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■夏の日の想い出・第四章(3)

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また、これらの《マリ&ケイ・ファミリー》《マリ&ケイ・カズンズ》と似た位置付けになるのが、私と政子が《鈴蘭杏梨》の名義で楽曲を提供している歌手たちで、これには kazu-mana や槇原愛などがいる。
 
またカズンズでもないが楽曲を提供したことのあるアーティストとして、AYA、長野支香、スイート・ヴァニラズ、などがある。
 
また楽曲提供などの関係は無いものの、交流の深いユニットとして、XANFUS, KARION, スリーピーマイス、スカイヤーズ、リュークガールズ、ピューリーズなどがある。
 

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KARIONとローズ+リリーとの交流というのはとても微妙で、実は2009年からライブに招待してもらったりしていたし、私自身はいづみ・みそら・こかぜと頻繁に接触していたのだが、政子がKARIONの和泉たちと交流を持つようになったのは、2012年10月に私と政子が友人たちと一緒にパーラーでおしゃべりしていた時に偶然、和泉と遭遇して以来であった。
 
これは私自身が実はKARIONのメンバーでもあるので意図的に接触を避けていたのもあったのだが、政子はその遭遇のあと、わずか3ヶ月で、KARIONの楽曲の作曲者である水沢歌月が、私の別名であることに気付いてしまった。
 
「冬が水沢歌月だってことに気付いた後で、ずっとKARIONのCDを聴き直してたんだよね。そしたら、冬って全てのCDの全ての曲で歌ってるし、ピアノ弾いてるってことに気付いた。声や歌い方は色々変えてるけど」
 
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その日、私と政子は青葉のヒーリングを受けるために広島に向かっていた。私たちは多少危ない話もできるように、新幹線の個室を利用していた。
 
「うん。私は一貫して参加してるから。ちょっと聴くと3声しか入ってないように思える曲でも実はカウンターを入れたり、和泉とユニゾンで歌ってメインメロディーを補強したりしてるからね」
 
「冬の声の中のひとつが、いづみちゃんの声と少し似てるんだよね。だから、あの声を聴いても、ほとんどの人がいづみちゃんが多重録音してるんだろうと思ってしまうと思う」
 
「ふふふ。それ知ってるのはKARION関係者や、ゆきみすず先生くらい。知ってなくて気付いたのはマーサと青葉くらいだろうね。だから実はKARIONの曲に3声の歌は存在しないのさ。全曲私も歌ってるから」
 
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「私もそれ気付いた時は衝撃だった。だけど、『秋風のサイクリング』とか私たちが全国キャンペーンやってる最中に発売されてるし、『優視線』は私たちが引き籠もりしてた時に発売されてるよね。冬って、いつ曲を作ったり、録音参加したりしてたのさ?」
 
「須藤さんが作った私たちの契約書って2008年9月1日から有効ってなってたでしょ? だから『秋風のサイクリング』の私のパートは全部8月中に吹き込んだんだよ」
「なるほどー」
 
「『優視線』とかは、ローズ+リリーもKARIONも全国飛び回ってた時期に書いた作品でさ。お互いに新幹線の中とか飛行機の中とかで詩や曲を書いてメールのやりとりで完成させた。『優視線』も『恋のクッキーハート』もお互い一度も顔を合わせないまま楽曲を完成させている」
 
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「それも凄いな」
「録音は、例の引き籠もり期間にこっそり外出して、スタジオに行って堂々と和泉たちと一緒に録音している」
 
「よく外出できたね!」
「若葉のお陰だよ」
「あぁ・・・◎◎女子高の制服!」
「うふふ」
 
「それに、うちのお父ちゃんとマーサのお父ちゃんが契約書の無効を宣言したから、あの時期は自由に行動できたんだよね。つまり『秋風のサイクリング』
はローズ+リリーの契約の発効前、『優視線』は契約破棄後に参加してるんだよね」
 
「なんか微妙な時間の狭間で作ってるんだ」
「そうそう」
 
などと言った時、政子の顔が固まる。私はレポート用紙を渡してあげた。政子は「サンキュー」と言って『時間の狭間』という詩を書き始めた。
 
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「だけど、結局はKARIONを起点として、ローズ+リリーもスリーピーマイスもデビューしてるんだね」
と政子は言った。
 
「うん。KARIONに私が熱心に誘われたことで、私も歌手になろうという気持ちになったし、それで音源作ってあちこち売り込んでいた時、ちょうど穂津美さん(エルシー)と会って、自分たちも音源作ったよと聞いたから、それを私が丸花さんに聴いてもらって、丸花さんも面白いと言って加藤さんに聴かせて、といった所からスリーピーマイスもメジャーデビューに繋がって行っている」
 
「人と人のつながりは面白いよね。XANFUSと私たちも相互に助け合ってる」
「そうそう。デビューしたのが一週違いだから、元々親近感が高かったね。あの時期、不思議と全国各地で遭遇したし」
 
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「XANFUSの人気が急上昇したのは私たちが突然活動停止に追い込まれて、そのピンチヒッターとしてたくさん露出したのがきっかけだったけど、私たちもその活動停止中に何度もXANFUSに励まされた」
と政子は少し遠くを見つめるような目をして言う。
 
2009年5月に★★レコードでXANFUSと出会ってハグし合い、友情を確認したこと、そして同年11月にはXANFUSの沖縄ライブで、私たちは《謎の女子高生2人組》という触れ込みで、彼女たちのステージのゲストとして歌ったこと。
 
「冬はいづみちゃんと歌のライバルだと良く言ってるけど、私はむしろゆみちゃん(AYA)とライバル心を持っている」
と政子は言う。
 
「それはお互いにそうだろうね。最初2008年の段階ではゆみの方が上手かったけど、2009年の年末にAYAの番組で歌った時、ゆみが凄い顔してたからね。これテレビじゃなくて良かったというくらい怖い顔だった」
 
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「あの顔見て、ふふふ勝ったぜと思ったよ」
「でもその後、AYAも凄く頑張った」
「だから私も凄く頑張った」
 
「でもまあ、去年あたりからは、もうマーサの方が勝ってるよ。むしろ水が開き始めている」
「でも油断できない。それで終わる子じゃないもん」
「だろうね。ライバルって、お互いにそういう存在だよ。向こうも巻き返してやろうと、きっと必死に努力してる」
「だから、私も負けないくらい練習する」
「うん」
 
私たちは一応音楽活動を休止はしていても、毎日マンションで論文を書きながら、いつも一緒に歌っていた。
 

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スイート・ヴァニラズとの交流もまた特筆すべき所だろう。女性ユニット同士の気安さで、スイート・ヴァニラズのメンバーは、08年組の5つのユニット全てと様々な形で交流を持っていた。
 
KARIONとは実はデビュー以前から交流があった。2007年12月に、ラムが入った4人バージョンの歌を収録していた時、偶然スタジオにElise とLondaが来た。
 
ふたりはその時、別の部屋で録音をする予定のアイドル歌手・谷崎聡子に楽曲を提供していたので、その様子を見に来訪した。ちょうど和泉・小風・美空・ラムが1階の待合室で自分たちの部屋が空くのを待っていた時に到着したので、4人が固まって話しているのを見て
 
「君たち、何て子? 歌手?」
 
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などと声を掛けてきたのである。4人は大物アーティストに声を掛けられてびっくりしたものの、明るくハキハキと返事をする様が、ふたりに気に入られてしまった。私はその時、別の歌手の録音作業をしていて、それが終わったので和泉たちを呼びに行き、Elise と Londa が4人と話している所に遭遇した。
 
その時、私も Elise たちに会釈をしているが、さすがにEliseたちもその時、私と顔を合わせたことは覚えていないようである。ただ後にLondaからは「あんた、どこかで昔会わなかったっけ?」とは言われたが。
 
その後スイート・ヴァニラズには、2008年7月にKARIONで制作したアルバム『加利音』に1曲、楽曲を提供してもらっている。
 

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そしてあれは2009年(高3)の9月の4連休であった。敬老の日と秋分の日に挟まれた日が「国民の休日」となり「シルバーウィーク」と呼ばれた連休である。その日私たちは、横浜で行われた音楽イベントに行っていた。
 
この時、KARIONは『大宇宙』というアルバムを出した直後で、トラベリング・ベルズのメンバーはスターウォーズのキャラのコスプレをしていた。それで私は「コスプレだから顔が分からないよ」などと言われて、ダースベイダーのコスプレをして、キーボード奏者としてこのイベントに参加したのであった。ヴァイオリンは私の友人の夢美という、当時ヨーロッパに音楽留学中だった子が、たまたま一時帰国していたのを確保して参加してもらった。
 
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(TAKAOさんはR2-D2, SHINさんがC-3PO, DAIさんはレイア姫だったが、あまり見つめたくないレイア姫だった。TAKAOさんが「この中でいちばん女装が似合わないのは誰だろう?」と言って、みんな「DAIでは?」と言ったので女装させられたのである! だいたいトラベリング・ベルズはいつもこんなノリだ。ちなみに夢美はルーク・スカイウォーカーであった)
 
私たちが和泉たちと一緒に出番を待っていた時、近くに居たスイート・ヴァニラズの様子がおかしいのに和泉が気付いた。
 
「Eliseさん、どうかしました?」
と和泉が声を掛ける。
「うん。ちょっと調子が悪いみたい」
とLondaが答える。
 
「出番、大丈夫ですか?」
「うん、頑張る」
とEliseは言ったものの、うずくまってしまう。
 
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「これ、やばいのでは? お医者さんとこ行った方がいいですよ」
と夢美が言う。
 
「でも、次の次が出番だから、今医者に行く訳には・・・」
 
「いや、この状態で演奏するのは無理だと思う」
とR2-D2のTAKAOさん。
 
そばに付いていたスイート・ヴァニラズのマネージャー、河合さんが
「確かにこれは無理だね。恵里ちゃん、どうしたのさ?」
と言い、
「ファンには申し訳無いけど、キャンセルさせてもらおう」
と言って、事務局の人の方に行こうとした時、Eliseが言う。
 
「待って。私がエアギターして、音は音源で流したりできないかな?」
 
「音源使うのは禁止なんだよ、このイベント」と河合さん。
 
するとTAKAOさんが
「何なら、僕が陰でギター弾きましょうか? 何を弾くんです?」
と言った。
 
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「『海辺の秘密』『浜風の誘惑』『祭り』です」
「うーん。。。『海辺の秘密』『浜風の誘惑』は知ってるけど『祭り』を知らない」
「こないだ出したばかりのシングルなんですよ」
 
その時和泉が言った。
「蘭子なら弾けるよね?」
 
「弾ける」と私は答えた。
 
「あ、ダースベイダーさんって女の子なんだ!あなたもギタリスト?」
と私の声を聞いてLondaが訊く。
 
「この子、本来はピアニストなんですけど、ギターも凄く上手いです」
と和泉が答える。
 
それで私はTAKAOさんからギター(Fender Stratocaster)を借りて、今言われた3曲のギターを、アンプにつながない状態で弾いてみせた。私のギター演奏を初めて聴いたTAKAOさんが首を振って「ヒュー!」などという声をあげて「蘭子、こんなにギター弾けたんだっけ?」と驚いていた。
 
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実は私はKARIONを始めた頃は素人レベルのギターだったのだが、ローズ+リリー休養中の2009年春から、物凄く練習して、この時期は先生からも「もうプロ級に弾けるようになったね」と言ってもらっていたのである。
 
「上手い! ってか、あなた、Eliseみたいに弾きますね」とLonda。
「この子、自分流でも弾けるけど、他人の演奏をそっくりコピーする演奏もうまいんですよ」と和泉。
 
「今みたいに弾いてもらったら、Eliseが弾いていると思ってもらえるかも」
 
ということで、このイベントで私は観客から見えないようステージの陰に隠れてEliseの代わりにギターを弾いたのである。Eliseは最後の方は顔面蒼白になっていたが、何とか最後までギターを弾いている振りだけはし通した。(挨拶もできなかったので、演奏終了の挨拶はセカンドギターのMinieがした)
 
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ステージが終わるとすぐにEliseは河合さんに付き添われて医師の所に行った。
 
「ありがとう。あなたのお陰で助かった」
と言うLondaに私は
「大変だったみたいですけど、お大事に」
と答えた。
 
「あんた・・・もしかしてEliseの体調不良の原因が分かった?」
「いえ、気付かなかったことにします」
「ありがとう。やはり女だけに分かっちゃうのかな。男は気付かないだろうけどね」
とLondaは言った。
 
実は当時Eliseは流産したばかりだったのである(妊娠自体に本人が気付いてなかったらしい−元々生理不順がひどかったので生理が来なくても、また乱れてるのかなと思っていたと本人は後に言っていた)。
 
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夏の日の想い出・第四章(3)

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