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■夏の日の想い出・RPL補間計画(4)
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これは制作の方針が決まったのが4月下旬。私と政子の母の了承を得たのが5月15日だったので、急げば、私たちの父との約束の期限であった6月19日までに普通のCDとして発売することも可能であった。そうすればたぶん40〜50万枚は売れて、つまり4億円くらい売上をあげることが可能であった。
しかし私と町添さんは敢えてそうせず、「ゆっくりと制作」を進めた。そして10月28日(水)大手ダウンロードミュージックストア(1社のみ)に 0円の価格で掲載した(ローズ+リリーと★★レコードとの契約期間が終了する12月31日までの限定販売:実際には「手続き上の理由」と称して1月4日まで販売した)。
こんな時期にこの音源を公開した最も大きな理由はローズ+リリーのファンのテンションを維持するためである。『ローズ+リリーの長い道』が6月10日に発売されたので、それからわざと4ヶ月のブランクを開けて、これを公開したのである。
これを「無料公開」にしたのは、双方の父との約束で「販売」ができる期限を過ぎていたためである。私の父など、4億円の売上機会をみすみす逃すことになると聞き心配して「いや、販売してくださってもいいですけど」と町添さんに言ったのだが、ここで「販売」してしまうと、「最後のCD販売の1年後」と定められている須藤さんの復帰時期が遅れてしまい、結果的にローズ+リリーの活動再開時期が遅れるという判断があったのである。つまりこの4億円はそういう意味深な先行投資だったのである。
なお、これをyoutubeとかに公開するのではなく、ダウンロードストアでしかも1社のみで公開したのは独占公開にすることでダウンロードストア側が色々便宜を図ってくれたこともあるが(実際登録費用もタダにしてくれた)、こちらとしては(多重DLを除いた)ダウンロードの実数を確認したかったためというのが大きい。
町添部長や松前社長などローズ+リリーの復活を信じていたグループにとっては、私たちが大学に入った後、活動再開した時の「ローズ+リリーの市場規模」を把握したかったのである。
この「デモ版」シングルのダウンロード数は公開されていないが、初動で40万DL来てこのストアの週間ランキング1位になったし、最終的には80万DLを越えており、実は「トリプルプラチナ」の作品である。
『神様お願い』も随分「幻のミリオンセラー」と言われたのだが、この作品『雪の恋人たち/坂道』は期間限定公開だったこともありミリオンには到達しなかったものの「幻のトリプル」とファンの間では呼ばれている。
私と政子は活動停止中もずっと練習を怠らなかった。毎晩受験勉強をしながら携帯をつなぎっぱなしにして、交替で歌を歌っていた。歌を歌い始める前には発声練習でドレミファソファミレドを半音ずつずらしながら低い方から高い方まで声を出していた。また政子は自宅にカラオケのシステムを入れてひとりで勉強している時もずっと歌っていたし、体力と肺活量を付けるため毎日早朝のジョギングをしていた(お母さんとふたりで走っていたらしい)。
一方私は楽器の練習もしていた。少しほとぼりが冷めた頃から、籍だけ置いた状態であった○○ミュージックスクールの器楽コースに参加させてもらい、ギター、ベース、ドラムスなどそれまで少し不得意だった楽器の練習をした。ギターとベースは買ったがドラムスは教室のものを使用していた。さすがにドラムスは自宅に置き場所が無かった。
それでも当時、私の部屋は楽器でいっぱいになり(元々5000枚のCDを収納した大型本棚2個で狭くなっている)、楽器棚の隙間に布団を敷いて寝る感じだった。私はしばらく吹いてなかったクラリネットも自分用のクラリネットを購入して練習を再開した。スクールの講師の方と相談してヤマハのYCL-852 を選んだ。ヤマハのプロ用クラリネットには YCL-852(CS), YCL-853(SE) の2種類があり、価格は同じなのだが、私は指が細いので 852(CS) の方が合いますよと言われた。実際、中学時代に吹奏楽部で吹いていたクラリネット(型番不明)より吹き易い感じがした。
「あんたの部屋、怖くて入れないよ。高価な楽器を壊したら大変だし、ケーブルに引っかかってパソコン落としそうだし。パソコンも何台あるの?」
などと母は言っていた。
「パソコンは今動いてるのは5台。どれも安物だしデータはRAID式のNASに常時バックアップしてるから大丈夫だよ。だいたいパソコンなんてディスクが停まっている時に落としても簡単には壊れないから」
「そ、そう?」
「楽器の方は高いのはヴァイオリンと胡弓にギターケースに入っている三味線くらい。あとはみんな数十万円単位だよ」
「数十万円だって高いよ!」
「まあそうだけどね」
「そのギブソンのギターケース、どれがどれだっけ?」
と楽器を収納するのに父が組み立ててくれた棚に並んで載っている3つのギブソンのケースを指して言う。
「赤いテープ貼ってるのが三味線、青いテープがギター、黄色いテープがベース」
「うーん。確かに赤いテープ貼ってあるケースは嫌な雰囲気がした」
「お母ちゃんの三味線アレルギーも凄いね!」
「ところであんた女の子の服はどこに隠してるの?どう考えてもタンスに入ってるのだけじゃない」
「えへへ」
この他、○○スクールではピアノも専門の講師の指導を受けていたし、エレクトーンに関してはヤマハの音楽教室に通うようになった。エレクトーンは自宅では姉の部屋にあるHS-8を弾いていたが、ピアノは自宅練習用にクラビノーバ(CLP-380PE)を買ったので、私の布団は机の下からクラビノーバの鍵盤下まで敷くようになって、姉から「この部屋はもはや立体パズルだ」と言われた。
更に6〜7月にはコーラス部のメンツで「軽音楽サークル」を作ってウィンドシンセを担当したので、それでウィンドシンセも覚えた。(楽器棚も更に窮屈になった)
なお私が大学に入ってから夏にマンションに移るまで楽器類は実家に置きっ放しにしていて、一時的に借りていたアパートには持ち込んでないので、その時期、姉はこの部屋を「楽器倉庫」と呼んでいた。
またこれら以外にヴァイオリンの練習も再開した。騒動が充分落ち着いた5月頃にアスカから「練習再開する?」という打診があったので、昨年夏から途絶えていたアスカとのレッスンを再開した。
10ヶ月ぶりくらいに私のヴァイオリンを聴いたアスカは言った。
「前よりうまくなってる。ずっと練習してた?」
「練習というより弾いてた。ここ数ヶ月はこの子を学校に持って行って音楽練習室で弾いてたし、ローズ+リリーで忙しく走り回ってた時期はヤマハのサイレントヴァイオリン(SV-200)を買って、よく夜間ヘッドホン付けて弾いてた。勉強の気分転換に良かったんだよね。あの時期は学校が終わった後、放送局にCDショップにライブハウスにと忙しく走り回ってたけど、夜間ヴァイオリンを弾いていると、疲れが取れていく感じだった」
「それって私がフルート吹くのに似てるなあ。自分の本職でないものをやることで、緊張が解けていくんだろうね」
「うん。私の本職はあくまで歌だから」
「ピアノもかなり弾くよね?」
「指が動かないから細かい音符の連続は弾けないけどね。やはり3歳頃からしている人たちにはかなわない。当然アスカさんにも遠く及ばない」
「及ぶか及ばないか、ちょっと弾いてご覧よ」
と言うので、地下練習室に置かれているグランドピアノYAMAHA-S6Aでショパンの『雨だれの前奏曲』を弾いてみせる。
「うん。確かに私には及ばないけど、うちのお母ちゃんよりは上手いな」
「そうかな?」
「冬のピアノと私のヴァイオリンでその内リサイタルしようよ」
「うんうん、それは一度やりたいね」
などとアスカとは語り合った。
私はアスカおよびアスカの母と、ずっと借りっぱなしになっていたヴァイオリンの買い取りについて夏頃に話し合った。『涙の影』『せつなくて』の1〜3月分作曲印税が入って来た時期であった。
「ローズ+リリーのお陰で物凄い印税が入って来たので、このヴァイオリン、以前にも話していたように、買い取らせてもらえませんか?」
「うん。いいよ。じゃ、400万円で」
「いや、このヴァイオリンが400万円ってことないと思います。そもそも私が最初にこのヴァイオリンをアスカさんが持っているの見た時『600万円くらいですか?』と訊いたら『よく分かるね』とアスカさん言ったし」
「うーん。じゃ600万円でもいいよ」
「いえ、その後友人とかにも聞いたのですが、これ800万円くらいじゃないかと言う人とか、中には1000万円くらいじゃないかとか、多分それ2000万円近くするよとか言う人も居て」
「さすがにそんなに高くはない。そもそもそれ、先輩が使ってたヴァイオリンを安く譲ってもらったものなんだよ。私が買った値段は7桁(1000万円未満)だよ」
「では800万円で買い取らせてもらえないでしょうか?」
「800万円でも、もらいすぎだと思うなあ。私が先輩から買い取った段階でも相当使い込んであったし、私もその子をかなり使い倒したからね」
「じゃ間を取って700万円とかでは?」
「うん。まあ、そのあたりで妥協するか」
ということで私はこのヴァイオリンを700万円で買い取ったのである。
「でも700万円ももらっちゃったら実はちょっと助かる。次のヴァイオリンを買おうと思ってたからね」
「いや、アスカさんが次に買うヴァイオリンの価格って、700万円くらい足してもほとんど影響ない気がします」
「そうでもないよ。スポンサーが付いているから、スポンサーが実際にはかなり出してくれるんだけど、1億円くらいはこちらで用意しないといけない。自己資金で3000万円の他、この自宅を抵当に銀行から5000万円借りることまでは話が付いてるんだけど、残り2000万円ほどはまだ調達に悩んでいたんだよ。今使っている子を手放す手はあるとは思ったけど、あの子はあの子で凄く馴染んでるからできたら手放したくないんだよね。ここで700万円もらえたらぐっと楽になる」
「・・・・残り1300万円、次の印税が入る11月以降でも良ければ私が貸そうか?返済は出世払い」
「冬ちゃん、そんなに印税入って来てるの!?」
ところで「森之和泉+水沢歌月」の印税について、7月頃、私は和泉、畠山さんと3人で話し合った。
「こんなに売れることを想定してなかったからさ、このまま行くと、私と冬の収入と、小風・美空の収入に今年はとんでもない格差が付いちゃうよね」
と和泉。
「そうそう。私もそれが気になってた。あまり差が付きすぎると、私たちの意識に壁ができてしまうのが怖い。だから何とかしなくちゃと思ってた。私と和泉は作詞作曲印税が入るけど、小風と美空は歌唱印税だけだから計算してみたけど、だいたい10倍くらい差が付いちゃう」
と私。
「それでさ考えたんだけど、冬の収入も減らすことになるからどうかと思ったんだけど、森之和泉+水沢歌月の楽曲について名目上の編曲者を『小文字のkarion』にしない?」
「プロデュースと同じ名義だよね。作詞作曲編曲印税三分割方式にして編曲印税を4人で山分け。実は私もその方法を考えていた。それで計算するとだいたい格差が3倍程度に縮む」
「うん。10倍差よりはかなり良い」
「それにライブの出演料とかも加えると、もう少し差が縮むね」
と畠山さんも言う。
「たぶん実際には私たちは小風たちの倍くらいの線に落ち着くと思う」
と和泉。
「そのくらいの差は逆にあった方がいいと思う。そのくらいもらっていいくらいふたりは仕事をしてるもん。リーダーとサブリーダーの収入が多いのは普通のこと」
と畠山さんが言うと。
「ええ、私もそう思います」
と和泉。
「ちょっと待って。サブリーダーって誰?」と私。
「それは蘭子ちゃんに決まってる」と畠山さん
「それは冬に決まってる」と和泉。
「そんなのいつ決まったの〜!?」
「あ、私と小風と美空で決めた」
「本人いない間に?」
「そういうことで、冬はKARIONのサブリーダーだからよろしく〜」
「うっそー!」
「まあ倍の収入があっても、リーダーとサブリーダーが機会あるごとにおやつ代とか食事代とかを出してあげていれば、良い雰囲気になると思うし。じゃ、次のCD制作からはそうするかい?」
と畠山さんは言ったが
私は(サブリーダーの件は置いといて)
「むしろ今年初めの『優視線』に遡って適用しませんか?」と提案した。和泉も頷いている。
「いいの?君たち」
「私はそれでいいです。冬もそれで良ければ遡及適用」と和泉。
「うん。そうしよう。私はローズ+リリーの分も入るし、鈴蘭杏梨の分も少しだけど入ってくるはずだから、そのくらい減っても大丈夫だよ」
私の言葉に和泉がピクッとした。
「・・・鈴蘭杏梨って、冬なの?」
「マリ&ケイだよ。知らなかった?」
「知らなかった! 何か凄い詩だな。マリちゃんと似た傾向の詩だ、とは思ったけど。でもあんたたち、だったら全然活動停止してないじゃん!」
「うふふ。でも人には言わないでよね」
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