のお姉さん(高校2年生)と一緒に上京してきた。私がこちらで静花の話し相手になっていると聞き、ぜひ一緒に会いましょうと言われたので私も母に断って、会いに行ってきた。母からは「こちらこそ色々教えてもらっているんでしょ?」
と言われて、お土産のお菓子など持たされた。
 
それで私が静花の母にお土産を渡したら「あら、こちらこそお世話になっているのに」と言われて、名古屋のお土産を渡された。
 
「ちょっと早いひな祭りだね。女の子ばかりだし、和食を食べよう」などと言って、六本木の少し落ち着いた和風レストランで「女性専用・お雛様ランチ」
を食べた。その日は雪もちらついて寒かった。
 
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「寒い日は風邪引かないようにしてる?」
「うん。暖かくしてるよ」
「夜出歩いたりしてないよね?」
「20時門限だから、遊びようもないよ。門限破り3回やったらクビらしいし」
「クビになると、違約金が恐ろしいわね」
「ほんとほんと。昔のお女郎さん並みだよ」
などと静花は笑っているが
 
「・・・・あんた、そちら要求されたりはしてないよね?」
と心配そうにお母さん。
 
「ああ、そういう事務所もあるらしいけど、うちは大丈夫だと思うな。誰かと寝ろとか言われたら辞めて帰ってくから」
「うん、そうしなさい。借金は父ちゃんに頑張って返してもらうから」
 
などという話をしていたが、私は意味がよく分かっていなかった。
 
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「デビューの日程は決まったの?」
「うん。結局4月23日。連休前に発売して、連休いっぱい全国キャンペーン」
「わあ、すごーい」
「先行して4月中はあちこちのラジオ局とかにゲスト出演。発売後はむしろテレビとかにも頻繁に出演」
 
「それ、かなり力を入れて売ってくれるのでは?」
と私。
「うん。そんな感じがする」
 
「デビュー曲はもう吹き込んだんですか?」
「これから。でも曲目は決まった。木ノ下大吉先生の『黒潮』って曲」
「すっごーい! 大物作曲家!」
とお姉さんが驚愕する。
 
「静花さん、ほんっとに期待されてますね」
と私も言った。
 

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そんなことを話していた時、私たちの席から少し離れた所に、20歳前後のカップルが仲居さんに案内されて入ってきた。
 
男性の方は私にヴァイオリンをくれたTTさんだった。女の人と仲よさそうだ。TTさんは立派なスーツ、女の人はきれいな振袖を着ている。見ていると冷酒を開けて乾杯している。私はちょっと嫉妬の気持ちが起きた。
 
「どうかした?」
と静花から声を掛けられる。
 
「ううん」
と言って笑顔になる。その時、私の脳裏に、あの時TTさんと作った曲がプレイバックされた。
 
「ね、ね、静花さん、この後どこかスッキリするような所行かない?」
「スッキリする所というと・・・トイレ?」
「なんで〜!?」
「あ。せっかく東京に出てきたから、私、今話題の大江戸温泉物語に行きたい」
とお姉さん。
 
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「ああ、いいね!、行こう行こう」
 
ということで私たちはオープンしたばかりの大江戸温泉物語に出かけた。
 

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さて。静花は、もちろん私が男の子であることを知っている。しかしお母さんとお姉さんは知らない。そして静花さん自身もこの時、私の性別のことはきれいに忘れていたという。
 
まあ、そういう訳で、入口でお母さんは
「大人1枚、高校生1枚、中学生1枚、小学生1枚」
と言って通行手形を4つ受け取る。そして浴衣を受け取る場所に行き、それぞれ好きな柄のを選んでそれから、その近くにあった大きな赤いのれんをくぐる。のれんには大きな「ゆ」の文字(とこの時私は思ったが実は「女」という字の崩し字だったかも)が染め抜かれていて、そばには段飾りのひな人形が飾られていた。
 
私はのれんには単に「ゆ」しか書かれてないから、ここは男女共通の入口なのかな、などとのんびりと考えていた。
 
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ところが入った所にはロッカーがたくさん並んでいて、たくさんの女性が服を脱いだりしている。ここでやっと私は『あ・・・』と思った。それと同じくらいのタイミングで静花も『あ・・・』といった顔をした。
 
「ん?どうかした?」とお母さん。
「うーん、まあいいかな」と私。
「いいの〜?」と静花。
「うん」
 
と言って、私はとりあえずパーカーを脱ぎ、セーターを脱ぎ、ポロシャツも脱いじゃう。そしてジーンズも脱いじゃう。
 
「ふーん、可愛い下着つけてるね」
と静花は言った。その日、私は黒地に白や黄や赤でウサギさんやお花・お星様の模様が入ったカップ付きキャミソールと、キティちゃんのショーツを穿いていた。
 
「うん、こないだ友達と一緒に買いに行って、ちょっと乗せられて買った」
「ああ、冬の友達って、そういうの唆しそう」
 
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それで私は花柄の浴衣を着る。静花も服を脱いで、手鞠柄の浴衣を着ていた。お姉さんは青海波みたいな浴衣、お母さんは菱模様みたいな浴衣を着ていた。
 
それで、ぞろぞろといったん内側のロビー(男女共通エリア)に出て少し歩き、大浴場入口を入り、全員で左側の女湯の方に行く。静花は私が平然と女湯の方へ行くので、半ば呆れた風な感じで見ている。
 

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脱衣場で浴衣を脱ぐ。静花が自分は脱がずにこちらを見ている。私はそのままカップ付きキャミソールも脱いじゃう。
 
「うーん・・・」
と静花は言って苦笑いするような感じで、私の胸を触る。
「冬、おっぱい膨らみ始めてるね」
「そうだねー。私少しバストの発達、遅いみたい」
と私も開き直って言う。
 
「うん。確かにこれ小学4年生くらいの胸かなあ」
 
静花が私の下半身に視線をやるので、私はさっとショーツを脱いじゃう。
 
「うーん・・・・」
と言って静花は腕を組んだ。
 
「あんた、何やってんの? 脱がないの?」
ともうブラも外してショーツだけになっているお姉さんが静花に言う。
 
「ああ、脱ぐ、脱ぐ」
と言って、静花も全部脱いだ。
 
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浴室に移動し、各自身体を洗ってから、手近な、あまり広くない湯船に浸かる。
 
「冬が男湯には入れないようであることは確認した」
と静花は含み苦笑いという感じの笑みを浮かべて言った。
 
「あんた何言ってるの?小学5年生が男湯に入れる訳ないじゃん」
とお姉さん。
 
「まあ、混浴は幼稚園までだよね」
と私も開き直って言う。
 
「そうそう」
 
「まいっか。私が歌のレベルアップ図ってる間に、冬は女の子としてレベルアップしている感じだし」
と静花は言った。私はちょっとムッとしたが、その場では何も言わなかった。
 
「小学校の高学年の頃って、身体が子供から女へといちばん変化していく時期だよね」
とお姉さん。
 
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「確かにね〜。あれ? 冬、そのお腹の所に貼ってるのは湿布か何か?」
と静花はその貼り薬に気づいて言った。
 
「あ、これは私栄養が足りてないとお医者さんに言われて、補給するのに貼ってるの」
 
と私が答えると、お姉さんが
「確かに冬ちゃん、凄く細いもん。ご飯もっと食べなきゃ」
と言う。
 
それで静花は
「なるほどー。分かった。足りない『栄養』かぁ」
と言って、初めて明るい感じで笑った。
 
「それ、どのくらい貼っておくの?」
「一週間貼って交換して。3週間貼り続けたら1週休みです」
「ああ、なるほどね〜」
と静花は納得したように言った。
 

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雪が降っていたので露天風呂には行かなかったが、内風呂を全種類移動しながら4人でいろいろおしゃべりした。
 
それであがって身体を拭き、服を着ていた時、私は敢えて静花に言った。
 
「静花さん。私、女の子としてだけじゃなくて、歌もレベルアップしてるから」
「ふーん。じゃ、このあとカラオケにでも行ってみる?」
「行きましょう」
 
お風呂を出たのが16時頃であった。静花の門限は20時なので、19時頃までには帰途に就く必要がある。それでカラオケしながら晩ご飯を食べようということになり、私は母に一度電話を入れた。
 
カラオケ屋さんに入る。
 
最初に静花が「私が歌う」と言い、デビュー予定曲だという『黒潮』をアカペラで歌った。
 
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物凄い、圧倒的な、歌のパワーであった。お母さんとお姉さんが「ひゃー」という感じで聴いていた。
 
そして、静花は「どんなもんだ?」という顔をしてマイクを私に寄こした。私は笑顔で受け取った。
 
そして私は11月にTTさんと作った歌『フィドルの妖精』をアカペラで歌った。
 
お母さんとお姉さんがこれもまた「ひぇー」という顔をしている。そして静花は顔色が変わった。初め血の気が引いて青い顔になり、やがて鬼も逃げ出しそうな怖い顔になった。私は上等!と思った。
 
なお静花(松原珠妃)はこの『黒潮』で2003年のRC大賞を取ることになる。そして11年後、ワンティスが『フィドルの妖精』で、2014年のRC大賞を取るので、この時の私たちの対決は実はRC大賞対決であった。(どちらも未公開曲だったけど!)
 
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「冬」
「はい」
「今日を限り、私と冬は先生と生徒じゃない」
「うん」
「ライバルだ」
「はい、それでいいです」
 
そして私と静花は硬い握手をした。
 
「でも、元先生と元生徒ということでもいいかな?」
と私。
「まあ、それはそれでいいね・・・冬ってホント平和主義者だな」
「私、喧嘩するのとか嫌ーい」
 
という感じで私たちは、また笑顔になった。
 
「よし。この後は歌いまくるぞ。冬、1回交替で行こう」
「そうですね」
「自分で番号呼び出すのじゃ面白くないから、互いに相手が歌う番号を呼び出すというのはどう?」
「OKです」
 
「よし、行くぞ。こんな番号はどうだ?」
と言って静花が呼び出したのは、青い三角定規の『太陽がくれた季節』だ。
 
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私は余裕で歌う。でもこれが歌えるのは橋の下の住人さんたちのおかげだ!静花が『ちっくしょー』という感じの顔をしている。向こうがそういう感じで来るならこちらも、向こうが弱そうな所で行かなくちゃねー。これは全力で相手を倒す殴り合いだ。手を抜いたら友情に反する。
 
それで私はShakiraの『Objection』を呼び出した。静花がゲッという顔をする。この曲は知らなかったようだ。しかしさすが静花である。流れる伴奏と表示される歌詞だけを頼りに、かなり創作しながら!歌いきった。
 
「あんたはこの曲知ってるの?」
「うん。だって私のお母ちゃん、洋楽マニアだもん」
「そうだった!」
 
「よし、それなら、こちらはこれだ」
 
という感じでその日はお互いに相手が不得意そうに思えるジャンルの曲を徹底的に呼び出したのであった。お母さんとお姉さんは自分たちが知らない曲がどんどん流れて二人とも凄く上手に歌うので、ポカーンという感じであった。
 
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「冬、あんた年齢誤魔化してないか?」
「何歳だと?」
「『金色夜叉の唄』が歌えるなんて。冬、11歳じゃなくて101歳だろ?」
「まさか!」
「国籍も誤魔化してるだろ?」
「何人だと?」
「きっとロシア人だ。あんたロシア語の歌もきれいに歌うんだもん」
「ロシア語は規則通り読めば良いから英語より読みやすいよ」
 
そういう訳で、この日、結局私たちは全員晩御飯を食べ忘れて! タイムアップとなった。
 
「冬、私の時間が取れる時は冬を呼び出すから、またカラオケ対決しよう」
「しましょう。私も鍛え直しますから」
 
このカラオケ対決はその後何十年も続くことになるが、ふたりとも全曲歌うので未だに勝敗が付いたことが無い。
 
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最後に静花は言った。
「私も鍛え直す。というか今日は自分が少し天狗になってたのを鼻をへし折られたから、デビューに向けて再度必死に練習するよ。社長や作曲家さんからまで『君は10年にひとりの天才だ』なんて褒められていたから」
 
「私は50年にひとりの天才になります」
と私。
「よし。だったら私は100年にひとりの天才になる」
と静花。
 
さすがにお姉さんが吹き出した。
 
「頑張ってください」と私。
「冬、たぶんあんたも4〜5年したら、私と同じ世界に来るんだろうけどさ」
と静花。
 
「はい」
「私のプロダクションには来るなよ。ってか入ろうとしたら蹴落とすぞ」
「別のプロダクションの方がいいですね。純粋にライバルになれるから」
「そういうこと」
 
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「じゃ、また」
 
私たちは硬い握手をして別れた。
 
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■夏の日の想い出・小5編(8)

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