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■夏の日の想い出・RPL補間計画(7)
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「去年は4ヶ月に凝縮されてたけど今年はずっとやってるし、結果的にはそうかも。特にソングライト活動はよくやってるよね。今年は去年の4倍くらい曲書いてるもん」と私も言う。(水沢歌月を入れると6倍くらいかな、などとも思う)
「ね、ね、ね、ある名義の作曲家がさあ、ケイちゃん・マリちゃんたちの変名じゃないかって噂があるんだけど?」とAYA。
「さあ、それは知らないなあ」と私。
「それからケイちゃんは既に性転換手術を終えてるという噂もあるんだけど」とAYA。「さあ、それも知らないなあ」と私。
「私、ケイのおちんちんはもう1年以上見てないな」と政子。
などといった感じで私たちはかなり危ない会話をした。私の母も政子の母もこれを聞いて笑い転げていたらしいが、町添さんは「いいのか?ここまで言って?」とかなり心が焦りながら聞いていたらしい。実際この内容に関する問い合わせが★★レコードに殺到したらしいが、全て「★★レコードでは情報を持っていません」と回答したらしい。
「ところで、ローズ+リリーの新番組が放送されるという噂もあるんだけど」
「はい、それは本当です」
「ケイちゃん、マリちゃんがナビゲートするの?」
「ごめんね〜。私たちは受験勉強中なので、それはできないんです。その代わり私たちの受験勉強を生中継する番組をやります」
「何それ?」
ということで、私たちはその番組の趣旨を説明した。
「へー、それはちょっと面白いなあ。私も今年大学受けていたら、そんな番組ができたのに」
などとAYAは本気でその番組に関心があるようにコメントする。
私たちはその新番組の放送時間帯を紹介した。
「へー。深夜か。その時間帯にラジオ聴いてるのって、長距離トラックの運転手さんか受験生くらいだろうね」
「うん。だから受験生のための番組なんだよ」
これでだいたい私たちが事前に話し合っていた内容は全て終わったのであるが、この時、AYAが唐突にこんなことを言った。
「せっかく生番組に出てきたんだからさ、ケイちゃん、マリちゃんの歌を聞かせてよ」
すると政子が
「あ、いいよ」
と答えてしまった。
予定にないことだったので私はちょっと焦ったが、マリが歌うと言ったのを停めることは絶対にしてはいけない。せっかくその気になったのをくじいてはいけないのだ。
「よし、歌おう。何にする?」と私は言う。
「ファンの方からたくさんお手紙もらってるし『あの街角で』」と政子。
この時、副調整室に居た秋月さんが指で1というのをこちらに指示した。私は「1番だけ」なら良いという意味に解釈したのだが、秋月さんは本当は1分以内にしてくれということだったらしい。
スタジオの隅に置かれていたキーボードを持って来て電源を入れピアノの音にし、前奏に引き続き、ふたりで歌い出した。
「白い雲影落とす、日常の通い路」
「何気なく振り向いた、その街角で」
私がメインメロディーをアルトボイスで歌い、政子がその3度下を歌う。
ローズ+リリーの最も初期の典型的な歌い方である。
AYAは最初は笑顔で聴いていたものの、次第に難しい顔になっていった。
Aメロ、Bメロ、サビ、(間奏)、サビ、(コーダ)と歌って私たちは終了した。約2分半の演奏であった。
AYAは笑顔に戻ってパチパチパチと拍手をしてくれた。
「ローズ+リリーさんでした」とAYA。
「みなさん、またね」と私と政子。
この12月27日の放送で流した歌は、2009年にローズ+リリーが唯一(公式に)全国のファンに向けて公開した「今のローズ+リリー」の歌であり、10月に公開した『雪の恋人たち/坂道』と、2010年5月のFM放送での大量生歌公開との間を補間する、貴重な音源となったのである。
なによりもローズ+リリーのファンたちが、私たちが健在であることを感じとってくれたのではないかと思う。また誤魔化しようの無い生歌で、マリが音程も安定しているしっかりした歌声を聞かせたことも大きな反響を呼んだ。
「もうマリちゃんを音痴って言えない」
という声が多数ネットに流れた。
結局、2009年1月の『甘い蜜』と2011年7月の『夏の日の想い出』の間は、2009年5月葬儀での歌唱、2009年6月『長い道』2009年10月『雪の恋人たち』
2009年12月『あの街角で』の歌唱、2010年5月のFM番組、2010年9月アルゼンチンアルバム、2011年1月広東バージョンという形で補間されたのであった。
その間にも鈴蘭杏梨名義でソングライト活動を続けていたので、雨宮先生から「あんたたちのは『なんちゃって休養』じゃん」などと言われたゆえんである。
放送が終わるまで私たちは待機していた。そして放送が終わってからAYAが出てきたのに「お疲れ様」と声を掛ける。
「何か今日はかなりやばい話をした気がする」
「まあ、たまにはいいんじゃない?」
「ね、ね、CD作ったの?」
「秘密を守れるなら1枚あげる」
「じゃ後でちょうだい」
「了解」
「ライブもしたの? 謎の女子高生ふたり組以外で」
AYAは「謎の女子高生ふたり組」のことは交友のあるXANFUSから聞いたらしい。
「あれ以外に3回したけど、その内の1回は町添さんがビデオ撮ってるから、ゆみちゃんだったら言えば見せてくれると思う」
「よし、頼もう。しかしそうすると今年4回もライブしたんだ?」
「うん」
「なんか普通の活動じゃん。全然休んでないじゃん」
「えへへ」
「でも私たちが歌ってる時に、ゆみちゃん、難しい顔してた」
「ケイちゃんも、マリちゃんも、物凄く歌が上達してるんだもん!」
「そうかな?」
「マリちゃんの進歩が凄い。もうふつうに《上手な歌手》の歌になってるよ」
「うんうん、マリは本当に進歩した」
「ケイちゃんの歌も、凄く進歩した。だいたいケイちゃんって、元々凄く歌がうまかったのに、それがもっと凄くなってる。あのレベルの歌を歌ってた人がそれ以上は上手くなりようがないだろうと思ってたのに、更に磨きが掛かってる。ケイちゃんも物凄く歌の練習してるね」
「それは当然。私もマリも毎日5時間は歌ってるもん」
「負けた〜。受験勉強してない私が、受験勉強で忙しくて、更に鈴蘭杏梨までやってるケイちゃんたちに負けたって、凄く悔しい」
「ノーノーノー、その名前出してはイケマセーン」
「うん、出さないよ。でも、私鍛え直す」
とAYA。
「うん、ゆみちゃんも頑張って」
と私は微笑んで答えた。そして私たちは硬い握手をした。
さて、町添さんのアイデアはこういうことであった。
私と政子の「歌いながらの勉強」を1日遅れで中継しようという趣旨である。
私と政子が毎晩受験勉強しながら歌った歌を記録しておき、それをFAXかメールする。FM放送の深夜枠を取り、私たちが歌った曲をCD音源でBGM的に流しながら、受験勉強している学生さん向けに、歴史の年号だとか数学の公式だとか、化学の暗記法などの「受験直前に役立つ」情報を流していくというものである。
「題して、ローズ+リリーと一緒に受験勉強」
「まんまですね!」
「君たちそういうのできる?」
「曲目を書き出すくらいなら、全然問題ないです」
この企画は本当に採用され、急遽番組企画が作られた。毎日私がその晩ふたりで歌った曲のリストを作りFAXする。それを元に★★レコードの担当者がCD音源などでBGMを組み、大手予備校の講師さんに、毎日日替わりで30分ずつ2教科取り上げてもらって、各教科のポイントなどを解説してもらう。実際に私たちが歌った歌を1日遅れで放送することになる。
番組のタイトルは本当に『ローズ+リリーと一緒に受験勉強』ということになった。私たちの生歌が流れる訳ではないし、出演もしないが、私たちが実際に受験勉強しながら歌っている歌、というコンセプトは、放送局としても聴取率が取れそうと言ってくれた。
現役受験生だからこそできる企画である!
「今のローズ+リリー」どころか「リアルタイム」に近いローズ+リリーの生態レポート番組であった。私と政子はこの番組に出演こそしていないものの時々短いメッセージを番組に寄せるということもして大きな反響をもらった。(マリのメッセージはしばしば宇宙的で「意味が分からん」と言われたがその意味不明なのをみんな楽しみにしていたようであった)
この番組は年明けのお正月特別番組が終了した後の1月4日から、3月12日の国立後期試験の日まで放送が続けられ、深夜の番組とは思えない高い聴取率が出た。実際「ケイちゃん、マリちゃんと一緒にお勉強している気分になります」という声は多く寄せられたし、番組が進行するにつれ「この番組を聴きながら勉強して、合格できました」という声も多数寄せられたのであった。
流す音源の選択であるが、その曲をローズ+リリーが歌った音源が存在する場合はそれを使うことにした。それで『ふたりの愛ランド』や『夏祭り』
『SWEET MEMORIES』などはローズ+リリーのCDの音源が使用されたし、一部、CD化されていないものの存在する音源として、私たちのライブを録音した音源も使用された。
ローズ+リリーのコンサートやキャンペーンでの歌唱は全て★★レコードのスタッフにより録音されており、ライブハウスやCDショップなどでの演奏もほとんどが須藤さんによって録音されていたため、実はローズ+リリーのその手のライブ音源は100曲近く存在したのである。政子がとっても気まぐれに「今日はこれ歌いたい」などと言い、すると須藤さんはいつも政子が歌いたいと言った曲をそのまま歌わせてくれた。伴奏はだいたい私のキーボードやエレクトーンまたはピアノの演奏であった。
「いったいこの手の商品化されていない音源は何種類存在するんですか?」
などという問い合わせが多数来たので、★★レコードではそのリストを公開した所、今度はそれを全部聴きたい! という声が多く寄せられた。
「FM局が5時間枠を取るので、流しませんか? と言ってきているんだけど、どうしよう?」
と私たちは尋ねられたが
「済みません。今考える余裕が無いので、受験が終わってからの回答でいいですか?」
と私は取り敢えず答えておいた。
そして2月17日に私たちの試験は終わり、一息付いたところで、私たちは2月20日からロリータ・スプラウトの2枚目のアルバムの音源制作に入ったのだが、この音源制作は★★レコードの技術部で行っているので、その作業の合間に私たちは町添さんと少し打ち合わせをした。
「ひたすら流すだけなら、私たちが出演しなくてもいいんですよね?」
「そうそう」
「ただ、かなりの音源がICレコーダで録音されたもので音質が良くないですよね」
「うん。商品化できるほどの音質なのは2割程度しかない」
「だったら、昼間流すのは申し訳ないから深夜ということでもよければ、私たちのメッセージを冒頭に入れた後、流しっぱなしというのではどうでしょう?」
「確かに深夜の方がいいかも知れないね」
秋月さんが実際の音源を聴きながら一週間がかりで流す順番のリストを作ってくれた。秋月さんにとってはローズ+リリーに関する事実上最後の仕事になった。それを★★レコードの若いスタッフ竹岡さんが本当にデータをつなぎ、これも一週間がかりで時間調整をして、50分の音源1本と55分の音源4本にまとめた。どちらもお疲れ様である!これにCMやジングル・時報などが加えられ、冒頭に私と政子のメッセージ(約5分)を加えて、5時間の放送にする。
私と政子のメッセージもロリータ・スプラウトの音源制作の合間に録音した。
この番組の放送は国立後期試験が終わった後の3月15日(月)の深夜25〜30時(3月16日1〜6時)という普段ならほとんど聴く人のいない時間帯に流された。一応全国ネットである。「ローズ+リリー秘蔵音源大特集」と銘打ったものであった。そんな時間帯で、しかも音質の悪い録音であるにも関わらず、物凄い聴取率になったようであった。
そしてこの番組の冒頭で私たちが挨拶したことから、ファンの間には、近い内にローズ+リリーは復活するという期待が高まったのであった。
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