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■夏の日の想い出・RPL補間計画(8)

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私たちはこの冒頭のメッセージの中に「軽いいたずら」を入れた。
 
「さて、これから5時間ほど私たちの2008年に歌った歌の録音を流します。7割くらいがICレコーダで録音したもので音質が悪くてごめんなさい」
 
「あんまり申し訳無かったから、昨日3本だけ新しい録音を作りました」
「でもそれも普通の部屋でICレコーダで録っちゃったから音質悪いね」
「一応ケイも私もミニスカの衣装を着て歌いました」
「ラジオだからお見せできないのが残念ですけど」
 
「で、どの曲が新しい録音だったか分かった方は、それを書いてFAXかメールかツイッターでお寄せ下さい」
 
「当たった方の中から抽選で10名の方に私たちのサイン色紙をプレゼントします」
「大ヒント。洋楽ではありません」
 
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「締め切りは放送終了後の朝8時までです」
 
(つまり生で聴いた人しか答えられない設定にした)
 

私たちはこんなことを仕掛けても、応募は20〜30件くらいしかないのでは。もしかしたら正解は出ないのではと思ったのだが、応募は締め切り時刻までに2000件も来て、当たっているかどうかをチェックする★★レコードの竹岡さんが悲鳴をあげていた。
 
正解者は約700人、約3分の1の人が正解した。私たちは結局当選者の中から100名の人にサイン色紙を書いて贈ることにした。
 
ちなみに新しく録音したものは『遙かな夢』『LOVEマシーン』『島唄』の3曲で、いづれも★★レコードの会議室で私がキーボードを弾きながらふたりで歌い、ICレコーダで録音したものであった。わざわざ手拍子とかも入れてもらって、ライブハウスとかで録音したものと区別が付きにくいようにしていた。
 
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一部、実は比較的新しい録音である(沖縄のXANFUSライブで録音した)マドンナの曲を書いていた人がいたが、「洋楽ではありません」とことわっていることもあり、不正解にさせてもらった。
 

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時を少し戻して2月26日。
 
私と政子はロリータ・スプラウトの音源制作の最中だったが、受験した△△△大学の合格発表があったので見に行き、ふたりの受験番号があることを確認した。
 
お昼に、私と政子と双方の母の4人で一緒にお昼を食べて、サイダーで祝杯を挙げる。
「ふたりとも合格してホッとしました」と私の母。
「最後まで大丈夫かなとハラハラしてました」と政子の母。
 
「やはり、毎晩携帯をつないだまま、冬とふたりでお勉強を続けたのが大きかったよ」
「ずっと歌を歌いながらやってたね」
「眠気覚ましも兼ねてね」
 
「でもまだ夜中ずっと歌ってるね」
「うん。国立後期試験までは続ける。FM番組の企画になっちゃったから」
「ここ数日もずっとお勉強もしてるね」
「うんうん。数学の方程式とか一緒に解いてるしね」
「やはり受験生の人たちのための番組だもん。私たちが勉強せずに歌だけ歌っていたら悪いから」
「なるほどね−」
 
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「受験も終わったし、政子も歌手に復帰するんだよね?」と政子の母。
「当然」
「まあ、冬も復帰するよね」と私の母。
「もちろん」
「女の子の格好で歌うんだよね」と私の母は再確認する。
「ボクが男の子の格好で歌う訳ないじゃん」と私。
「冬は女子の受験票で受けたから、学生証でも女子大生になるね」と政子。
 
「あんたたち、結局事務所はどこと契約するの?」
「私たちだけの事務所を作っちゃう。まあ実際は事務所というより版権管理会社なんだけどね。その件、町添さん、上島先生、浦中さん、津田さん、畠山さんの同意を得ている」
 
「へー」
 
「その上で、△△社なり、∴∴ミュージックなり、##プロなり、UTPなりと委託契約を結ぶ」
「ああ、なるほど」
 
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「でも最初政子が△△△大学を受けると言い出した時、私は『はぁ!?』と思いましたよ」と政子の母。
「政子さん、ほんとに頑張りましたね」とうちの母も本気で褒める。
 
「いや、あれは冬と別れたくない一心だったから」と政子。
 
「・・・・あの頃、もうあんた啓介さんより冬ちゃんのことの方が好きだったんじゃなかったの? あんた啓介さんと婚約した時に全然嬉しそうな顔をしてなかったから、婚約させてよかったんだろうかと私、悩んだ」
 
「私、男の子を好きになるのと女の子を好きになるのとは別のチャンネルだから」
「冬ちゃんは女の子として好きだったんだ?」
「当然」
 
「でも、マーサ、実際問題としてあの時期には冷めてたよ」
「うーん。今となって思えばそうかも知れないという気はする。啓介との付き合いって惰性になってたかも。とにかく啓介は毎月のように浮気してたからイライラしてたし」
 
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「婚約してからもずっと浮気してたよね。マーサが精神不安定になってるのを見るたびに、ああまた花見さん浮気したな、と思ってた」
「うん」
と言って政子は少し難しい顔をしていた。
 
「花見さん、まだ行方不明みたいね」と私。
「ああ、でも生きてることは確かだよ」と政子。
「なんで分かるの?」
「絶対死なないように呪い掛けたから」
「へ、へー」
「だって、簡単に死なれたら、私、怒りの持って行き先が無くなるもん。姿を表した所で、頭から熱湯でもぶっかけてやりたいからさ」
「なるほどねぇ」
 
政子の「呪い」というのがどんなものかは知らないが、政子の言葉を聞いてて花見さんは本当にちゃんとどこかで元気にしているのではないかと私は感じた。
 
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「音源制作は結果的には冬から誘われたんだけどさ、私1年生の夏から冬と一緒に歌作りを始めて、この歌を冬と一緒に歌いたいってずっと思ってたよ」
と政子。
 
「そう?」
 
「でもさ、あの頃は冬が女の子の声を出せること知らなかったから、冬が本当の女の子ならいいのになって、ずっと思ってた。女の子の声を練習させようかなとかも思ってたし。私の理想は女の子ふたりのデュエットだったから」
 
「でもボクにしろマーサにしろ、自分たちで歌うってのは何となく最初からイメージあったよね」
「うん。あっそうだ」
「うん?」
 
「冬さあ、その『ボク』っての、もうやめなよ。ふつうに『わたし』と言いなよ」
「ああ、それは私もそう思う」と母も言う。
 
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「だいたい、ローズ+リリーのケイとして活動している時は『わたし』と言ってるじゃん」
「うん、まあそれはそうだけど」
 
「3月中にちゃんと『わたし』にならなかったら、冬、去勢しちゃうぞ」
と政子は言ったのだが・・・・
 
「あんた、もう去勢済みだよね?」などと母が言う。
「まだ去勢してないよぉ」
「嘘」
「だってお父ちゃんと、受験終わるまでは身体にメスは入れないって約束したもん」
「いや、それはそれとしてこっそり去勢しているものと思ってた。もしかして、もうおちんちんも取ってるのかもと」
 
「まだどちらも付いてるよ。でも4月か5月頃までに去勢はする」
「ああ、それはまあいいんじゃない?」
 
などとこの時母は気軽に言ったのだが、後で実際に私が去勢手術を受けるために保護者の同意書をもらいに行った時は署名をもらうのに半日話をする羽目になった。
 
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母たちは「ふたりでゆっくりしてらっしゃい。帰りは明日でいいよ」などと言って、私と政子を残して先に帰って行った。
 
「冬、この後どこに行く?」
「いや何も考えてなかった」
「どこか行く予定とか無かったの?」
「うん。車を借りようかとは思ってたんだけど」
 
「あ、ドライブ?」
「いや、それ以前の練習。ボク、もう4ヶ月運転してないから。感覚を取り戻すのに」
「こら、『わたし』と言え」
「今度からね」
 
「じゃ付き合ってあげるよ」
「いや、危険だからやめといた方がいい。だって半年ぶりの運転だもん」
「私と冬は死なばもろともだよ」
「うーん」
 

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それで私は予約していた日産レンタカーに行き、会員証を出して日産キューブを借りた。政子が「可愛い!」と喜んでいた。初心者マークを貼ってもらった。
 
政子が助手席に乗り、お店から出発する。
 
「なんでこんなに遅いの〜?」と政子。
「だって怖くてこれ以上スピード出せないんだよお。今も左右にぶつからないかとヒヤヒヤしながら運転してる」と私。
 
「さっきからたくさんクラクション鳴らされてる」と政子。
「うん。ゆっくり走ってるから邪魔なんだろうと思う。でもみんな追い抜いて行ってるからいいんじゃないかな」と私。
 
結局私は、超ノロノロ運転で、2kmほど走って、公園の駐車場に駐め、一息付いた。
 
車を降りて政子と一緒に公園を散策する。その日は2月にしては暖かい陽気の日であった。ホットドッグ屋さんがいたので買ってふたりで食べる。
 
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「こんなデートみたいなことするのって、もしかしたら初めてかも」と政子。
「そうだね。私たち、ふたりだけで居ても、ずっと仕事ばかりしてたもん」
と私が言うと
 
「お、ちゃんと『私』と言えるじゃん」と言われる。
「ああ、もう男の子を装うのは辞めようかなと思って」
 
「誰も冬が男の子を装ってたなんて思ってない。冬のことは誰もが女の子としか思ってなかった」
「そうだっけ?」
「だいたい、冬は高校1年の時からずっと女子制服で通学すべきだったんだよ」
「そうかもねー」
「だって3年間、女子制服で写った生徒手帳を使い続けたしさ」
「確かに」
 
「冬ってさ。本当は女の子でいたいのを、その勇気無くて学校には男の子の格好で出てきても、それを実は我慢できないから、放課後女の子として活動することで、女の子としての自分を補完してたんだよ」
「それはそうかも知れないね」
と私は政子の鋭い指摘に同意した。
 
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「・・・今夜は一緒に過ごしていいよね?」
「うん。そうしようか」
「コンちゃんは持ってる?」
「もちろん。寝る時は枕元に置いとかなくちゃ」
 
「冬、今タックしてる?」
「してるよ」
「そのタック、今夜は外さないで」
「いいよ」
 
「私、今夜は女の子の冬と一緒に寝たいから」
「うん」
と言って私は政子にキスをした。
 

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私たちはその後、また私の超ノロノロ運転で郊外型のスーパーに行き、そこで大量の食糧を調達した後で、早めの夕食後、更に郊外に走って、モーテルに車を駐めた。車庫入れがなかなか出来ずにいたら従業員さんが出てきて、入れてくれた! 女性同士なので何か言われるかと思ったが、言われなかった。
 
「冬、少しスピード出せるようになったら車庫入れ練習しよう」
「うん、頑張る」
 
「でも、こういう所に来るのって、去年のゴールデンウィーク以来だね」
「うふふ」
「あの時は2時間御休憩で借りたから、今夜はお泊まりで時間もたっぷり」
「まあ、のんびり過ごそうよ。0時までは」
「0時になったら何するの?」
「歌いながらお勉強」
「あ、そうだった!」
 
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私たちはその日、本当にゆっくりとした時間を過ごし、のんびりとおしゃべりし、そしてたっぷり愛し合った。「御守り」に置いていた枕元のコンちゃんは開封しなかったものの、私も政子も本当に満足できる時間であった。
 
0時になってから歌いながら本当にお勉強をする。「御成敗式目」「1232年」
「弘安の役」「1281年」「本能寺の変」「1582年」「賤ヶ岳の戦い」「1583年」
「大坂夏の陣」「1615年」「島原の乱」「1637年」などという感じで歴史の年号を、私たちは歌に乗せて言い合った。
 
1時間ほど「お勉強」をしてから、今日歌った曲目リストと番組へのメッセージを竹岡さんにメールする。
 
『私もマリも今日△△△大学文学部に合格しました。たくさん私たちへの応援メッセージも頂いてありがとうございます/ケイ』 
『カナリアとウグイスとヒバリとどれが一番歌がうまいんだろうと考えてみたけど、どれも食べてみたことないから分からない/マリ』 
 
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「マーサ、それ意味が分からないんだけど」
「冬はウグイス食べたことある?」
「無いよぉ」
 
そのあと私たちはまたずっと睦み合いを続けた。愛し合いながらいつの間にか眠ってしまっていた。
 

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朝6時頃爽快に目が覚めた。
 
私が起きたら政子は詩を書いていた。
 
「『私にもいつか』?」
「そう。今は何てことない日常だけど、私にもいつか時が来れば、ときめくような時間が訪れないかなって」
 
「ふーん」
「今は私まだとても人前で歌う勇気が無いけどさ、あと30年くらいたったら、冬とまた一緒に歌いたいな。あのステージでのときめくような昂揚を感じたい」
 
「へー。ついこないだまで100年と言ってたのに30年になったんだ」
「うふふ」
 
政子はその後、翌月鬼怒川温泉に一緒に泊まった後は「10年」と言い出す。
 
「私にもいつか、あの熱い時間が訪れますようにって」
 
この時書いた『私にもいつか』は、そういう訳でステージ復帰を切望するマリの心情を歌ったものだが、表面的に文字だけ見れば恋に憧れる少女の詩という感じである。
 
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一般に『遙かな夢』『涙の影』『あの街角で』をローズ+リリーの高校三部作と言うが、この『私にもいつか』もその延長線上の曲で、人によってはこれも入れて『高校四部作』と言う人もある。
 
もう私たちの高校卒業式は翌週木曜日に迫っていた。
 
 
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夏の日の想い出・RPL補間計画(8)

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