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■夏の日の想い出・ビキニの夏(7)

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それで、東京に戻ってきてから、銀座のデパートに水着を買いに行った。デパートに行くのが、さすが若葉である。
 
「冬はさ・・・まさか男の子水着を着ないよね?」
「まさか」
「だったら、女の子水着を着るよね?」
 
「そうだなあ。若葉になら見られてもいいか」
「じゃ、一緒に物色しようよ」
「うん」
 
それで見ていたのだが、さすがデパート! 値段が凄い!
 
「どうした?」
「いや、この値段にちょっとクラクラしてる」
「ああ。水着くらい、私が買ってあげようか?」
「えー? でも・・・」
 
「その代わり、私が選んだデザインの水着を着て、私に写真を撮られるというのでどう?」
「あはは」
 

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それで若葉が選んだ水着は、かなり布面積の小さなビキニだった。
 
「これを・・・着るの?」
「冬だったら着られると思うなあ。だってアレ、もう無いよね?」
「うーん・・・」
 
「これ凄いハイレグだからさ。あそこの毛は剃っておいてね」
「あ、それは大丈夫。私まだ生えてないから」
「へー! 6年生でまだって珍しいね」
 
と言ってから若葉は小声で尋ねた。
 
「もしかして睾丸取っちゃったから第二次性徴が来てないの?」
 
「取ってないよぉ」
と私は笑って答える。
 
「だってさ・・・冬って、いつも一緒に走ってて思うけど、汗掻いても男の子の臭いがしないんだもん」
「そ、そう?」
「声変わりもしてないし」
 
「えっと声変わりはしてるんだ、実は」
と言って私は当時はめったに使っていなかった男の子の声で答える。
 
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「うーん・・・でも女の子の声も出るんだ?」
「そうだね」
と私は女の子の声に戻した答える。
 
若葉は少し何か考えているようだったが
「まあいいや、その件は」
と言った。
 
「じゃ、私コンサート楽しみにしてるから、頑張ってね」
「うん」
 
当時私は自分の携帯を持っていなかったので、若葉の携帯番号をメモして別れた。火曜日に、こちらがフリーになった時点で若葉に連絡することにした。
 

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若葉と別れて自宅に戻ったのは17時くらいだった。でも私は明日のライブを前に少しヴァイオリンの練習をしておきたかった。それで「明日の伴奏の仕事の練習をしておきたいから、スタジオに行ってくる。21時までには帰る」と母に告げて、伴奏の仕事で愛用しているヴァイオリン《Flora》を持ち、駅前のスタジオに行った。小部屋を借りることにする。
 
お盆の期間中でスタジオは何だか混んでいた。部屋が空くまで待合室で待つ。少しぼんやりしていたら、いきなり目の前にのぞき込むように顔を持ってきた人がいた。
 
「わっ、びっくりした」
「冬ちゃん、君が持っているのはヴィオロンでは?」
 
と声を掛けたのは、従姉のアスカであった。
 
「うん。でも借り物〜」
「へー。でもそれ持ってここにいるってことは、それで曲芸でもするの?」
「ヴァイオリン使った曲芸って知らないなあ」
「例えばヴァイオリンの上に爪先立つとか」
「壊れちゃうよぉ」
 
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「もしかして弾くの?」
「まあ、ちょっと弾いてみようかなあと思って」
「見せてよ、どのくらい弾くのか」
「いいよ」
 

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それで部屋が空いた所でアスカと一緒にスタジオに入った。アスカはフルートを持っていた。それの練習に来たらしいが、部屋を借りる前に私に気づいて声を掛けたということのようであった。
 
私がヴァイオリンを取り出すと内側をのぞき込み
「おお、E.H.Rothか。下倉だね?」
と言う。
 
「よく分かんない。私が買ったものでもないし。先月はピグマリオンというのを使ってたんだけど、壊れちゃって」
「ピグマリウスのことかな?」
「あ、それそれ」
「そちらは文京楽器だな」
「へー」
 
「でもどうやって壊したの?」
「包丁で刺されそうになって、とっさにそれで防いだ。楽器を楯にしてしまったことで、けっこう落ち込んだ」
 
「いや、そんな時は自分の命優先。たとえストラディバリウスであろうと楯にしろ。ただし『楯にして良い』とは言わんけど」
 
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とアスカは言った。こういう合理的かつバランスの取れた発想をするアスカは好きだ。
 
「ストラディ弾く時は鎧でも着ようかな」
 
「でもなんで刺されそうになったの? 相手は女の子?」
「うん」
「だったら冬のことを男の子と思い込んで好きになったのに実は女の子だと知って逆上したとか」
「まさか」
 
「ま、とりあえずメンコン(メンデルスゾーンのヴァイオリン・コンチェルト)でも弾いてみてよ」
 
「メンコ??」
「知らないの?」
「何かの遊び?」
 
「もしかして冬ってヴァイオリン習ったことないとか?」
「あ、一度も習ったことない。私、友達の見よう見まねだから」
「私が教えてあげようか?」
「うーん。。。その内」
 
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「まあいいや。じゃ、何でもいいから弾けるの弾いてごらんよ」
「うん」
 

それで私は『黒潮』のヴァイオリンを弾いた。アスカはじっと私の指の動きや弓の使い方を見ている感じだった。
 
「冬。左手の使い方が完璧に間違っている」
「え?」
「その弾き方はヴァイオリンじゃない。フィドルだ」
「何それ?」
 
それでアスカは私のヴァイオリンを取って、正しい弾き方を見せてくれた。
 
「あぁ・・・そうやるのか!?」
 
「誰にもこういうこと指摘されなかった?」
「うん」
「冬の演奏能力が高すぎるからかも知れん。ふつうはそんな左手の使い方ではまともな演奏にならないのに、冬はそれでも弾きこなしてしまう。独学の恐ろしさだな」
 
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それでアスカに教えられた、正しい左手の使い方をしてみると、
 
弾きやすい!!!
 
「この弾き方、すごく弾きやすいよぉ」
「良かったね。というか、ちょっと教えただけで、こんなに改善される冬が凄い。ほんとにその気になったら、うちにおいでよ。色々教えてあげるから」
 
「そうだなあ。じゃ、その気になったら」
「待ってるよ」
 
実際に私がアスカの所に通い出すのは翌年の6月である。
 

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「ところで今の何の曲?」
「この曲、知らないの?」
「知らん」
 
「やはりこういう人もいるのか。ちょっと安心した」
と言って、私は今ミリオンセラーになっている松原珠妃の『黒潮』という曲であることを説明した。
 
「ふーん。私も最近はあまりポップスやってないからなあ」
とアスカは言っている。
 
「いや、明日その松原珠妃の伴奏でこれ弾くから、練習しにきたんだよね」
「ふーん、ライブの伴奏に出るのか。どこでやるの?」
「那覇」
「沖縄?」
「うん」
 
「沖縄ならビキニの水着とか着たりしない?」
 
「えっと、伴奏はふつうにドレスか何かだと思うけど、翌日友達と海に行く約束してる」
「海ではビキニか?」
 
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「うん・・・・」
 
「だよなあ! 沖縄に行ったらビキニ着なきゃ。冬がビキニになるなら私も行くぞ」
「へ?」
 
「よしチケット取ろう」
と言って、アスカはその場でお母さんに電話して、明日の午前中の羽田→那覇便と、月曜日の夕方の那覇→羽田便、そして那覇市内のホテルのチケットを押さえてもらった。
 
しかし若葉にしてもアスカにしても行動が早い!
 
「私もビキニ着るから。月曜日はじっくりと冬のビキニ姿を観察しよう」
「あはは」
 

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そういう訳で、翌日朝、私は羽田から那覇まで飛行機で飛んだ。静花たちは前日に沖縄入りしている。前泊・後泊である。体調を整えるにはその方が良い。私は空港からまっすぐ会場に行った。井瀬さんだけが来ていたので、連絡事項や、演奏方法などでの注意点を確認する。アレンジが変更されていた所があったので、譜面上できちんと確認した。
 
この8月の全国ツアーでは、前半はアコスティック版の『黒潮』で始めて、80-90年代のアイドルのヒット曲を綴っていき、最後は『可愛いアンブレラ』
で締める。
 
今回の全国ツアーでは伴奏陣は全員アースカラーの服を着ていた。男性はアースカラーのワークシャツとオフホワイトのコットンパンツ、女性はアースカラーのブラウスとピンクのプリーツスカートであった。
 
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もっとも女性は私とサックスの人だけであったが!
 
ゲストコーナーでは、この事務所で最年長の60代の女性歌手が2曲歌った。先月若手でトラブルが起きたので、思いっきり大御所に登場を願ったのである。さすがに歌唱力は落ちているが、魅せる歌い方がうまい。それで観客も結構聞き惚れていた感じであった。ヤジも無かった。
 
後半は『夏少女』に始まってラテンの名曲を歌っていった。そして『アンティル』
『恋のスピッカート』で幕が降りる。
 
そしてアンコールは『初恋の丘』、そして通常版の『黒潮』であった。
 

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松原珠妃の公演が終わると、ゲストで出た大御所さんに挨拶した後、専務、珠妃、珠妃のマネージャーさんにも挨拶し、それから伴奏陣みんなと握手してから会場を出て、タクシーでドリームボーイズの公演会場に行く。
 
こちらではボディコン風のぴったりとした衣装を着せられた。
 
「沖縄だからビキニにしようよと言ったんだけど葛西さんに拒否された」
などと蔵田さんが言っていた。
 
振付を確認するが、その日のダンスチームで常連組は葛西さんと私以外には1人しかおらず、4人が沖縄での現地調達であった。それで私たちは開演前ぎりぎりまで振付練習をしていた。
 
松原珠妃がとても正確で上手い歌唱力で魅せるタイプの歌手であるのに対して、ドリームボーイズは、ノリが良くて、蔵田さんの歌も音程は正しくないものの巧い歌い手で、聴いてて楽しくなる演奏である。
 
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音楽をやるのにも、色々な傾向があるんだなと私は思っていた。アスカみたいに、技術的な高さが前提にある演奏もあるし・・・
 

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それでこちらの方のゲストは、こちらの事務所で売出中のアイドル歌手・麻生まゆりであった。そこそこ上手いが、まあ「アイドルにしては上手い」という程度である。
 
でも一所懸命歌っている様が好感されて、これまで見た宇都宮、横浜、埼玉、幕張などでも観客の声援をもらっていた。それで、今日もまゆりちゃんの頑張る姿が見られるかなと思っていたのだが・・・・
 
「まゆりちゃんはどこ?」
 
前半のステージを終えて、私たちが舞台袖に下がったのに、まゆりが出てこないのである。
 
「あれ?さっきまでそこに居たのに」
「あ、あの子、なんかお腹の調子が悪いとか言ってトイレに何度も行ってましたよ」
「じゃ、トイレに入ってるの!?」
 
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「誰か呼んできて」
「私行ってくる」
と言って、葛西さんが走って行く。
 
「でもステージを空けておけない」
「どうする?」
「いったん、幕を下ろしてアナウンス入れる?」
そんな話を焦ってしていた時、蔵田さんが言った。
 
「洋子ちゃんさ、凄く歌うまいよね。久米島で松原珠妃と歌い合ってたの凄かった」
「はい、歌は自信あります」
と私は答える。
 
その答えに、前橋さんが「おぉ」という感じの顔をした。
 
「まゆりちゃんが来るまで、ステージに立って何か歌って、場を持たせてよ」
「了解、行ってきます!」
 

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それで私は蔵田さんに敬礼すると、ステージにひとりで出て行った。
 
「こんにちは! 暑いですね! あんまり暑いので、ホテルの部屋に暖房入れて冷やそうかと思いました」
 
と私が言うと、なかなか出演者が出てこずに少しざわめいていた観客が爆笑する。
 
「私ちょっと暑さで頭がいかれてるかも知れませんけど、しばし私のつたない歌にお付き合いください」
 
と言うと、みんな拍手をくれる。
 
それで私はキーボードの所に行き、リセットしてピアノ音にし、それで伴奏しながら歌い出す。
 
「我は海の子、白浪の騒ぐ磯辺の松原に」
 
と私は文部省唱歌の『われは海の子』を弾きながら、ピアノで出している音の「2度上」で歌った。微妙に調子が外れた感じになる。
 
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「あれ? 私もしかして変?」
 
と言うと、観客は爆笑して「変!」と言う。
 
「やはり、暑さでおかしくなってるみたい。だれか私の頭を冷やして」
 
と言ったら、舞台袖で笑い転げていた蔵田さんがコップを持って出てきて私の頭から水を掛けちゃった!
 
また客席が爆笑である。
 
「少し頭冷えた?」と蔵田さん。
「冷えたかも。ありがとうございます」
と言って、私は蔵田さんにハグしちゃう。
 
「えーーー!?」
と観客の反応。
 
「こら、やめろ。俺は女は嫌いだ!」
と言って蔵田さんは私を軽く殴る。大げさに倒れる。
 
「はい、もう一回やってみなさい」と蔵田さん。
「アイアイサー!」
と私は敬礼してキーボードを弾きながら歌う。
 
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「我はうみの子、さすらいの旅にしあれば、しみじみと」
 
弾いているのは『われは海の子』だが、歌っている歌詞は『琵琶湖周航の歌』
である。
 
「こら、歌詞が間違ってる」と蔵田さん。
「あれ〜? 違いました?」
 
「お前、ちょっと治療が必要。俺が抱けるようにチンコくっつけて男にしちまおう。ちょっと来い」
と言って、蔵田さんは私の耳を引っ張って、袖に連れて行く。
私は「あ〜〜〜れ〜〜〜〜」と言いながら一緒に袖に下がった。
 
観客が大笑いしていた。そこに、私たちと入れ替わりに麻生まゆりが出てきて、
「こんにちは。****を歌います」
と言って、自分の持ち歌を歌うと、観客も乗って手拍子を打ってくれた。
 
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夏の日の想い出・ビキニの夏(7)

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