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■夏の日の想い出・ビキニの夏(4)

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それで私は愛用のヴァイオリン(ワンティスの高岡さんからもらったもの。「高岡」にちなんで私は《Highlander》と呼んでいる)を持って、翌日、静花の事務所ζζプロに出かけた。
 
非常に大きな事務所である。オフィスビルのフロアを3つも占有している。すっかり顔なじみになった兼岩社長に挨拶し、それで事務所内の簡易スタジオで、私は『黒潮』のヴァイオリンを演奏した。
 
「情感の籠もった演奏ですね」
と制作部長の肩書きの名刺をくれた40代の男性が言った。
 
「確かに本人が主張するように技術的には未熟ですけど、この情感の籠もった弾き方が、聴く人に凄く訴えるものがあります。私はこの子を使うのはアリだと思います。かえって技術的に高くても、音符を追うだけの演奏をする人より良いと思う」
 
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「ということで、お願いできない?」
と社長さん。
 
「分かりました」
 
ということで、私はほんとに自分としては、こんな下手なヴァイオリンでいいのか〜? と思ったのだが、この5日間ライブで、武芸館などという大舞台でヴァイオリンを弾くことになってしまったのである。
 
なお当時の私の正直なヴァイオリンスキルは、スズキメソードでいえばせいぜい中等科程度しかなかった。小学1年生からきちんとヴァイオリン教室に通ってヴァイオリンを習った子であれば小学4年生くらいで到達できるレベルである。
 
ただ「橋の下」の練習で大量に歌謡曲を弾いているので、確かに情感を込めてポップスを弾くというのは得意とするところだったのである。
 
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「でもそのヴァイオリンはさすがに安物すぎる。もう少し良いヴァイオリンを事務所で用意するよ」
と制作部長さんは言った。
 
「というか、もう少し良いのをこの子にプレゼントしちゃおうか?」
と社長さん。
 
「ああ、社長がよろしければそういうことでも良いですよ」
と制作部長さん。
 
ということで、私はピグマリウス製の70万円ほどするヴァイオリンの新品をいただいてしまった!
 
「松原珠妃」のプロジェクトは凄まじい利益が出ているので(静花がデビュー前にレッスンを無料にしてもらい交通費も支給されていた「事前投資」も既に回収が終わっている)、予算が潤沢なようである。静花自身も4月の時点では給料15万円の契約だったのが、歩合制で演奏印税0.5%にしてもらったらしい。
 
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この時期、私は学校では5月から始まった合唱サークルの練習をしていたし、昼休みには、若葉と一緒に校舎の周りをひたすら走って身体を鍛えていた。また静花にも言ったように、休日を中心に民謡の大会などの伴奏やお囃子で出たり、またドリームポーイズのライブなどで、バックダンサーをしていた。
 
静花は私の手帳が真っ黒!などと言っていたが、中学生以降の私の日程の詰まり方からすると、ずいぶんゆとりのある時期であった。取りあえず平日はほとんど空いてたし!
 

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そして7月19日午後。私は母に「伴奏の仕事行ってきまーす。帰りは22時くらいになる」と言って、ヴァイオリンを持って出かけた。母はいつもの民謡の伴奏の仕事と思っていたようである。
 
春にデビューしたばかりの新人歌手がいきなり武芸館というのも凄いが、静花のCDはここまで既に180万枚売れており、200万枚突破は時間の問題になりつつあった。
 
しかし静花が出したCDは1枚のみ、c/wの『恋するスピッカート』と合わせても持ち歌は2曲しか無い。となると、実際の演目はカバー曲で構成されることになる。
 
こんなライブをする以上、念入りに事前のリハーサルをするのだろうと思っていたのだが、静花本人がキャンペーンで飛び回ったり、テレビに出ていたりしているので、全く時間が取れず、結局ぶっつけ本番である。しかも、渡された譜面は市販のギターコード付きメロディ譜を綴じただけのものである。つまり・・・パート譜が存在しない!
 
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「私どう弾けばいいんですか?」
と井瀬さんに電話して訊いたら「適当によろしく」と言われてしまった。いいのか?それで? と思いつつも私はライブ前の1ヶ月ほど、頂いたピグマリウスのヴァイオリンで、渡された譜面を見ながらずっと練習をしていた。
 

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会場に入る。客は満員。1万人入っている。5日間のチケット5万枚が1時間で売り切れたらしい。しかも、本来1万円のチケットがヤフオクで5-6万円で取引されていた。(この頃のライブではチケットを記名式にして本人確認などまで行う所はあまり無かった)
 
開場は18時なのに、私が行った15時の段階で会場の周りは凄い人だった。私が楽屋口の方に行こうとしていた時、声を掛けられた。
 
「冬〜、冬も松原珠妃さん、聴きに来たの?」
 
若葉であった。
 
「ああ。私は伴奏の仕事」
と言うと
「へ?」
という顔をして、近くに寄り小声で
「もしかして、そのヴァイオリンでバックで弾くの?」
と訊く。
 
「うん」
 
「そういえば、去年、学芸会の音楽でヴァイオリン弾いてたね?」
と若葉。
 
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「ふふふ。私があの時ヴァイオリンを弾いたこと覚えてるのはどうも若葉だけのような気がする。みんな若葉がヴァイオリンを弾いたと思い込んでるみたい。奈緒なんかも『あの時、若葉ちゃんのヴァイオリン上手かったね〜』なんて言ってるし。ヴァイオリンケース抱えた若葉って、結構みんな見てるからね」
と私。
 
「私はずっと習ってるけど、全然上達しないな。でもこんなライブで弾くなんて凄い。冬って、いつの間にそんなに上達した?」
「全然上達してない。私の技術は去年、若葉の前で『眠りの森の美女』弾いた時とそう変わってないよ。でも雰囲気がいいからと言われて」
 
「まあ確かにポップスのバックで弾くにはそれほど技術は必要ないかもね」
「シャコンヌみたいな伴奏なんてふつうあり得ないから」
 
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「楽しんでね」と若葉に告げてから楽屋口に行き、入館証を提示して中に入る。今日は私は少し大人っぽいワンピースを着てきていた。もちろん家からこの格好で出てきている。母も私がこの程度の服を着て出かけるのは気にしない。
 
バンドメンバーで先に来ていたのは井瀬さんとドラムスの人だけである。「おはようございまーす」と挨拶して、しばし雑談をしている。
 
この時期の松原珠妃バックバンドの構成は、ギター・ベース・ドラムス・ピアノに、ヴァイオリンとサックスである。ただ不安定要素がかなりあって、CD制作の時に木ノ下先生自身が弾いたピアノについては、ここまで毎回違う人が都度頼まれて出てきている感じであった。ドラムスの人も4月からこの7月までの間に既に3回交替して現在4人目である。ギターの井瀬さんは5月から参加していて、今の所なんとなくバンドマスター的な役割をしている。
 
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「ピコちゃん、このままこのバンドに定着する?」
「学校があるから無理です〜。珠妃さん学校辞めちゃったから、9月以降は平日でも、ばんばん仕事が入るでしょ?」
「ピコちゃん、中学2年生くらい?」
「小学6年生ですよぉ」
「うそ」
「小学生には見えん」
「そうそう。落ち着きが凄い」
「開き直ってるだけです」
 
そんな話をしている所に今日のステージ用のメイクをした静花が来た。
 
「ここで衝撃の事実を話してもいい?」と静花。
「まあ、いいですよ。別に隠すつもりはないし」と私。
 
「この子、こんな風にしてると、美少女ヴァイオリニストって感じだけどさ」
「何? 実は30歳だとか?」
「いや、年齢はまだ11歳だよ。でも性別は男だから」
 
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「は?」
「何? 男っぽい性格なの?」
「いや、この子、戸籍上は男なんだよね」
「へ?」
「うそ」
「はい、事実です」と私。
 
「えーーー!?」
「どこをどう見ても女の子にしか見えないんだけど」
「だってビキニの水着を着た写真撮ってたよね?」
 
「男の子なのにビキニの水着にもなれれば、女湯にでも入れるからねぇ」
「まさか、性転換手術済み?」
 
「それが私にも分からないんだよねぇ」と静花。
「えへへ」
 
どうも静花は私がバンドの人たちの「アイドル」っぽくなっていたので、取りあえず叩くのに私の性別を明かした感じだった。私に嫉妬することないのに、と思ったが、それでも嫉妬するほど日々のストレスが大きいのだろう。
 
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ステージは大ヒット中のデビュー曲『黒潮』で幕を開ける。客席に向かって少し長めの挨拶をした後、前半は海に関する曲を演奏する。
 
松田聖子『青い珊瑚礁』、小泉今日子『常夏娘』、PUFFY『渚にまつわるエトセトラ』、TUBE『シーズン・イン・ザ・サン』、ワイルドワンズ『想い出の渚』、Mi-Ke『想い出の九十九里浜』、トワエモワ『誰もいない海』、ジュディオング『魅せられて』、アメリカ海軍『碇を上げて』、プレスリー『ブルーハワイ』。
 
そして前半最後はサザンの『TSUNAMI』で締める。
 
譜面は・・・・女性歌手の歌はだいたいそのままのキーで弾けば良いのだが、男性歌手の歌は「in G」とか先頭にマジックで書かれているだけなので、元の譜面を移調弾きする必要がある。しかもヴァイオリンパートなんて半分アドリブのようなものである。ソロを入れようかと思ったら、サックスの人も同様にソロを入れようとして思わず顔を見合わせて譲り合い、なんて場面もあった。
 
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前半と後半の間のゲストコーナーには、Jという同じ事務所の歌手が出てきた。3年前にデビューした20歳らしいが、私も名前を知らなかった。それで歌を聴いていたが・・・・下手だ。
 
何だか観客がしらけている。
 
Jは松原珠妃にとって先輩でもあり、また年上でもある。だから珠妃はJには敬語で話していたし、付き人さんがうっかり先に珠妃にコーヒーを出そうとしたら「Jさんが先」と珠妃自身が注意していた。
 
しかし後輩であろうと年下であろうと売れている方が強い。営業的にも待遇的にもそちらが優先される。珠妃は個室の楽屋もあるが、Jは伴奏者の私たちと同じ楽屋である。
 
事務所としてはなかなか実績の出ない歌手をせっかくの大舞台で顔を売ってあげようという親心なのだが、Jとしては、年下のデビューしたばかりの歌手のライブのゲストコーナーに出て営業させられるというのは辛いだろう。それを割り切れるタイプならいいのだがJはそれができないタイプに見えた。
 
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公演前にこちらの楽屋に珠妃が来ていた時、Jは珠妃にこの世界の習慣について色々蘊蓄を垂れていた。私には「教えてやる」という行動で自分の先輩としての存在を強調しているように見えた。珠妃はそれを「なるほど」「勉強になります」
などと言いながら聞いていたが、珠妃が素直であるだけにかえってJはいらついていたかも知れない。
 
前半の演奏で汗をかいた服を衝立の陰で交換しながら舞台袖でJの歌を聞いていたら客席から「へたくそー」「ひっこめ」なんて声まで掛かっているのが聞こえた。
 
それでも既定の3曲を歌い、休憩を終えた私たちが代わりに出て行く。静花はJに握手を求め、Jは一瞬ためらったようであったが、一応笑顔で握手をして下がった。
 
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後半は今回の武芸館ライブでは、イタリアの歌をやろうということになっていた。
 
元気よく登山鉄道の歌『フニクリフニクラ』に始まり、あまりにも有名すぎる『オー・ソレ・ミオ』、音楽の教科書にも載っている『サンタ・ルチア』、『帰れソレントへ』『カロミオベン』『ニーナ』。プレスリーのヒットでも知られる『この胸のときめきを』、マインブロイのCMでも使用された『花のささやき』、ポール・モーリアのヒットで知られる『哀しみのソレアード』、ガゼボの世界的ヒット『アイ・ライク・ショパン』と重ねていき、最後はフランク・プウルセル楽団のヒットでも知られるジリオラ・チンクェッティの『雨』で締めて、珠妃自身のデビューシングルのc/w曲『恋のスピッカート』で演奏を終了する。
 
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この曲では私が弾くヴァイオリンのスピッカート演奏が重要なので、けっこう緊張したが、さすがにこの曲はたくさん練習していたので、無難に演奏することができた。
 
幕が降りる。当然アンコールの拍手がある。
 
ここで珠妃はお色直しをしてから出て行く。この間5分以上観客はアンコールの拍手をし続ける。アイドル歌手には多い演出だが、ここで待たせるのって何だか嫌だなと私は思った。
 

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静花がアンコールのお礼を述べる。そして曲目を告げる。
「事務所の先輩、しまうららさんの大ヒット曲『初恋の丘』を歌います」
 
私たち伴奏陣が演奏を始める。8小節の前奏に続いて歌い出す。
 
のびやかな歌で、長く伸ばす音がたくさんある。肺活量を要求する。しまうららさんの歌唱力があって初めて歌えた曲だが、歌唱力なら珠妃も負けてはいない。しっかりと「自分の歌い方」で歌っている。さすが静花さん、と思いながら私はヴァイオリンを弾いていた。
 
歌が終わり大きな拍手がある。幕も降りず、静花も退場せず、そのまま口上を述べる
「それでは最後にもう一度『黒潮』」
 
舞台の背景に「果ての浜」で撮ったビデオが投影される。それを背景にして静花は歌った。
 
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大きな拍手。静花は客席に向かってお辞儀をする。そして歓声と拍手に両手を斜めに上げて応える。
 
静花はスターだ。
 
それを私はこのステージで認識した。
 
 
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