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■夏の日の想い出・第四章(6)

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「そうだなあ。道治のおちんちんは無くなっても構わない気がする。レスビアンでもやっていけるよ。貴昭のおちんちんだけは保存しておきたいな」
「保存って冷蔵庫にでも?」
「冷凍室の方がいいかな?」
 
この時期、政子は男の子の二股をしていたのである。
 

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政子は元々レスビアン寄りのバイなので、男の子とあまり長期間、関係を維持できない性格である。それで大学に入ってから作った恋人も、現在5人目くらい(私も多少不確か)で、1人目と2人目は1ヶ月程度で別れており、3人目の直哉君が5ヶ月、次の和則君が3ヶ月で終わった後、5人目の道治君とは大学3年の7月から、こんな話をした時点で既に17ヶ月も関係が続いていて、中学から高校に掛けて付き合った花見さんに次ぐ交際期間の長さになっていた。道治君が女装が似合う子だったので政子が面白がって女装させていたのも長続きしたひとつの要因だろう。
 
しかし政子は道治君と恋人として付き合う一方で、高校時代の同級生であった松山貴昭君ともほぼ同じくらいの期間、恋人未満・友達以上の関係を続けていた。
 
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政子は道治君とは基本的にデートの度にセックスしていたが、貴昭君との関係でも、この春に貴昭君が東京に出てきた時に1度デートし、9月にはイギリス旅行でストラトフォード・アポン・エイヴォンに行った時偶然(?)現地で会って一晩を過ごし、その後、11月にも一度デートをしていた。9月と11月にはふたりはセックスをしたようであった。
 
ただ貴昭君は大阪に住んでいるので、政子と貴昭君との関係はこの時点ではあまり進む気配は無かった。
 
「まあこの業界、全国ツアーする度に各地で一緒に寝る現地妻を持ってる男性歌手とか、よくいるし、貴昭は私の大阪での現地妻ってことでもいいかなあ」
「貴昭君が奥さんなの?」
 
「私、奥さんできないもん。でも私、やはり道治の方と結婚するかも」
「じゃ、貴昭君が他の女の子と結婚してもいいのね?」
「うん・・・・」
 
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政子は少し悩んでいるような気がした。
 

11月10日。今年のBH音楽賞が発表された。ローズ+リリーは2008年に『その時』
で新人賞をもらい、その後、2009年に『甘い蜜』、2010年に『恋座流星群』、2011年には『神様お願い』、昨年は『天使に逢えたら』でゴールド賞をもらっており、今年の『花園の君』で、5年連続のゴールド賞、6年連続の受賞となった。6年連続受賞はローズ+リリーとAYAのみである。私たちは休養中ではあったが授賞式に出て行った。
 
授賞式には今年は福岡公演やPVで着た、花柄の衣装を着て出席した。授賞式では歌ってもいいし、歌わなくてもいい(その場合CD音源がそのまま流される)のだが、昨年までは政子が「パス」と言っていたので、歌っていなかった。しかし今年は「うん。歌ってもいいよ」というので、マイナスワン音源を使って歌った。司会者の人から「6年連続で受賞していて、初めての歌唱ですね」
と言われた。
 
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KARIONも『アメノウズメ』で受賞して、やはり休養中だが授賞式に出てきた。しかしローズ+リリーにしてもKARIONにしてもアルバムの曲で受賞するのは異例で、そういうアーティストが2組も出たのも異例であった。
 
XANFUS, AYA, スリファーズも普通にシングルの曲で受賞していた。もちろんその3組にしてもKARIONにしても、ステージ上で歌っている。
 
出ていった順序が、スリファーズ、AYA、XANFUS、ローズ+リリー、KARIONという順序だった(ゴールド賞は10組だが、ちょうどこの5組が連続していた)ので、XANFUSが下がってローズ+リリーがステージに上がる時に、私たちはいつものようにハグしあって友情の儀式をした。しっかりその様子が全国に放送されるので、XANFUSの事務所社長の斉藤さんが頭を抱えていた。
 
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私たちが降りてKARIONが登ってくる時は、私たちは握手を交わしたが、和泉は「ステージに戻って私たちと一緒に歌わない?」と小声で言った。「じゃ、10周年の時に」と私は言った。「その言葉忘れないからね」と和泉は笑顔で言った。
 

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ステージでの表彰が終わってから8人と付き添いも入れて、ぞろぞろと会場の喫茶室に移動した。付き添いはAYAのマネージャーの高崎さん、事務所社長の前橋さん、XANFUSのマネージャー白浜さんと事務所社長の斉藤さん、KARIONの付き添い役・花恋と社長の畠山さん、ローズ+リリーの付き添い役・窓香と社長の須藤さん、という訳で付き添いも8人いる。
 
これだけのメンツが集まっていると目立つので記者たちに捕まって写真を撮られ、コメントなども求められる。その後で、記者さんたちには席を外してもらい、のんびりと束の間の交歓をする。
 
「08年組が物凄く好評でしたし、ローズ+リリーとKARIONの休養明けに、またジョイント企画やりません? ゴールデンウィークまでは忙しいだろうから、その後にでも?」
とXANFUSの事務所社長・斉藤さんが提案する。
 
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「こちらは大賛成です」と畠山さん。
「うん。まあ、本人たち既にその気でいる感じだし」と須藤さん。
「あまり負荷にならない程度でしたら」とAYAの事務所の前橋さん。
 
各々の温度差はあるが、やはり昨年が物凄く売れたこともあるだろう、一応前向きの反応である。
 
「しかし08年組も来年は22歳になるから、そろそろ今後の路線で悩む必要が出てきますよね」
と前橋さんがほんとに少し悩んでいる風のことを言う。
 
すると唐突に政子が言った。
「ゆみちゃんは60歳までアイドルを続けるといいと思うよ」
 
「60歳まで!?」
 
政子はだいたい思いつきで発言するので、細かいことまでは考えてない。仕方無いので私が引き取ってフォローする。
 
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「この業界ではだいたいアイドル歌手は20代前半くらいで引退したり、あるいは芸人などに転じたりするパターンが多いですけど、希に長く歌手として歌い続ける人もいます。沢田研二などは『TOKIO』のヒットが32歳の時。当時沢田さんは『40歳までアイドルを続ける』と発言し、『AMAPOLA』が36歳の時のヒット。本当に40近くまでアイドルを続けたと思います。松田聖子も『あなたに逢いたくて』をミリオンヒットさせたのは34歳の時ですね。保坂早穂さんも35歳ですけど、毎年アルバムが7-8万枚売れているから凄いです。AYAも『40歳までアイドルを続ける』と言ってもいいけど、いっそ『60歳までアイドルを続ける』なんてのもアリだと思います。60歳になっても『可愛い女の子』であり続ければいいんですよ。個人的な見方かも知れませんけど、由美かおるさんは50歳までアイドルであり続けたと思います」
 
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「ああ、由美かおるみたいな路線はありかも知れないね」
と前橋さんも少し納得したような言い方をする。
 
「でもそしたら、私、60歳まで結婚できない?」
「まあ、ママドルという手もあるけど、そのあたりは社長さんとの話し合いで」
 
「私たちも60歳までアイドル続けるから、ゆみも頑張りなよ」
と政子。
「まあ、そうだね」
「ねえ、ケイ。60歳になっても、ミニスカでライブやろうよ」
「ああ、60歳でミニスカ穿けるように節制しておくのは良いことだね」
 
「うーん。60歳でミニスカ穿く自信はさすがに無い」
と小風が常識的な反応をした。
 

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11月下旬。私と政子は、ドイツにコンクールのために旅立つ、アスカと伴奏で付いていく美野里を成田に見送りに行った。
 
「頑張ってね」と私が言うと
「朗報を期待しておいて」
 
とアスカは言って美野里と一緒に手荷物検査場に消えて行った。
 
その後私たちは空港内で少し時間を過ごした後、到着ロビーの方に移動する。
 
やがて手を振る旧友の顔が見える。私は政子を促して彼女に近寄り
「**コンクール、優勝おめでとう」
と言った。
 
「ありがとう。でも久しぶりの日本だ」
「4年くらい向こうに行きっぱなしだったね」
「うん。日本語忘れてるんじゃないかと思ってたけど、覚えてるみたい」
「そう簡単には忘れないでしょ」
 
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「ということで、夢美ちゃん、これ私のパートナーのマリ。マリ、こちらは私の古い友達で夢美ちゃん。オルガンのスペシャリスト」
 
「ローズ+リリーやKARIONの曲は、全部gSongsで買えるから、全部聴いてたよ」
「ありがとう。夢美ちゃんのCDも作らない? レコード会社の人紹介するから」
「そうだなあ。まあ取り敢えず半年くらい日本にいるつもりだから、その間に考えようかな」
 
「夢美さん、冬といつ頃からのお友だち?」と政子が訊く。
「私が小学2年生、夢美ちゃんが小学1年生の時からだよ」
「それは仲良くしなければ!」
「まあ仲良くするのは良いこと」
「夢美さん、冬が小学生の頃、どのくらい女の子っぽかったかって知ってますよね?」
と政子。
 
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「うーん。むしろ、私は冬子さんが男の子だということを知らなかったというか」
と夢美。
 
「おぉぉ!」
と政子は嬉しそうな声をあげた。
 

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ローズ+リリーのファンクラブは12月までの「準備期間の予備登録」の間に無料で登録できたこともあり30万人の登録者が出ていた。それで1月から有料登録に切り替えるに当たり、ローズ+リリーの春のツアーの日程が発表された。
 
全国24箇所というこれまでにない大規模なホールツアー、それと夏休みに入ってから、札幌・横浜・名古屋・大阪・福岡で7回(横浜と大阪は2回)のアリーナツアーをするということになった。チケット販売総数は、現在詳細を詰めている最中で暫定予想として、ホールツアー5万枚、アリーナツアーで7万枚の合計12万枚。その内、約3万枚をファンクラブ先行で販売するとした。
 
なお、今年夏のアリーナツアー3万枚を購入しようとして発売時間後1時間に電話した人の推定総数は60万人、ファンクラブに予備登録した人の中で有償会員に残る人の予測数は10万人くらいという数字も同時に公表した。
 
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つまり、ファンクラブに残れば10万人で3万枚を争うので獲得確率は30%。それに対して一般発売を狙う場合、60万人で9万枚を争うので確率15%ということになる。ファンクラブに残れば約2倍の確率でチケットが確保できる・・・かも知れないという話である。またファンクラブに入ることで、ファンクラブ先行と一般発売の2度のチャンスに賭けることができるし、ファンクラブ先行は「抽籤」なので、仕事の都合などで発売日発売時刻に電話を掛けることのできない人も応募可能である。
 
ただ、ファンクラブに残る人の予測数は「外れたらごめん」と断ってある。
 
なお、有償登録しなかった人にも、情報メールは流し続けるし、今後も情報メールだけのための無料登録のオプションも残すことにした。
 
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つまりファンクラブの特典は、チケットの優先予約、会員証の発行、会報の送付、限定コンテンツの閲覧、限定グッズの販売ということになる。
 

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12月11日。バレンシアが2枚目のCDを発売した。前作が8万枚のヒットになったのを受けて、やはりポップロック系の曲で構成したが、こちらも比較的良い感じの出だしになっていた。
 
「やはりバレンシアとも委託契約にしたのが良かったのかなあ」
などとUTPの花枝は言っている。
 
UTP所属のアーティストの内、ローズクォーツは専属契約であるし、解散したワランダースも専属契約であった。
 
しかし、ローズ+リリーは、UTPと契約する以前にサマーガールズ出版という枠組みが作られていて★★レコード・JASRACと契約済みだったので、UTPはこのサマーガールズ出版とローズ+リリーの営業・ライブ活動・メディア露出などに関する業務委託契約だけを結ぶ形になった。
 
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こういう仕組みになったのは、マリのお父さんが委託契約にしてマイペースで活動できる方式でないと契約に同意しないと主張したことと、ローズ+リリーのCD制作の資金がUTP単独では拠出不能であったことなどがある。
 
ローズクォーツの『萌える想い』は僅か80万円、アルバム『夢見るクリスタル』
も200万円で制作されているが、ローズ+リリーの『After 2 years』は宣伝費も含め1500万円掛かっている。
 
スターキッズは元々バンドを結成した時に報酬をみんなで分配したりするための会社(スターキッズ企画)を設立していたので、そことUTPが委託契約をする形でマネージングをしている。これはスターキッズの活動の大半が各メンバーのスタジオミュージシャンとしてのものなので、専属契約に馴染まなかったためである。
 
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バレンシアをデビューさせる時に、社内で実はかなりの議論があった。専属契約のワランダースは全く売れないまま解散したし、ローズクォーツも2011年以外は毎年赤字を出しているのに対して、委託契約のローズ+リリーが事実上UTPの経営を支えていて、スターキッズも音楽活動の頻度は少ないものの収益率が高い。
 
そこで結局バレンシアも、半ばゲンをかつぐ意味で、委託契約方式にすることになった。UTPとサマーガールズ出版が共同出資したバレンシアの諸権利を管理する会社「バレンシアーナ」を設立し、そことUTPが委託契約を結ぶ形にしたのである。メンバーの給料もこの会社から支払われる。万一この会社の資金が尽きたら活動終了である。(そういう意味では専属方式より厳しい)
 
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委託契約なのでメンバーにはUTPから提示された仕事の拒否権もある。ただし「バレンシアーナ」と各メンバーの契約で、通常の専属契約に準じるくらいの様々なルールが設定されている。メンバーの恋愛結婚に関しては、須藤さんの方針で「常識の範囲で」ということにしているものの、服装に関する規定や、ネットの利用に関する規定、車やバイクの運転に関する規定、守秘義務の規定、交友に関する規定などをしっかり定めている。
 
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夏の日の想い出・第四章(6)

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