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■夏の日の想い出・秋の日のヴィオロン(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2013-08-17  
そして当日。
 
今回は個人的なイベントということで適当に入場させたら、座席数より多く人が入ってしまった。本来ここは立見を出してはいけない会場である。入場管理をしたイベンターの担当さんが平謝りしていたが、こちらもあまりこういう事態を想定していなかった。
 
いったん全員外に出してなどとやるのも大変なので会場側と協議した結果、万一事故が起きた場合は責任を取るというのを一筆書いて、特例として許してもらった。イベンターさんが急遽社員を呼び出して警備も増やしてくれた。
 
さて、幕が上がり、拍手が起きる。私と政子が並んでいるのを見て
「マリちゃんー」
「ケイちゃーん」
という声も掛かるが、私たちは単に客席に向かってお辞儀だけして演奏を始める。
 
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最初はメンデルスゾーンの『歌の翼に』である。私の吹くフルートのメロディラインに、マリの弾くヴァイオリンが合わせてくれる。
 
ソミーミ・ミファソ・ソーシ、ソレーレ・レミファ・ミー
 
これは音楽の教科書にも載っていて良く知られた曲なので、客席の反応も上々である。とりあえずつかみは良いなという感じであった。
 
演奏が終わり、挨拶をする。私たちは今日はふたりとも白いドレスを着ている。
 
「本日は唐本冬子・中田政子のクラシック音楽の夕べに御来場頂きありがとうございます。ほとんど素人の私たちの演奏ですが、良かったら最後までお付き合いください」
 
拍手がある。
 
「今弾いた曲はメンデルスゾーンの『歌とピアノのための6つの歌』の中から『歌の翼に, Auf Fluegeln des Gesanges』でした。この曲は特に日本・韓国・中国で人気の曲なのだそうです。では次は私たちの友人、秋乃風花さんにチェンバロを弾いてもらって、カール・エマヌエル・バッハのトリオソナタ・ニ長調Wq151 第一楽章を弾きます。これは『大バッハ』として知られるヨハン・セバスチャン・バッハの息子ですね。ちなみに、今ステージ上に置かれている大きな楽器で、この客先から見て左側にある黒いのが普通のピアノ、右側にある灰色のがチェンバロです」
 
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それで赤いドレスを着た風花が入ってきて、チェンバロの所に座る。三人で頷き合って演奏を始める。
 
大バッハの作品ならある程度のクラシックファンなら主なものは聴き知っているところだろうが、その息子の作品まで知っている人はそうそう居ないだろう。特に今日集まっているのは、大半がローズ+リリーのファンのはずである。
 
しかしみんな熱心に聴いてくれている感じだ。今ここにいる人たちは純粋に音楽というものを楽しんでくれている。私はちょっと感動した。
 
その後、風花にはピアノに移動してもらい、私がフルートをヴァイオリンに持ち替えて『ヴィヴァルディ/トリオ・ソナタ・ニ短調 RV.63 ラ・フォリア』
『ベートーヴェン/セレナーデ Op.25』と弾く。
 
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かなりマニアックな選曲が3曲続いたので、これで観客の2〜3割が完全睡眠若しくはかなりウトウトとした感じであった。そこで更に『ブラームスの子守歌』
を演奏すると、睡眠率は更に上がった!
 
それで私はMCを入れて
「会場の皆さんがかなりお休みになっているようなので、更によく眠って頂けますように、次はスティーブン・フォスターの生涯最後の作品『夢路より Beatiful Dreamer』」
 
と言うと、起きている観客から爆笑が起きる。その笑い声で一部の観客が夢路から帰って来たようであった。
 
風花がいったん下がり、私のフルートと政子のヴァイオリンのデュエットで、この美しい曲を演奏する。私がフルートを、政子がヴァイオリンを練習し始めた頃に一緒によく練習した作品でもある。政子の顔を見ると、ちょっと懐かしいような感じの表情であった。
 
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「よく眠れるように」などとMCをして演奏したのだが、実際には良く知られた曲なので観客は少し起きたような感もあった。
 
「それでは前半最後の曲です。お休みになっている方が良い夢を見れますように、ドビュッシーの『夢 Reverie』」
 
それで私がピアノの前に座り、政子はフルートを持って、この小品を演奏した。よく知られた作品ではあるが、本当に眠りを誘うような作品なので、これでまた睡眠率が上がった!
 
静かに消えていくような音で曲は終わる。拍手のタイミングを迷うような会場の空気。私がピアノの椅子から立ち上がって客席を向いた所でやっと拍手が起きた。
 

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「それでは本日のゲストを紹介します。田村市在住の作詞家、櫛紀香さんです」
と私が紹介すると
 
「えーーー!?」
という声が沸き上がった。
 
櫛紀香は2008年に「KARIONに歌わせたい歌詞コンテスト」というのを∴∴ミュージックが開いた時、1位を獲得した人で、当時男子中学生であったが、現在は福島市内の大学に通っている。
 
まるで女性の名前のようなのに男性なのだが、実は「櫛紀香 Kusi Norika」は「Karion Suki」のアナグラムだったのである。その後も年に数曲程度の歌詞をKARIONに提供してくれている。
 
「どうも、どうも。もうさすがに居ないとは思うのですが、櫛紀香という名前で可愛い女の子でも出てくるかと思った人、ごめんなさい」
と本人が挨拶すると、会場が笑いで満ちる。
 
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その笑い声で目が覚めた客も結構いたようである!
 
ちなみに櫛紀香本人は、身長180cm, 体重75kgで筋肉質である。高校時代はバスケットをしていたらしい。
 
「私、櫛紀香さんの女装写真見たことあるけど、可愛いと思った」
と政子が発言するが
「あれは黒歴史にしてください」
と本人は笑って答える。
 
何でも友人たちとの罰ゲームで女装させられた写真らしく、それがネットに出回って、KARIONのファンサイトにまで一時期は随分貼られていた。私はあまり熟視したくはない写真と思ったが、政子には結構うけていた。
 
「ちなみに櫛紀香さんは、田村市内の避難指示解除準備区域にご実家があるのですが、8月から、櫛紀香さんの御両親が、帰還準備のための宿泊を開始なさっていて、櫛紀香さん御本人もたびたび宿泊なさっています」
と私は紹介する。
 
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櫛紀香本人は
「えー、その件に関しては、何かうかつなこと言うと政治的な意図とか取られそうなので、ノーコメントで。まあ、2年半ほとんど放置してたんで、荒れている所を片付けたりしている段階です。僕たちは黙々と日々の生活を送るだけです」
と補足した。
 

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私たちは彼をひとり置いて、袖に下がる。
 
櫛紀香はギター1本で『シューベルトのセレナーデ』『モーツァルト/トルコ行進曲』『ハチャトゥリアン/剣の舞』を弾いてくれた。
 
今日のコンサートは「クラシック曲」「歌無し」というのがコンセプトである。
 
櫛紀香さんが演奏のために座っていた椅子から立ち上がると、大きな拍手がある。
 
そこに振袖を着たKARIONの和泉が登場する。
「えーー!?」
と客席から驚きの声。
 
「櫛紀香さんでした」
と和泉はアナウンスして、握手を求める。
 
櫛紀香さんも驚いたような顔をして、嬉しそうに和泉と握手する。そして下がった。
 
そして和泉がマイクを持って
「ここで15分ほどほんとに休憩にします」
と言って、拍手と歓声の中、幕が下りた。
 
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15分後、幕が上がると、振袖を着た4人が並んでいる。
 
私がマイクを持ち
「紹介します」
と言って
「絹川和泉さん」
と言うと、客席から「いづみーん」という声が掛かるので和泉が手を振る。
 
「それから川原夢美さん。私の古い友人で、世界的なオルガニストです。でも今日は主としてヴァイオリンの応援を頼んでいます」
と私が紹介すると
「ゆめみーん」
という声が掛かって、本人びっくりしている。
 
「それでは『パッヘルベルのカノン』を弾きます」
 
と言ってスタンバイする。私と政子と夢美がヴァイオリンを構え、和泉がオルガンの前に座る。ステージ前半で使用したチェンバロを引っ込めて代わりに置いておいたものであるが、このバロック・オルガンは実は夢美の私物である。リードオルガン程度のサイズだが、フルー管系のパイプで構成されていて、柔らかく優しい、実に素敵な音が出る。
 
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夢美は実はこのライブの9日前に帰国したばかりであったが、夢美がドイツで購入してベルギーの現地自宅で使用していたものを、先月日本に送って国内のオルガン技術者の手で、輸送による狂いなどを調整してもらい、それをここに持ち込んだのである。日本国内には、これ以外に存在しないかも知れない。
 
『パッヘルベルのカノン』は基本的にはヴァイオリンの三重奏曲であるが、通奏低音の部分をオルガンで弾く。私と政子と夢美がヴァイオリンでその三重奏をして、和泉がオルガンを弾いているのだが、和泉もこのオルガンを弾くのは今日が初めてで、ぶっつけ本番であったが、弾きながら音に酔いしれているような顔をしていた。
 

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演奏が終わる。楽器を持ち替える。政子は(普通の)フルート、私は頭部U字管付きのアルトフルートを持ち、夢美のヴァイオリン、和泉のオルガンでラヴェルの『ボレロ』を演奏する。
 
この曲は単純なメロディーをひたすら繰り返すので、いかにも眠ってしまいそうなのだが、実は意外に眠くならない、とても不思議な曲である。政子と一度運転中にこの曲を掛けて、私が万一ウトウトとしたらぶん殴ってしゃぶしゃぶ食べ放題に連れて行く、という賭けをして、私が勝ったことがある。(でもなぜかケーキ食べ放題に行くことになった!?)
 
今日の観客もあまり眠らずに聴いているようである。U字管の付いたアルトフルートは初めて見る人も結構あったようで、後で「あの楽器は何ですか?」
という質問がツイッターに来ていた。
 
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アルト・フルートにはストレート型とU字管付きのものがあるが、小柄な女性にはU字管付きのものは優しい。(七星さんは私より小柄だが堂々とストレート管のアルトフルートを駆使している)
 
更に適宜楽器を持ち替えながら、また和泉も時々ピアノに行ったりオルガンに戻ったりしながら、『フィガロの結婚序曲』『主よ人の望みの喜びよ』『白鳥』
『G線上のアリア』『乙女の祈り』『美しく青きドナウ』『女学生』といったクラシックファンでなくても、知ってそうな曲を演奏する。
 
今日のライブは前半は寝ててもいいよ、後半は起きてようか、という趣旨である。
 
「長時間のご静聴ありがとうございます。いよいよ最後の曲となりました」
 
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お約束の「えー?」という客席からの声を待ち、私は告げる。
 
「チャイコフスキー『くるみ割り人形』より『花のワルツ』」
 
私のフルート、政子と夢美のヴァイオリン、和泉のピアノ/オルガンで演奏した。この曲では冒頭の本来ハープで演奏する分散和音を和泉はピアノで演奏し、それからオルガンに移動して、その後の演奏をしたのである。
 

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演奏を終えて4人で並び、お辞儀をして幕が下りる。アンコールの拍手が来る。この付近は観客の大多数を占めるポップスファンのノリである。
 
幕が開く。
 
私と政子の2人だけで出て行く。
 
「アンコールありがとうございます。それではヴィヴァルディの『四季』より『春』第一楽章を弾きます」
 
最初、私と政子で2つのヴァイオリンでこの曲を弾き始める。そして最初のテーマ提示が終わった所で、私はフルートに持ち替え、残りの部分を演奏した。
 
演奏が終わり、私たちはお辞儀をして下がる。そしてまたアンコールの拍手が来る。本当に日本の観客は律儀だ!
 
今日出演した全員で出て行く。私と政子がヴァイオリンを持っている。風花はフルートを持っている、和泉と夢美は手ぶらである。更に櫛紀香さんもギターをもって出て行く。私がマイクを持ってお礼を言う。
 
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「セカンドアンコールありがとうございます。これが本当に最後の曲です。『ロンドンデリーの歌 Londonderry Air』」
 
和泉がピアノの前に座り、夢美がオルガンの前に座り、全員で演奏する。私と政子のツイン・ヴァイオリンが3度奏で最初メインテーマを吹き、続けて風花のフルートが再度テーマを提示する。和泉のピアノと櫛紀香さんのギターが音の彩りを添え、夢美のオルガンが低音を受け持ってハーモニーを安定させる。
 
『Londonderry Air』の《Air》というのは『夜の女王のアリア Queen of Night Air』の《Air》と同じ単語(英語的発音ではエア:「空気」のエアと同じ綴りで同じ発音)であるが、実は「アリア」ではなく「エール」と呼ばれるものである。
 
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同じ「Air」と呼ばれる曲でも「アリア」の場合はイタリアやドイツで歌劇と共に発達した劇中の独唱形式、「エール」の場合はリート形式で作られた叙情的な曲のことで、後にフランスやイギリスで独自の発展をして通俗曲によく見られるものであり、両者の間には少なくとも現代では内容的に距離がある。有名な『Air on G String』は『G線上のアリア』と訳されているが、実はアリアではなくエールでありアリアと訳したのは誤訳っぽい。しかし『G線上のエール』
と訳していたらここまで日本で愛される曲になったかは微妙である。
 
演奏が終わり、全員で並び、ついでに舞台袖で今日は裏方に徹してくれていた詩津紅と倫代も呼んできて一緒に並び、お辞儀をして幕が下りた。締めのアナウンスは、私自身で詩津紅からマイクをもらって幕の内側でした。
 
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