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■夏の日の想い出・小5編(1)
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(C)Eriko Kawaguchi 2013-08-30
私は小学5年生の5月、声変わりの兆候が訪れて「自分はこのまま男の声になってしまうのだろうか」と、一時絶望に陥ったのだが、その時、偶然にもしばらく離れていた民謡に関わることになり、喉を鍛えれば、声変わりを乗り越えることができるかも知れないという思いつきに一縷の望みを見い出して、その絶望の淵から立ち上がることができた。
更には若干怪しげなクリニック(運営は少し怪しいが先生の腕は確か)で、私は性同一性障害と診断され、ホルモン補充療法を受けさせてもらった。
そのお陰で、私は声変わりと体質の男性化を免れることができたのであった。それで小学5年生の秋から大学1年の頃までの私は、ホルモン的にはニュートラルに近いものの若干女性ホルモン優位という状態になっていた。私は、女性ホルモンを男性機能がギリギリ死なない程度に調整しながら摂取していたので、大学1年の春に去勢手術を受ける直前まで弱いながらも男性機能・生殖機能を維持していた。
さて、5年生の7月。私は友人達にうまくハメられて、プールで女の子水着を着ることになった。プールで水に入るのは小学2年の時以来かなあ、などと思いながら、奈緒たちに言われてバタ足の練習や、クロールの息継ぎの練習などをした。
夏休みに入る。
私はこの時期、頻繁に奈緒の家に行き、ピアノの練習をさせてもらっていた。
私は小学1〜2年生の時、深山先生という優しい女の先生(1年の時は隣のクラスの担任。2年生の時は担任)に毎日放課後、ピアノの手ほどきを受けていたのだが、3年生になると中断してしまった。
一応学校のピアノは弾いていたし、月に数回くらいの頻度で、友人かつライバルであった夢美ちゃんという子の家に行き、ヴァイオリンを教えてもらうついでにピアノも少し見てもらっていた程度である。それも東京に転校してからは途絶えてしまった。
しかし4年生の秋に、奈緒と仲良くなったことから、奈緒の家にあるピアノを弾かせてもらえるようになったのである。奈緒は小学1年の時からピアノを習っていたのだが、極端な音痴という問題があり、いわゆる「探り弾き」ができないし、譜面と違った弾き方しても自分で分からない、というのでこの時期は、もう先生が匙を投げてレッスンも「適当に弾いてて」なんてことになっていたらしい。
私が奈緒の家でピアノを弾いていると、お母さんが「このピアノも冬子ちゃんに弾いてもらえて幸せだわあ」などと言っていた。奈緒にはお姉さんがいるがお姉さんもやはりピアノを習っていたものの、奈緒以上の音痴であった。
さて、その日私が奈緒の家でピアノを弾かせてもらっていた時、それまで漫画を読んでいた奈緒が
「そうだ!今日から学校はプール開放だよ」
と言った。
「あ。ごめん、ごめん。じゃ、そろそろ帰るね」
「冬も一緒に行こうよ」
「えっと・・・私、水着無いし」
「こないだの水着があるじゃん」
「えー? あんな可愛いの、学校に持っていったら叱られるよ」
「夏休みだし、構わないと思うな。見学してるよりは少しでも水に入った方がいい」
「うーん・・・」
「来なかったら、この写真バラ撒いちゃうから」
「ん?」
と思って奈緒の携帯を見ると、先日の可愛い水着を着た私の写真だ。
「ちょっと、ちょっと」
「嫌なら、私と一緒においで。お昼食べた後、あの水着持って学校に集合」
「えーん」
そういう訳で、先日の水着を持って学校に出かけて行った。
「持ってきた?」
「うん、これ」
と言って水着を見せる。
「よし、着替えよう」
「うん、それじゃ」
と言って私が男子更衣室の方に行こうとしたら奈緒が首に抱きついた。
「どこに行く?」
「だから更衣室」
「そっちは男子更衣室だよ。目悪くなった?」
「え?だってボクは男子更衣室で着替えなきゃ」
「こないだのプールでは女子更衣室で着替えたじゃん」
「だって・・・それにここ学校だし」
「冬が男子であるにも関わらず、こないだ女子更衣室で着替えてみんなの裸を見たのであれば痴漢として訴える」
「そんなぁ。こないだみんなで女子更衣室に連れ込んだんじゃん」
「抵抗しなかったじゃん」
「抵抗したよぉ」
「とにかく冬は女の子なんだから、ちゃんと女子更衣室で着替えよう」
ということで、またまた女子更衣室に連れ込まれた。
たちまち、他の女子にぎょっとされる。
「ちょっと、ちょっと、なんで唐本君が女子更衣室に入ってくるの?」
「ああ、冬は性転換したんだよ」
「え?そうなの?」
「性別変更届、出す予定だから」
「へー!」
「ほら、冬、ちゃんと女の子であることを確認してもらうのに、みんなの前で着替えよう」
「もう・・・」
仕方ないので私はみんなの前で服を脱ぐ。Tシャツを脱ぐと下はカップ付きキャミソールである。
「へー。ちゃんと女の子下着を着けてるんだ」
「そりゃ女の子だもん」
ジーンズを脱ぐと女の子パンティを穿いている。
「下もちゃんと女の子パンティだね」
「ってか膨らみが無い」
「ほんとに付いてないみたい」
「おちんちん、とっちゃったの?」
「そうだよ。もう冬は女の子だから」
「へー」
私は曖昧に照れ笑いしながらキャミソールを脱ぐ。
「乳首立ってるね」
「これ、微かに膨らみかけてない?」
「まあ普通の女の子よりは少し胸の発達が遅いかもね」
「小学4年生並みかな」
さて問題はショーツだ。私は水着をすぐに足を入れられる状態にすると、少し身体を前屈みにして、さっとショーツを脱ぐと、さっと水着に足を通して急いで上まであげてしまった。
「え?え?」
「今、よく見えなかった」
「いや、一瞬見えた。おちんちんは無かった」
「一瞬縦の線が見えた気がした」
「女の子だから、おちんちんは無いよ」
と奈緒。
「おちんちん取る手術しちゃったの?」
「そのあたりは秘密で」
と私はごまかしておいた。
「冬ちゃん、あの付近の毛はまだ生えてないのね?」
「うん、まだだよ」
とそれはにこやかに返事をしておいた。
でもとりあえず、みんなは私が女子更衣室にいること自体は受け入れてくれたようであった。
私がちょっと可愛い水着で奈緒に付き添われてバタ足の練習をしていたら2組の香坂先生が近づいてきた。
「誰?そんな可愛い水着を着てるのは?何でスクール水着じゃないの?」
「あ。先生、唐本さんが男子水着になるの恥ずかしいなんて言うもんだから、女子みんなで『こういう水着なら着れない?』と言って買ってあげたんです。これ、お股のところが目立たないから」
と奈緒が言う。
「え? あ、君、唐本君か! へー。そんな水着を着てると女の子みたい」
「この子、戸籍上は男の子だけど、実態は女の子ですよ。おちんちんも無いみたいだし」
「え?そうなの?」
「唐本さんのおちんちんを目撃した人が男子にも女子にも居ないようなので、おちんちんは無いのだと思います」
「へー!」
「でも、この水着なら唐本さん、着てくれたから、これで少し水泳の練習させてあげてください」
「ああ、そういえば、唐本さん、体育の授業では水泳はずっと見学してたね。泳ぐ練習は絶対していた方がいいから、その水着なら着れるのなら、まあそれでもいいかもね」
それで香坂先生は本当に私にはおちんちんは無いものと思い込んでしまった感もあった!
「唐本さん、ちょっとだけどバストも膨らみ掛けてるから、男子の水着にはなれないと思います」
「ああ。そうなんだ。じゃ、とりあえずその水着でもいいよ。でももし着けられるなら、女子用スクール水着にも挑戦してね」
クロールの練習もさせられたが
「冬、腕の動かし方が小さすぎる。それでは犬かき」
と言われる。
「ちょっと水の外で練習してみようよ。こんな感じで腕を動かすんだよ」
と言って、奈緒がやってみせるので、私も真似して腕を動かしてみる。
「もっと腕を伸ばして。それで伸ばしたままぐるぐる回してみて。うん、それでやってみよう」
ということで、水の外で練習したのを水の中でやってみたが・・・
沈んでしまった!
「うーん。。。。筋力不足かな」
と奈緒も悩むように言う。
「冬、少し筋力トレーニングした方がいい」
「ああ、冬ちゃん、ほんとに腕も足も細いもん」
「その筋肉では浮力を得られるほどの推進力が出ないんだな」
「冬ちゃん、体重いくら?」
「28kgくらい」
「軽すぎる」
「ご飯ちゃんと食べてる?」
「食べてるけどなあ」
「しっかり食べないと、おっぱいも大きくならないよ」
「えっと・・・」
「おっぱいは良いとして、ジョギングとかでもして、足腰鍛えないと、水泳だけ練習しても無理っぽいな」
「でもとりあえずバタ足は練習した方がいい」
ということで、その日はたくさんバタ足の練習をした。
プールが終わってから、近所のスーパーの休憩エリアに行き、空調の効いた中で自販機のジュースなど飲みながらおしゃべりした。紙コップに注がれるジュース類が60円などという、小学生のお小遣いにはとっても優しい所である。
「でも冬ちゃんの性別を再確認しておきたいなあ」
「よし。私が性別判定試験をしてあげよう」
と協佳が言い出した。
「私が質問するから、正直に答えるように」
「うん」
「おちんちんありますか?」
といきなり訊くので、周囲から「だいたーん」という声があがる。
「えーっと、よく分からない」
と私は答える。
「うむむ。よく分からないのか!」
「昼間は付いてるけど、夜は無くなるとか?」
「おちんちんなのか、クリちゃんなのか分からないサイズなのかも?」
「ああ、そういうの実際あるらしいね。1cmくらいしか無いおちんちんとか、逆に3cmくらいあるクリちゃんって存在するらしい」
「冬ちゃんにおちんちんはあるのか?というのはこないだも議論したよね」
「そうそう。とりあえず男子の方でも話題になってて、とにかく男子の中には冬ちゃんのおちんちんを目撃した子は存在しない」
「奈緒、冬ちゃんと仲良しだけど、おちんちん見たことある?」
「見たことない。お股が膨らんでいるのも見たことない」
「やはり、無いのでは?」
「まあ、いいや0.5点にして次に進もう。睾丸はありますか?」
と協佳。
「ごめーん。それもよく分からない」
と私。
「それも分からないのか」
「多分、冬ちゃんはもう睾丸は取ってると思うなあ」
「そうそう。声変わりしてないのが何よりの証拠」
「喉仏とかも無いよね」
「いや、睾丸は取ったんじゃなくて元々無かったのかも」
「奈緒の意見は?」
「冬ちゃん、以前は自分の睾丸はすぐ体内に入り込んじゃうとか言ってたよ」
「ああ、入り込んでいるから自分でも存在を確認できないのでは?」
「あれって、体内に入ってると機能しないよね?」
「そうそう。人間の体温では睾丸は機能できないから、外に出ている」
「機能してないなら、無いのと同じでは?」
「よし。じゃ、これは1点。次、生理はありますか?」
「うーんと、どうだろう?」
「冬ちゃん、生理あるはず。私、冬ちゃんからナプキン借りたことある」
とひとりの子が言うと、奈緒が
「あろうことか、冬は私からナプキンを借りたことがある」
と言う。
「じゃ、生理あるんだ!」
「やはり冬ちゃんって本当に女の子なのでは?」
「じゃ、これは1点だな。次、冬ちゃん、おっぱい膨らんでますか?」
これには他の子が私より先に答えた。
「さっき着替えの時見たけど、おっぱいは膨らみ掛けてたよ」
「よし。これは1点と。次5問目。冬ちゃんのパンツは男の子用?女の子用?」
「冬ちゃん、今日も女の子用パンツ穿いてたし、こないだプールに誘った時もやはり女の子用だったよ」
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