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■夏の日の想い出・ビキニの夏(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2013-09-01

 
2003年4月23日(水)。私の歌の「元先生」である静花(松原珠妃)が、サファイヤ田中作詞・木ノ下大吉作曲の『黒潮』で★★レコードからCDデビューした。この時点で静花は15歳の高校1年生であったが、その歌唱力が当時の歌謡界に衝撃を与え「15歳にして既に完成した大器」などとも呼ばれた。
 
この曲は黒潮に乗った小舟で、毎日隣の島に住む恋人に会いに行く少女を歌った、ロッカバラードの曲で、作曲者の木ノ下大吉先生自身がピアノを弾き、ヴァイオリンとサックスをフィーチャーした、もの悲しいメロディーが哀愁を好む日本人の心を捉えたという感じであった。
 
(この影響で珠妃のバックバンドには以後ヴァイオリンとサックスは不可欠になる。七星さんはこのバックバンドの2代目のサックス奏者である)
 
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当初ラジオなどで公開された音源では最後が悲劇的な結末(少女の小舟が嵐で沈んでしまう)になっていたのだが、これに対して凄まじく大量の「助命嘆願」
が押し寄せ「ナノちゃんが死ぬのなら私も死にます」などといった見過ごせない手紙も多数あったことから、制作側で急遽結末をハッピーエンドに書き換えて(波間に浮かんでいたナノを彼氏の船が助けるという歌詞を最後に書き加えた)録音をやり直すなどという、最初からいわく付きの曲となった。
 
最初にそんな騒動もあったおかげで、この曲は発売されてすぐにぐんぐんセールスを上げ、連休中に売上枚数が100万枚を突破。静花はいきなりミリオン歌手となった。
 

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この曲が発売された直後、私は静花のプロダクションの兼岩社長から電話を受けた。
 
「おはようございます。お世話になります」
と私が答えると
 
「おお、ちゃんとご挨拶できるわね。感心、感心」
といつものように女言葉で言われる。
 
「あなた、ちょっと写真とかビデオとか撮るの、津田さんとことの契約には違反しない?」
 
「えっと特に反しないとは思いますけど(そもそも契約なんて無いけど)、念のため話しておきますが・・・って何か写真を撮るんですか?」
 
「いや、珠妃ちゃんのCDが無茶苦茶売れてるからね、イメージビデオとイメージ写真集を作ろうという話が急遽出てきたのよ」
「へー」
 
社長は言った。
「でも『黒潮』のナノちゃんって、12歳という設定だから、珠妃ちゃんでは年齢が合わないのよね。そのくらいの年のモデルさんとかを使おうかとも思ったんだけど、どうせなら珠妃ちゃんの妹さんとかが出てくれるといいと思ったのよ」
 
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「えっと、珠妃にはお姉さんはいますけど妹はいませんが」
「そうそう、そうなのよ。それで、冬子ちゃんって、珠妃ちゃんの妹分なんでしょ?」
「ああ、そんなものです」
「だから、あなたが映像に出てくれない?」
「えー!?」
 
「冬子ちゃん、珠妃ちゃんと持ってる空気というかオーラというかが似てるのよね〜。実際の映像は海岸に立っている珠妃ちゃんが昔を回想するかのような顔をしていて、そこに小舟に乗ってる冬子ちゃんの映像を重ねるというの考えてるの」
「なるほど」
 
「どうかな?」
「えっと撮影はどちらで?」
「果ての浜」
「・・・なんか凄い名前ですね」
「よかったら御両親に話して許可取ってくれない?」
「珠妃も行くんですか?」
「うん。相手役の男の人も一緒にね。その人と冬子ちゃん、抱き合うシーンがあるんだけど構わない?」
 
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「・・・ベッドの中じゃないですよね?」
「うちはそういう事務所じゃないわよぉ。船の上で、彼氏がナノちゃんを助けた後、抱きしめるの。着衣だよ」
 
「なるほど。その相手役の人って、モデルさんか何かですか?」
 
「歌詞のイメージでは25歳くらいなんだよね。それでロック歌手の百道良輔にお願いするつもりだったんだけどね。29歳だけど見た目若いから。でも珠妃があの人、女の子に手が早いから嫌だと言うので調べてみたら確かに過去に女性アイドルを妊娠させて引退させる羽目になったこともあったみたい。あ、これ人には言わないでよね」
「はい」
 
「それでレコード会社から推薦してもらった、ドリームボーイズというバンドのリーダーで蔵田孝治という子。28歳」
「へー」
「それにこの子ホモだって噂もあるみたいだから、女の子には安全かなと思って」
「あはは・・・」
 
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ホモって・・・私、大丈夫かしら? と少し心配になった。とりあえず母に相談したら、静花のお仕事の手伝いなら、行ってあげなさいということだった。また津田先生にも電話してみたが、あの事務所の仕事なら危ないことはないから大丈夫などと言っていたので、こちらから社長に電話して、母と直接話してもらい、私は5月1-2日、学校を休んで「果ての浜」に行くことになった。
 

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しかし「果ての浜」という名前に違わず、到達するのは、なかなか大変だった。
 
羽田からまず沖縄の那覇空港まで飛ぶ。それから那覇から久米島までの飛行機に乗り継ぐ。そして久米島から船で「果ての浜」まで行く。
 
久米島は黒潮の流れの中に浮かぶ島である。この久米島の東側に3つの小さな島があり、近い方から前の浜、中の浜、果ての浜という。3つとも砂浜だけの島である。撮影はこのいちばん遠い果ての浜で行われた。朝6時に羽田を出たのだが、果ての浜に到着したのはもうお昼である。軽食を取ってから撮影することになった。
 
しかしエメラルドグリーンの、ホントにきれいな海だった。この世のものとは思えない世界で、生と死の境にでも来た気分だった。
 
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それで私は用意されたビキニを身につけたのだが・・・・・
 
「そうしてると、ホント、女の子の水着姿にしか見えないね」
などと静花から言われる。
 
「でも私、おっぱいが無いけど、いいのかなあ」
「12歳の設定だもん。そんなものでいいと思うけど」
と静花は言ったのだが、社長からダメだしされる。
 
「冬子ちゃん、おっぱい小さーい」
「すみませーん」
 
「あれの道具ある?」
と社長がスタッフの女性に言う。
 
「大丈夫です。どのくらいのサイズにしますか?」
「Fカップくらい」
「12歳のFカップはあり得ません」
「しょうがないなあ。じゃBカップくらいに」
「了解。冬子ちゃん、おいで」
 
と言われてその女性に伴われてテントの中に入る。
 
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「上げ底しちゃおうね」
と言われてバストの下に結構大きなシリコンのパッドを入れられる。ぐいっと下からお肉が持ち上げられる感じだ。それから透明なビニールテープを使って脇のお肉をぎゅーっと中央に寄せられた。
 
「どう?」
と言われて鏡の中を見ると、何だかおっぱいがすごーくあるみたいに見える。
 
「これ何だか凄い! 友達に見せたいくらい」
「うふふ。このシリコンパッドは冬子ちゃんにあげるから、自分でも大きく見えるようにする方法研究してごらんよ」
「はい!」
 
ただこの「寄せて上げたおっぱい」は15分くらいしか持たないのが欠点だった。
 
「あ、崩れてきたね」
と言われて撮影をたびたび中断しては「寄せ直し」をした。
 
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「冬子、次からは面倒がないように、豊胸手術しておいで」
などと静花から言われた。
 
「豊胸、個人的にはしたいけど、たぶんお母ちゃんからダメと言われる」
と私が言うと
「さすがに小学生に豊胸手術は無茶だよ」
と静花のマネージャーの青嶋さんも笑っていた。
 

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私が小舟に乗り込むシーン、小舟に揺られているシーン、小舟から降りて海から浜へと歩いてくるシーン、それから溺れてるシーン(実はほんとに溺れていた)、彼氏(蔵田さん)に助けられるシーン、彼氏と抱き合うシーンなどを撮影した。
 
一方で静花の方も、浴衣やワンピースなどを着て浜辺に立つシーン、彼女自身も私と同じデザインのビキニを付けて浜辺に立ったり小舟に乗るシーンを撮影していた。
 
夕方まで掛けて撮影を行ったが「午前中の光の中でも撮影したいから明日また撮ります」と言われ、その日は久米島に引き上げて、島内の旅館に泊まった。
 

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夕食後も久米島の浜辺を使って夜景の撮影をして21時頃解放された。その解放された後、静花から
「歌の対決行くぞ」
と誘われて、再度浜辺に出た。そして、ふたりで歌を歌いまくった。
 
「くっそー。3月から必死に練習して水を空けたつもりがむしろ差が縮んでる」
「でも元の距離が大きいもん。100km差があったのをやっと97kmにした感じ」
「私は200kmの差にしてやるつもりだったのにな」
 
などと言っていたら
 
「お嬢さんたち凄いね」
と声が掛かる。蔵田さんだった。
 
「お疲れ様ですー」
と私たちも声を掛ける。
 

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「珠妃ちゃんもピコちゃんもホントに歌がうまいなあ。姉妹なんだっけ?」
と蔵田さん。
 
ピコというのは今回の仕事で暫定的に私に付けられた芸名である。『黒潮』のヒロインが「ナノ(那乃)」なので、単位のナノ(10の-9乗)からピコ(10の-12乗)を連想して付けられた。
 
「いえ、ライバルです」と静花。
「へー。なんか少し前から居たんだけどさ、声掛けにくいほど気合入ってた」
 
と言って蔵田さんは私たちのそばに来て座ったのだが・・・・・
 
それから私たちは3時間近く蔵田さんの「ハードロックとメタルの違いについて」
の話に付き合うことになってしまった!!
 
なんか話の腰を折ることができなかった。こちらが何か話を挟もうとしても
「そうそう。でもそれよりね」
などと言って自分の話を続ける。
 
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静花が部屋に居ないのに気づいた青嶋さんが0時頃に探しに来るまで蔵田さんの話は続いたのである!
 
「いや凄かったねー」
「でも面白い話だった」
「うんうん。私ハードロック好きになったかも」
「でも疲れた!」
「全く!」
などと言って、私と静花は笑った。
 

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翌日は朝から撮影が始まり、結局午後遅い時間になるまで撮影は続いた。この時期は大潮で時刻とともに海の景観が極端に変わるので、同じシチュエーションを何度も撮影し、後でどの時間帯に撮ったものが良いか検討すると言っていた。
 
それで私はその間ずっとビキニを付けていたのだが・・・・
 
撮影が終わってからシャワーを浴びていたら静花に言われた。
 
「冬、ビキニの跡がくっきり日焼けしてる」
「うん」
 
一応日差しが強いので日焼け止めは塗っていたものの、それでもかなり焼けていた。静花はほとんどの時間テントの中に居て、帽子も強烈なのをかぶっていたので、そんなに日焼けはしていない。
 
「その跡を付けては男子水着にはなれないし男湯にも入れないね」
「私、男子水着は着ないし、男湯にも入らないから」
「・・・体育の水泳の授業は?」
「見学」
「なるほど。ところで、あんた、それ下はどうなってんの? ここだけの話」
「えへへ、内緒」
 
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「いや付いてるようには見えないからさ。実際3月にはお風呂にも入ったしね。まさか手術して取っちゃったりしてないよなと思って」
 
「・・・手術はしてない。でも静花さん、胸大きい」
「まあ、とりあえず胸のサイズではまだ負けられないな」
「これCカップ?」
と言って私が静花の胸に触ると
 
「ちょっ・・・触っちゃうの?」
と言われる。
 
「あ、ごめーん。普段友達とは触りっこしてるもんだから」
「・・・女の子の友達と?」
「うん」
「私ちょっとクラクラとした」
「そう?」
「まあいいや。私の胸には触ってもいいことにするわ、とりあえず」
「ありがと」
 
「・・・・・考えてみたらさ」
「うん」
「冬って、私にとっては何の遠慮も無く話が出来る貴重な友達という気もしてきたよ」
「でも学校でも友達できたでしょ?」
「私、4月はほとんど学校行ってない」
 
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「行かなくてもいいもの?」
「まあ全然行ってないと出席日数不足で退学処分だろうね」
「それ、やばいのでは」
「私、そもそも高校行く気無かったし」
「でも、お父さんから叱られない?」
 
「そうだなぁ。どうしようか。。。。。冬さ」
「うん」
「おっぱい大きくしてること、親に言ってるの?」
「まさか。そんなこと知られたら、ぶん殴られる」
「だろうね」
 

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2日で撮影は終わり、私はその日の夜の便で東京に戻ったのだが、静花はそのまま那覇に留まり、翌日から11日の日曜まで全国キャンペーンだと言っていた。つまり今週一週間、学校は休むことになる。静花はおそらく遠くない時期に退学になってしまいそうな気がした。でもそれがきっと彼女の選んだ「後戻りできない道」なのだろう。
 

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東京に戻った翌日3日。私は奈緒と有咲を誘って新宿に出た。少しお店など見て散歩したあとマクドナルドに入る。「今日は私のおごり」と言ってハンバーガーセットをおごった。
 
「冬、凄い日焼けしてるね」
「ああ。ちょっと用事があって沖縄に行ってきたんだよ」
「それで1日と2日休んだんだ?」
「うん」
「沖縄といっても、その焼けようはまるでずっと直射日光に当たってた感じ」
「そうなんだよ。日焼け止めは塗ってたけど、焼け石に水って感じだった」
 
「屋外にずっといたんだ? サトウキビの収穫でもしてたの?」
「それやったら私すぐ倒れそう。水着を着てずっと浜辺にいた」
「何かのお仕事?」
「うん。モデルさんみたいな仕事」
「ほほぉ」
「あ、それでギャラをもらったんで、おごってくれたのね」
「そうそう」
「なるほどー。さんきゅー」
 
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と言ってから奈緒はちょっとだけ考える仕草をした。
 
「ここで質問です」
「うん」
「冬は男の子水着を着たのかなあ、女の子水着を着たのかなあ」
「ボクが男の子水着を着る訳ないじゃん」
「つまり女の子水着を着て撮影とかしたんだ!?」
「えへへ」
 

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夏の日の想い出・ビキニの夏(1)

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