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■夏の日の想い出・小5編(2)

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「じゃこれも1点だな。6問目。冬ちゃんスカート穿きますか?」
 
この質問にも周囲のみんなが
「穿いてる、穿いてる」
と答える。
 
「じゃこれも1点か。7問目。冬ちゃん、初恋の人は男の子?女の子?」
「えっと、男の子だけど」
と私が答えると
「おぉ」
と周囲から声が上がる。
 
「じゃこれも1点。次、8問目。冬ちゃん、自分の結婚式に着たいのは、ウェディングドレス?タキシード?」
「ウェディングドレス」
と私は即答した。
 
「ふむふむ。冬ちゃんは確かにウェディングドレス着て結婚式あげそうな気がするな。これも1点。9問目。冬ちゃん、トイレは男子トイレ?女子トイレ?」
 
「えっと男子トイレに入ってるけど」
と私は答えたのだが
「冬は学校では男子トイレに入ってるけど、学校以外では女子トイレに入るよね」
「そうそう。だいたいどこか遊びに行ったりした時も一緒に女子トイレに入って列に並んでおしゃべりしてるよ」
 
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「じゃ女子トイレと認定します。1点。最後10問目。冬ちゃん、いちばん最近性別を記入する書類で、性別はどちらと書いた?」
「えっと。女かな」
 
私は最近出た民謡大会の申込用紙に「柊洋子・女」と書いたことを思い出して言った。
 
「じゃ1点。合計9.5点。万一おちんちんが存在したとしても9点だから冬ちゃんはほぼ女子だね」
 

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「じゃ、冬ちゃんの性別は女子ということで決定」
「今後学校でも女子トイレ、女子更衣室を使うこと」
「えっと・・・・」
「体育の時も女子の方に入りなよ」
「家庭科の調理では、強力な戦力だしね」
「あ、包丁とかの使い方もうまいし、炒め物とかもすごくきれいに炒めるよね」
 
「ね、ね、10月の学芸会の劇では、女の子役で出てもらおう」
「ああ、それもいいね。冬ちゃん、去年は何の役した?」
「お城の階段の前に立ってる灯篭かな」
 
「灯篭って性別どっち?」
「さあ・・・」
「あ、中性だよ」
「なるほどー。冬ちゃんは去年は中性だったんだ!」
「じゃ、今年は女性に進化してもらうということで」
 
「協佳、今年の学芸会の劇、何するんだっけ?」
「眠り姫だよ」
「あ、そしたら魔女の役とかは?」
「魔女、何人出るの?」
「5人の予定。うちのクラスの女子が16人だから、魔女で5人、オーロラ姫、王妃、長靴を履いた猫、白猫、赤ずきん、シンデレラ、フロリナ姫、4人の宝石の精で合計11人。これで全員出場。男子の配役は知らん」
と協佳が言うと
 
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「長靴を履いた猫とかシンデレラとか何よ?」
という質問。
 
「それ、バレエの『眠りの森の美女』だね?」
と私が言った。
 
「あ、冬ちゃん、バレエに詳しいんだ?」
「てか、もしかしてバレエしたことあったりして?」
「えっと。。。まあ」
 
「眠りの森の美女、やったことある?」
「さすがに全編はやってない。ダイジェストというか、バレエ教室の生徒の人数が満ちる分だけやったというか」
 
「ああ、バレエ教室なんて行ってたんだ?」
「ボクが行ってたんじゃなくて、友達が行ってたんだよ。ボクは練習に付いて行ってそばで見学していただけで。それで4人の宝石の精のパ・ド・カトルで、踊る予定だった子が前日に足をくじいちゃって代わりに踊ったんだけどね」
 
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「ちょっと待て。宝石の精って女の子だよね、4人とも」
「うん。まあ」
「まさか、チュチュを着て踊ったりは・・・」
 
「あれさあ、白・青・金・銀に色分けされてるから、代替がきかない。踊り自体を踊れる人はお姉さんたちにたくさん居ても、衣装のサイズが合わなかったんだよねぇ」
 
「女の子の服のサイズが合っちゃう所が冬ちゃんの凄さだ」
「チュチュを着た冬ちゃんを見てみたい気がする」
 
「4人の精のうちのどれ踊ったの?」
「ダイヤモンド」
「メインじゃん!」
 
「ただ見学してただけなのに、メインの役を踊れちゃう訳?」
「まぁ」
 
「じゃ冬ちゃんを入れて劇の練習をしてたら、誰か休んでも冬ちゃんが代わりにやってくれるな」
「ああ、そういう子がいたら便利だ」
「うん。ボク、便利屋さんだね、と言われた」
 
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「何の役でも出来るなら、冬ちゃんカラボスとかお願いできる?」
「ああ、カラボスは練習で踊ったことある」
「じゃ、よろしくー。学芸会は台詞と演技だけで、踊らなくてもいいけどね」
 
「それ誰だっけ?」
「オーロラ姫の誕生パーティーに招待されなかったので、すねて呪いを掛けちゃう魔女だよ。4人の魔女とカラボスのつもりだったけど、冬ちゃんを入れて、5人の魔女とカラボスにしよう。だから4人の魔女がプレゼントした所で冬ちゃんのカラボスが登場して、オーロラ姫は16歳で指に針を刺して死ぬと言い、最後にまだプレゼントをしていなかったリラの魔女が、死ぬのではなく100年の眠りに就くと呪いを修正する」
 
「なるほど、なるほど」
「でもカラボスはオーロラ姫が目覚めてから開かれたデジレ王子との結婚式には普通に出席している」
「何だか東洋的だよね。100年眠った結果、良い男をゲットできたんだから、いいことにするのか」
 
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「でも、オーロラ姫とデジレ王子って、物凄い年の差結婚だね」
「言えてる〜!」
「可愛ければ、100歳年上でも構わないんじゃない?」
「なるほどー」
 
「男の感覚ってそうかもよ」
「**君が入れられるなら何でもいいって言ってたよ」
「きゃー」
「入れられるって?」
「意味の分からない子は気にしない!」
 
「冬ちゃん、その辺の感覚、分からない?」
「ボクちょっと男心は分からない」
「ああ、そうかも」
 
「じゃ、冬ちゃんを女子の方に引き抜くということで、男子の方には言っとく」
と協佳は言っていた。
 

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この時期、私は学校でもよく音楽室のグランドピアノを昼休みなどに弾いていた。この学校では翌年の春から放課後の音楽室では合唱サークルの練習が行われるようになるのだが、この時期はいつも空いていた。
 
昼休みや放課後にピアノを弾く子たちは何人かいて、たいていの子はピアノ教室に通っているのだが、私は独学であっても当時その子たちと遜色無い演奏ができていたので、順番で回しながら弾いていた。私はだいたいポップスを弾くので、みんなからリクエストも受け付けていた。
 
「冬〜、モー娘。の『LOVEマシーン』弾いて〜」
「嵐の『時代』弾いて〜」
 
などとリクエストされるので、リクエストされた曲を弾いて、それで私の演奏に合わせて歌ってくれたりもしていた。女の子たちだけでなく、結構男の子たちもこれには参加してくれた。
 
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「唐本、そうやってる所を見ると《美少女ピアニスト》って感じだ」
「いや、唐本って本当に女子なんじゃないかと思うことよくある」
 
「ってか唐本、胸あるよな?」
「これはカップ付きキャミソール付けてるから、そう見えるだけで」
「実際の胸は無いの?」
「女子から聞いた話ではCカップだとか」
「さすがにそんなには無い」
 
「ね、チンコも取っちゃったって噂は本当?」
「あはは、どうだろうね?」
「俺は、チンコは付いてるけど、タマは取ったと聞いた」
「あははは」
 
「うちのクラスの男子でまだ声変わりしてないの4人だけだよな」
「多分唐本は永久に声変わりしない気がする」
「キントラートとか言うんだっけ?」
「確かに金(きん)を取るかも知れないけど、カストラートかも」
 
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「それなの?」
「あはは、どうだろうね?」
 

ところで私は小学4年のある時期から作曲(作詞も)を始めた。
 
きっかけは、あるテレビ番組であった。それは「凄い小学1年生」というのを紹介する番組で、料理が得意な子、バレエが物凄くうまい子、天才卓球少女(この子は後にオリンピック選手になった)、プログラムが作れる子、物凄く絵のうまい子、字のうまい子、洋服のデザインをしちゃう子など、よく小1でここまでという感じの凄い子たちを紹介していたが、その中に作曲をする子というのが出ていた。
 
私は絵には自信があったので「物凄く絵のうまい子」にちょっと対抗心を持ってしまったのだが、その作曲をする子というのにも興味を持った。小学1年生にできることなら、4年生の自分にもできるはずと思った。
 
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でも作曲ってどうやるんだろ? と思い五線紙をエレクトーンの前に置いてみる。適当に曲を考えてみようとするのだが、いつしか自分の知っている何かの曲になってしまうのに気づく。
 
じゃ考えちゃダメだと思い、サイコロを持ってきた。1=ド、2=レ、3=ミ、4=ファ、5=ソ、6=ラ、と決めてサイコロを振りながら音符を記入していく。
 
しかし当然ながら無茶苦茶になる。とても曲と呼べたものではない。しかし、そこから私はそれが自然な音の流れになるように音の高さを修正した。最初は四分音符だけだったのを、長さを変えたり音符を分割したりもしてリズム変化のある曲にしていった。
 
すると最終的にはまあ何とか曲らしきものにはなった。
 
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この記念すべき第一号作品は「サイコロの歌」という仮題を付けて、後に作るようになった作曲ノートの第1ページにも書いたが、純然たる試作品であり、世に出すことは無いであろう。
 
しかしこれをきっかけにして、私は時々ふつうにメロディーを書くということができるようになり、当時雑誌などに投稿されていた詩に、勝手にメロディーを付けるということを始めた。それでこの時期、様々な作詩者の名前に「唐本冬子作曲」というクレジットを冠した作品が五線紙にたくさん書き綴られていくことになる。その作品は小学4年生の間に10本ほど、小学5年生の時に30本ほどに上った。その中にはいくつか自分で詩を書いて曲を付けたものもある。
 
作曲者の中には「曲先」で書く人が割と多いようだが、私はだいたい「詩先」
で書くことが多い。詩の世界観をイマジネーションとして思い浮かべている内にメロディーが浮かんでくるのである。ただ、この時期の作品は既に存在している詩(多くは散文詩)に曲を付けていったものが多いので、ソネット形式の一連の作品を除いては、曲としては変則的な形式のものが多い。ソネットは14行詩であるが、それを私は2行分を繰り返しとして使用したり勝手に2行分の詩を補作したりして64小節(32小節で2番までの曲)にまとめることをよくしていた。
 
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5年生の夏のその日も私はまたいろいろ曲を書こうと思って、五線紙(4年生の時の音楽のノートの余ったやつ)と自由帳に筆記具(シャープペンシル2本と消しゴム)を持って、公園を散歩していた。
 
私はベンチに座って鳩が歩いているのを眺めていた時に詩が浮かんできたので『可愛い鳩』という詩を書き、続けてそれに曲を付け始めた。詩を書く段階で曲が付けやすいように、だいたい「七五調」で詩を書いている。日本の詩というのは「五七調」が多いのだが、それでは曲になってくれないのである。七五調なら|タタタタ|タタタ−|タタタタ|ター**|という形で四小節の曲になってくれる。
 
そして16小節の唱歌形式(AABA)の曲をだいたい書き終わった時に、ふとその人に気づいた。その男性は向こうから声を掛けて来た。どうもしばらく前から私を見ていたものの、私の作業が終わるまで声を掛けるのを遠慮していてくれたようであった。
 
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「君、もしかして作曲してたの?」
「あ、はい」
「凄いね。君、楽器使わなくても音が分かるんだ?」
「家ではエレクトーンで音を確認してますけど、エレクトーンは持ち歩けないから」
「そうだね。ウルトラマンくらいの腕力無いと、エレクトーンを持ち歩くのは辛いね」
 
私はそのジョークに笑ってしまい、和やかなムードになった。
 
「途中、結構悩んでいたね」
「途中から、うっかりワンティスの『時計色の虹』の曲に似そうになったので、そこで違うメロディーにするのにしばし考えていました」
 
「ああ、ここの3音の動きが『時計色の虹』のBメロの7小節目と似ているから、それで吸収されそうになったんだろうね」
 
どうも既存のメロディーに合流してしまうことを「吸収」と言うようだが、一般的な言葉なのか、その人の勝手な用語なのかは分からない。
 
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「ワンティス、ご存じですか?」
「ああ、好きだからよく聴いてる」
とその人は言った。
「『時計色の虹』は割と好きな曲だよ」
 
「へー。でもワンティスって初期の作品が好きだったなあ。『霧の中で』以降路線が変わっちゃいましたよね。より売れる作品にはなったと思うけど」
と私が言うと
「ほほぉ。路線が変わったのが分かるんだ?」
とその人は言う。
 
「ええ。まるで別の人が詩を書いているみたい」
と私が言った時、その男性は何かショックでも受けたかのような顔をした。
 
「売れる作品になったと思う?」
「はい。初期の作品は芸術的な価値は高いと思うんです。だから私は好きなんですけど、高岡さんが自分の世界に陶酔している感じなんですよね。だから一般向きじゃない。でも『霧の中で』以降は、まるで誰かに語りかけるかのような詩になったんです。詩としては平凡。でも平凡だから一般受けする。何かよほど大きな心境の変化でもあったんでしょうかね」
 
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その男の人は何か考えているかのようであった。
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夏の日の想い出・小5編(2)

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